第8話

目的の場所に着いて、女の子は強張った表情で言った。



本当にこんな何の変哲も無い場所でいいの?



僕は頷いた。


「おばあちゃんがよくつれてきてくれた場所だし、あめのあとは本当にきれいなんだよ」



女の子は無理に笑った。そして、穴を掘り始めた。僕も掘った。爪の間に土が挟まって気持ち悪かった。一心不乱に掘って、掘って、ふと気が付くと女の子の手が止まっていた。顔を上げると、女の子は川の方を向いていた。その顔は蒼白で、口が半開きになっていて、死んでいるみたいだった。目だけが恐怖と、驚きと、後悔をいっぱいに湛えていた。


僕はその子が見ている方に思わず目をやった。


なんだかずっしりとした重さを持った、かなり大きな影が川の中の岩に引っ掛かっていた。暗い中だったからよく見えなかったけれど、そこから川の流れとは違う色の筋が流れているようだった。


昼間部屋で見たあの異質感と同じだ、と思った。


「あれはなあに?」


僕は訊いてはいけないと思いながら、尋ねた。


女の子の顔色は最悪だった。



あれは…先生。



「せんせい?」



私の先生だよ…。この場所で昼…ここで…まだ流れてないなんて…。



そう言うと女の子はそこまで歩いて行った。


やがて女の子はその物体に向かって手を合わせてから、何かを言ってそれを押し、川の流れに任せた。


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