99話 親友たちの提案
「早い話が、夢中になってやりすぎだ」
「こんなところで引き
突然の来訪者の、よく聞きなれた声が店内を巡る。
「相変わらずだな、錬金術士どの? それとも天使さまって呼んだ方がいいか?」
「おぉー、我が姫よっ!」
こちらの視界に入るように、壁にもたれながら尋ねてきたのは親友の二人だった。苦笑まじりで、開幕から俺をいじってくるイケメン共。
「こ、コウにユウ。お、お前ら、ビビらずにここには来れるようになったんだ」
俺の情報を執拗に欲しがる
すると
「ま、まぁなっ」
と、少しだけ上ずった声を出した。
リアルでは頼りになりまくる
元はと言えば俺絡みなわけだし、少し悪い返しをしたかなと反省して
ニヤニヤと
わりと
だが、それがいい。
それでもこの話題を引っ張るのは
「姫である私の身を案じて、ここまで足を運んで来てくれたこと、感謝します」
「いえいえ、我が姫。ボクの剣は貴方様に捧げていますので」
俺は機先を逸らされたであろう
親友の額に小さなしわが寄るのを発見して、どうしても口元が緩んでしまう。
ほらほら、天使とか姫とかそう呼ばれるのに抵抗を感じる俺が、キミ達には特別にノッてやってるんだから、
お前らに合わせた俺の方が大人な対応なんだぜ、っと目で語ってやる。
ちなみに
「あーあー。わかった、俺の負けだ姫さま。いじって悪かったって」
完敗を認めたのだ。
「だがな。二人とも、この借りは必ず返すからな」
ニマニマする俺達に、晃夜はキリリとした視線を眼鏡の奥から飛ばしてくる。
「ヒィッ
そんな
さすが敵の注意を引くのが本職の
「ユウッ、おまえ、このやろ! 鬼畜メガネって何だ」
「助けて、タロ~!」
そんな二人をなだめるのは、俺の役目か。
「おいおい、お前らいい加減に、ギャーッ! ユウ! ちょっ、くすぐりは禁止だから!」
「おいっ、タロっ、邪魔だ! 暴れるな、ユウに『二連桜花』をぶちこんでやるんだからよ!」
「お助け、姫さま~!」
「ユウ! ギブ! ギブだからッ、くすぐるなっ!」
と、錬金術の結果が芳しくなかった事に対するモヤモヤなど、こいつらの前ではどこかに吹き飛んでいってしまった。
「おまわりさん、こっちです! 姫様に手を出そうとしてる暴漢魔の極悪非道メガネです!」
「
「ユウ、てめっ! タロを壁にするな!」
ひとしきり、オカマが経営する店内で勝手にギャーギャーと騒ぎ立てた俺達。結局、
その間、俺は笑い通しだった。強制的に。
とにもかくにも、こうして事態が落ち着くと、どうして二人は俺に会いにきたのかという疑問が浮かんできた。
「あ、そう言えばタロ。少し提案があって、ここに来たんだけど」
折よく、
「そうだった。思わずふざけたヤローのせいで、忘れるところだったぜ」
「あはは~。タロさ、もうすぐ夏のイベントで『夏祭り』が開催されるのは知ってるよね?」
「錬金術バカのこいつが、クラン・クランの公式サイトをチェックしてるわけないだろ。やっぱり、俺の予想通りだったな」
「そっかそっか。クラン・クランは『妖精の舞踏会』っていう
「ほぉー。それはすごい」
運営さん、頑張ってるんだな。
「でさ、フレンドチャットで伝えるのも良かったんだけど、まぁこう言う事は直接誘うのが
ん、
「期間限定で、『屋台』が出せるらしいんだけど、一緒にやってみない?」
「早い話が、イベント『夏祭り』で金策だ」
「シズとゆらが、タロちゃんも誘えってうるさくてな」
おぉ、シズクちゃんにゆらちーか。
同年代の女の子にお呼ばれするのは、やっぱり男子高校生として嬉しい。
「まぁ、あれなんだよね? この間、手に入れたメイド服と執事服あったでしょ? あれを着て、みんなで『屋台』を出さないかって話なんだ」
グハッ。
メイド服……だと。
「屋台にメイドと執事って……ミスマッチじゃない? 学祭でもないのに……」
「タロが言いたい事はよくわかるよ」
「でもな……早い話が、ウチの女どもはうるさい」
「うん、うちの女性陣は少しだけ怖いんだよね」
それは、そこはかとなく俺にも共感できる部分があった。
ロリィタ服の説明をする時のシズクちゃんや、俺を着せ替える時のゆらちーの意気込みは鬼気迫るものがあったから。
「一緒にやってくれないかな? タロと一緒にできればあの二人も喜ぶし、ボクたちも嬉しい」
ニコッと断われない雰囲気でイケメンスマイルを、ここぞとばかりに仕掛けてくる『百騎夜行』の団長様にたじろぐ。
本当に鬼畜なのは
「わかったよ……おっけー」
「ありがとう、タロ」
「よっし! お前がいれば、売り上げは約束されたも同然だ」
俺としては、ちまちまポーションなんかを売りたい。
でもせっかく夏祭りって事だし、なんか屋台っぽいもの……ラムネとか作れないのかな。
『気ままな雲の流れ亭』で飲んだ『曇りのち晴れジュース』みたいな、色が変わってしゅわしゅわする素敵なジュースを、錬金術で作れたら売れそう?
あれ、いざ売る物を検討し出したら、けっこう楽しみになってきた。
「それとさ、タロ。
そうだったな……。
そういう話もあったっけ。
「おい、タロ。俺達の学校に礼拝堂を建てるとかいう、『
「ああ。ちょうど俺も二人に話したいことがあったし……」
女体化の事と……姉と話した内容を言わないと。
それに通学の条件といえ、
こいつらは『
これから先……今もそうだけど、
「とりあえず、まずは『屋台』で売り出す品物について協議しようか!」
「いいアイディアを期待してるぜ? 錬金術士殿」
「おまえたちの、
どうやら二人の様子を見るに、俺の錬金術の力がお金稼ぎに非常に役立つと見込んでの提案だったのは窺い知れる。決して、それだけではないだろうけど。
もし赤の他人だったら、こんな話を出されても俺はにべもなく断わっていたに違いない。でも、この二人だったら正直、こちらから願い出たいくらいだ。
こいつらは貸しなんて思っていないだろうけど、中学時代からウン
それに二人と一緒にゲームをするのは楽しいのだ。
「へへ~姫殿下のお力添えをお借りしたく~」
「どうか、この通り、よろしく頼むぜ」
しかたないなぁ。
全くもう。
二人に頼られるのがすごく嬉しい。
「よい、よいぞ。みなのしゅう~」
こんな内心を隠すために、俺はわざと偉そうにふんぞり返る。
知られたら、少し照れくさいし。
「なにそれ、ウケるんですけど」
「お前ってほんと、ノせやすいのな」
「う、うるさいっ!」
クスクス笑う親友たちに、俺はムスっとしながらも自然と顔が
こうして俺は、
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