79話 悪食
「で、その金髪ツインテ娘はどうするんだ?」
彼女は
「キルするしかないでしょッ。
静かに炎を灯した、紅く美しい『
「同意でありんす。そも、この童女はいかにしてここにいるのか、げにあやしき」
アンノウンさんもどうやらその意見に賛成らしい。
彼女に握られた
「賊魔リリィさん……悪いけど、こういう
パーティーリーダーらしい道理の適った意見を述べ、
「わたしは、その……危ない人はキルしておくべきだと思います。ですけど、天士さまの意見も聞きたいです」
ミナもミナで言葉を選んではくれているものの、手に持つメイスに揺らぎは見られない。
「
各々が緊迫する空気を出すなか、唯一、軍人かぶれの口調で語る小柄な美少年が下卑た笑みを浮かべていた。ユウジことRF4-youがいう『懲罰』とやらの内容が一体、何を示しているのか。美少女好きのユウジの事だから、
「ちょっと待ってよ、みんな。リリィさんはさっき、俺達を助けてくれたんだし、そんなに目の敵にしなくてもいいと思う」
「だけど、タロ……彼女の評判が、これまで彼女が取ってきた行動が、油断を許しはしないんだ」
この一触即発な状況を作った張本人である
「……」
リリィさんはといえば、終始無言を貫き通している。
彼女が示す態度は、こちらが何かするのであれば即応戦。
「でも、もしリリィさんがこっそり俺達の後をついてきていたとして……不意打ちを狙っていたのに、わざわざ助太刀までして姿を現してくれるかな」
みんなはきっと、リリィさんがここにいる事に大きな疑問と不信感を抱いているんだろうな。
恐らく、地下都市ヨールンに入れたのは俺達だけに違いないのだから。
「うーん……タロちゃんがそう思う気持ちもわかるんだけどね?」
「大方、ここのダンジョン内で不測の事態が起こった時、1人で対処できないと判断し、ボクたちと協力関係を申し出るチャンスをこっそりと
「風の噂では、その協力関係が
つまりは裏切る、という事だろうか。
「そういうことだよ、タロ」
ゆらちーや
俺と
せっかく、『
「でも……俺は、リリィさんを信じたい。一度は一緒に戦ったわけだし」
「タロ。ミケランジェロのみんなと協力して戦った前と、今では状況が違うんだよ。ここで彼女が裏切っても、タイミングによっては誰も咎める者もいなければ、取り返しのつかない場合になることだってある」
彼女の人格が信用できないのなら……。
「じゃあ……リリィさんの、弓の腕は信用できる」
こんな言い方じゃ、リリィさんには悪いけど。
今、このダンジョンで力強い攻撃手段を持っているリリィさんがパーティーに加わることはマイナス面だけではなく、大きな利点もあると
「彼女の弓があれば、簡単に『
「だけど……」
常時爽やかイケメンな
親友が折れそうな雰囲気をかすかに感じ取り、あともう一歩だと確信する。
何か、他に説得できる材料はないのか。
俺が必死にみんなを納得させられる言葉を探していると、不意に
「おい、まずいぞ! 『飛翔脚』!」
何事かとみんなが晃夜へと視線を集中させるが、注意を喚起した本人はといえば、既に
リリィさんへの対応に熱中していたため、扉をあけっぱなしにしていた事に失念していた。
街の外へと繋がる
一早く緊急事態に気付き、すぐに行動を起こした
やはり空中戦では分が悪かったのか、ふらふらと不規則な動きはまさに人魂らしく、
