7話 こねこね合成
しばらく草原でまったりしたあと、姉と別れて先駆都市ミケランジェロに戻った。
「何かやりたそうにしてたしな」
姉はやはりベータテストからクラン・クランをプレイしていたため、傭兵の中でも最前線プレイヤーと呼ばれる
そのため初期街周辺で時間を潰しているより、新しくサービスが開始された新エリアへ行きたい、という欲求は強いのだろう。
というわけで、行動を別にしたのである。
「さてと、俺は何をしようかな」
このゲームを一緒にやらないかと誘ってくれた、クラスメイトにして親友たち、
それまで、錬金をしてみようか。
先ほど倒したスライムのドロップアイテムも手に入ったわけだし、それを素材に錬金でもしてみますかね。
スライム討伐による戦利品は以下の通りだ。
『スライムゼリー』×1
『スライムの核』×5
ドロップした数を見るに、スライムゼリーがレアドロップらしい。
スライムゼリー 【プルプルとしたスライムのゼリー】
スライムの核 【液体と相性の良い、スライムの青い核】
「ふむ……」
さっそく俺は『銅の天秤』を使用し、スライムのドロップアイテムが錬金可能かどうか検証することにする。
スライムゼリーは1つしかないため、ここでの実験は遠慮させてもらおう。
なにせレアドロップなのだ。タブン。
俺はスライムの核が上位変換できるかどうか、天秤の左皿に一つずつ載せていく。
すると天秤が傾き始める。
やはり、上位変換可能か。
そのまま一つ、二つ、三つ、と数を重ねていく。天秤が均衡になれば上位変換に必要な数がそろうわけだが……手持ちの『スライムの核』を五個のせても、天秤は均衡にならなかった。
「上位変換するには数が足らなかったか……」
次に下位変換を試すために右の上皿にスライムの核を一つ載せる。
下位変換は素材数が一個で十分なはずだ。
「下位変換!」
しかし、下位変換は発動しなかった。
「下位変換!」
再び叫んでみるが、『銅の天秤』に変化は起きなかった。
これはつまり、『スライムの核』は下位変換できない、という事だろうか。
「うーん……」
せっかく新しい素材を手に入れたのに。
まぁ、こういうこともあるか。
錬金術はなかなか難しいな。
『ピコーン』
俺が
『今、おヒマかしらぁ~ん?』
『あ、はい』
『錬金術の調子はどぉ?』
『ぼちぼちですかね』
『あらぁん、それはすごぉい。てっきり、わたしは天使ちゃんが行き詰まってるかと思ってぇん』
『んん。なかなか難しいと思っていたところではあります』
『むふん☆』
ジョージの気色悪い声に、自然と顔がしかめっつらになっていくのがわかる。
『何か御用でもあったのですか?』
『そうねぇ。錬金キットが手に入ったからぁン。うちじゃぁ使わないし、買うお客さんもどうせいないだろうしぃ、天使ちゃんにあげちゃおっかなぁって』
『ほんとですか!』
ジョージ、神だわ。
『えぇ、ほんとうよぉん♪』
『あ、でもおれ……お金が200エソしか』
『お金なんていらないわぁん。在庫処分だと思って、もらってちょうだぁい♪』
ジョージ、聖母だわ!
『ただぁ、天使ちゃんのお役に立つ日が来るのは、だいぶ先の錬金キットになるものだけどぉん』
『いえ、譲っていただけるのなら、とてもうれしいです』
俺は輝剣屋スキル☆ジョージへと猛ダッシュした。
◇
「これよぉん♪」
:ジョージより、錬金キット『合成ツボ』『かき混ぜ棒』を受け取りました:
「ありがとう、ございます」
お礼を言って、さっそくもらった錬金キットの説明文を読む。
『銅の合成
『かき混ぜ棒』【錬金術キット『合成
オカマから
「スキル錬金術の『合成』か……」
「そうねぇん。天使ちゃんわぁ、まだ錬金術のスキルを習得したばかりだから、合成ができるようになるには当分先のことかしらぁん」
「そうですね……まだ『変換』のアビリティしか覚えてませんし」
「錬金術はすごぉくレベルが上がりにくいって聞くしねぇン。スキルポイントを、錬金術にふるっていうのも……戦闘系のスキルにふるポイントがなくなっちゃうだろうしねぇん」
ジョージ曰く、スキルには大別して3種あるそうだ。
一つ目が戦闘スキルで、魔法や武器スキルなどがこれに該当する。二つ目が生産スキルで鍛冶や料理スキルなどだ。そして三つめが双極スキルと言い、戦闘と生産の両方を合わせ持つ系統で、錬金術スキルはこの分類に入るそうだ。
「双極スキルわねぇん、使い込んでもレベルがなかなか上がらないわァン。かと言って貴重なスキルポイントを、不確定要素の強い錬金術に振るぐらいならぁん、戦闘スキルや生産スキルに注ぎ込んだ方がいいって見解なのねぇン。今となってわぁん、レベル上げに膨大な時間のかかる錬金術を使いたがる
「スキルポイントの希少性……か」
すっかり忘れていたが、俺はキャラレベルが2に上がったときに、スキルポイントが15入ってるんだった!
このポイントを錬金術スキルにふれば、『合成』も習得できるのでは!?
俺はさっそくスキルポイントを錬金術スキルに1ポイントずつふっていく。
:錬金術スキルがレベル3に上昇した:
:『変革の銅法』を習得した!:
「む」
「どうかしたのかしらぁん?」
「あ、いえ。スキルポイントを錬金スキルにふっているだけです」
『変革の銅法』
【MPを消費して『変換』の成功率を上昇させる。成功率は知力に依存する】
ほう。これは上位変換・下位変換ともに使えるアビリティを習得できたな。
おれは
:錬金術スキルがレベル4に上昇した:
:錬金術スキルがレベル5に上昇した:
:錬金術スキルがレベル6に上昇した:
:『失敗は成功への王道』を習得した!:
「おー」
「あらあら、何か習得できたみたいねぇん」
ニコニコと俺を見守るオカマを無視して、習得したアビリティ説明を見る。
『失敗は成功への王道』
【MPを消費して変換の失敗率を上昇させる。失敗率は知力に依存する。失敗素材を創り上げたい時に使用する】
『変換』の失敗率を上昇させる……?
ふむう。またMPを使用するアビリティか。
次のレベルポイント取得時はMPを上げる必要があるかもしれないな。
残るスキルポイントは11ポイント。
どんどん振っていく。
:錬金術スキルがレベル7に上昇した:
:錬金術スキルがレベル8に上昇した:
:錬金術スキルがレベル9に上昇した:
:錬金術スキルがレベル10に上昇した:
:『合成』を習得した!:
「きた!」
「あらあらぁん。何かわかったのかしらぁん?」
残りスキルポイントは7。
結局、錬金術スキル『合成』を習得するのに、8ポイントもスキルポイントを消費してしまったが仕方ない。
だが、錬金術の王道といえばやはり合成!
素材と素材を合成して、新たなるアイテムを生成する!
