第17話

 一心率いる【アウトロー討罰隊】との激戦から一ヶ月経ち、紅葉が散り始めて季節が冬に差し掛かる頃、二番地は襲撃にあっていた。夜の闇の中、リンファと凛、蘭を中心に防衛するも、たった一人のアウトローによって壊滅状態にされており、三人も深手を負っている。

「凛、蘭。ワタシ、悪い夢見てるカ?」

「残念だけど」「現実」

 二番地を襲ったのは糸田。糸で絡め取ったひなたを抱えて、リンファ達に丁寧な一礼をし、

「それでは目的を達しましたので、失礼致します」

「ヘルプミイィィ‼︎」

 三番地から二番地へと移り住んでいたひなたを連れ去った。その目的は分からないが、リンファは悪い予感を感じる。

「さっきのヤツ……【一番地の執事しつじ】だたナ」

「一番地」「関わっちゃいけない」

 アウトロー街でも最も危険視され他の番地からも敬遠される一番地が、普段重い腰を今回上げた。そのことは、アウトロー街を――否、日本を震撼させることとなる。


 臨時国会では多くの国会議員が集まり、何日にも及ぶ議論が交わされていた。今回の議題は犯罪者討罰法についてだ。総理大臣自ら出向いた三番地強襲作戦は失敗に終わり、【アウトロー討罰隊】の隊員も多く死んだ。そのことを野党に責められているのだ。

『肝心の【アウトロー討罰隊】は死傷者多数で、何の成果も得られなかった! 犯罪者は街を奪い、今なお生き延びている! 総理が打ち立てた犯罪者討罰法の維持は余りにも無理があるんじゃないでしょうか⁉︎』

 マイク越しに強く責められる一心は、椅子から立ち上がり答弁台に手を付き、マイクに口を近づける。

「無理ではない。実際、犯罪者討罰法は大多数の国民から支持を受けていることは数字で表れておる。先の作戦の失敗は犯罪者共が想定以上の戦力を有しており、こちらの戦力を見誤っただけだ。【アウトロー討罰隊】の再編も既に開始しており、次の作戦で残存する犯罪者は討罰する」

 一心がそう答えると、「今回の死傷者の遺族にお詫びはないのか⁉︎」「責任はどうとるつもりですか⁉︎」といった野次が飛んで来たが、一心は脇目も振れない。そして、今回の臨時国会では犯罪者討罰法に関しては有耶無耶のまま、閉会することとなった。

 国会議事堂から出て、剣崎がまわしてきた黒いリムジンの後部座席に乗った一心が「ふんっ」と一息つくと、彼女から声を掛けられる。

「野党の追及も厳しくなって来ましたね」

「所詮は選挙に落ちた、喚くことしかできぬ敗者よ。敗者に何かを決める権利はないわ」

「それより犯罪者共をどうするか、ですね」

 窓ガラスのふちに肘を置き、外を見る一心。

『この社会はな、白黒つけれる程簡単じゃねぇんだよ‼︎』

 剣崎の言葉が引き金となり、太一に残された体の傷跡が疼き、その言葉を振り返った。敗者に何かを決める権利がないのであれば、息子の太一に敗れた自身はどうなのであろうか。そんな迷いが一瞬生じたが、息をつく間に振り切る。

「決まっておる。討罰するのみよ」

「ナノマシン管理部門かんりぶもんから報告がありました。どうやらアウトロー街で不穏な動きがあるようです」

「不穏な動き?」

 外の動く景色を眺めている一心の目が剣崎に向いた。

「犯罪者同士で対立しているみたいですね。何が原因かは分かっておりませんが、二番地と呼ばれる場所の犯罪者のナノマシンのデータから視認できました」

「共食いか、下等生物と変わらんな。ゴミ同士潰し合ってくれるなら都合が良いわ」

 少し彼の興味を引いたが、直ぐに目線を窓の外へと向け直す。アウトロー街がいさかいの渦中にあるのは、自身が関わっているということは露とも知らずに。

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