第26話

 その闘いは余りにも熾烈。激し過ぎる闘いは、周囲の建物を倒壊させていく。

 といっても、攻撃するのは太一ばかりでシロは回避に徹しているだけだ。【ストレスバースト】で変身した太一の身体能力の凄まじさに、シロは素直に感心した。

「凄い【咎】だ。アウトローのその体を更に強化している上に、自由自在に操れる鎖。面倒だね」

『敵わないってか?』

 鎖が建物を蹂躙していき、二人は道路へと飛び出す。

「ううん。陽に当たると俺の白い肌が汚れるかもしれないから、早々に終わらせてあげるよ」

『ほざけ‼︎』

 不敵に笑うシロを捕縛するために放った鎖。シロは「あらら」と、あっさり捕らえられたが、その表情からは余裕が窺えた。

『ひなたを……よくも‼︎』

 ひなたの最期の言葉――。

『シロだけは、殺せ』

 その言葉の通りシロだけは殺さないといけないと、太一も薄々感じていた。飄々と掴み所がなく、信念も分からない。ただ、危険思想は強く持っていることだけは分かる。決して放置しておいていい存在ではない。

 しかし、太一には迷いが生じていた。犯罪者だからといって、アウトローだからといって、殺してもいいのかと。それは、自分が死んでもいい存在だと認めることではないのかと。

『うおああぁぁ‼︎』

 迷いを振り払うように、捕らえたシロを絞め殺すため、絡む鎖を全力で引っ張る太一。だが、迷っているが故に刹那の心の隙が出来、気付かなかった。

 捕らえたシロは青いインクで形成された偽物だということに。

 鎖で力強く締め付けられた偽物のシロは、青いインクへと変わり、辺りに飛び散る。当の本人はいつの間にか、カメレオンのように周囲の景色に溶け込み、太一の背後へと回っていた。

「残念でした」

 シロの体から徐々に緑色のインクが垂れ落ち、彼の白い体を徐々に晒し出す。

 使用した【咎】は、二種類。複数の【咎】を使われ、太一が動揺したのも束の間――。

「ばいばい」

光の三原色プライマリー・カラーズ

 太一の背中を触れたシロの右手は赤いインクに染まっていた。その赤いインクは太一が纏う凶々しい装甲を塗って、硬さを変え、ズブッと泥に手を入れるかのように簡単に貫く。赤いインクを纏った右手は太一の体を貫通し、胸から植物のように生えた。

『がはっ……⁉︎』

「俺の【咎】の【光の三原色プライマリー・カラーズ】は、体外へと三色のインクを生み出す。青は塗ったモノのコピーを作り、緑は塗ったモノを隠す。そして赤は塗ったモノの強度を変える。今、君に触れた部分を炭屑程度に変えた」

 押せば砕ける。背中から胸にかけて、そんな脆さに変えられたのだ。

 貫かれた胸からは血がドバドバと溢れ出し、纏う装甲と鎖が全てボロボロと瓦礫のように崩れて、変身が解けた太一はその場にうつ伏せに倒れ込む。ダメージによって【ストレスバースト】が解除されのだ。

「う……ぁ……」

 元の姿に戻った太一は、以前のように傷は癒えておらず、胸には穴が空いており、大量の血でアスファルトを濡らしていた。

「太一ぃぃ‼︎」

 その戦闘を見ていたのは彩葉。発煙筒の合図で撤退したものの、太一のことが心配で様子を見に来ていたのだ。走る勢いそのまま、一目散に倒れている彼を抱きしめた。

「急所は外しちゃったけど、これは死んじゃうね。ひなたちゃんみたいにさ」

「シロ……あんたってやつは‼︎」

 彩葉はシロの発言と状況から事態をある程度察し、彼を睨む。

「ここで君も死ぬつもり? 太一君と最期の別れくらいしたいでしょ? 連れてっていいよー」

 しかし、そんな彩葉の怒気も何のその、何事もなかったかのように、飄々と告げるシロ。その顔はいつもと変わらぬ間の抜けた表情だ。

「……っ……!」

 その態度は憎たらしいことこの上なかったが、彩葉は太一を抱きかかえてその場から去った。シロの気が変わらない内に撤退するにこしたことはない。

 作戦は失敗に終わった。もし、シロを捕らえた時三番地から逃していなければ。もし、もっと早くひなたを助けに来られれば。状況は変わっていたのかも知れない。

「太一……死ぬんじゃないよ‼︎」

 結果論ではあるが、ひなたを失って太一が深手を負ったことに、彩葉は苦虫を噛み潰した。

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