61話 お買いもの



「ふぁ……ァ」


 だらしなく間延びした俺の声。

 だが、不思議と可愛らしく響くのだから、不自然だなと思いつつも俺は眠気を追い払うようにあくびをした。

 夏の日差しは強く、レースカーテンの白い輝きが目に眩しい。


 昨夜のことをボンヤリと思い出しながら、俺は自室にある木製の椅子に寄りかかるのをやめて、疲弊を吹き飛ばすつもりで伸びをする。

 

 カミングアウトをしてからの昨晩、精神負荷が多大にかかるイベントが盛り沢山だった。姉弟水いらずといった言葉に押し切られた俺は姉のなすがままだった。そんな自分の無力さを悟るに至らしめたイベントとは……。



 おもに、何年ぶりになるであろう姉との入浴だった。



「太郎、お風呂に入るわよ」


「先どうぞ」


「何言ってるの。太郎も一緒に入るのよ」


「はい?」


 何の前触れもなく姉がこんな言葉を口に出したとき、俺は驚愕してしまった。

 一瞬、姉の正気を疑ったのは言うまでもない。十六歳の弟と十九になる姉が仲良くお風呂に入るとか、どんなブラコンシスコンだ。

 

 だが、姉は真剣な目をしてこう言ったのだ。


「そんな長い髪の毛をきっちりとまんべんなく洗い流すやり方、わかるの? 適当はダメ。それにケアの仕方も、リンスだって部分部分で軽く握るように……て、あぁそうだったわね、うちで使ってるシリーズは……それに、トリートメントは時間をおいて……あぁ、一番大事なのは乾かし方ね。それに、そうだわ、身体の洗い方、特に局部はデリケートだからせっけんで洗っちゃダメ」


 美容に関する呪文をつらつらと唱える姉は、一通りお風呂での作法を言い終えると、厳粛な表情で質問をしてきた。


「聞いただけでわかる? できるな? 一度はこの姉に重大な事を伏せて、めんどうを煩わせたのに、太郎は二度三度わたしに手間をかけさせる程の愚弟じゃないわよね?」


 ……。

 まくしたてる姉に対して、俺に反論の余地は残されていなかった。



「……できません」


 聞いただけで、姉の合格点を引き出せる自信も俺にはなかった。



 姉曰く。


「太郎……お前も年頃だから、身だしなみを整えるのがいかに重要かわかってきた頃だと思う」


 姉の一言で、俺はウン告白をかましてしまった相手、茜ちゃんを思い出す。彼女の好みを聞き出し、短髪にしてワックスを盛っては、凡庸な顔にマッチするように整えていた俺。自分の最高峰を引き出す無難な髪型をセットすることがいかに重要かは理解しているつもりだ。



「例えばの話だ。お前も妹であるミシェルが年頃になったのに、身だしなみをおろそかにしていたら、人生の先輩である兄として、少なからず指導をするだろう?」


 人差しをピンと立て、姉は力説する。


「それが、私にとっては今なのよ」


 なんとなく言いたい事はわかった。


「太郎は前より髪の毛が長くなっている」

「じゃあ切れば――」


 俺の発言に、姉は押しきるように言葉をかぶせてくる。


「毛質も以前より私に近くなっている以上、髪の毛の手入れは私の指導通りにしてもらう」



 腑に落ちない点はいくつもある。

 だけど、姉はなんだかんだ言って、言葉を選んでくれている。

 その証拠にさっきから、女性という単語を一切だしてこない。

 女子のような髪、毛質、体質。


 これは、俺が弟であると言外に示してくれているのだろう。どうしても、現実を受け入れ切れない、俺への感傷にも似たモノへの配慮。



「だから、決まりよ」


 だが、この時の姉の顔を見て俺は思った。

 妙に嬉しそうなのは勘違いですかね。




 こんな流れで、約8年ぶりに姉とお風呂に入ることになったわけなのだけど。



 もちろん姉はタオルを巻いて身体を隠していたが、思春期真っ只中の男としては緊張せざるを得ない。しかも、姉は一部の連中に抜群のプロポーションともてはやされている身だ。家族といえど、その魅力を感じないわけではない。



 しかも。しかもだ。

 姉は自分は身体を隠しているのに、俺には全てを見せてみろと命令までしてきたのだ。想像してくれ。十六歳の男子高校生である俺が自分のハダカを、実の姉に見せるとか、恥ずか死ぬ以外に沸きおこる感情があるだろうか。いや、ない。


「医者たちはああ言っているが、何か異常がないかしっかりと確認しなければ、納得できないわ」


 もっともな意見にぐぅの音も出ず、心配をかけた負い目もあり断われなかった俺は、食いつくように俺の全身を眺め続ける姉の視線に耐えた。



「くぴぃっ!」

「ふぅん。実際に触ってみたけど、特に異常はないようね。まったく不思議だ」


 どこに触ったとか、何をされたとかはもう忘却の彼方に捨て去ったさ!

 

 あぁ、そうとも! 

 姉弟であんなのは夢幻の類さ!







 それからというもの、姉はそれはもうご満悦そうに頬を緩めながら常時、頼んでもいないのに俺の世話を喜んでしてくれた。


 こんなに甲斐甲斐しかったか? と疑念を抱きそうになったが、外面は厳格な姉なのだけど、時折おれミシェルには甘々な態度を見せる節があるため、こんなものかもしれないと納得して、昨夜は眠りについた。


「朝ご飯、美味しかったなぁ……姉の料理スキルはいと高し」


 そしてモーニングは姉作のスクランブルエッグと、チーズトーストだった。

 

 一見、調理ともいえない類のものだが、姉のスクランブルエッグは味付けが絶妙に美味しいのだ。さらにふわふわで、ソレはもうどこへ嫁に出しても誇れるレベル。チーズトーストにしたって、一工夫されている。まずは牛乳とコーンスープの素を混ぜ合わせ、それにとろけるチーズを加え、仕上げに軽くブラックペッパーをスパイスとしてチョイス。そして、食パンに薄くばってん印の切り込みを入れ、ペロリとフタ部分を持ちあげて、できた空間にチーズを流し込みトーストするのだ。いわゆるチーズフォンデュトーストってやつだ。

 スクランブルエッグのお皿に添えられた、各種野菜をチーズにつけて食べるのもよし。ほっかりサクサクの食パンの中に閉じ込められた、とろ~りチーズを豪快にほうばるも良し。



 故に食後だからだろうか。

 これから買い物に行く予定なのだけど、俺は非常に眠かった。


 室内はクーラーを利かせているため、丁度よい温度のはずだが逆にこれがいけないのかもしれない。外気温の高さからなのか、ぽかぽかとしてきて眠気を誘うのだ。


 もう少し、クーラーの温度を下げた方がいいかもしれない。

 そう思い立ち、リモコンに手を伸ばしかけたところで、俺の腕は動きを止めた。その理由は雪のようにシミ一つない純白な自身の細腕が目についたからだ。


「なんで肩口がこんなに短いんだ……」



 そう、俺は今。

 姉に言われるがままに、妹のミシェルが着ていた寝着に身を包んでいた。

 白を基調とした丈の短い薄手のワンピース型。


 もう一度言おう。

 丈の短い薄手のワンピース型だ。


 つまりはスカート。

 


 これも先の姉の思いやりのある、ありがたい言葉の結果なのだ。

 身だしなみのうちに入ると言う事で着せられている。


 やはり、女性物の服は未だに着ていて落ち着かない。


 いや、まぁ昨夜から着用しているわけだし、それほど違和感を抱いているわけではない。むしろ、寝っ転がった感じ、下半身がひらひらとしているのはソレはそれで寝やすかったり……断じて馴染んでいるわけではない!


 どこの兄に、妹のパジャマなワンピースを着てほんわかしている奴がいるだろうか。いや、いない。


 ただ、思っていたよりも抵抗を感じないのは、クラン・クランという仮想世界で一応は女性物のドレスを身にまとっていたという経験が、活きているのかもしれない。

 まさかミソラさんからもらったドレスを着用して、味わった女装が心の準備に役立つとは予想外だ。


 色々な意味であのゲームは、気構えというものを備えさせてくれる。



「でもなぁ……」


 それでもやはり、今まで着なれていた男物のデザインと細部の違いが、どうしても目についてしまい、ふとした時にゲンナリしてしまう。


わきがスースーする」


 涼しいからいいんだけどね。


 そんな意味のない自問自答を繰り返していると、姉の俺を呼ぶ声がダイニングから響いてきたのだった。






「あっついよー」

「暑いわね」


 俺と姉はバスで最寄りの駅まで行き、さらに歩いて数分。駅近くの大型ショッピングモールの入り口へと辿り着いた。


 昨日の姉宣言どおり、俺の女子服を購入しにきたのだ。

 ただでさえあまり気の進まないショッピングなのに、蒸した熱気と照りつける日差しのおかげで、俺のやる気メーターはぐーんと急降下していた。


「ほら、太郎いくわよ」


 げんなりなおれの気持ちも知らず、姉は俺の右手を握って、キビキビとした動きで自動ドアをくぐりぬける。


 一瞬、モール内のクーラーが発生させる冷気が頬を吹きつけ、ぐったりとした倦怠感を少しばかり緩和させてくれる。


「まずは下着だ。いつまでもトランクスなんてボッタリとした物をつけてるのは良くないわ」


「え!?」


「なんだ、まさかミシェルのお下がりでもはく予定だったのか?」


 いや、兄が妹のパンツをはくとかどこのヘンタイですか。


「姉、俺はトランクスでいいって。滅多にヒトに見られる箇所でもないしさ」

「太郎。私やミシェルがはいているあの形状には理由があるんだ。デリケートな部分なんだぞ」


 有無を言わさぬ姉は、俺を半ば引きずって行くように下着コーナーへと誘った。



――――

――――


「そういえば、太郎の身体は正確には今何歳児ぐらいなのだろうか?」


 お風呂で触った感じだと……なんてブツブツと言っている姉は子供用のクマさんパンツみたいなものを拝見するのに夢中になっている。その口から出てくる単語に俺は恥ずかしくなり、隅っこへと素早く移動する。


「こ、これは……」


 しかし、それが逆にまずかった。

 姉から意識を外した俺の両目には、否が応でも薄いシルクの様々な色をした下着の楽園が入ってくる。


「し、刺激がつよ、眩しい……」


 青少年に、この光景はマズイ。

 淡いピンク色、スカイブルー、エメラルドグリーン、まっさらなピュアホワイト。決して男子高校生がじっくりと、間近で見てはいけない空間がそこには広がっていた。


 無意識のうちに俺はゴクリと唾を飲み込んでしまう。

 

 気付けば、俺は純白のパンツを手に取り眺めていた。


 だが、俺の胸中に広がるのは予想していた興奮ではなく、なぜか動揺だった。

 いや、疑念かもしれない。



 ……こんなに面積が小さく、薄い生地で、なおかつピッタリとフィットしそうなモノ、恥ずかしくてはけるはずがない!

 心許こころもとな過ぎる! デリケートな部分を覆うのであればもっと堅固な作りにすべきだろう!

 世の女性たちはこんなにも頼りない布一枚を付け、下手をしたら透けて内部が見えてしまいそうなモノを、よくもまぁヒラヒラと翻るスカートの中に着て堂々と歩けるモノだ。



「お客様でしたら、こちらのサイズの方がよろしいかと」

「はひぃっ!」


 唐突に背後からかけられた店員さんの声に、俺の裏返った声が店内に響く。

 それに気付いた姉がツカツカと歩み寄ってきて、面白そうな笑みを口元に浮かべている。


「なんだ、太郎はそっちの大人っぽいデザインの方が好みなのか?」

「やめれ……」






 結局、姉おすすめのクマさんパンツを2枚、スポーツブラとセットのスパッツ形状の下着を二枚。大人下着を1枚、合計5枚も購入した。


 ブラに関するサイズ合わせの記憶は恥ずか死ぬので、記憶から抹消しておいた。


「さて、次はいよいよ本命のお洋服の時間だわ」


 妙に目が輝いている姉は、モールに来てからやる気がうなぎ昇りだった。それに反比例するように、俺のテンションはどんどん下がって行く。

 

 というか、この姉といると余計に気疲れをしてしまう。

 その要因は、チラチラとこちらに視線を向けてくる他の買い物客たちの存在だ。

 

 おそらく日本では珍しい銀髪少女な俺の外見のせいでもあるけど、それよりも姉に原因があると思った。


 スラリと伸びた足は、美しい曲線美を描いており、腰は非常に高い位置にある。全体的にスリムに見えるのは高身長のおかげだろうけど、出るところは見事に出ており、引っ込むところはキュっと絞られている。背筋がピンと伸び、見る人に爽やかな印象を与える半面、抜群の双丘が強烈に主張している。

 そして艶やかなにこぼれ落ちる漆黒の髪、十人中八人以上が二度見をする程の美貌。


 そんな美人な姉と、日本では珍しい見た目の俺が手をつないでいれば、目立たないわけがなかった。


 しかも時々、女子高生っぽい子たちがキャッキャと姉の下へと集まり、サインをせがんでいるのには驚きだった。


「シンキさんの、おともだちですかぁー?」

「この子もかわいいっ!」

「外人ちゃんだー」


 などと、俺の頭をなでりこしてきては、姉に黄色い声を上げながらマシンガンのように質問をあびせる女子集団が多い事、多い事。

 その全てに姉は爽やかな笑みでこたえ、無難な返答で見事にさばいていくのだった。


「わたしの親族だよ。あまり詮索しないでくれると嬉しいな」



 姉は高校生の頃から、そのルックスの高さを評価されて『シンキ』という名で何かのモデル業をしていた。姉の好きな四文字熟語が『新進気鋭』ということで、そこから取ったなどと適当な事を言っていたっけ。姉の仕事に関してさほど興味を持っていなかったから、詳しく聞いたことはない。だが、確か地方ファッション雑誌の表紙をたまに飾るぐらいの人物だった気がする。


 というか最近なんかのCMにも出ていたから、ちょこっと芸能人的なポジションなのか?


 よくわからないけれど、なんだか姉の事を自分があまり知らない事に、居心地の悪い気持ちにもなった。


 なんというか、その。悔しい。



 更にその後、女性だけでなく成人を超えたであろう男性や中年、お婆さんなどにも声をかけられていた。


「あ、ね……」


 姉、もう行こうよ。

 のどまで出かかった苛立ちと焦燥の入り混じった言葉を、俺はすんでのところで消した。


 姉がにこやかな笑顔をふりまき、誰に対しても等しく、凛々しい応対をしている姿を見て。仕事モードの姉を目にして、邪魔をするのは良くないとわかったから。



 こんな気持ちを姉に抱くのはずいぶん久しぶりで、モヤモヤしている自分に思わず呆れる。

でも、なんだか姉との距離が遠くなったような錯覚に陥ってしまう。


 そんな事もあってか、俺の胸の奥では何か鉛のようなしこりがくすぶっていた。



「太郎。お洋服の前に、何か食べるか。アイスとか」


 そんな俺を気遣うように、寄ってくる人々が散ってようやく落ち着いた頃に姉は提案してきた。

 

「うん……」


 別にお腹はまだ減ってはいなかったけれど、どこかに座って少しゆっくりしたかった俺は了承した。この喉につかえたような微妙な感情をヒンヤリとした清涼感たっぷりのアイスで流してしまおう。

 フードコートについた俺達は、二人でアイス屋さんに並ぶ。


 空調が利いているから暑いわけではないけれど、少し喉も乾いていたのでアイスを口に入れる瞬間を思い浮かべると、自然とつばが舌を湿らせる。


「姉、何にする?」


 おれはカウンターの上にあるメニュー表を指さし、姉に尋ねる。


「どちらも太郎の好きなものでいいぞ。食べ比べして、一緒に分け合おう」

「ありがと」


 姉のイケメンな台詞に、ここは素直に甘えておく。

 どっちも俺が好きなのを選んでいいのか!

 

 いちごみるく味もいいけど、宇治抹茶オレンジも捨てがたい。ん、アップル・ア・ラ・モード味とか気になるな。む、チョコレートチップチーズケーキだと!?


 気になる。どれにしようか迷う。

 実を言えば、俺は甘いモノが好きだった。

 だが、前はこんな可愛らしいものを堂々と買う勇気がなかったけど、今のこの姿なら、自然と選べる。というか、こんなアイス屋に並ぶ事すら躊躇われたのに、今の俺ならなんら不自然なことはない。そういった面で、初めてこの姿になったことに感謝を抱いた瞬間かもしれなかった。


 そこではたと気付く。

 姉とアイスを分けっことか女子か!


 断じてならん。

 いや、どうせなら二種類のアイスを味わいたいという欲望が、俺のプライドを容赦なく潰しにかかってくる。が、ここは負けられない。


「姉、やっぱり姉は姉の好きなアイスを選んでよ。分け合うとか、なんだか恥ずかしいしさ」


 勝ったのだ。

 俺は勝利者だ。

 欲望よりも誇りを選んだのだ。


 だが、なぜだろう。

 むなしい気持ちで胸がいっぱいだ。まるで、目の前にようやく待ち望んだ好物を発見できたのに、首輪を付けられ身動きが取れず、食べ物にありつけない哀れな獣のような寂寥感。


「太郎。ダブルとトリプル、どっちがいいんだ?」

「だぶる……? とりぷる……?」


「そうだ。ダブルはアイスを二つ乗せ、トリプルはアイスを三つのせられる」


 なんと、姉は女神だろうか。

 このタイミングで、俺の望む言葉を吐いてくるとは。


「トリプルで!」


 思わずテンションが上がってしまい、ちょっと大きな声を出してしまった。前に並んでいた女の子が振り返って、こちらをチラ見、さらに二度見、三度見してくるが気にしないでメニューに食い入る。


 やはり、やはり。

 まずは、シンプルに一番上が甘く濃厚なストロベリーチーズケーキだろう。

そこからギャップの激しい、爽やな柑橘系で決めるオレンジサワー味を口内で転がそう。

 そして締めは、ワビサビを極めし日本男児としては当然の選択にして大本命。コクの深い味わいをもたらす宇治抹茶ミルクで決定だ。



「やっぱり……タロちゃん?」


 満足のいくアイスパーフェクトプランが完成し、思わず目をつむって食べる瞬間を思い浮かべていた俺に、前で順番待ちをしていた女子が唐突に俺の名を、いやクラン・クラン内でのキャラ名を発した。


「は?」


 俺は目を開けて、前を見る。

 

「うっそ……まじモノのタロちゃんだ」

「リアルモジュールって、わかってはいたけど……」


 女子高生が二人いた。

 彼女たちはまじまじと俺を見つめてくる。

 だから、俺も、多分口がポカーンってあいちゃってるけど、二人を凝視する。

 

 快活そうな猫目にボブカット、うっすらと日焼け痕のある健康的な女子が一人。セミロングのふんわりとか、おっとりと言った感じの女子が一人。

 そのうちの一人は妙に見覚えがあり、あれだった。


 活発そうな女の子の方だ。


 彼女はグレン君のリアル妹にして、錬金術スキルなんて使えないと最初は俺を無碍にした、今ではよくフレンドチャットでやり取りする、ゆらちーとそっくりだった。


「うちのバカ兄が見たら、失神しかねないわね」

「現実で……こっちで見るとまた一段と……」


 二人はほぅっと溜息を吐き、頬を紅潮させた。


「かわいい!」

「うん、かわいいー」


 そしてズイッと距離を縮めてくる。


「タロちゃん! ゆらちーだよ!」

「ゲームのキャラとは見た目が違うけど、わたしはシズクだよ」


 前で並んでいた女子たちは、自身を指さしてそう自己紹介をした。


「「(あ)わたしたち、オフ会ってやつをしてたの!」」



 夕輝ゆうき晃夜こうやと同じ傭兵団クラン、『百騎夜行』に所属し、俺にとってもフレンドである二人が目の前にいたのだった。




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