80話 給仕服という名のメイド服
正直に言おう。
俺はこのダンジョン探索において、すっかり緊張感を失っていた。
というのも、リリィさんの狙撃と俺の『
:『奴隷人の首輪』を入手しました:
:『巨人族章』を入手しました:
:『
:『黒の
なので、俺は採取に勤しんでいた。
現在、俺達は隠された都市ヨールンをどんどん突き進み、当初よりも格段に家の規模は小さくなった区域に足を踏み入れている。
その中でも一際豪奢な家の中を散策中なのであるが……興味深い素材や装備がザクザク出てくる。
手に入れたアイテム類を素早くアビリティ『鑑定眼』で、解明していく。
『奴隷人の首輪』
【
装備必要ステータス なし
防御+7
とくに変わり映えのないチョーカーみたいなアクセサリだった。守備力がわずかながらに上昇するという事で、すぐに装備しておくことにする。
「タロちゃん? その首輪みたいのなにー? なんだか、タロちゃんがそーいうのを着けちゃうとアタシ……ロリィタ服を着せたくなっちゃう!」
隣でハァハァと怪しい吐息を吹きかけてくるゆらちーの事は、とりあえず愛想笑いを返してスルー。彼女の不可思議な態度を気にするよりも、この首輪が元は奴隷人の所有品だった事と、家の規格が小さくなった点を踏まえ、俺達がいるエリアは人間達が生活していた場所なのだろうと、結論付けておくのが重要案件だろう。
次に見つけた『巨人族章』はお馴染み、素早さと引き換えに力と防御を格段に上げるアクセサリにもなるし『
そして、今回の大きな目玉であるうちの一つはこれだ。
『
【
最初にこの素材を発見した時、1メートル50センチ程の岩がどうして屋内に、デンッと置かれているのか不思議でならなかった。色は白と灰の中間で、美しくもなければ汚くもなく、家のインテリアとしては不自然だし、なんだろうと触れてみれば採取対象となる素材だったのだ。
「
彼らの故郷? である
そして最後はこれだ。
『黒の
【
これは間違いなく、一級品の素材だろう。見た目はただの鉱物そのものだし、鼻クソっていうのはイメージが悪いかもしれないけど、鉱石としての堅固さは『鑑定眼』で折り紙付きだ。
しかも、『
これも大発見だと思う。
「おいおい、タロ。あまり油断しすぎるなよ」
「タロの場合は興奮しすぎないで、の間違いじゃない?」
「そうでありんすね……建物が小さくなった分、巨人の
窓の外を眺めるアンノウンさんがほぅっと息を吐く。
彼女の言う通り、外でうろつく巨人ゾンビの方が家々の大きさよりも勝っているのだ。つまるところ、どこかで戦闘が勃発した場合、近隣を
この区域に侵入した際、一度に三体も『
「あのクラゲさんも気になります」
「そうだねー。あの
『
奴らは人魂よりも強い光を放ち、ここらの建物が小さくなってしまったため、その光は遮られることなく巨人たちに降り注がれている。
「小官の私見ではありますが、あの人魂のような物体を生産しているように思えます」
「同時に巨人ゾンビが動くようになる光も、放ち続けていると推測した方がいいかな」
確かにユウジことRF4-youと、
そして、これが最も着眼すべき所なのかもしれないが、ここで動いている巨人ゾンビには『
そういった面も考慮すると、前エリアよりも難易度が上がっていると言えよう。
「また『
「すみません! 南無南無!」
屋敷の二階へと上がった俺達を出迎えてくれたのは、白骨系のアンデッドモンスター『
アンノウンさんやミナ、ゆらちーやリリィさん、
「あら? ここの少し広そうな部屋、何かありそうですわ」
リリィさんが開けっぱなしの扉を指差したかと思えば、
「ちょっと、リリィさん!」
制止するのが間に合わず、
「どうせ、建物内はザコばかりだしな」
「まぁ大丈夫そうかな?」
「こんな小さな家の造りに、巨人ゾンビが寝ているなんてことはないだろうし」
そんな事を口に出していきながら、俺達はリリィさんの後を追っていく。
「みなさま、ここに装備を発見しましたわ」
すると、リリィさんは室内にあった木製のクローゼットを開け、その内部にある洋服を指し示す。
「お、本当か?」
「誰がもらう?」
「見つけたのがリリィさんだし、リリィさんかな?」
こぞってクローゼットへ群がる俺達。
「心配ありませんわ。全員分の数が揃っているようです」
見れば、少し古風な女性向けの給仕服が6着と、シンプルな執事服4着がハンガーにかけられていた。
「ふむ。種類から判断するに、やっぱりここは使用人を雇うだけの高貴な奴隷人の邸宅だったのか」
「え! これってメイド服ってやつだよね!?」
俺の分析はどうでもいいようで、ゆらちーが興奮した様子でメイド服を手に取った。喜色満面な彼女を見て、少しだけ嫌な予感がよぎる。
「着てみようよっ!? ね、ねっ?」
そういえば彼女はロリィタ服が好きだったな。メイド服もそれに準ずる共通点があったのか?
よく分からないけど、俺は関係ない。
そろそろと後方へと下がって行く。
「はらはら。同じ服を編み出す裁縫職人として、この都市の装備は気になるでありんすね」
熱心にメイド服を見つめるアンノウンさん。
「ま、まぁ? 私が見つけた装備ですし?」
ツーンと高飛車な態度のリリィさんだけど、しっかりとその目線はゆらちーの手に収められたメイド服へと注がれている。
「私も着てみたいです。ステータスも気になりますね、天士さま?」
そこで俺に振るのか、ミナよ。
いや、ミナが悪いわけじゃないんだけどね!?
「いや、俺は気になら「じゃあ、決まりー! 男子はほら、こっちの執事服を持ってって! 隣の部屋に行って着てきなさいっ! あたしたちはココね!」
ゆらちーがユウやコウに反対意見を出させる前に、まくしたてた。
男子と女子で、境界線はココー! と表現するように右手で線を引く動作まで何回もしている。
「え、いや。ここで二手に分かれるのって危なくない?」
「ユウ。あんたは女子の着替えを覗きたいの?」
「いや、だって一瞬で装備は変更できるし……」
「あーもう! わかってないわね! こーいうのは空気が大事なのっ! ほらどうせすぐ隣の部屋だし、何かあったら対応できるから、さっさと行った行ったー♪」
なぜ、こうもテンションが上がっているのだろうか。
よくよく観察すれば、アンノウンさんもリリィさんも、ミナまでうずうずしているような気がしなくもない。
しかも、何故か女子勢の
俺はゆらちーへと押される男性陣に紛れこんで、部屋を出ようとする。
「さーって、タロちゃんはこっちだよー?」
ニコって笑いながら俺の手を掴んだゆらちーは、姉と俺のロリィタ服を嬉々として選んでいた時と同じ顔をしていた。
「ひぃっ」
◇◆◇◆
あとがき
新作、始めました!
『どうして俺が推しのお世話をしてるんだ? え、スキル【もふもふ】と【飯テロ】のせい? ~推しと名無しのダンジョン配信~』
お読みいただけたら嬉しいです。
◇◆◇◆
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます