第12話

 夜が更ける頃、三番地外には以前の侵攻の時より、はるかに多くの七三式大型トラックが縦列駐車で並んでいた。様々な武装をした【アウトロー討罰隊】が速やかに降りていき、配置についていく。

 以前の戦闘と同じように、ナノマシンのGPSが反応しないアウトロー対策のため、ドローン部隊が後方支援のために三番地の至る所にドローンを飛ばし、一心、剣崎、火野を始めとした百人にも及ぶ【アウトロー討罰隊】は、三番地へと正面から堂々と侵攻した。

『A地点。目標、見つかりません』

『BからE地点、同じく』

 ドローン班から入ってきた情報を聞いた一心達は警戒しながら歩んだが、情報通り三番地は傍目には犯罪者の一人もおらず、もぬけの殻と化していた。

「何処かに身を潜めているようだな。まぁ当然だな」

「そのようですね。手当たり次第という訳にもいきません。いかが致しますか?」

「手当たり次第で構わん」

「は?」

 本当に手当たり次第、数多くの建物を探していくのかと、思わず聞き返す剣崎。しかし、一心の狙いは別にあった。

「どちらにせよ、三番地ここは奪い返すつもりなのだ。散開し隠れている犯罪者をGPSで追跡して、手当たり次第討罰していけ。そうすれば姿を現す。以前の戦闘を考えれば、【三番地の女盗】とやらが現れれば、愚息も共に現れよう。そこで始末をつけ――」

 犯罪者を殺して餌にし、アウトローの彩葉と太一を釣る。そんな案を練った一心達の後方の左右の建物から、

 ドゴオオオン‼︎

「「「‼︎」」」

 巨大な超硬合金製の金槌で壁を突き破った凛と蘭が現れる。

「綺麗な花」「沢山咲かす」

 二人は【アウトロー部隊】の隊員に向け、巨大な金槌を振り回す。ドン! ドン! と大きな音を立てながら、隊員達を虫を潰すかのように上から金槌で叩き潰していった。

「がっ⁉︎」「ぎょぺ⁉︎」

 グチャッと叩き潰された隊員は悲鳴を上げて、地面に血をぶち撒けて息を引き取る。飛び散った血は、まるで赤い花が咲いたかのように地面へと刻まれた。

「赤い花」「咲いた」

 それを見た凛と蘭はどこか嬉しそうに頬を染め、次々と隊員達を叩き潰していく。その様は象が遊びで蟻を踏み潰していくかのようだ。前方で指揮を執っていた一心と火野も、二人が現れたことを確認した。

「何だあの子娘共は?」

「このナノマシン反応……アウトローです」

 一心の問いにゴーグルで凛と蘭のナノマシン反応を見た火野が答えた時、正面からカツカツとヒールを鳴らす音が聞こえてくる。一心、剣崎、火野はその音に身構えた。

「アウトロー街にようこそネ。歓迎するヨ」

 暗闇から優雅に煙管を吸いながら現れたのはリンファ。武器の類は何も持たず、腕を組みながら大胆に間合いを詰めて来る。

「コレもアウトローとやらか。全く……権藤は何を考えておる。ゴミなんぞに力を与えよって」

 リンファに対して戦闘態勢をとった、一心、剣崎、火野の三人。敵は一人。三人でかかれば、アウトロー相手と言えど苦戦はしないだろう。そんな風に考え、戦闘に入ろうとした三人の元にドローン班から通信が入った。

『戸鎖総理! 対象二名、発見しました! それぞれ別行動をとっています! 位置を送ります!』

 一心の頭の装甲内、剣崎と火野の付けた片目を覆うゴーグルに映像が送られ、太一と彩葉の位置を割り出す。二人は別々に三番地から逃げるように離れていっていた。

「この三人を囮に逃げるつもりか?」

「お待ちください、総理。罠かもしれません」

 太一を追おうとする一心を止める剣崎。これ程タイミング良く目標が現れるのはあまりにも不自然だと考えたからだ。しかし一心は足を踏ん張り、道を塞ぐリンファを跳び越えた。