飛んだ勢いで石の扉にぶつかりそうになった親友は、空中で宙返りを成功させ、ついでに扉を蹴りつけて、体操選手ばりの動きを見せながら地面へと着地する。
あの重厚な扉を、外からこうも簡単に押し開ける存在なんて一つしかいない。
「外に『
「入ってきたニ匹の人魂のせいでっ! 動かなくなった巨人ゾンビの死体がっ」
俺の予測の後に、ゆらちーの悲鳴が上がる。
青白い光と共に――ズシリと、何か巨大な者が再び立ち上がろうとする不快な音が鳴り響く。
「まずい……」
外から一体、中で一体。合計、二体の『
そんな、静止しそうになっていた俺達の思考を素早く取り戻してくれたのが――。
「『アリスの黒弓』固有アビリティ、『黒
リリィさんの力強い声だった。
彼女は上空にさっと弓矢の照準を右に左へと向け、何かのアビリティ名を口にした直後に弓を引き絞った。
「『絡め取る
そして、矢を同時に二本放ったのだ。
そのターゲットは、もちろん『
だが、一匹だけは当たり所がよかったのか、弱々しい光を明滅させながらもフラフラと漂い続けた。
「また、人魂が、入ってくるよ!」
既に目を覚ました『
「天使、
扉から更に入りこもうとする『
なんだか、さっきまでキルするか、されるかで
流れとはいえ、こうやって背中を合わせて戦ってくれるリリィさんの姿勢が嬉しくて、俺は笑顔を交わす。
「任せて、リリィさん……フゥ!」
『
弱った『
「よし! いい子だぞフゥ!」
「んふふふ~フゥ♪」
俺達が人魂を倒したと同時に、入りこもうとしていた一匹の『
彼女は不敵な笑みを、相変わらずこちらに向けていた。
「少しは
室内に青白い光が消え、それに伴って崩れ落ちた『
その背後、開かれた扉から複数の『
――――
――――
「次から次へと、しつこいですわよ」
懸命に外から入りこんでくる『
彼女のおかげで、一気に建物内へと人魂が大量に入りこむことは防げているけど、常に二匹から四匹ぐらいの数が、俺達の頭上を旋回してしまっている。
「ここから逃げ出すしかないよ!」
「わかってるけどさッ扉の前にいる、もう一体の巨人ゾンビが、あそこから動く気配がないって」
タンク役の夕輝を中心に、ゆらちー、
「建物から出ようとすると、邪魔するでありんすね」
「外の人魂まで攻撃されるのを警戒してるのか!?」
俺はと言えば、屋内に入った『
同時に、みんなへのポーションによる回復も怠っていない。
「あそこで、もう一匹の巨人ゾンビが出入り口にのさばっている限り、ずっと人魂が入ってくる感じか!」
「で、こっちがジリ貧になって、建物の中で戦う巨人ゾンビに潰されるのを待ってると」
「卑怯です」
理にかなった敵の戦術にミナは不満をもらしつつも、室内で飛び回る『
俺はその攻撃から難を逃れたとはいえ、体勢を大きく崩した人魂に狙いを定め、小太刀をふるう。
「どうにかッ、あいつらッ
「さっき『
無念そうに、
「もう、何でもいいから、どうにかしないと! もたない」
……状態異常?
……暴走。
何でもいい?
本当にソレでいいのなら、試すしかない。
一つの考えが脳内で閃いた。
「ユウ! どうなるか保証なんてできないけど、一つ方法がある!」
「どのみち全滅だよ! タロ、何でもいい!」
「任せたぞ、錬金術士どの!」
「おまえら、こういう時だけ調子いいな!」
下で踏ん張る旧友たちへと叫びながらも、俺はリリィさんの隣へと着地する。
「天使、何をなさっているのですか!