テンションあがってきた。
「さっそく合成してみます!」
俺はジョージに声高らかに宣言する。
「えぇ? もう『合成』を習得したのぉん? どうやってぇん!? わたしの錬金術スキルを持っているフレンドですら、1週間はかかっていたと思うのだけれどぉん」
おそらくそのフレンドさんはスキルポイントをふらずに、地道に錬金術スキルを使用して、習熟度による錬金術のレベルを上げていったのだろう。
「スキルポイントふりました」
「天使ちゃん……戦闘系スキルにふらなくて、いいのぉん?」
「はい」
戦闘は後回しだ。今はとにかく『合成』をしてみたい。
錬金キット『銅の合成釜』を使用。
銅の合成釜はまんま銅の分厚い釜だった。
釜の中をのぞくと、そこは真っ暗な夜闇に星がちりばめられたように、極小の砂粒がキラキラと煌めく液体が入っていた。
まるで夜空のようだ。
どうやら、この釜に合成したい素材を放り投げればいいらしい。
やはりここは新素材を『合成』してみたいところ。
スライムゼリー 【プルプルとしたスライムのゼリー】
スライムの核 【液体と相性の良い、スライムの青い核】
『スライムゼリー』の説明文は錬金の参考にならなかったが、『スライムの核』は錬金に関係していそうな内容だ。
「液体と相性の良い……」
俺の手元にある液体の素材といったら、初めて錬金術で作り出した『汚水』×5、『
とりあえず、スライムの核を『銅の合成釜』にポチャンと放り投げる。
釜の中をのぞくと、特に変化は見られず静かな夜空めいた景色が
次いで、アイテムストレージから『水』を出す。そして錬金釜の前にかざすと、錬金釜に変化が起きた。
錬金釜の景色に薄い煙、雲のようなものが立ち込めた。
釜の中の液体の輝きが鈍くどんよりとなったのだ。
「うーん?」
よく意味がわからないが、俺は『水』を合成釜にトポトポと流していく。
:『合成』開始。『かき混ぜ棒』で釜にいれた素材を混ぜてください:
と、アシストログが流れたので、指示にしたがうことにする。
『かき混ぜ棒』で、まぜまぜ。
:釜の中を観察しながら、釜の温度を設定していきましょう:
:釜の中を観察しながら、『かき混ぜ棒』のまぜ加減を調節しましょう:
:ヒントは『匂い』『色』『見た目』『粘り気』の4点です:
「うおぉ?」
いきなりシステムログが連続で流れ出す。
釜の温度設定?
そんなのを調節するところなんて……あ、あった。
釜に強・中・弱というボタンがあった(笑)。
簡易版のIHみたい。
今の温度は中火だそうです。
釜の中を観察しながら……温度調整……。
匂い……特になんもしない。
色……曇りの夜空。
見た目……とくに変化はな、い、と思ったらブクブクと泡が吹き始めた!
これはあれか、沸騰してるということで、中身の素材が焦げないよう強くかき回すタイミングなのか?
それとも弱火にするべき?
とりあえず、かき混ぜるスピードを速くして、温度も弱にして、どっちもやっておく。
あとは粘り気だが……特に変わらない。
「うーん。ちんぷんかんぷんだ」
「可愛らしい魔女ちゃんねぇん」
ウフフと微笑するジョージを脇に、俺は注意深く釜の中を見つめ続ける。
しばらくすると、赤い煙が釜からモクモクと噴き出てきた。
そして。
ボフンッとツボから赤い煙が一気に飛び出た。
どうやら、ツボの中で素材が爆発したらしい。
:合成に失敗しました。使用した素材は消失しました:
と無情なログが流れた。
「マジか……」
俺の『水』と『スライムの核』が……。
「その様子だと失敗したのかしらぁん?」
「は、い……」
「あらあらぁん。そう気を落とさないでぇん」
「しかし、貴重なスライムの核が……」
「まぁまぁ、失敗は成功の元っていうでしょぉん?」
「は、はぁ……」
「このクラン・クランはね。発見がすごく多いゲームなの。未知の領域があるからこそ、ヒトは冒険せずにはいられない。もう答えがわかってる謎解きや、見たことのある場所に
確かに。
今は科学も進んで、行ったことのない場所や風景を自宅で全て視ることができる時代。
今更、未知の少ない場所に行こうなんて思い立つ輩は、お金に余裕のある金持ちや旅行家だけだ。
「クラン・クランで素敵な未知と遭遇できるといいわね♪」
ショッキングピンクのアイシャドウが塗られた両目をバチっとつむって、ジョージ流のウィンクをとばしてきた。
『合成』の失敗もまた未知。確かにそうだな。
「はい、また『合成』してみます!」
おれはめげずに二度目の『合成』を敢行する。
次の合成素材となるものは……。
消失しても全然痛くないものを選ぼう。
やはり、『水』の下位変換で失敗してできた産物、『汚水』を使用するべきか。
『銅の合成釜』に『汚水』をトクトクと流し込む。
そして次なる合成素材……。
おれは、ふとさっき合成する時に2個目の素材を入れようとしたら発生した、合成釜の中身の変化が気になった。
「もしかして、入れようとする素材によって何か変化があるかもしれない?」
試しに、『汚水』を二個目の素材として釜の前に入れようとすると……、先ほどより暗雲たちこめた煙が発生し、どんよりと曇った。
これはまずそうだ。今にも雨が降り出しそうな、そんな雲り具合だ。
この素材のチョイスはマズイかもしれない。
次に『硬石』の下位変換で生成した『いしころ』を掲げてみる。
これも小宇宙が雲によって
「うーん……」
……『汚水』に合いそうな素材。
あ。あった!
雑草を上位変換して作った『
なんか汚い水を綺麗にしてくれそうな名前じゃないか。
『
これはなんだかイイ感じの色な気がする。
察するに、これは天候に比例して合成の成功率とか、素材の相性を示唆しているのではないだろうか。
晴れなら成功しやすい。
曇りなら危ない。
雨なら失敗。とか?
この仮説のもと、おれは『
「……草っていうのは確か弱火で煮込むのが定番だったよな」
合成釜の温度を弱にし、ゆっくりとかき混ぜる。
合成釜の景色、澄んだ夜空は『汚水』の茶色に支配される。
これは……どうすればいいんだ。この色で大丈夫なのか?
さらに、くつくつと釜の中が沸騰し始めてきた。
そして、色は茶色から綺麗な緑色になりつつある。
む、これは……『
温度はそのままで、かき混ぜる速度を速めた。
なんとなく草を長くゆですぎて、とろけさせてはいけないような気がした。
沸騰し過ぎる前に、素早く混ぜ終わる必要があるのではないか?
釜の中は、緑色が茶色を侵食し、すぐに滑らかな緑一色に変化した。
さらに青い煙がたちこめる。
「うん?」
そして――。
:『汚水』+『
:合成レシピに記録されました:
「うおおおお」
「あらぁん、今度は成功したみたいねぇん」
クスクスと微笑みながらジョージは愛おしそうに、こちらの成功を祝ってくれた。
ちょっと気持ち悪いが、まぁ嬉しくなくもない。
『浄化水』【緑色の浄化された水。ポーションに適した素材】
「ついにきたか……」
RPGの基本的なアイテム、ポーション。それを生成するための素材が、今ここに完成!
「なになにー、どんな素材ができたのかしらぁん」
「ポーションの素材っぽいです」
「あらぁん? 確かポーションの素材って、かなり作るのに手間がかかるって聞いた気がするのだけどぉん」
「んん。参考まで聞かせてもらってもいいですか?」
「たしかぁン、『水』の『上位変換』を3回ぐらい成功してできる、『純水』って素材でやっとポーションの元になるって聞いたのだけどぉん」
『水』の上位変換を三回……。
『水』→『上質な水』までは把握しているが、これに加えてあと2回も上位変換しないといけないわけか。
『水』→『上質な水』→『?』→『純水』
一段階、素材を上位変換するのに、『水』だった場合、10個必要だったわけで。三回も上位変換を成功させて作りだす『純水』とやらは……。
『水』が1000個必要じゃないか……。
先ほど俺が作り出せた『浄化水』とやらは、元の素材『水』の上位変換を失敗して作り出せた『汚水』を素材にしているわけであるから。
「道のりは遠い……?」
「そうねぇん。錬金術の人気がないのはそういうところなのよねぇ」
ジョージは切なそうに溜息をつく。
なるほど。
ポーションを生成するのにも、こんなに労力がいるのか。
とにかく手当たり次第、合成していって、ポーションを作り出すための上位的な『水』を生成するしかないか。
「はぁ……」
『水』×1000を集めるという途方もない労力の前では、今できあがったばかりの『浄化水』が無価値に思える。
そんなわけでポイッと銅の合成釜に投げる。
「さーってと、お次は何を合成しましょうか」
自分自身を
「応援してるわぁん天使ちゃん♪」
なんだかんだ俺に相の手をいれてくれるジョージ。
そんなジョージの声援を横に、俺は次々と『合成釜』に入れる2個目の素材をかざしていく。どれも曇り空や、雨が降り注いでいるような波紋が生まれるモノまである始末。
残るはスライムからドロップした新素材しか選択肢がなくなってしまった。
仕方がないので『スライムの核』を『銅の合成釜』の上にかざすと。
静かな星空。
「おー」
さすが液体と相性がいいと説明文に書かれていただけのことはある。
だが前回、『スライムの核』と『水』を合成しようとしたときは、曇り空だったはずだ。『浄化水』の方が『水』より相性がいいのだろうか。
とりま、ポイッとスライムの核を投入。
『合成』の開始だ。
『スライムの核』は、見た目青い石コロだ。
つまり、高温じゃないと錬金釜の中で『浄化水』と溶け交わらないだろうと判断した俺は、『銅の合成釜』の温度を上げる。
すると予想どおり、合成釜にゆっくりと『スライムの核』の青色が広がってゆき、『浄化水』の緑色とまじりあっていく。
一見順調に思えた矢先、緑色の煙がプスプスと音を立てながら発生し始めた。
料理を作ってる時の何かをこがす音に似ているなと思った俺は、嫌な予感がしたので『銅の合成釜』の温度を弱まで下げる。
次第に物騒な音と、緑色のけむりは終息していった。
そのまま、ゆっくりとかき混ぜてゆくと、釜の中は透き通ったエメラルドグリーンの色に変化していき、青色の煙が沸き立ってきた。
:『浄化水』+『スライムの核』 → 『
:『
:合成レシピに記録されました:
どうやら赤い煙は合成失敗の合図で、青い煙が成功の印ってわけか!
