100話 生命を創る錬金術士
「売るなら武器素材とかどうかな。鉱山街グレルディ近辺の鉱脈で、堀りに掘った鉱石類の在庫はまだ余ってるわけだし」
「いや……どうだろうな。たしかに新しいエリアや街を踏破されるまで、武器や防具のステータス更新はないにしても、そろそろ一級
親友二人の打ちあわせに耳をすませつつも、俺はなんとなく気になってしまうランタンへと目を向ける。
「それでも新規の
「早い話が、安く多く売るってことか」
「そうだね、一攫千金って方針よりかはそっちのが無難じゃない?」
「でも、イベントに来てわざわざ素材を買う奴っているか?」
「何かのついでで、購入してくれればいいんだよ」
「早い話が、祭りじゃ財布の紐も緩むってか」
「そそ」
「じゃあ、結局のところ目玉商品が必要になるってことだな。夏祭りのイベントに適した商品か」
「そうなんだよねぇ……ついでに売る物はけっこうあるから……って、タロもしっかり話に参加してよ」
おっと、ランタンを見過ぎていたようだ。
んーっと、あれだ。そう、このランタンだ。
「あ、えーっと、痩せこけた病的に白い小人とかは?」
「は、なんだよ。それ」
「うわ、なにこれキモイね。却下で」
そのままバッサリだった。
「これはダメだな。そもそも武器素材も、俺はやっぱりダメだと思う」
「まぁ、そうだよねぇ……」
「地味すぎるしな。だったら武器そのモノを転売したり、アイテム各種を取りそろえた方がいい気がするぜ」
「えー、でも転売じゃ旨みは少ないし、アイテムだって地味だよ。それこそ、どの
「でもよ、イベントだぜ? またボスキャラが唐突に現れる、なんてこともありえるだろ。そしたら需要はあると思うぜ」
「確かにそうだけど、うーん。ってタロ、他に何か案はない?」
ん?
うーん?
「んー、人面魚とかどう?」
俺はランタンを見つめながら、答える。
「え、なにそれ」
「おい、これはキモいから無理だな」
こうして、
――――
――――
結局、まだ良い案は浮かばないという結論に至り、また後日会議をするって事で一旦は解散を迎えた。
「うーむ……まさに飼育ってやつか」
二人がいなくなった店内で、俺は二つのランタンを見比べながら呟く。
ガリガリの青白い小人が入っているランタンは、もう手の施しようがない。
このまま成長の推移を見守って行く他がないだろう。
「それにしても、こいつら本当によく食べるなー」
目下、俺の興味を集めているのは【飼育】素材として『
二度目の『ようせいの粉』をふりまくとランタンの容量が【3 → 2】へと減る。光る粉にパクつく人面魚たちは更に身体を大きくしていった。直径にして10センチ辺りだろうか。
「というか、
さっきまで、10匹ぐらいはいたはずだ。
なのに今は三匹のみ。
まさか、共食いとかしてないだろうね?
一瞬だけ怖い想像をしてしまうが、ここまでくればアビリティ『小さな箱の主』について大まかの事は把握できた。こんな感じで経過を観察していきながら、ゆっくりと成長する疑似生命体を育てる。それが『小さな箱の主』というアビリティなのだろう。
それから十分ぐらい、ぼーっと人面魚やいつまで経ってもピクリとも動かないガリ小人を眺めていると……。
:『なりそこない』ができあがりました:
というログが流れた。
【飼育】素材を投入してない、血液が足りてないと何度もログが出たガリ小人のランタンが完成したようだ。
「おおっ! ……って、名称的にこれってどうなの……」
俺は素早くランタンを持ちあげ、『鑑定眼』で詳しく調べる。
『なりそこない』
【正体不明の
【インテリア・レア度・3】
……。
か、……。
……家具ですか。
あーはい、そうですか。
ただの薄気味悪いオブジェクトですか。
気持ち悪い痩せぎすな小人の死体を、なぜかランタンの中に青い液体と一緒に保存した家具ができました!
「やっふぃー……」
俺の錬金術はどこで道を誤ったのだろうか……。
やはり、もっともっと【血液】素材を、『
そう悲嘆に暮れそうになったとき、またしても変化が起きた。
それは人面魚が泳いでいるランタンの方でだ。
もう、俺にはお前らしかいないんだ。
頼む。ちゃんとした生物として生成されて欲しい。
いや、もう喋る魚でも何でもいい。
生きているのはお前らだけなんだ。
そう一縷の望みを託し、残った三匹の人面魚の動向を一瞬たりとも見逃すまいと、注視していると――
ニ匹の人面魚が一匹の人面魚を、挟み討ちにするように襲いかかっていった。
頭部と尾の両端を食いつかれた一匹の哀れな人面魚は……胴体の半分からパックリと真っ二つに割れ、そのまま食べられてしまった。
「やっぱり、共食いしてたのか……自然とは、まさに過酷だ」
そして俺の進む錬金道も過酷を極めているようだ。
「この調子じゃ……こっちもダメかな」
なんて弱音を吐き、虚ろな目を引き続き人面魚に向ける。
「え……? ちょ、うわぁ……」
更に人面魚は変化していた。否、劇的な変貌を遂げようとしていた。
頭部がニュルニュルニュルッと胴体から飛び出そうとしている……。
いや、これは脱皮だろうか? 魚の身体部分から、顔だけが抜け出ようとしている。そして、その顔面に引っ張られるように、
「おおおおおおお!?」
この姿、形!
紛れもなく、
しかも、二体ともだ!
:
:『生命を灯す
そんなログが流れ、俺は歓喜に胸が躍った。
実際にその場でステップを踏んで小躍りもした。
やりました、やりましたよ師匠!
太陽の
「ふふふ。キミ達は一体、どんな生物なんだろうね」
液体の中の小人は、淡い黄色の輝きを
いや、彼ら自身が発光していると言ってもいい。
ニ体の光る小人は、俺の方をランタン越しからジーッと見つめてくる。
俺も見つめ返してあげると、ぺたぺたと自身の手をガラスに付けてきた。その後、ニコッと可愛らしい笑顔を浮かべ『チチチッ』と電気が爆ぜるような声で、こちらに何か語りかけ始めた。そして数瞬後、強い輝きに包まれたかと思えば丸い球体状に変化していた。
「うわ、まぶしっ……ん? まるい、いや、微妙にトゲトゲしてる……?」
非常にアバウトに言えば球体ではあるが、その周りには無数に小さな突起のようなものが生えている。
再び、『チチッチ』と音が聞こえてきたと思えば、またもや激しく発光した。反射的に瞼を閉じてしまったけど『
ほうほう。
「もしかして、さっきの球体状の時は太陽に成りきっているのだろうか?」
なんていうか、小さな太陽というよりはトゲトゲボール的なモノに似てる形態だけど、輝く強さは太陽に近しいものを持っている気がする。
:ランタンが耐久度を上回るダメージを受けると、『
:ランタンから出すこともできます。その場合、『
「なんと、外に出せるのか」
『チチッチー』
『チチチッチチ』
ニ体のホムンクルスが外に出たそうにこちらを見つめている……。
ふ、ふむ。
だが、ここで彼らを自由にするのは早計というもの。
錬金術士たるもの、事前の下調べはしっかりとこなしておくべきだ。
アビリティ『鑑定眼』を発動。
『
HP40
【特性】
『
【アビリティ】
『
『
『原初の火』 :【属性 赤】の魔法アビリティに+10~50ダメージを付与。
おおお。
これは、なかなかに良い情報だ。
心配なのはHPが40と少なめという点だろうか。
せっかく作れたのだから、簡単に消えて欲しくはない。
だけど、ここはジョージのお店だ。
PvPを起こすことはできない
それに、万が一ダメージが発生したとしても、ランタンに戻せば自動で回復していくという優れた特性もある。
「ならば、
パカッとランタンの上部を開ければ――。
『チッチチ!』
『チチチー!』
元気よく、光り輝く小人たちは――
飛ばなかった。
ランタン内で青い水面をじゃぶじゃぶと泳いでいる。
「む?」
もしかして、あれか。
人間状態では外に出れないのかな。
ならば、さっきみたいにイガイガボールになれば、どうだろうか?
