33話 金の成る実、金のかかる実。


 結局、染色の素材となる『スケルトンダークグレイ』を見つけることができなかった俺たちは、先駆都市ミケランジェロに帰還し、今日のところは解散しようってことになった。


「タロ氏、ミナ氏、フレンドになれて嬉しいでありんすよ。また会はむあわん


 アンノウンさんは街に着くと喋り方を素から、キャラとして演じているアンノウンさんに戻し、別れの挨拶を交わしてきた。


「またです、アンノウンさん」

「またです、アンノウンさん」


 ミナがエコーのように俺の台詞へと続く。



 その後、俺は『浅き夢見し墓場』で新しく採取できた四種の新素材を、じっくりと検証すべく輝剣屋☆スキルジョージへと赴く。


「私もいきます」


 ミナは当然の如く、俺に追従してくる。

 今回の店番はジョージが雇ったであろう、NPCの女性だった。


 オカマは、いないのか。

 別に何か物足りなさを感じているわけではないが。なんとなく、あのショッキングピンクアイシャドウなオカマがこの店にいないと、ソワソワしてしまう。


「とにかく、新たな素材を見ていきますかね……」

「錬金術、がんばってください」


 『白い骨』×16。

 『巨骨』×2。

 『追跡者の頭蓋』×1。

 『巨人族章』×1。


 『白い骨』に関しては『浅き夢見し墓場』の探索中に詳細を調べてある。

 となると、まずは『巨骨』からだ。

 

 アビリティ『鑑定眼』を発動しながら各素材の説明欄をつぶさに読んでいく。


『巨骨』

【栄光ある巨人族の遺骨。長きに渡って彷徨い続けたため、頑強さ、特に熱に対する耐性が著しく脆くなっている。様々な武器や防具の素材として加工できるが、太古の時代では巨人族を捕食していた竜族が考案した、巨人スープのダシ汁を取る際に使用していたらしい】


 竜族。

 そして巨人スープ……。

 色々と興味の惹かれる言葉ワードはでてきたものの。


 あいにくと錬金術では武器や防具を作れそうにない。そして、料理スキルはもってすらいない。

 だが、モノは試しだ。


 『巨骨』を合成釜へと入れる。

 直径1メートルを超える素材ではあるが、釜にいれたとたん、スッと解けていった。



 相性の合うものはないか……。

 と素材を順にかざしていく。


:合成に失敗しました:

:『巨骨』は失われました:


「にょ!?」



 まだ何もしていないのに失敗!?

 貴重な一本を失ってしまった。

 どういうことだ。


 合成釜をつぶさに観察する。

 

 熱は弱火。

 かき混ぜ棒は動かしてすらいない。


 ……。


 考えられるのは、弱火。

 そして先ほどの説明文に【特に熱に対する耐性が著しく脆くなっている】と、表記されていたことだ。


 合成釜の熱で素材が溶けて消えてなくなったと解釈する以外の結論を導き出せそうにない。


「ふむ……それならば」


 俺は即座にアビリティ、『調教術』を発動し『復元を司る拷問台座』を広げる。

 『巨骨』を台座へと乗せてみる。



『巨骨』


斬8

打-7

刺6

柔0

堅14

属性 呪7 火-20

魔0


 やはり。

 火耐性が低い。


 つまり、『狙い打ち花火(小)』を作成したときと同様で、素材の火耐性を上昇させれば、合成が可能になるのではないかと仮説をたてる。


 くぼみに『紅い瞳の石レッド・アイ』から作成した火ノ丸を次々とセットしていき、巨骨の属性、火耐性をマイナスから0へと持っていく。


「よし」


 俺は再び巨人のダシ汁を絞り尽くすべく、『巨骨』を錬金釜に投入。

 熱に溶かされる前に、素早く相性の合う素材がどれなのか、かかげていく。


 錬金釜の中身が晴れ渡った星空の煌めきを宿したのは『巨人族章』だった。



『巨人族章』

【巨人族の誇り、魂が宿っている。その身に巨人の力を手にしたいのであれば、これを身につけるのも一つの手段である。ただし、荒ぶる巨人の衝動に打ち勝てる理性があるのなら、の話ではあるが】


 実はこれ。

 アクセサリ兼素材らしい。

 アクセサリとしての効果は下記の通りである。


『巨人族章』

装備必要ステータス 知力140 

力+50 防御+40 素早さ-50

※知力が足りてなくても装備可能。ただし、その場合バーサク状態になる。


 知力140以上ある俺は装備できるが、素早さが-50となる装備とか俺のプレイスタイル的に身につける価値がないと判断する。


「ぽいっ」


 まぜる。

 まぜるよ。


 『巨骨』が溶ける前にまぜまぜまぜるううう。

 はよ、はよ、まだなのか。

 

 しかし、巨人族章を入れてからというもの、釜の中は何故か灰色。

 悪い予感しかない。


 かくなる上は万能説が有力な『ようせいの粉』を追加投入するしかない。


 アビリティ『飽くなき探求』を発動させ、ビーカーの黄金液ようせいの粉を釜に注ぐ。


 そして混ぜ混ぜ混ぜる。

 くすんだ灰色から、澄んだ夜空へと釜の中が変化したところで、青い煙がモクモクと出現。


:巨骨(火耐性)+巨人族章+ようせいの粉 → 巨人と歩みし結液ギガント・エキス

:合成レシピに記録されました:



 巨人のダシ汁、とれたて一本!


 まるで水をすくうように、茶色い両の手が合わせられており、そのすぼめられた掌の中には白い液体が。

 ぶっちゃけビジュアルは気持ちわるい。

 だって干からびたてのひらがお椀みたいになってて、その中に白い水ですよ。

 だが、効果はロマンあふれる逸品だった。



巨人と歩みし結液ギガント・エキス

【これを飲むと巨人と肩を並べて歩む者になれる。身体の大きさが2倍~3倍になり、HP・力・防御も30秒間、3倍に膨れ上がる。身に余る代償として素早さが三分の二に減少し、巨大化が解かれると30秒間、身動きがとれなくなる】



「巨人化だと……」


 巨人化。

 錬金術とは、遥かなる昔に力を振るった巨人族と同等の力を得ることすら可能にする。

 まさに秘薬ともいうべきアイテムを創造することに成功した俺は、嬉しさのあまり肩がぷるぷると震えてしまった。


「ふへっ。ふへへへっ」


「て、天使様?」


「天使ではない、我は巨人であるっ」


「きょ、きょじんさま?」


「ふはははっ」


 そして俺は、『追跡者の頭蓋』をアイテムストレージから出して、眺める。


「くははっ」


「天使さまが……頭蓋骨を両手に不気味に微笑んでる……」

 

 次はこいつの番だな。

 俺は鑑定眼で50センチ以上ある大きな頭蓋を眺める。


『追跡者の頭蓋』

【不敬な墓荒らしを取り締まる巨人族の墓守の頭蓋。彼ら追跡者は、巨人王国ギガ・マキナの栄光が永遠に続くと盲信して朽ちていった。亡国の栄誉と尊厳を見守る眼孔には、ゆらめく青い鬼火が宿り、執拗に墓荒らしを追い続ける】


 俺へと骸骨の瞳がぬらっとした青い輝きを寄越す。


「ひぃっ」

 

 ミナが小さな悲鳴を隣で上げる。



 緊張が走る。

 それはその不気味さに対する恐怖からではなく、一つしかない素材を失うかもしれないという恐怖からだった。錬金術に失敗は付き物だが、ここは慎重にいきたい。


「てんし……きょ、きょじんさまも、やっぱりこの頭蓋骨が怖いのですか?」

「いや、ぜんぜん」


 希少な素材のため、先ほどの合成速攻失敗を避けるために、『復元を司る拷問台座』へと乗せる。


『追跡者の頭蓋』


斬 19

打 -11

刺 15

柔 0

堅 17



属性 呪22 火-10

魔 0



『巨骨』と同じく、熱や火に弱いようだ。

 俺の『打ち上げ花火(小)』で、巨躯なる追跡者エル・ワイトウォーカーの頭部はあっけなく爆散してたしな。


 台座の窪みに火ノ丸を2つセットして、火耐性を0へと上昇させる。


 そのままドポンっと合成釜に頭蓋骨を投入。

 

「相性の合う素材は……ないか」



 なかなかのレア素材っぽい空気をだしているのに、現時点では何もできない歯がゆさが俺を苛む。


「くっ」


 現時点でのスキルポイントは22。

 新たなる錬金術スキルを覚えるためにポイントを使うべきなのか?

 しかし、今後、武器スキルを習得した時のことを考えると残しておきたい。

 

 だが、錬金術スキルのLvを上昇させれば、何かの可能性が広がるかもしれない。


「いくか……?」

「てん……きょじんさま?」


 苦悩に歪む俺の顔を心配そうに見つめるミナ。

 可愛らしい神官はそのままキュッと俺の手を握ってくる。その小さな手から、温かいものが広がっていく。


 俺は錬金術士だ。

 迷っている場合ではないな。


:錬金術Lv26になりました:

:錬金術Lv27になりました:

:錬金術Lv28になりました:


 錬金術スキルへと、ポイントをふっていく。


:錬金術Lv29になりました:

:錬金術Lv30になりました:


:『魂を抜きし供物』を習得しました:


 魂を……抜きし供物?



『魂を抜きし供物』

【錬金キット・魔鏡とカメラを使用して、魂の色を抜き取るアビリティ。

 あの世とこの世を結ぶ鏡で、この世ならざる者の姿を映しだすことができる。

 カメラでは写真で撮らえた者の魂を色として抽出し、錬金素材や武器素材へと変換させる。神仏にそなえるに相応しいモノを生成できる。実体のないもの、光、幽霊、エネルギーなどから新素材を発見できる】



 おいおい。

 目に見えない存在すらも素材の糧にする禁忌の錬金術を習得しちゃったよ。


 魂の色……を抜き取る?

 実体のないもの……幽霊や、光、からも素材を採取?

 絶大にその可能性を広げていく錬金術に俺は感激のあまり、全身がプルプルと震えてしまう。


「ふははははっ」

「きゃじんさま!?」


「雲のように掴めぬモノも、その手中におさめ、己が追い求める知の礎へと変えていく! まさぁに! 錬金術とはすんばらしい!」


 実態なき幽霊すらも素材に変化させるとか凄すぎる。

 幽霊……。


「ッッッ!?」


 そして俺は、ハッとなる。


 イベント『妖精の舞踏会』でミナが着ていくはかまに必要な色、スケルトンダークグレイとは、このアビリティで採取できるのでは?

 さらに記憶の紐を解いていくと、俺は確かに幽霊というワードをどこかで目にしている。そう、それは。


 アンノウンさんと探索した『浅き夢見し墓場』の入口に、場にそぐわない可愛らしい文字で『この先、幽霊がでるので注意』と書かれていた看板の存在を。


 鏡で幽霊を映しだし、カメラで激写!

 そして魂の色を我が手に!



 ピンと来た俺は、即座に街の道具屋へと錬金キットを買いに猛烈に駆けだした。


「て、てんしさま」


「わるい、ミナ! 道具屋にいく!」

 

 

 突き進む足取りは軽やか。

 突き進む錬金道は無限大。

 

 未知みちみちを走り続けるこの感覚は、何にも勝る喜びと高揚感。


 そして、道具屋にて錬金キットのお値段をチェック!



:錬金キット 妖しい魔鏡   4000エソ:

:錬金キット 古びたカメラ  8000エソ:


「たっか!」


 俺の興奮は値段の高さを目にした途端、一気に氷点下まで下がった。


「総額、1万2000エソだと……馬車、買えるやん」



 金の成る実が錬金術であるならば、その前にまず、金のかかる実が錬金術であった。

 何事にも、神々の理を超越しうる錬金術ですら投資は必要なのか。

 

 世知辛い。この世界は妙に幻想的じゃない。

 


 のちに。


 道具屋の前でしばらく、床に手を突き、絶望を落とす銀髪天使幼女と、その傍らで必死に励ます金髪神官少女の姿が見受けられ、某掲示板にてそのスクショがアップされ、話題になっていたのは知る人ぞ知る光景であった。



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