111話 武志VS錬金術士
「風よ風よ、
どうやら、グレン君に急接近を果たした、空中に足場を作る例の精霊魔法のようだ。獲物を見出した
「
「
次に叫んだ時は、わずか半歩程の進行。
空中移動という、その不規則かつ予想がつきにくい動きから、花火の照準を定めづらい。距離を詰められている以上、こちらも移動して接近を許すべきではないのだが、あのレベルの素早さを誇る相手に、自分が移動しながら『打ち上げ花火(小)』を当てるなんて不可能に近い。
「
動く代わりに
「
奴の空中歩法は、遠と来、長距離と短距離の地点を交互に移動する技だ。だとすれば、次の一歩は長い。ならば、
これを外してしまえば、
高度にして4メートルほど浮いてしまい、空中で身動きを取りづらい事にはなってしまったが、接近を許すよりはマシだ。
「当たれ!」
俺の願い通り、狙い違わず、寸分の狂いもなく一筋の紅が
だが、
「結界刀術──『結ビ語リ・ニノ太刀』」
奴がそう言った瞬間、切った場所から遥か後方へと長方形の壁が出現した。
それは花火の衝突角度から斜めに伸び、下方へと向かう薄緑色の道。
その道の果ては、
花火はその半透明の壁を滑るように滑空していき、
「結界とは──界と界を結ぶなれど」
一ノ太刀を振るった剣筋から、二ノ太刀を振るった剣筋の空間を結ぶように、壁を発生させたとでも言うのか。いや、この場合は俺の攻撃と
「結べるのならば、絶ち切ることもできうるでござるです」
そう宣言し、奴は俺まであと数メートルという場所まで肉迫してくる。
互いに空中に身を置くさなか、俺は更なる移動を試みようと、咄嗟にフゥへと目を向けるが、どうにも相手の刃が俺の喉元まで迫る方が早そうだ。
なぜならフゥは
「
さらに半歩、詰め寄ってくる
こちらが再び迎撃体勢に入るよりも、あちらの接近が早い。
「お覚悟っ!
奴がようやく俺を
だが、しかし────
「覚悟するのはそっちだよ」
「む!?」
こちらに向かって猛進する
「ぬぅっ、いつの間に
実は三発目の花火と一緒に、ここぞとばかりに『
花火自体は壁にぶつかり、そのまま軌道を逸れて爆発する運命にあったが、イガイガきょうだいは
「かかった。いまだ、フゥ!」
俺は『ケムリ玉』を二つ、投げつけ自分の姿をくらます。
ついで、フゥに俺を上空へと逃すようにお願いしたところで気付いた。
タロHP90 → 55
俺のHPがごっそり減っているのだ。
それは何故か?
「たろりん、りょーかいっ!」
フゥの返事とともに、さらに上昇を遂げた俺はケムリから飛び出してすぐに自分の身体を確認する。
「やはりか……」
腕や足、あらゆる箇所で蒼い狐火が
そして、俺までもがダメージを受けたとなれば……。
『狐火の燈宙花走』はフレンドリーファイア、つまりPTメンバーや自分もダメージを負うという、かなり使いどころを選ばなければいけないアイテムだという事がわかった。
「たった1秒かそこらで、このダメージ数……かなりのダメージを叩き出すことができるな……」
冷静に新アイテムの性能を分析しながら、今や10匹以上に増えた『
大量の蒼い火が煙幕へと群がっていく。
「これで奴も終わりだ」
そう判断した俺は、ホムンクルス達が俺の周囲を飛び回っているのを確認した後、ダメ押しとばかりに最後の『打ち上げ花火(小)』を下に向けて放った。
「神世七代におわしめす……
「結精刀術────禁足神域・
その剣筋は無色。
だが、その太刀筋は、風と同化した刃の奔流によって強制的に斬り裂かれていく、煙幕が、蒼炎が、花火が、如実に語っていた。
縦横無尽に閃く刀の剣風が、無数の刃となって、俺のアイテムの全てを斬り防いだのだ。
そして、その風陣が消失すると、
「参るでござるです、
どうやら、俺の錬金術はまだ奴の神を侵すまでには至らなかったようだ。
これが、デイモンド師匠だったらどうなのだろうか。
きっと、師匠だったら、神の力すらも凌駕していたに違いない。
ならば、弟子として最後まであがき、抗うべきだ。
「フゥ!
