第29話

 夜の首相官邸には【アウトロー討罰隊】が武装を完了させて集まっており、火野を中心に静かに整列している。

「我が【アウトロー討罰隊】よ。よくぞ集まった」

 その前に現れたのは一心と剣崎。

 一心は以前の戦闘と同様、金色の全身装甲を纏っており、剣崎も銀色の細身の全身装甲を纏っている。彼女が以前は着用しなかった装甲を着用しているのは、リンファとの戦闘でアウトローの脅威を肌で感じ、一心の忠告通り使えるモノは何でも使うと決めたからだ。

「これより、掃討作戦を行う。シロと呼ばれるアウトローを見つければ、我を呼べ。これは絶対厳守である」

「「「はっ!」」」

 今回の【アウトロー討罰隊】の作戦は、一番地を掃討すること。妻である陽子を殺したシロを見つけた一心が復讐を果たす為に計画したものであり、そういった一心の執念が伝わっているのか、はたまた二度も任務に失敗しているからか、【アウトロー討罰隊】の間でも緊張感が走っていた。

「戸鎖総理‼︎」

 その最中、ナノマシン管理部門の白衣を来た女性が駆け込んでくる。

「戸鎖総理がおっしゃっていた、白い犯罪者……アルビノのアウトローを見つけました‼︎」

「見つけたとはどういう意味だ? ヤツは一番地と呼ばれている場所であろう?」

 放送センターの東館で糸田が殺した死体を見た人が警察に通報し、警察が情報を得る為にナノマシン管理部門に連絡をとって、殺された警備員の視聴覚の録画を観た結果、シロと糸田を見つけたのだ。

「今……一番地のアウトローはアウトロー街を出て、渋谷の公共放送局の放送センターにいます‼︎」

 それを聞いた瞬間――。

「剣崎、付いて来い‼︎」

 一心は剣崎と共に、猛烈な勢いで首相官邸から飛び出す。

 もちろん狙いはシロで、渋谷にある放送センターに向けて駆け出した。装甲で強化されたその速さは時速八十キロにも及び、歩道だろうが細道だろうが、お構いなしに走る。

「【アウトロー討罰隊】はどうしますか?」

 全身装甲の二人には、火野を始めとした【アウトロー討罰隊】は誰も付いていけない。故に剣崎に問われた一心は即座に脳内で役割を分担し、装甲に内臓されたインカムから命令を下した。

「火野、【アウトロー討罰隊】の任務は一番地の殲滅から、アウトローを逃さぬために渋谷全体の包囲に切り替えよ。ドローン部隊の半数は用意していた物をこちらへ、半数は火野の指揮下に入れ」

『『『はっ!』』』

 千代田区にある首相官邸から渋谷区にある公共放送局の放送センターまで、およそ六キロの距離であり、道路が空いていれば車なら十五分程。二人の速度と直線距離で走れる機敏さがあれば、車よりはるかに早く辿り着くだろう。

「ナノマシン管理部門。何か気付けばすぐに報告せよ」

『それが総理っ……』

 しかし――。

「何だ?」

『公共放送のチャンネルで現在流されている映像です‼︎ 送ります‼︎』

 それを予兆してたかの如く、シロが動き出す。

 一心と剣崎の装甲内のモニターに送られてきた映像は、一心の脳内を真っ白に染めた。

『どーもー、こんばんはーっ』

 映されたのはテレビに生放送されている映像。テレビに映るスタジオは異様で、背景は巨大なカーテンで全て白に埋め尽くされており、その真ん中にはシロが立っていた。

「此奴っ……何のつもりだ⁉︎」

『日本国民の皆様ごきげんよう。俺は皆にシロと呼ばれてる。皆って言っても主に仲間の犯罪者にだけどねーっ』

 一心はシロの謎の行動に、走りながらも唇を噛み締める。当然その映像は、都会のモニター、家電ショップのテレビ、日本全国の家庭へと流されており、不測の事態に一心は少なからず動揺していた。

『さてはて、そんな犯罪者の皆を代表した俺がこんな所にいるのは何でかって? 決まってるよね』

 金と銀の装甲を月明りと街灯に反射させながらも、二人は焦燥感から目的地へと急ぐ。

『犯罪者討罰法を作った総理大臣の戸鎖一心への制裁と、この汚い社会を俺みたいな綺麗な白に染め直すためさ』

「社会を白に染め直す……⁉︎ 意味の分からぬことを‼︎」

『これから行われるお祭りは、討罰され、虐げられ、追われてきた犯罪者達の叫びだ』

 シロは両手を広げ、一番地の犯罪者達に合図を送った。

『さぁ皆、お祭りの始まりだよ』

 彩葉の嫌な予感は当たり、電車での毒物の散布や要人の暗殺以上のことが行われ始める。

 シロの言ったお祭りとは――東京の複数の都市での同時多発テロ。

 生放送が切られたと同時、一番地の犯罪者達は炎士主導で東京の全主要都市に散り、テロを起こしたのだ。

『戸鎖総理っ……‼︎ 銃火器で武装した一番地の犯罪者達が東京各地で一般人を襲っています‼︎』

「何だと⁉︎」

 今の日本では、膨大な量の人間の体内にナノマシンが埋め込まれているため、ナノマシン管理部門は範囲や人物を絞って視聴覚を共有する。シロが放送センターを襲ったことが陽動となり、ナノマシン管理部門は一番地の犯罪者達の動きにまで目がいかなかったのだ。

「犯罪者風情が……‼︎ ナノマシン管理部門は襲われている地域を絞り出して火野に情報を送れ‼︎ 火野、【アウトロー討罰隊】を各地に回し、警察とも連携して討罰せよ‼︎」

『『はっ!』』

 それは当然、一心の予想の範囲外でもあった。火野が率いる【アウトロー討罰隊】は、一心と剣崎の後を追って車で渋谷へと向かっていたが、散り散りとなって被害に合っている各地に向かう。

「白の犯罪者がぁ‼︎」

「総理っ……!」

 次々と変化していく事態、それでも一心は執拗にシロを討罰せんと急いだ。そんな彼に剣崎は一抹の不安を感じながらも、後に続く。

 二人は公共放送局の放送センター辿り着き、すぐさま東館に入ると、入り口は死屍累々。糸田によって殺された警備員や受付達がそのまま放置されていた。

「これは酷い……ですね」

「行くぞ」

 二人は死体が続く地獄へと続くような道を歩む。しかし、何処から生放送されたのか分からず、手当たり次第にシロを探すしかないと覚悟した一心の元に朗報が入った。

『戸鎖総理。先程の放送がされたのは一〇二スタジオという場所みたいです。場所の情報を送ります』

 ナノマシン管理部門から報告が入り、一心の頭部の装甲の内部モニターに、ナビの映像が送られてくる。死体が所々転がっている通路を警戒しながらも、ナビを頼りに歩いていくと、ゴールが見えて来た。

 一〇二スタジオ。その扉を開けて中へと入ると、

「必ず来ると思ってたよ、戸鎖一心」

「白の……犯罪者‼︎」

 そこでは、シロと糸田が悠々と待ち受けていた。不必要となったスタジオのスタッフ達を全て死体へと変えて。

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