「それならそれで構わん。フルアーマーの我が負ける道理なし」

「総理、お供します」

 一心に火野も続き、残された剣崎は思わずため息を吐いて、混乱極まる現状を整理していく。

「まったく、指揮を放棄して……これだから男性は血の気が多くて困りますね。これからは総理秘書官である剣崎が指揮を執ります。【アウトロー討罰隊】は、子供二人を討罰して下さい」

『『『はっ!』』』

 一心と火野をリンファがあっさりと通したのは、予定通り。二人の相手は自身の仕事内容ではなく、二人以外の足止め、または殲滅が仕事だからだ。

「血の気ならワタシも多いヨ。オマエ、相手するネ」

「素手で私の相手ですか、舐められたモノですね」

 剣崎は白銀の鞘からスラッと刀を抜く。その刀身も超硬合金で出来ており、剣術の達人である彼女の腕を持ってすれば、鉄やコンクリートをも容易に切り裂く。

 背後で隊員達が叩き潰される音と銃声と悲鳴が響く中、煙管を捨てたリンファは笑みを浮かべながら彼女に飛び掛かった。


 一心と火野は、剣崎と【アウトロー討罰隊】を残して目標へと向かっていた。その速度は、まるで馬が駆けるかのようだ。送られてくるドローンの情報から推測するに、進行方向のT字路の右には太一が、左には彩葉がいる。

「御子息を討つのは酷でしょう。私が討罰します、総理」

 気遣うように言った火野ではあるが、辛酸を舐めさせられた太一を討罰したいという気持ちが強かった。一心が自身の手で太一を討罰したがっているのを分かっており、それをどうにかしたいがための発言である。

「少しは頭を働かせろ。カメラに我自身がアレを討罰する姿を収め、報道することこそが重要なのだ。犯罪者討罰法を作った本人が息子を殺すのと、部下に殺させるのでは説得力がまるで違う。貴様は【三番地の女盗】を討罰しろ。絶対にしくじるな」

 分かってはいたが、苦虫を嚙み潰したように悔しい表情を火野は見せる。犯罪者討罰法を打ち立てた尊敬する一心が言うのであればやむを得ない、と引き下がった。今優先されるべきは己個人のプライドではなく、大局なのだから。

「……はっ!」

 T字路で別れ、一心は右へと向かい、火野は左へと向かった。火野は彩葉を討罰するためドローン班と連携をとって先へと進む。暫く先に進むと、開けた十字路では彩葉が待ち受けており、その片手には先の戦闘で火野から盗んだ右手の大きな手甲を持っていた。

「【三番地の女盗】……!」

「やぁ、火傷顔さん。ご機嫌いかがだい?」

「その言い回し……こちらの戦力を分散させ、各個撃破するのが目的か」

 彩葉の知り合いに声をかけるような気軽さに苛立ちを見せる火野。そんな内心を知りつつも、彩葉は彼に向けて以前盗んだ手甲を投げる。

「返すよ、これ」

「ふん、いらんわ」

 既に火野の装甲は新調されており、投げ返された盗品を右手で弾き飛ばした。

「確かに返したからね」

 手甲を返し終えて不敵に笑う彩葉。彼女が盗品を返したのは【一つだけの強盗ワン・スティール】の制約が影響している。【一つだけの強盗ワン・スティール】は対象から何かを盗む能力であるが、盗む限度は一つの対象に対して一つ限りで、生物から感覚や血液や臓器等を盗むことは出来ず、同じ対象からもう一度何かを盗むためには、一度盗品を返却しなくてはならない。つまり、戦闘の前準備を行ったのだ。

「さて、殺り合うかね」

「殺り合う? これから行われるのは、ただのゴミ掃除だ」

 戦闘態勢を整えた二人は飛び交い、拳を交え始めた。

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