110話 蒼炎を霧吹く錬金術士
「鈴の
一見して、何の意味もない動作に思える。
「――
しかし、
切れ味の増した刀を
「まずは、攻守のリセットから始めよう」
こちらが受け身に回るわけにはいかない。
おそらく俺の防御力とHPでは、
俺は慌てずに、『
「さて……」
『
「小手調べといくか」
落下してきた閃光石を、右手で持った小太刀で右薙ぎ切り払い、その勢いに身をまかせて身体を思いっきりひねった。
「む、これは!?」
急に後ろを向いた俺に対し、
「なぬ、眩しい!」
俺は目を瞑りながら慣性の法則を利用して一回転、元の向きへと直る。体勢を戻すついでに取り出した『
「案外、ちょろいかも」
奴はどうやら、『閃光石』の光をもろに目に入れたようだ。次の一手を打てる有利な状況にいる俺に対して、視界を奪われた
先の戦闘から分析するに、
「フゥ、お願いね」
「まっかせてーッッ!」
俺の初手から次の手は流れるように繋げられた。
わずか三秒しか相手の視覚を真っ白に染めることしかできない『閃光石』。
だが、その三秒は一対一の戦闘において命取りになる。
「むむ……」
『
「風の精霊よ、
やはり俺の攻撃を悟ったのか、
「結界魔法――
そして左手をこちらへと掲げ、何らかの広範囲ガードの魔法でも発動したのだろう。床から半球状の風のドームが生成された。先程、グレン君の火球による連撃を防いでいた小さな規模の魔法ではなく、目が潰されたこの瞬間に限って、カバー範囲が大きな防衛手段を選んだに違いない。
面での攻撃は、グレン君の時みたいに炎ならば切り通せただろうけど、液体ならば話は別。
振りかかってしまう恐れがあるから、風精霊の力を借りて吹き飛ばすか、魔法か何かでガードする他ない。まして目が機能しない今、
俺とフゥがもたらした酸の雨は、ことごとく風の防護によって弾き飛ばされていくだろう。やはり、受けは得意のようだ。
「だけど、問題ない」
あちらが防ぎきる頃には、こちらの次の手は完成しているのだから。
刀の攻撃力の高さがわかっている以上、うかつにイガイガきょうだいを突貫させて、早々に撃墜される愚策を選ぶ必要もない。
さぁ、新アイテムの効能を俺に見せてくれ。
俺は一つのアイテムをポトリと床に落とす。
それは緑の
同時に俺の視界に、小さな青いマーカーが出現した。
「なるほど、これで設置場所を設定すると」
俺は視線で青いマーカーを、
「あそこで根付け」
俺の命令に従うように、新アイテム『
この植物、
それらの手は、俺の意思に反応してゾワゾワと動きだし、床を這うようにマーカーの地点へと移動していく。
この微妙に気色悪い植物の元となった素材は、ニュウドウさんから教えてもらった『曇りのち晴れジュース』のレシピが深く関係している。
『曇りのち晴れジュース』のレシピはこうだ。
・【上質な水】
・【シュワシュワの角】
・【灰粉】
・【グレープル汁】
・【蒼火花】
これと料理スキルを合わせれば、灰色の無味な炭酸ジュースから、ストローでかき混ぜるだけで、クリアな空色へと変わり、爽やかな柑橘系炭酸ジュースへと変貌する『曇りのち晴れジュース』が出来上がる。
このレシピを利用し、ラムネみたいなモノは作れないかとジョージと試行錯誤を繰り返し、限られた素材を『合成』した結果、『
『シュワシュワの角』
【青い小さな火で攻撃してくる、
『灰粉』
【燃えカス。熱に触れると火が
『蒼火花』
【蒼い火の咲く花で、火そのものが花になっている。群生地帯を夜に訪れれば、それはそれは美しい光景が見れるだろう】
この三つの素材に加え、地下都市ヨールンに浮遊していた『
『
【擬似的な月光の成分が含まれている。自律的に動く生命体の
こうして生まれたのが、根部分に白い手が何本もある、自動で移動する青い花の植物だ。
『
【根っこの手を駆使し、走るように寄生する場所を見つけ、自らを生存させる植物。一度、その根をはり巡らすと、養分を吸い取り
【持続ダメージ:2~35】
【属性:赤】
【特性:蒼炎】水では消えない
とにかく、コイツを試す時がきた。
増殖のスピードにしろ、持続ダメージの値にしろ、
「さて、ついでにもう一匹」
結界魔法とやらが消失したタイミングで、俺は更にもう一つの『
「むむ、何とも奇怪な火の粉……蒼炎の
一匹目の『狐火の
蒼く小さな炎の粉がゆらめきながら、
さっきの防御結界の効果時間が一瞬にしろ、長いにしろ、ずっと発動し続ける事は叶わないはずだ。
こちらが放ち、設置した『
「さぁ、どうでる、
さっきの、グレン君の炎を十字に切り裂いた手段は、この細かい蒼火の前では無意味に近い。一瞬だけ霧散させるぐらいしかできないだろう。
「さすれば、
「それじゃあ、フゥ。よろしくね」
「あいあいっさー♪」
今やニ点に配置された『
「なれば、――
「させないっ」
より強い風にて、炎の胞子を吹き飛ばせば良いだけの事。
そう判断した
なぜなら、俺が『打ち上げ花火(小)』を使用したからだ。
一直線に飛来する花火に対し、
花開いた火のあられを背中に受け、
「ぐっ、さすれば、元凶を絶つまで――」
「それも、させない」
じわじわと
その対処方法は正解だ。
『狐火の
だけども、その本体は今や二匹だけではない。舞い散った炎の胞子が床へと着火すれば、一定の確率で新しい『狐火の
だからこそ、俺は続けて『打ち上げ花火(小)』を撃ち放った。
「ぬぅっ! 刀術――『
ついでに、
その瞬間、刀身に宿っていた薄緑のオーラは消失、代わりに
「なるほど、一回限りの遠距離攻撃か……刃への魔法付与はなくなったかな?」
だが、それも
面での攻撃を一刀両断できはしても、数えきれない程の点での攻撃は?
飛び散る火花の一つ一つを切り伏せることは不可能だろう。
花火の直撃を避けているとはいえ、間接的なダメージを負った
「むむむ……」
初めて敗色の濃い
「一方的だな……あのスキル、一体何だ? アイテムなのか?」
「おいおい、あの子さっきから一歩も動かずに、
「ざまあねえな、
周囲の
連続的に攻撃を浴びせる側とそれを
接近を許さず、ダメージを発生させ続ける。
かなり有利に戦いを進めているのは事実。
だけど、それはそうせざるを得ないからである。
これは逆を返せば、相手が俺の攻撃を防ぎきれば……この均衡が破られれば、きっと俺に勝ち目はなくなる。
だからこそ、必死に三発目の『打ち上げ花火(小)』を準備する。
そう、俺は動く
さぁ狙いを定め、花火を打ち放とうした刹那、
「風よ風よ、
俺の狙いをぶれさせながら、詠唱をも完成させていた……。
ついに……相手に先を取らせてしまうことを許してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます