第30話

 七三式大型トラックに乗り込んでいる火野率いる【アウトロー討罰隊】は、一心からの命で一番地の犯罪者が襲撃する各地へと向かうこととなった。急行するトラックの中で火野は、インカムでナノマシン管理部門に連絡を取る。

「ナノマシン管理部門、襲撃されている各地の情報が欲しい」

『池袋、上野、秋葉原、品川、新宿! 以上です!』

 返答を聞いた彼は、難しい顔となった。

「皇居が襲われていないのが不幸中の幸いか……【アウトロー討罰隊】、部隊を五つの班に分けろ! 第一班は私と共に新宿に向かい、他の班は班長の指示の元、各地へと迎え! いいか⁉︎ 今回はかつてない程の激戦となるだろう、心して励めよ‼︎」

『『『はっ!』』』

 他のトラックに乗る【アウトロー討罰隊】は各地へと急いで散る。時間がかかればかかる程、一般人が一番地の犯罪者に殺されていく。火野自身が現在地から一番近い新宿に向かうのを選択したのは、その焦りもあるからだろう。

「後手後手だな……社会のゴミ共が、やってくれる‼︎」

 新宿へと十分程で辿り着いた、火野率いる第一班。七三式大型トラックから降りた彼らは、思わず言葉を無くす。

「これが……新宿⁉︎」

 一言で言えば、阿鼻叫喚。

 新宿駅前では店舗が火炎瓶で燃やされ、逃げる民衆は笑う犯罪者によって、銃で撃ち殺されていた。この世のモノとは思えない惨事に【アウトロー討罰隊】の面々は立ち尽くす。

「総員、犯罪者を討罰‼︎」

 火野は呆然とする隊員達を鼓舞し、目の前の犯罪者の頭を巨大な手甲で握り潰した。民衆を撃ち殺すのに夢中だった犯罪者は「ぷぎゃっ⁉︎」と声を上げて生との別れを遂げる。

「「「……うおおぉぉ‼︎」」」

 その行為を目にした隊員達は正気を取り戻し、火野の後に続いた。

「【アウトロー討罰隊】が来やがった! ぶっ殺せぇ‼︎」

 ドパパパパ! と銃を乱射してくる犯罪者達を、銃火器と超硬合金製の手甲と足甲を装備した隊員達は圧倒していく。

「ぼぺっ‼︎」「うがっ⁉︎」

 その中でも火野は、兔を狩る虎の如く犯罪者を討罰していった。犯罪者を慈悲のない圧倒的暴力で次々と死体に変えていくその様は、まるで闘神。

 そんな火野をビルの屋上から眺めていたのは――獄寺炎士だ。

「かかっ、イキの良いのがいんじゃねぇか‼︎ 燃えるぜっ‼︎」

 炎士は身体を燃やして、屋上から飛び降りる。火野は犯罪者を討罰するのに躍起となっており、闇夜に燃える炎士の存在に気付いていなかった。

「火野隊長! 上!」

 しかし、隊員の一人が余りに目立つ炎士の存在に気付き、火野はその声にいち早く反応する。上空を見ると、燃え盛る炎士がとてつもない勢いで自身に向けて落下して来ていた。

「ひゃっはああぁぁ‼︎」

 ズドオォォン‼︎

 炎士の攻撃はアスファルトをへこませる程強力なモノ――ではあったが、かろうじで火野は躱す。突如目の前に現れた炎士をナノマシンを識別する左眼のゴーグルで睨む火野。結果、ナノマシン反応から異常が検出された。

「このナノマシン反応……アウトローか。情報にあった【四番地の獄炎】だな」

「楽しませてくれよぉ、人間様よぉ‼︎」

 【四番地の獄炎】獄寺炎士の【咎】は、【迸る焔バースト・フレイム】。自由自在に体外へと炎を噴き出させ、操るという単純だが強力な能力だ。今回も【迸る焔バースト・フレイム】を存分に使って、闘うつもりだろう。開戦の合図かのように全身に炎を纏い始めた。

「……あん?」

 ――が、炎士は火傷跡が残る火野の顔を間近で見て、妙な違和感を感じ、炎の噴出を止める。

「てめぇよぉ、何て名前だ?」

「ゴミに名乗るのは癪だが……冥土の土産だ、教えてやろう。私は【アウトロー討罰隊】隊長、火野罰人。お前ら社会のゴミを一掃する者だ」

 彼の名を聞いた炎士は、遠い昔の記憶を思い出した。

「火野……ぶはははっ! 思い出したぜ‼︎ てめぇクソ昔に俺様を捕まえた警官じゃねぇか‼︎ 良いツラ過ぎて気付かなかったぜ‼︎」

「……何?」

 炎士とは対照的にいまいちピンと来ていない火野。それも無理はない。犯罪者討罰法が制定される前、彼が【アウトロー討罰隊】に入る前の過去の話なのだから。

「憶えてねぇか? 俺様は獄寺炎士。むかーしむかし、てめぇは俺様を年少にぶち込んだんだよ。放火罪でな」

「……っ……思い出したぞ。変わらないな」

 火野が変わらないと言ったのは外見の話だが、炎士は内面も変わってはいなかった。今こうしてアウトローとして目の前にいるのが、その根拠である。

「かっかっかっ、その様子だと、気付いてねぇのか」

「? どういう意味だ?」

 不気味な笑いを浮かべる炎士を、不可思議に思う火野。

「そうだなぁ……教えたら熱くなりそうだなぁ」

「質問に答えろ、獄寺炎士」

「しゃーねぇな、教えてやんよ」

 そんな彼に、炎士は衝撃の告白をした。

「てめぇの家を燃やしたのはなぁ、俺様だぜ‼︎」

 対面する火野は石像のように固まる。

 何故なら自身の家と家族を燃やした犯人は見つからないまま捕まっておらず、未だ警察によって捜索は続けられているからだ。火野自身も勿論、犯人に検討もついていなかった。

 だが、炎士がその犯人であり、自身を捕まえて少年院に入れた火野への復讐のため、殺すつもりで家を燃やしたのであった。

「ぶはははは‼︎ なぁ、教えてくれよ⁉︎ てめぇがそれだけ良いツラになったってこたぁ、家族は燃えたのか⁉︎ 家が燃やされた時はどんな気持ちだったんだ⁉︎ あぁん⁉︎」

 彼は自分を満たすために熱い闘いがしたく、その上で相手を燃やしたいだけだ。故に、全てを分かっていながら火野の全力を引き出すために復讐心を煽る。そんな炎士の狙い通り――。

「この……社会のゴミがぁぁ‼︎」

「ひゃっはああぁぁ‼︎」

 火野は炎士に復讐するため、理性を手放して特攻し、戦闘が始まった。

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