「うおおおお、合成せいこぉおぉお」
「あらぁん♪ おめでとぉおんっ☆」
ふふふ。
『
【使用するとHPを即座に180回復する。古天空王朝時代、一般市民に普及していたと言われる。彼ら自らが引き越した魔導汚染による滅亡を悔やみ、そんな天空人の無念が涙となったのではないかと噂されている。浄化の作用を持ち、その治癒能力は高い】
やはり、錬金術は素晴らしい。
この手で、古天空王朝とかいうよくわからん神代の遺産を
錬金術の前では時の流れなど、微々たるもの。いや、時間すら超越する偉大なる錬金術士タロ。
ふはははは。
良いではないか。
ここからが俺の錬金術道の始まりと言うわけか。
初めての使用可能な錬金アイテムが、ナントカ王朝の復活とか、まさに俺にふさわしい。
「とっても嬉しそうねぇンっ。ところで出来上がった、
せっかく人が時を
「素材ではない。れっきとしたアイテムであり、古代の意志を継ぐポーションである」
ふっ。貴様にこの錬金術の素晴らしさは理解できまい。
「はぁ~ん………」
やはりな。貴様如きが叡智を極めんとする錬金術の素晴らしさなど、1ミクロンも把握できまい。
「……ん?」
笑顔を張り付けながらこちらを見つめるオカマ。
「なんだ」
「えっとぉ……今なんて言ったのかしらぁん?♪」
「だから、ポーションみたいのが作れたと言っている」
「んんー」
ニコニコしていたジョージの顔が数瞬後。
両目をめいっぱい開いて、口をドーンと開けた。
「ホワッツン!?」
目が飛び出るんじゃないかってぐらい、すごい目力で俺を見つめる。信じられないモノでも目にしたようなその表情は、正直気持ち悪いので今すぐ止めてほしい。
あと裏声もキモい。
なんか一瞬で、錬金術士気分が冷めた。
「え、まってん。そんな簡単にポーションが作れたら、NPCから割高なポーションを買う必要がなくなるぅん、本当なのぉん? 本当だったら革命モノよぉん!?」
ヒトは得てして。
大したことないのに無条件で褒めちぎられると、逆に居心地が悪くなることを今知った。
「……そんな大げさな事じゃないですよ。現にこうやって、錬金術スキルの初心者が作れてるわけですし」
「えええええん!?」
ジョージうるさいな。
まぁでも、なんていうか。
錬金術のすごさをわかってくれたのか?
よくわからんが、ほんのちょっとだけ嬉しい気もする。
「ちょっとぉちょっとぉ、ポーションがこんなに早く作成できるなんて、聞いた事ないわぁん!?」
……何を言ってるんだジョージ。
なんだかんだ俺の面倒を見てくれているのはジョージ自身じゃないか。
こんなに早く『合成』をしてポーションもどきが作れたのは、ジョージのおかげだろう。
最初の錬金キット、『銅の天秤』に始まり、『銅の合成釜』や『かき混ぜ棒』まで譲ってもらっている。
オカマだからと言って、厚化粧だからといって、パンチパーマだからといって、受けた恩は忘れてはいけない。
キモいとはいえ、ジョージから受けた恩をこんなしょっぱいモノで、返せるとは思っていないが、俺なりに感謝の気持ちをここらで示しておきたい。
「ジョージさん」
「はぁああいん!? なにかしら天使ちゅわんっ。やっぱりよく見たらポーションじゃなかったのね?」
これがオンラインゲームのだいごみ、プレイヤー同士のコミュニケーションってやつだろう。
他人との初のオンゲーコミュニケーションがオカマというのが残念な気もするが、嬉しいのはまごうことなき事実。
「ジョージさんは色々教えてくれました」
「んん?」
「錬金キットもくれました」
「はぁん?」
「錬金術で初めて、マトモにアイテムとして使用できそうなモノが作れた記念」
おれは『
「受け取ってください」
:ジョージに『
アイテム取引を持ち込んだ。
そのログを確認したであろうジョージの顔は————
口がさっきよりもアングリと開放されており、のどちんこまでもが見えた。
すごいなクラン・クランの描写の再現度は。と、感心しつつやっぱりコイツはキモいなと思う。
「なに、このポーション」
「なにって、その、ほら」
わざわざ言わせるなよ。大したことでもないだろうに。
「……、お、お礼ですよ」
俺は頬をポリポリとかきつつ、あさっての方向を見ながらつぶやく。
早く受け取れよ、オカマ野郎。
この変な間が、微妙に恥ずかしいんだよ。
「緑色のポーション…………それに、一瞬でHPを180回復なんて、ありえない…………ほ、本当にもらっていいのかしらぁん!?」
「だから、あげますって」
「見たこともないポーション! しかも天使ちゃんの初の錬金作成アイテムぅ! ジョージぃ感激ぃぃいんっ♪」
ジョージは大げさに、むせび泣きながら、喜んだ。あげくポーションビンに頬ずりして、チュッチュッとキスをしていた。
「もう家宝にするわぁんぅ。あぁん、でもぉん店頭に置くのも、すっごぉくいいアイディアだとも思うのぉん、あぁ、でも記念すべき天使ちゃんのハ・ツ・モ・ノだしぃ♪ まようわぁん」
オカマがクネクネしている情景はぶっちゃけ目に毒であり、少しポーションもどきをあげたことを後悔する。
だが、この『
また、すぐ作れそうだったのであげちゃってもいいのだ。
「好きに使ってください」
そう言ってトリップ状態のジョージを放置して、俺は『輝剣屋スキル☆ジョージ』をあとにした。
外は気持ちの良い晴天だった。
「ふぅ……」
伸びをする。
心なしか、気分が良い。
この晴々とした爽快な気持ちは、オカマがポーションをあげたぐらいで、あんなに大喜びしてくれたからではなく、錬金術をし終えたあとの程良い
「さて、そろそろ
ウン
それに、銀髪少女キャラという、二人が見慣れている俺とはかけ離れた姿を目の当たりして、どんな反応をするのかも不安だ。
でも、たぶん。あいつらのことだし。
ゲーム内だし。
何とかなると思う……。
集合場所である、先駆都市ミケランジェロの時計台に向かうことにした。
◇
キャラクター名 タロ
レベル2
HP40 MP25 力1 魔力14 防御2 魔防8 素早さ53 知力77
所持金 200エソ。
装備品
頭:なし
胴:すすけた外套
腕:すすけた皮手袋
足:すすけた革靴
右手:小太刀・諌めの宵
左手:なし
アクセサリ:なし
:なし
:なし
:なし
スキルポイント:7
称号:老練たる少女
レベルアップ時のスキルポイント取得量が3倍。
:なし
スキル:錬金術Lv10
『変換』『変革の銅法』『失敗は成功の王道』
『合成』
◇◇◇
あとがき
新作、始めました!
『どうして俺が推しのお世話をしてるんだ? え、スキル【もふもふ】と【飯テロ】のせい? ~推しと名無しのダンジョン配信~』
もし気になりましたら――
お読みいただけたら光栄です。
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