第22話

 一番地に最も近い三番地東前に太一とリンファ、凛と蘭が着くと、既に彩葉が首を長くして待っていた。太一はリンファと金銭のやり取りをしていたため、遅れたのである。

「遅いよ」

「すみません、お待たせしてしまって……」

 太一が謝罪すると、謝らせるつもりじゃなかった彩葉は、構わないと言わんばかりに手をヒラヒラと横に振った。

「で、どうするつもりだい?」

「ひなたさんが心配です……出来るだけ早く助けたいです。リンファさん達にはお金を払って協力してもらうことになりました」

「……いくらだい?」

 金を支払うと聞いて彩葉が太一を睨む。思わず「うっ……」と、後ずさりしてしまったが、観念して答えた。

「二億です……」

「ちっ、まぁ仕方ないね」

 自分の懐の金でもあるものを、太一が勝手に使ったことに不機嫌になりつつも、もう提示してしまったのであれば仕方ないと諦める彩葉に、リンファが話かける。

「一番地の戦力分かってるカ?」

「廃ビルの周りには犯罪者がパッと見ただけでも数十人は見えたけど、一番地は規模がデカいから闘えるやつだけでも数百人はいるんじゃないかね」

「数百人……⁉︎」

 余りの規模の数字に太一は驚くも、リンファは彩葉の予想に頷いた。

「それくらいネ。もしナノマシンの変化デ、高熱で寝込んでるヤツいたら全員殺すヨ。アウトローしたら終わりネ」

 ひなたがもしアウトロー量産化に協力していれば、その数のアウトローが産み出される。リンファの言う通り、それは絶対に阻止しなければならない。

「……でも、それはひなたさんが協力してたらの話ですよね。僕はしているとは思えません」

 人を極力傷つけたくない太一は、そう信じたかったのだろう。リンファの思うようにはなっていないと考えたのだ。

「現状、敵のアウトローは【一番地の白王】、【一番地の執事】、【四番地の獄炎】の三人。そう考えれば五人いるこちらの方が有利さね」

「凛と蘭は二人で一人と考えるネ」

「私達」「ずっと一緒」

 手を繋ぐ凛と蘭に、彩葉が面倒臭そうな顔をするも、太一は二人は幼いから仕方ないと、話を進める。

「なら三人が各所で陽動をして、その間に残りの一人がひなたさんを助けましょう」

「【一番地の執事】はワタシが殺すネ。この前の借り返すヨ」

「私達も」「殺す方が良い」

「あたいもそっちのが良いさね。【咎】の性質上、潜入の方が向いてるんだろうけど、性に合わないよ」

 彩葉はそう言ったが、闘うことが嫌いな太一が陽動側に行くと、彼の心を痛めるだけでなく、性格上作戦に支障をきたす可能性があると考えたためだ。

「……分かりました。なら僕がひなたさんの救出に向かいます。ただ、僕は……僕達は闘いに行くんじゃありません。ひなたさんを助けに来たんです。ひなたさんさえ助ければ、政府に戦争を仕掛けようとしているシロさんの考えも変わるかもしれません。それが目的です。下手に一番地の犯罪者を殺したりすると、終わった後に報復を受けるかもしれません」

 彩葉だけは頷くも、分かっているのか分かっていないのか、リンファと凛と蘭が頷くことはなかった。

「では、行きましょう」

 道案内の彩葉を先頭に、一番地のひなたが捕われている場所へと一行は急いで向かう。可能な限り早く向かいたいため、全速力で。

 朝早いため警備も薄く、十分も経たないうちにシロがいる一番地の廃ビルの近くのアパートの屋上へと辿り着くと、太一は上着のポケットから発煙筒を取り出して皆に見せた。

「ひなたさんを見つけて助けたら、これで合図を出します。そうしたら、皆さん三番地の集合した場所まで撤退して下さい」

 現在、発煙筒は世界的にも規制が厳しい物ではあるが、何か使える物はないかと彩葉の持ち物から探して見つけてきたのだ。

 いつもナヨナヨしている太一が今回は自身で判断し、用意周到でしっかりしていることに、場慣れしてきたのかと感心する彩葉。

「変わったね、太一。臆病者のあんたがさ」

 褒められた太一ではあったが、険しい表情は変わらない。

「今は正念場……そう感じたんです。シロさんを見て」

 事態は深刻。相手のシロは総理大臣の一心を撃とうとし、庇った母の陽子を殺したテロリスト。今なお、一心の命を狙っている。シロの狙い通りアウトローの量産化が成功してしまえば、日本は劇的に変化してしまう。ここで止められなければ、一心どころか日本がどうなってしまうか分からない。いくら平和主義の太一とはいえ、その未来に恐怖を感じていたのだ。

「では、皆さん。作戦を開始しましょう」

 ひなた救出作戦を実行するため、太一以外はその場から散った。


 シロを始めとし、糸田と炎士もひなたを監禁するオフィスだった部屋から出てくる。

 見張りは三人に迂闊に話しかけれない。ひなたの怒号のような悲鳴が聞こえなくなったことで、怯えきっているのだ。シロが横から糸田に手渡された純白のハンカチで返り血を拭く中、炎士は頭の後ろで手を組みながら、つまらなさそうに後に続いていた。

「で、どうすんだよ? おい」

「こういう事も予想はしてたから、計画は変わらないよ」

「シロ様は全知全能の神。何も心配することはありません」

 拷問が上手くいかず、ぶーたれる炎士を諭すシロと糸田。そんな三人の元に、

「シロ様、糸田さん、炎士さん! 一番地の各地が襲われてやす!」

 警報が入る。

「どこの誰に?」

「わかりやせんが……三か所で騒ぎが起きてやす!」

 シロが聞くも犯罪者の報告は要領を得ない。しかし、シロには検討がついていた。

「三か所……ね。太一君達が来たかな? 思ったより早かったね」

「シロ様、いかがいたしますか?」

 シロにどうするか窺う糸田であったが、彼の答えを聞く前に炎士は廃ビルの割れた窓から飛び出していた。

「ひゃっはああぁぁ! 向こうから攻めてくるなんて燃えるじゃねぇか‼︎」

 応戦するつもりなのだろう。やる気からか口から火を噴きながら、五階から落下している。

 シロは「あーあ」と燃える炎士を白い目で見ていた。まったく理解できない彼の熱血心に呆れているようだ。

「炎士様を行かせてもよろしいので?」

「糸田も行って各地を鎮静化して来て。追い返せばそれでいいよ」

「仰せのままに」

 シロに丁寧に一礼し、自らも割れた窓から飛び出す糸田。

「さーて、俺はどうしよっかな? 太一君」

 被害を受けている各地へと散る炎士と糸田を、楽しそうにシロは見つめるのであった。

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