聖女は染まり行く世界に愛を教える
縁乃ゆえ
新たな聖女の出現
聖女として呼ばれ
うっすらと目を開けた。
何がどうなっているのか分からない。
ほぼ真っ暗な中で一人倒れているのか? うつ伏せの状態で分かるのは寝巻らしい白のワンピースと裸足であること、長い金髪は何も縛っていない。
木の床の白い線と蝋燭の火がいくつか灯されているということだけだった。
「聖女を呼び出す魔法陣……!?」
少し落ち着いた高すぎも低すぎもしない青年の声から一転、何か当たるような音がし、風のようなものが感じられ、ほぎゃぼっ!! という声高な先ほどの青年とは違う変な男の叫び声があがり、ドサッとその場に勢いよく倒れ込んだものはそれっきり全く動かなくなった。
「……ヒッ!」
考えてしまったから声が出た。
「気付いたか? 嬢ちゃん、大丈夫か? 名前は?」
急き立てるように言われ、答えに詰まった。
その声の主を見れば、茶髪の長髪とも短髪とも言えないくらいの二十代前半の人の良さそうな好青年だった。
肩まである金髪碧眼少女は少し起き上がり、ふるふると頭を振った。
分からないという合図。
言葉は通じ合えるらしい。
それが分かると青年は言った。
「そうか……俺はリュック。じゃあ、君の名前はベロニカだ。昼間に見た花の名前だが、聖女にはそう付ける習わしがある。君が今居るその中は聖女召還魔法陣と言ってね。それによって現れる者は皆、聖女ということになる。それにその聖女の中にまだその名前はなかったと思うし……仮の名前にはなるけれど良いかな?」
「はい」
優しいリュックの言葉遣いについつい少女は声を発した。
ヒッ! という小さな悲鳴を聞いていたから知ってはいたけれど、十五、十六歳ぐらいになりそうなベロニカは床に転がるこういうのを見るのは初めてだろうか。
リュックは手短に聞いてみることにした。
「事切れた者を見たりしたことはあるかい?」
「いいえ、ないです。けれど、その人……」
「ああ、そうだ。でも、不思議なんだ。あのグーパンチ一発で事切れたって……、信じるかい?」
ふるふると見ていたであろうベロニカは頭をふりふりと振り、答えを知らせる。
「そうだよな、俺にこんな威力はないはずだしな……」
自分の拳を見て言うリュックにベロニカは問う。
「あなたは私を助けてくれるのですか?」
「ああ、君はこの事切れてしまった男に聖女として呼ばれたらしいが、その目的を聞くことはもうできない。聖女は禁忌書と呼ばれる古書に載っている聖女召還魔方陣で呼び出され、元の世界にはもう帰ることができない。だからこそ、あれがあるんだが、それに見つかると厄介だ。俺と一緒に来て欲しいところなんだが、それはできるかな?」
「……あなたが悪い人でない証拠は?」
「ないけれど、君が付いて来てくれるなら、君が幸せになるまで守ると誓おう。それまでには俺が悪い人じゃないって分かってくれると思うし。あ、でも、俺、
「へ?」
何を言っているの? という顔をするベロニカの手をリュックは突然取り、立たせ、裸足であることを確認すると「ごめんよ」と言って、お姫様抱っこをしてくれた。
「何をするんです?!」
恥じらいある声にきゅんとしつつもリュックは言う。
「この方が早く走れるからさ、安心してよ。まあ、俺は魔法が使えないんだけどね!」
いっやぁー!! という彼女の声は静かにならない。
けれど、このまま待たせてある馬車の所まで行けば何とかなる。
そう思った時、聞き覚えのある声が聞こえた。
「止まりなさい! そこの人! 夜にお姫様抱っこなんて、ありえないわ!」
その声はいかにもこじらせたことがない大人の女性のものだった。
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