「説明している時間が、ありません!」
俺は素早く左手で『
選んだ色は、コムギ村に突如として発生したスライムの亜種、『タフ・スライム』から採れた『
「
平原での『ビック・スライム』との戦闘で『
だが、踏み切った俺は押し通すしかない。
「わからないけど、やってみるしか」
そう言って、彼女の矢に『
「これは、なんですの?」
「撃ってください。『
彼女の質問に俺は答えず、お願いをした。
今は時間がない。
リリィさんは一瞬だけ俺を見つめ――。
その矢を、出口を塞ぐ巨人ゾンビへと放った。
「グ、グモ?」
ストンと、見事に頭に突き刺さった矢。それにわずかな反応を見せる『
まだ一本だけじゃ『
もう一度、俺は『
「……わたしの弓の腕を信じてくれた
そう言いながら二本目の矢を、巨人ゾンビの顔へとリリィさんは的中させた。
「グ、ゴ、ゴ……」
直後、『
「ん?」
「グゴォォオ」
そして何かを探し求めるように出口から離れ、外へと突然出ていってしまった。
「え……?」
「何が起きたんですの?」
いや、俺に聞かれてもわかりません。
ただ、腹が減るようにしむけただけなのですが。
そう空腹。
……ん?
食欲?
そこで、俺は『浅き夢見し墓場』で出会った幽霊、かつて『
『巨人って人間を食べたりしないの?』という俺の質問に、彼はこう答えた。
『彼らは人間を食べて、しばらくすると痙攣をおこし、脳に障害を残してしまうそうなんだ。食した量にもよるけど、症状が酷い者は死に至ることもあった』
つまり、お腹が減った状態で人間を見ることは本能的な恐怖を呼び起こし、同時に飢えによる食べ物を探しにいきたい欲求に駆られ、さっきの『
なるほどね!
さすがは錬金術だ。
「
まじまじと見つめてくるリリィさんに、俺はドヤ顔で誇る。
「信じて。俺もリリィさんの狙撃を信じますから」
俺の色とリリィさんの弓の腕前あってこそ、こんなにすんなりと巨人を退かせる事ができたのだ。
こうして、
巨人ゾンビがいなくなれば、残った『
もちろん、しっかりと【写真】を撮っておき『
――――
――――
「嬉しいですわ!」
「やったね、リリィさん!」
思わず、彼女と歓喜のあまりにハイタッチをしてしまう。
ニコっとリリィさんに笑いかけると、彼女も笑い返してくれ――すぐにハッと何かに気付いたように、俺から離れた。
「こ、こ、これは違いますわ!
彼女は不機嫌な顔へと変貌し、何故か顔を朱に染めてぶっきらぼうな口調で俺にそんな言葉をぶつけてきた。
お、おう……。
俺としては彼女の評判はともかく、美少女とはなるべく仲良くしたいなと思っているのだけど……男子として、なんだか残念。
ほんのちょっぴり肩を落としてしまう。
すると、リリィさんが『いえ、その今のは、つ、ついですね……』なんて慌てふためき始めた。コロコロと表情が目まぐるしく変わる彼女の内心が読めず、俺が疑問の念を抱いていると、ゆらちーが『あんた、素直じゃないんだねー!』なんて朗らかな声でリリィさんをどついた。
それを見ていた
「こうなったら、彼女がパーティーに入るのは仕方ないかな?」
「早い話、毒を食らわば皿まで、か」
「いや、悪い事してないでしょ、ボク達」
そこに
すると、
「いや、今回は言葉通りの意味だ」
なぜか、鬼畜イケメンは俺を見て、次にリリィさんに視線を移した後に
「俺達、美少女って『毒』に、ここ最近、振り回されっぱなしじゃないか?」
「あぁ……確かに?」
そんな
あいつら微妙に俺の少女キャラをいじってるな?
「そういう事だ。どうせ食らってしまった『毒』なら、とことん食らって、最後までお付き合いしましょうかね」
「そうだね。どうせ、タロは今回もマイペースにリリィさんを仲間にするしね」
「しかも、危うい美人さんときたもんだ」
まいったまいったというジェスチャー付きで、二人は楽しそうに会話を続けていく。
「美人には毒があるね……」
「そういうこった」
そんな二人だけの世界に入る
「ねぇ。さっきから気になったんだけどー、あたし達は!?」
ゆらちーが自分とミナを指差し、抗議の声を発した。
本気でうろたえる親友たちの顔が見物だった。
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