「よけるん、たろりん、がんばるん!」
空中での移動制御は全てフゥに任せ、俺は
「遠っ!」
「つっかまらないよぉーん!」
「いいぞ、フゥ!」
フゥの風と俺による宙空演舞は、奴の移動法よりもやや小回りが利くので、空中戦での立ち回りでは一歩、俺達が秀でている。
だが、接近戦、剣と剣を交えるまでになってしまったら、勝ち目は限りなく低くなってしまう。きっと奴もその事を理解した上で、こちらに突貫し、追いすがってくるのだろう。
「く、これでもくらえ!」
フゥの風に身体を揺さぶられつつも、『
序盤と形勢が逆転し、攻守が完全に入れ替わってしまったが、この激しい攻防をアイテムの続く限り俺はねばり続けるつもりだ。
「おいおい……なんてレベルの高い戦いなんだ」
「空中戦とか笑えるぜ……」
「天使、宙を舞うか……」
「
「まさに天使と化け物の戦いだな」
「
「
「天士さま、がんばってください!」
「天使ちゅわんっ! あきらめちゃらめよぉおおおん!」
下で観戦している
だから、俺はここで勝負を仕掛けることをした。
フゥは俺を飛ばすので精一杯だ。
残る手札は、もうわずかしか残されていない。
ならば、まずは『
「切り捨て、御免でござるです」
一撃か……。
「覚悟ぉおでござるです!」
いよいよ、
「むっ、それはっ」
奴に気付かれたか。
なるほど、NPCとはそこまでの判断能力があるのか。
そう……『閃光石』を小太刀で切りつける瞬間、奴も俺同様に目を瞑り、視界を奪われないように
目を開けた俺と
だが、俺と武志の目と目は、互いの敵をしっかりと見つめている。ぶつかり合う視線が示すは、互いの視覚は正常で、ただ眩しいという認識がある程度だと語る。
俺の目くらましは失敗したかに思えたが────
「かかったな」
「ぐぬぅ、ぬかったでござるです」
二段構えの目潰し、イガイガくんに『強発光』を発動させたのだ。
「最後のチャンスだ、フゥ! いくぞ!」
「あいー! でも、たろん?」
俺の最大の攻撃力を誇るアイテムは全て使い果たしてしまった。
残るは右手に握った小太刀、そして
ならば、
半ばやけくそ気味で、最後の一振りをフゥに願う。
「
「んん? んんっ!」
この小太刀を強化して欲しいと、風のように鋭い刃に変えて欲しいと。
「わかったぁーん!」
どうやら、あっけなく理解してくれたようだ。
俺は
「え!? フゥと剣が合体!?」
なんと、フゥは俺の小太刀へ寄り添ったと思えば、その身体が溶けるように融合していった。
小太刀の刀身は黄緑色に輝き、その長さを10センチ程伸ばした。
これぞ、まさに『
「いけるっ!」
これで勝負は決まった!
俺は
「てぇえい!」
『フゥ刃』が
しかし、
「え、なんで?」
あれ? まだ三秒も経ってないのに……と疑問の声を上げたのも束の間。
「む、視えたでござるです!」
俺の斬撃は軽く左斜めへと、
予想どおり、俺のHPは0になってしまう。
:模擬戦が終了しました:
:
:戦績・敗者・善戦:
というログが流れた頃に、俺は自分が犯した痛恨のミスに気付いた。
俺としたことが……てっきり、『
『強発光』は
体感にして2秒程だろうか?
それに、『強発光』を放ったとしても、必ずしも相手がホムンクルスに攻撃対象を切り替えるわけでもないようだ。蓄積された俺に対する
錬金術士として……今回の模擬戦はいろいろと、よい勉強になった。
◇
「
模擬戦相手の
:『ローヌの木刀』を手に入れた:
さらに、何やらイベントの参加報酬? 模擬戦の善戦報酬? として武器をもらった。
『ローヌの木刀』
【レア度】:0
【必要ステータス】 力1 HP20
【攻撃力】+2
……ん?
なんか見覚えのある武器だ。
そう思って装備ストレージを確認すると……同じ名前の武器がもう一つあった。
こ、これは……俺が最初にクラン・クランで手に入れた初期装備の武器だった。
まじですか。
道場破りイベントの、『門下生』に対する善戦プレイの報酬アイテムがローヌの木刀とか……。
「なぁ……あんた、一体何者なんだ」
負けたから期待はしなかったけど、微妙にガッカリな結果にちょっとドンヨリしていた俺に、横から声がかかる。
「ほ?」
観戦していた
「あ、いや……嬢ちゃん。おめえさんは一体……どんなレアスキルを持ってるんだ?」
「すげえ強いスキルを習得してるんだろ?」
「かっこよかったぜー!」
「負けちまったとはいえ、風の
「超いいスキルなんだろ?」
すると、さらに何人かの
かっこよかったか。
報酬は残念な結果に終わったけど、錬金術で奮闘した事がそう映ったのは非常に嬉しい。
だから俺は、つい笑顔で答えてしまう。
「いえ、ふつーの錬金術ですよ?」
そんな俺の返答に、彼らは何故か硬直する。
「おおう……」
「う……あ、ぃえ」
「かぁぃぃ……」
「や、でも……」
「れんき……ん?」
なんか反応が微妙だ。
しかも、変に頬を染めてる人までいた。
なんだろう……錬金術のようなゴミスキルを使ったなんて本当か? なんて俺がウソをついたと思い、顔が真っ赤になるぐらいご立腹なのだろうか……。
「はいはぃん、質問タイムは終わりよぉん。するなら、ワ・タ・シ・にしてねぇん?」
「天士さま、お疲れ様です! それはそうと、そろそろ『屋台』の方に戻らないとかもしれません」
なんだか、周りの
ミナの言う通り、百騎夜行のみんなや、ユウジ、リリィさんにばかり『屋台』の準備を任せるわけにもいかない。本当は、他の属性の
こうやって自由を許された身で、これ以上のワガママを通すのはダメだ。
と、なると……少しぐらい宣伝とかしておいた方がいいのかもしれない。
「あ、あのっ、『屋台』を出すので、よかったら見に来てください……メイドさんと執事さんが目印です!」
修練場にいた
「メイドって天使ちゃんがなるのか!?」
「どうなんだ、銀髪の嬢ちゃん!」
なんか妙に迫力満点な勢いで尋ねてくる
そんな態度だけでは失礼に値すると思い、俺は顔だけ出してコクリと頷いておく。
「うぉぉぉぉおおお!」
なんか雄叫びを上げ始めたギャラリーを遮るように、ジョージがニコっと俺に笑いかける。
「バカな男どもは放っておいてぇん、そろそろ『屋台』にもどりましょうかねぇん」
「ささっ、天士さま。あんな怖くて醜い怪獣、ロリゴンさん達は放っておいて『屋台』に戻りましょうね」
「は、はい」
こうして俺は、ミナとジョージに手を引かれ
ミナはともかくジョージまで俺の手を握るのは、ちょっとやめてほしい。
なんだろう、オカマと神官少女の間で手を引かれて歩く。
周囲から妙にチグハグな光景として映っているのではないかと思うと、すこし恥ずかしい。
「ちょ、二人とも、手なんか繋がなくてもいいんじゃ……」
「あらぁん、今日の天使ちゃんわぁん、はしゃいでるから心配なのよぉん」
「天士さま、大丈夫ですよ。私に任せてくださいね」
妙にミナが、世話焼きお姉ちゃんっぽい雰囲気を醸し出している。
あれ、もしかしてこれって……。
今日は何だかんだ、ここまで二人を振り回して、模擬戦までやらかしちゃったのは事実。放したら、どこに行かれるかわからないとでも思われているかもしれない。
「は、はい。『屋台』までよろしくお願いします……」
そうなると、今回は手を取られるのも仕方ないように思えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます