23話 拷問する錬金術士


「うへぇ……」


 ジョージの『死の接吻とばし』から、なんとか意識を取り戻す。


「て、天使さま。大丈夫ですか?」


 ミナが俺に寄り添い、『月光の福音』を手渡してくる。


 そ、そうだ。

 おれはこのピンクの花弁を見極めるべく、錬金術を敢行しようとしていたところだったのではないか。


「っく」


 しかし、どうしてもこのアイテムを見ると、先のジョージのせっぷ……。

 

 いや、やめよう。

 思い出すのは不毛だ。


 錬金術へのモチベーションのおかけで、どうにか気力を回復した俺は、さっそく習得したアビリティ『鑑定眼』を発動する。



「わぁ……天使さまのおめめが、金色に光ってます」


「あらあら、本当にタロちゃんは天使ちゅわんねっ」


「ちゅわん……? ……天使さまは天使さまですから」


 なんだか、ミナのジョージに対する声の温度の低さが怖い。


 と、とにかく。

 おれは『鑑定眼』を発動した状態で、『月光の福音』を見てみる。


『月光の福音』

【月の精霊ウルドの力に祝福された花弁。太古より人々に歓喜をもたらすと言われている。月光の淡い輝きは、本来の花弁を非常にもろいものに変化させた】


 月の精霊ウルド……妖精がいるのだから、いつかは精霊とも会えるのだろうか。

 特性は非常にもろい……。

 これが錬金術に関わりのある記述なのだろうか……?


 だがこれをどう、錬金術に活かすか。

 全くって皆無である。


 ってなわけで、つまんだ花弁を合成釜へヒラヒラリーっと落とす。



「考えても仕方ないな~」


『鑑定眼』、役に立たないわ。


 さてさて、『月光の福音』と相性の良さそうな素材は……っと。

 合成釜に素材を順々に巡らしていき、釜の中の空模様をうかがっていく。


 結果。

『ようせいの粉』以外、相性の良いモノはなかった……。


 なので、金粉をさらさらーっと投入。


 本日の釜空模様は薄紅に暮れる黄金色。

 火力は『月光の福音』がもろいという事を踏まえて、弱火。


 まぜまぜしながら様子を観察していくと、少しずつ少しずつ、色が暗くなっていった。

 まぜること、一分。釜の中は完全に真っ黒になった。



「これは、ダメっぽい……」

 

 紅い煙がモクモクとたちこめ、失敗に至った。


:『月光の福音』+『ようせいの粉』の合成に失敗しました:

:素材は失われました:


賞金首と競売ウォンテッドより、『森のおクスリ』×2、『翡翠エメラルドの涙』×3、『結晶ポーション』×1、『火護の粉塵』×1が売れました:


:5776エソ、入手しました:


「やた!」


 失敗ログに続いて、エソが入ってきた。

 貴重な『月光の福音』を一枚ロストしたことは痛手だが、アビリティ『調教術』を思ったより早く楽しめることに俺は歓喜した。


「えぇん? 失敗したのに喜ぶんのぉん?」


「ふっ」


「天使さま?」

「いくよ、ミナ!」


 意味深な笑みを残し、俺はミナを引き連れダッシュで道具屋へと錬金キットを買いに行き、ジョージの輝剣屋にカムバック。



「ふっふっふー」


 ジョージの前で新しく購入した、『復元を司る拷問台座』を見せる。


 黒塗りの鉄でできた台座は四方1メートルに及ぶ、なかなか大きなものだった。

 台座の側面には色々な器具がぶら下がっている。

 両刃の剣。ハンマー。レイピア。何かを掴むようなトングが二つ。

 更に気になったのは、何か球体状のモノをはめこむようなくぼみもあった。


「あらあらぁん。何かしらんこのキットわぁん。わたしも見たことないわねぇん」


「なんだか、ゴツゴツしてるです」


『復元を司る拷問台座』

【知の探求には、何の犠牲もいとわない。錬金術が忌み嫌われる所以ゆえんの実験器具。素材の特性を進化・変化させる】


「ククク……」


 拷問とな。

 ついに錬金術の暗黒面に触れるときがきたか……。


 さてさて、何の素材を変化させるか。

 決まりきっている。

 さきほど、『ようせいの粉』としか合成の相性が良くなかった『月光の福音』だ。


 小さく脆い花弁を『復元を司る拷問台』へ置く。



:生贄にしますか?:

:拷問をしますか?:


 うわ。

 さっそくグロい選択肢でちゃったよ。

 楽しみすぐるよ。


 まずは生贄を選択してみる。


 すると台座の上から黒い液体が滲みでてきて、にゅるにゅると『月光の福音』へと這い寄っていくではないか。

 そのままグニュリっと花弁を黒い液体が取り込み、少しすると球体状に変化した。

 


:『月光の福音』を生贄にしました:

:『魔ヶ丸まがまる』に変化しました:


 !?


 素材そのものが、別の素材に変化するなんて聞いてない……。

 なんだ、この黒い球体は。


魔ヶ丸まがまる

【錬金キット『復元を司る拷問台座』にはめて使用。素材の魔法耐性+8を追加する】


 なるほど。

『復元を司る拷問台座』専用のアイテムってわけか。


 そして、:魔法耐性+8を追加する:という説明文から推測するに、素材の耐性に+補正を付け加えることができるという事かもしれない。

 

 素材を生贄にすると、素材の耐性に+をつけるアイテムを生成できるという認識で間違いないだろう。その代わり、生贄にされた素材は失われると。

 これを台座側面にあるくぼみにはめて、素材を強化するのか。


 よいではないか。

 高みに辿りつくためには犠牲もいとわない、禁断の道。


「くふふ」


 ではさっそく、その献身の結果を見せてもらおうか。


『復元を司る拷問台座』の上に再び、『月光の福音』を置き、今度は拷問をするを選ぶ。


 すると。



:『月光の福音』の特性:


斬 0

打 0

刺 0

柔 7

堅 0

属性 なし

魔 10


 という数値が出てきた。

 どうやら、斬撃や打撃への耐性? や柔らかい、堅い、などの特性を数値化したものだろうか。


:どの分野で拷問をしますか?:


 おや。

 さっき作ったばかりの『魔ヶ丸まがまる』を使用しなくても、変化させることができるのか。


 さきほど、アビリティ『鑑定眼』で『月光の福音』を分析したとき、非常に脆いと記されていた。つまり、その脆さを『拷問』で補えば『合成』相性が良くなる素材は増えるのではないだろうか。

 そうなると強化する項目は『打』か『堅』だろう……。


 俺は『堅』を選択する。

 するとアシストログが流れた。


:付属の・剣・ハンマー・レイピアを使って素材を痛めつけてください:

:斬撃・打撃・刺突の三種の文字が素材へと降ってきます:

:タイミングを合わせて、各種武器で拷問しましょう:

:落ちてくる文字の大きさが、与える衝撃の強さに比例します:

:『堅』の場合は強めの衝撃を与える指示が多いです:



『トゥントゥントゥトゥトゥトゥトゥトゥトゥン♪』


 え!?


 ラジオ体操に流れるようなアレな曲が唐突に流れ始める。

 そして上から、台座に置かれた『月光の福音』へと『斬撃』というけっこう大きな文字がふってくる。



「なっ」


 音ゲーの要領で、素材を攻撃していけばいいのか!?


 『斬撃』という文字が、花弁に触れる瞬間、俺は慌てて付属の両刃剣を握り、斬りつける。

 ガキッと小気味よい音が響き、台座を・・・切りつけた。



 花弁ちっちぇええええええ!



 思わず焦ってしまい、狙いを外してしまったのだ。

 さらに音楽に合わせて、ふよふよと『斬撃』『打撃』『刺突』の大きな文字は降り注いでくる。


 こうなれば、やってやる。

 いや、殺ってやるうううう。


 もうこれ以上、素材は無駄にできないんだ!



「ふっほっはっ」


 おれは次々と武器を持ちかえて、切りつけ、叩きつけ、刺す。


『ザシュッザシュッ、ガツンッ、プスッガツンップスプスッザシュン♪』


 タイミングよく素材を痛めつけることができると、キィンと星屑みたいな眩い光がまき散らされるようだ。


 文字の大小はどうやら、与える衝撃の強弱を指示しているようで、大きければ大きいほど、強い攻撃を。小さければ弱い攻撃を。


『シュパッ、ゴツンッ、ゴッゴッ、ブスリッ! ズバッ♪』

 

 俺は一心不乱に剣、ハンマー、レイピアを曲に合わせて振り続ける。

 

 キエエエエイ!



『ザシュッ』


 ぬぅん!


『ガツンッ』


 ふへっ。


『ブスリッ』

 

 武器を持ちかえ、リズムに乗って狂乱舞!


 これが俺の錬金術を奏でるビート。

 そのリズム、身体に刻みこめ! いや、魂に深く刻みこんでやるぅぅう。


「はっふっふっ、へいっ」


 ひゃっはー!


 もっと、もっとだ。

 もっと痛めつけてやる。

 そして、かわいい悲鳴を聞かせてみるんだ、『月光の福音』ちゃん。


「ふふふ」


「天使さまが……悪魔になっちゃいました……」

「あらあらぁん、なんだかすごい絵面えづらねぇん」


『ピンピンロリ~~ン♪』


 曲が終わると、文字が降ってくるのも終わった。


:『月光の福音』が強化されました:

:『堅』+12:



「はぁはぁ……」


 これは、まさに音ゲーみたいだ。

 強化された『月光の福音』は『月光の福音・改』と名称表記が変わっていた。


 次に、俺はそのまま先ほど、『生贄』で造り出した『魔ヶ丸』を台座のくぼみにセットしてみる。

 すると、台座から『オォォォォオオッ』と怨嗟のような震え声が発生されたかと思うと、ドス黒いもやが噴き出て、『月光の福音・改』を包み込んだ。


:『月光の福音・改』が強化されました:

:『魔』+8:



『月光の福音・改』を台座で分析してみると。


斬 0

打 0

刺 0

柔 7

堅 12(+12)

属性 なし

魔 18(+8)


 と、各耐性が変化していた。


 なるほど、なるほど。

『丸』は台座のくぼみにはめ込むだけで、強化ができると。


 俺はそれから、何個かの素材を『生贄』に捧げたり、『拷問』したりと試していった。


 モフウサ産の『紅い瞳の石レッド・アイ』などを『生贄』にすると、『火ノ丸ひのまる』というアイテムに変化し、『属性・火+5』を施すものになったりもした。



 アビリティ『調教術』をまとめると、こうなる。


【拷問】では、流れる曲のリズムに合わせて素材を痛めつけ、素材の耐性を強化できる。

【生贄】で、『~丸』を作ることができる。また属性・魔の耐性は『~丸』でしか強化できない。


 斬  剣で斬る

 打  ハンマーで叩く

 刺  レイピアで刺す。

 伸  トングで伸ばす。

 柔  剣・ハンマー・トングで、弱く、細かい叩きが多い。

 堅  剣・ハンマー・レイピアで、強く、単調な叩きが多い。

 属性 丸をセットするだけ。

 魔  丸をセットするだけ。



 なんだか、例えば火属性を強化し続けていったら、もの凄い素材が作れそうな予感。また、魔法耐性とかも上昇させると、武器や防具の素材として重宝されるのではないだろうか。

 『拷問』が役立つのは合成だけではなく、汎用性の高い素材を生みだすことに主眼を置いているように思える。



「なんだか錬金術って本当に奥が深いのねぇン♪」

「天使さま……さすがです」


 つまり。

 素材を強化できる認識で間違いがなければ、強化していった素材でアイテムや、装備なんか造っていったら、とんでもないモノが作成できるのではないのだろうか。



「錬金術に無限の可能性を垣間見た! ふははは!」


 一通り『拷問』を試し終えた俺は、即座に『月光の福音』を使った『合成』に再挑戦する。

 さきほど、『拷問』で強化した『月光の福音・改』をピラっと合成釜へ。


 果たして、『ようせいの粉』以外で相性が良さそうな素材は増えたのか。


 辛抱強く、各素材を釜の上で掲げていく。

 すると、宝石を生む森クリステアリーで採取した『結晶の枝』が、唯一、釜の中の空模様が落ち着いていた。



「きたきた」


 釜の温度は中火で『結晶の枝』を二個目の素材として投入。


 花弁と枝。

 もともと、合いそうな素材同士だけど。

 『月光の福音』の『堅』、つまり堅さ、耐久力? を上げたことによって二つの相性がよくなったのか?


 釜内はピンク色に透き通っている。

 粘り気もうすく、ちゃぷちゃぷとかき混ぜ棒で回していく。


 少しすると、微妙に暗さを増してきたように思えたので、アビリティ『飽くなき探求』を発動させ、『妖精の粉』をビーカーに入れて、3個目の素材として投入。



 前回は色が黒くなっていって失敗したので、早めの対応を心掛けた。

 すると、やはり薄いピンクに色は戻っていった。


 そのまま数十秒すると、青い煙が立ち昇り成功の合図がでる。


:『戦慄の調べ【月夜の晩に】』が生成できました:


:『月光の福音・堅・魔』+『結晶の枝』+『ようせいの粉』→『戦慄の調べ【月夜の晩に】』がレシピに記録されました:



 一本の笛ができあがった。


 造りは簡素で、太めの木の枝をくりぬいたフルートのような形をしている。ただし、薄い桃色で透き通っている。中の空洞も見る事ができ、プラスチックよりゴツゴツした感じの笛って感じだ。


 おいおい。

 なんかすごいのできちゃったんじゃないかな。

 

 すてきな音色を奏でちゃうよ?



『戦慄の調べ【月夜の晩に】』

【使用すると、二分間PTメンバーの素早さ+40、魔力+100する。また天候『月夜』に吹いた場合、PTメンバーのMPを80回復し、なおかつ初撃がクリティカルヒットする。使用限度は3回】


 す、すごい。

 天候によって効果が追加するアイテムもあるのか。

 しかも、クラン・クランではMP回復アイテムがないと言われているのにもかかわらず、『森のおクスリ』に引き続きのMP回復アイテムがまたもや作れちゃった。


「すてきなフルートですね、天使さま」


「うん、けっこう、すご……なかなかいいアイテムが作れたかな」


 だが、俺は思った。

 錬金術で相手にダメージを与えるアイテムを、まだ一つも造り出す事ができていないことに。

 もちろん、今回の合成の結果には満足している。

 天候が『月夜』の場合、笛を吹いてからの初撃がクリティカルヒットが確約されているなど、会心の一撃が約束されている効果はかなり攻撃的だと思う。

 

 でもそれは、天候が『月夜』の場合のみだ。

 初撃が外れる場合もある。


 そうなると、晃夜こうや夕輝ゆうきと肩を並べて戦った、先のPvPにしてもやはり自分の火力不足を感じてしまう。

 ステータス・力+10という『過激なあめ玉』があるとはいえ、地味すぎる。



 何か、何か、ヒントはないのか。


 アビリティ『鑑定眼』を発動して、手持ちの素材をひたすら吟味していく。

 そうして一つ一つに目を通していくと、気になる素材を発見した。


 それは『黒い塊』という素材だ。



 『うまのふん』×3を上位変換し → 失敗で『黒い塊』はできる。


 初めて、ミケランジェロで錬金術アビリティ『変換』を使った時に作れた失敗素材。



『黒い塊』

【うまのふん。古代より人と共に大地を駆け、戦の地へも勇猛を馳せる馬。そんな馬の、ありとあらゆる栄養がつまったふんは、大地に恵みをもたらし、草々に栄華を咲き誇らせる。その、全知全能なるうまのふんから用途不明の産物、未確認物体であるこの黒い塊ができた。様々な可能性を秘めた一品】



 うまのふんすげええええ。

 う○こすげえええ。


 ウン白もすげええええって称賛されないかな。

 うん、されないか。



 全然使い道ないと思って放置してたのに、実はすごかったんだな『黒い塊』。


 ウン白にしろ、うまのふんにしろ、俺には何かソッチ関係の神様でも憑いてらっしゃるんですかね。



 とにかく、合成釜にこの『黒い塊』を入れてみたものの、全ての素材が受け付けないようで、釜の空模様はどんよりと曇ったものばかりだった。



 つまり。

 この、う○こ野郎には『調教』が必要なようだ。


「アビリティ『調教術』発動!」


『復元を司る台座』に『黒い塊』を鎮座させる。


『黒い塊』


斬 2

打 2

刺 5

柔 0

堅 5

属性 火3

魔 0



 ほう。

 火耐性があるのか。


 ではでは、先ほど『紅い瞳の石レッド・アイ』を『生贄』にして生成した『火ノ丸』をくぼみにセット!


:『黒い塊』が強化されました:

:『属性・火』+5:


 さてさて、火耐性があがったところで再び合成釜に『黒い塊』を投入してみる。だが、しかし。なにも変化はない。


 ぬううん。

 再び調教だ!


 それから『紅い瞳の石』を3個ほど、『生贄』に捧げて、『火ノ丸』を3個ほど造り、『黒い塊』へと『調教』につかってみた。


 さきほど賞金首と競売ウォンテッドで、大量に『紅い瞳の石レッド・アイ』を購入しておいてよかった。

 

紅い瞳の石レッド・アイ』は上位変換で『紅蓮石』も作れることだし、重宝せねば。



『黒い塊』

斬 2

打 2

刺 5

柔 0

堅 5

属性 【火】23(+20)

魔 0


 『調教』で、『黒い塊』は相当に火耐性を上昇した。


 今度はどうだろうか。


 再びポチャンと合成釜に『黒い塊』を落とす。

 辛抱強く、合う素材がないか探してく。


 すると。

『紅蓮石』と『結晶花』がいい反応を示した。

 火の名称的に、『紅蓮石』と相性が合致するのは納得できるが、『結晶花』は想定外だった。


 とにかく、挑戦だ。

 『紅蓮石』を二個目の素材として投入してみる。


 温度を強火にし、ぐつぐつ煮えたぎる釜を混ぜていく。

 色は赤黒いのだが、決して汚い色ではない。

 例えるなら濃いめの血液、ブラッド色だろうか。


「くっ」


 なかなかの粘り気があり、『かき混ぜ棒』が重い。

 

 アビリティ『飽くなき探求』を使用し、フラスコで『結晶花』をトポポンと垂らしていく。

 垂らした瞬間、暗い色が一瞬で払しょくされ、鮮やかに赤と緑と黄に輝きはじめた。


「うわっ」


 しかも、プラズマのようなものが発生し、釜から赤と黄色の光がパチパチッと、弾ける。


 な、なんだ、これは。

 火の粉のようだが、ぜるのでなんか違う気がする。



 だが、このまま俺は突き進む。

 


 まぜまぜまぜまぜまぜ。

 

 

:『狙い打ち花火(小)』ができました:

:黒い塊・改火+紅蓮石+結晶花→狙い打ち花火(小)をレシピに追加されました:

 


 花火、だと……。


 これは、なんというか筒状の手持ち棒だ。

 先端に星を象った小さな結晶があり、一見すると子供のおもちゃみたい。


 魔法少女のティンクルバトン♪ なんて言って今の銀髪少女な俺が振りかざしたら、様になるのではなかろうか。



『狙い打ち花火(小)』


【使用するとスターロッドの先端から、打ちあげ花火が飛びだす。被弾した相手に火属性のダメージを発生させる。範囲攻撃のため、花火が咲いた周辺にいる対象にも追加ダメージを負わせる】

 


「ついに……できた、攻撃アイテム」


 しかも遠距離攻撃だ。

 

 さすが、うまのふん産『黒い塊』。

 うまのふんの上位変換失敗作なのに、すごい。


 というか、翡翠エメラルポーションの元となる『汚水』も、『水』の上位変換の失敗作だった。


 クラン・クランでは失敗素材も錬金術の立派な素材になるんだなぁ。

 むしろ、失敗作の素材の方が優秀なアイテムができている気がしなくもない。



「ふぅ……」


 俺は小気味よい疲労感と共に、床へとへたりこむ。


「終わったかしらぁん?」

「天使さま、おつかれさまです」


 ジョージとミナがねぎらいの言葉をかけてくれる。


「うん、終わったー」


「まぁた、すごそうなものができてそうねぇんっ」


 ジョージが鼻の穴をスピスピしながら、俺の戦果を聞きたそうにしている。


「天使ちゃんの錬金結果も気になるけどぉん、わたし、賢者ミソラが言っていた事が気になるわねぇん。舞踏会だったかしら? あれって本当に開催するのかしらねぇん」


「確かに、そうだね……ジョージは調べてみたの?」


「一応? テアリー卿の御屋敷にいってみたりはしたのだけどぉん。なんら変化はないわぁん」


「ふぅむ……」


 あ、そういえば、ミソラさんからもらった、馬車のフィギュア。

 あれもまだ試してないや。


銀精アルジェントたちの馬車』を取りだす。


「わぁ、天使さま……ステキです」


 ミナが俺の掌に乗っている馬車のミニチュアを見て、感嘆している。

これ、確かによく造り込まれてるよな。


 さっそく、このアイテムを使用してみる。


:『銀精アルジェントたちの馬車』はここでは使用できません:

:屋外に出てください:


 とログが流れた。



「あらぁん、それは何かしらぁん?」


「ミソラさんからもらったものです。どうやら、屋内では使用できないようなので、外に出て使ってみますね」


 ジョージに要約して答え、俺は店の外へと歩き出す。


「……それはすごく興味深いわねぇンっ。ミナちゃんもほらぁんっ天使ちゃんの後についていくわよぉん」


「あなたに言われなくても、天使さまと私はずっと一緒・・・・・ですから」


 ちょっと怖い発言が耳をかすめた気がするけど、聞き間違いだよな。

 とにかく、二人は店を出た俺の後をついてくる。


 石畳で舗装された瀟洒しょうしゃな街道には、まばらに傭兵プレイヤーの姿を見受けられたが、特に問題はなさそうだ。

 そこで再び、『銀精アルジェントたちの馬車』を使用してみる。


 すると―――――


 ぼふんっと煙があがり、白と金の雪のような粉が舞い散った。


 そして、目の前に大きめの馬車が出現していた。

 素晴らしい体躯の白馬が四頭、二列で御者台へと繋がれている。

 一頭一頭に金糸が縫い込まれた真っ白な布を身体の上部にはおっている。



「こ、これは、す、すごい……」


 四輪の馬車は白銀に塗られており、ところどころ細い金の装飾が施されている。上品かつ嫌みのない豪奢な雰囲気を漂わせる。


「はわわぁ……きれいな馬車さんです…」


 更におどろくべきは、白金の鱗粉を降らせる小さな小さな妖精が数匹、飛び回っていることだった。宝石を生む森クリステアリーにいる妖精よりも、半分以下のサイズだが、紛れもなくあれは妖精だろう。


 端的に言うと、どこかの王侯貴族が持ってそうな馬車だった。

 しかも、妖精付き。


 フィギュアがそのまま実物化した事に、俺は驚きを隠せない。


「あ……えっと」


 唖然としていると、御者台で手綱を握っていた、執事っぽいのがスッと降り立ちスタスタとこちらへと歩いてくるではないか。


「我があるじ様、どちらに行かれますか?」


 この御者、顔は真っ黒いもやで、目のような紅く輝く丸が二つあるだけの不気味な風体だ。明らかに人間ではないのが見てわかる。

 

 服も、実体も黒いので、仮にクロスケさんと命名しよう。

 そんなクロスケさんが俺に一礼をし、そんな質問をしてきた。



 これって、あれかな。

 移動用のアイテム的な……?



「ガ、ガッデムゥ!」


 横にいるジョージを見たくないが、つい目を向けてしまう。


 カッと両目を見開き、パックリと口をあけて驚いている。

 また、ノドちんこ見えてる。


「なにそれええええええええんんッ! ス・テ・キぃぃぃぃいん!」


 オカマの感動に打ち震える声が、道端でこだまする。



 こればかりは、周囲を歩く傭兵プレイヤーも、馬車に驚いているのか、オカマの絶叫にビクついているのか、俺には判別がつかなかった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る