第114話 はじめての王宮
そしてあたしとサラは王宮に向かって出発する。
同行するのは父と母、それにマリオンだ。
家を出て、馬車に乗るところまで、皆が見送りに来てくれた。
「ルリア、サラ。気をつけてね?」
「兄も、無事を祈っているよ」
「ねえさまも、にいさまも、しんぱいしょうだなぁ。だいじょうぶだよ!」
「がんばります!」
「わふ~~」
「だめなんだって。ダーウたちはお留守番」
ダーウたち、動物は王宮には入れないらしい。残念だが仕方ない。
「ぁぅ」
「よしよし」
キャロ、コルコ、ロアと棒人形のミアもお留守番だ。
「すぐに戻ってくるからまっててな?」
「きゅ~」「こぅこぅ」
キャロとコルコは不安そうだ。
「りゃむりゃむ~」
ロアの寂しそうな鳴き声を聞くと、あたしも悲しくなる。
「ロア。すまぬな? なるべくはやくもどってくるからな?」
「りゃむ……」
「ロアたちのことはスイに任せるのである!」
スイも留守番することになっている。
「スイちゃん、おねがいね」
とても強いスイに任せれば、ロアのことは安心だ。
『返事はしなくていいのだ』
クロが急に地面から生えてきた。
『ルリア様は心配しなくていいのだ。守護獣たちはこっそり見守っているのだ』
空を見ると、守護獣の鳥たちが沢山飛んでいた。
「ん、ありがと」
そして、あたしたちは馬車に乗って出発する。
兄と姉、ダーウたちは見えなくなるまで見送ってくれていた。
馬車の中で、あたしは父と母の間に座る。
正面にはサラとマリオンが座っていた。
「サラちゃん、緊張してる?」
「してる」
「だいじょうぶだいじょうぶ。なるようにしか、ならないからね?」
そういうと、マリオンは
「流石はルリア様ですね。大物です」
と褒めてくれた。
「そっか? えへへへ」
「ルリアの度胸を私も分けて欲しいわ。手が震えて……」
「かあさまも、緊張することがあるのかー」
あたしにとっては、意外なことだった。
「もちろんよ。あとせめて一月。いや一週間あれば……」
そんなことを母は言っている。
「ルリア。大丈夫だよ。忘れてはいけないのは?」
「えっと、魔法をつかえるとか精霊がみえるって言ったらダメ?」
それは父と母からマナーの練習後、兄と姉が居ないときに、何回も言われたことだった。
ばれたらあたしを利用しようとする者が現われるかもしれないらしい。
「水竜公の件も、よくわかりませんで通すんだよ?」
「わかってる」
解呪したりできると知られたら、教会が利用しようとしてくる可能性が高いらしい。
「サラもお願いね。ルリアのことは秘密にしてあげてね」
「はい、おばさま。ぜったい言いません!」
サラは力強くそう言った。
しばらく走ると王都が見えてくる。
「おおー、王都にくるのはじめてだ!」
「もっとゆっくり見せてあげられたらいいのだけど」
母は少し寂しそうに言った。
王都の中に入ると、馬車の速度がゆっくりになる。
「人がいっぱいだなぁ」
「すごい、お祭りかな?」
「サラ。お祭りではないわ。王都はいつもこのぐらい人がいるの」
「すごい! ママは王都に来たことあるの?」
「あるわよ」
「すごい!」
そんなことを話している間に、王宮に到着する。
侍従に案内され、あたしたちは控え室へと向かう。
父が先頭を歩き、その後ろを母とあたし、更に後ろにマリオンとサラだ。
「……ルリア、堂々と胸を張って」
「ん」
母の小声にあたしも小さな声で返事をして胸を張って歩く。
「……あれがヴァロア大公のご息女ですか」
「髪が炎のようだ。まるで……」
そんなこそこそ話が聞こえてくる。
父と母がいるからか、露骨な悪口は聞こえない。
だが、蔑むような視線と、揶揄するような遠回しなささやき声は聞こえてくる。
きっとこれが、父と母があたしから遠ざけたかったものだろう。
「気にしないで。ルリア」
「わかってる」
赤い髪と目が恐れられているのは知っている。
今更、何を言われても気にならない。
控え室に入ってゆっくりしていると、侍従がやってきた。
「……宰相閣下がヴァロア大公殿下ご夫妻に内密のお話しがあると」
父はあたしとサラをチラリと見る。
「今日は子供と一緒に来ているのだ。またの機会と言うわけにはいかぬか?」
「是非にと。陛下のお考えについてのご相談があると」
今朝になって、急に今日謁見しにこいと無茶を言った理由についての説明だろう。
そういわれたら、父も断れない。
「……わかった」
父は立ち上がると、あたしを抱きしめた。
「ルリア。謁見までに戻ってくるつもりだが……これからの段取りはわかっているね?」
「うん、呼ばれたら、えっけんの間に入って、騎士がいるところで止まってカーテシー?」
「そうだ。陛下からもっと近くにと言われたら?」
「一歩前にでる」
「そうだ」
あたしは教えられていたことを答える。
「ルリア。あなたなら大丈夫。もし失敗しても母が後でなんとかしますから」
「ん。ありがと、でもあたし失敗しないので」
そういうと、母はにこりと笑った。
父母が出て行くと、控え室にはあたしとサラとマリオンだけになる。
「謁見までに、とうさまとかあさまもどってくるかなぁ?」
「きっと戻ってきますわ。もしお戻りにならない場合でも私がいますから」
「ありがと、マリオン」
そんなことを話していると、侍従がまたやってきた。
「ディディエ男爵夫人閣下。内務長官がお呼びです」
ディディエ男爵夫人というのはマリオンのことだ。
マリオンは当主ではないが、実質的な当主と言うことで、閣下と呼ばれている。
「内務卿閣下が、私に一体なんの御用なのでしょう?」
「爵位継承の種類に関するご質問があると」
「何か不備が?」
「そういうわけではなく、謁見日が変更になったゆえの確認のようです。ご安心を」
書類の日付などの変更などが必要になったのかもしれない。
全部、王のせいだ。きっと内務省の役人たちは悲鳴を上げながら、作業をしているに違いない。
「わかりました。すぐ参ります」
そういうと、マリオンはサラのことを抱きしめる。
「サラ、大丈夫。戻ってくるつもりだけど、戻ってこれなくても教えたとおりにすれば良いからね」
「うん。頑張る」
「失敗してもママが一緒に謝ってあげます」
「うん」
「サラは五歳なのだから、失敗して当然なの。それはみんな知っているわ。大丈夫」
「わかった」
そして、マリオンはあたしのことも抱きしめる。
「きっと、殿下がたもすぐにお戻りになりますわ」
「そだな」
「もし、間に合わなくてもルリア様なら、大丈夫です」
「うん。ルリアもそうおもう」
あたしがそういうと、マリオンは笑顔になった。
そして、マリオンは心配そうにしながら、控え室から出て行った。
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