「キミたち、ほら、アレだよアレ。さっきの形状だ」
と、語りかけても『
そもそも、この子たちと俺は意志疎通ができるのだろうか。
ええーい、諦めてなるものか!
俺は目を思いっきりつむり、口をすぼめながら丸くなれとイメージを送る。
「丸くなるんだ」
手もグーパーグーパーと、わかりやすいジェスチャー付きで繰り返す。
ま、る、く、なるんだ!
「チチチッ!」
すると一体の『
「おお!」
予測違わず、イガイガボールとなったホムンクルスは、ランタン内から飛び出し、宙をビュンビュンッと元気よく飛翔した。
「素晴らしい! はははッ太陽だ! 太陽ボール万歳ッ!」
しばらくすると太陽ボールくんは俺の前で静止したので、試しに指先でちょんっと
「こっちにおいでーって、伝わるのかな?」
試しに呼びかけてみると『チチチ?』と、未だランタン内にいる小人形態の
「なるほど。小人状態だと、こちらの言う事が把握できて、球体状態だと意志の疎通が難しいということか」
ふにふにしているイガイガボールの感触を堪能しながら、こう結論を付ける。
「よくできましたね、イガイガくん」
ふぅむ。これは色々と試す事がありそうだ。
今のところは、ここまでわかれば良しとしよう。
当面はあまり外に出さず、
そんな事を思い、『
:生命体を戻しますか?:
というログが出ていたので、俺はニ体の『
「結局のところ、『
『できそこない』という家具を見つめ、俺はそう思った。
こっちは成長も早く、しっかりとした体型には育っていた。しかし、何度も『血液が不足しています』というログが流れた事からもわかるように、『
「だからこそ、『できそこない』は【血液】という素材が投入されなかったから、失敗に終わったのかな……」
対して、『
「『ようせいの粉』と『
どうにか【肉体】や【血液】、【属性】や【飼育】に該当する素材を事前に判別できたらなぁ……少しずつ解明していくしかないのだろうか……。
「だが、しかし! 生物を作ることには成功したのだ!」
「てーんーしッさまッ!」
「わっ! ミナ!? 驚いたじゃないか」
自分の成し遂げた結果に、陶酔していた俺はいつの間にか背後にいたミナに全く気付かなかった。
「えへへ」
にぱっと笑う、我らが神官さんはいつも可愛らしい。
だけど、どの場面から俺のことを見ていたのか気になる。
ミナの立ち位置は扉の前ではないのだ。というか、来店を告げる鐘の音も鳴らなかったし……もしかして、
いるならいるで、早めに話しかけて欲しかったりする。
「それは何ですか?」
そんなミナに対する恥ずかしさも、彼女が俺の右手に持つランタンへ興味をそそられた事により霧散していく。
「あぁ、これは……コホン」
俺は、ドヤ顔でミナに笑いかける。
「聞いて驚け――」
――――
――――
「え! じゃあ、このホムンクルルさんは太陽の光ですか!」
「そうかもしれない。それとミナ、ホムンクルルではない。ホムンクルスだよ」
「はいっ! ホムンクルスですね。それで、そのホムンクルスさんは太陽さんって事ですから……巨人さんたちにプレゼントしに行くのですねー!」
あ、そっか。
この子、天才だわ。
あの地下都市に囚われた彼らに譲るのもありかもしれない。
というか、そうすべきか?
太陽光で理性を取り戻すという性質をもった、巨人の
効果があるかどうかはわからないけど、持って行く価値はあると思う。
「さっそく、いくのですよね? 天士さま?」
だけど、もう一つしっかり作れたらね!
自分のが欲しいので、予備の分をせっせこ創り始める俺だった。
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