第113話 王宮に向かう準備

 あたしが朝起きると、スイに抱きつかれていた。


「……全部食べていいのであるか? ダーウ、それはうんこなのである」


 スイは寝言を呟いている。


「えぇ……、スイちゃんはどんな夢をみているんだろ」


 少し気になる。あたしはスイのことを撫でた。


「むにゃむにゃ。おいしいのである」


 サラは棒人形のミアを抱っこして眠っている。

 ミアにくっついてクロやロア、精霊たちが眠っていた。


「みんなもミアが好きなのか?」


 あたしはサラとミア、そしてクロ、ロア、精霊たちのことを撫でる。


「………………」


 すると、あたしのことをじっとダーウが見つめていた。


「ダーウも撫でてほしいか?」

「……ぁぅ」

「よーしよしよし、コルコとキャロもおいで」

「こっ」「きゅ」


 あたしが撫でまくっていると、

「お嬢様がた、朝ご飯ですよ」

 侍女が呼びに来てくれた。


「すぐいく! サラちゃん、スイちゃん、ごはんだよ!」

「…………ごはんたべる」

「……もう朝であるか……ふぁぁぁぁああ」


 スイは眠そうに大あくびをした。


「スイちゃんねむいか?」

「ねむいのである」

「ふーん。夜あそんでた?」

「なっ! そんなこと、したことないのである!」


 なぜかスイは焦っていた。


「そっかー、まあいいけど」


 そして、あたしたちは着替えて、食堂へと向かう。

 食堂には全員が揃っており、母が険しい顔をしていた。


「かあさまどした?」

「ルリア。どうしましたか? でしょ?」

「どしましたか?」

「まあいいでしょう。……まずは座りなさい」

「あい!」


 あたしたちが席に着くと、父が言う。


「今朝、陛下から早馬が来て、お昼に参内するようにと」

「え? 今日の?」

「そう、今日のだ」

「なるほどー。楽しくなってきたな?」


 昨日身につけた、あたしの完璧なマナーを披露する機会が、早速やってきた。


「あなた、断れないの?」

「断れない。陛下からの召喚を断れば、それこそ叛意を疑われる」

「叛意って……ルリアはまだ五歳ですよ?」

「疑われるのは私だ。病気や怪我だろうと、這ってでも参内しろというのが陛下の方針だ」


 国王はずいぶんと厳しい人らしかった。


「断れば、より厳しいことを言われるのは間違いない」

「参内しないという選択肢はないわけね」


 母は深くため息をつく。

 兄と姉も心配そうにあたしのことを見つめていた。


「殿下、一体、陛下はなにをお望みなのでしょうか?」


 マリオンは不安そうだ。


「まだ、サラは陛下の御前にでる準備ができておりませんのに……」

「サラちゃん、がんば。いざとなれば、ルリアのまねをすればいいからな?」

「うん。きんちょうする……」


 サラはもう緊張している。


「……ルリアはまだお手本になれるほどではないわ」


 母が意外なことを言う。

 きっと、あたしの作法は素晴らしいが、まだまだ調子に乗るなという意味に違いない。


「わかってる!」


 あたしが元気に返事をすると、こちらを見ていた父が言う。


「陛下の狙いが何かはわからないが、こちらに準備をさせないつもりなのは間違いないだろう」

「やはり、作法がなっていないと叱責する気かしら」


 母も心配そうな表情を浮かべている。


「かもしれぬ。だが、サラは大丈夫だろう。男爵位の継承は陛下も賛成なさっているし」

「そっかー、サラちゃんは緊張しなくていいよ! よかったな!」

「う、うん……でも、ルリアちゃんだいじょうぶ?」

「ルリアはだいじょうぶだ」


 あたしがそういって胸を張ると、母は、

「そ、そうね、きっと大丈夫よ」

 そういって、泣きそうな顔で抱きしめてくれた。


「まあ、スイも大丈夫だと思うのであるぞ?」

「スイちゃんは、どうしてそうおもう?」


 あたしが尋ねると、スイは動揺して尻尾を揺らす。


「え、えっとであるな? そう思うからそう思うのであるな?」

「そっかー」


 なんか怪しかったが、深く聞くのはやめておいた。


 朝ご飯の時間も、作法の勉強だ。


「ルリア! そうではありません。フォークの使い方は――」

「こだな?」

「違います」


 あたしはたまに失敗しながらも、大まかには完璧だった。


 そもそも、生まれついての気品がかもし出されているので、多少間違っても良い気がしてきた。



 朝ご飯を食べ終わると、母に衣装を着せて貰う。


「ルリア可愛いわね。絵本のお姫様みたいよ」

「ルリア様。とてもお似合いですよ」


 姉とマリオンはそういって褒めてくれる。


「そっかー、でも動きにくいなぁ。やっぱりにいさまの服の方がいいなー」

「だめよ。ルリア。我慢しなさい」

「あい」


 あたしの隣では、サラもドレスを着せられている。


「おおー、サラちゃんかわいい」

「そ、そうかな?」

「うん。すごくかわいい。こうみるとドレスってのもいいもんだなぁー」

「ルリアちゃんもかわいいよ」

「そっかー」


 姉や母もサラのことを褒めていた。

 ドレスを着たサラはとても可愛い。


 着替え終わると、あたしたちは父の元に向かう。


「ルリア! 可愛いな! いつもドレスを着ていてもいいのに」


 そういって、父はあたしのことを抱き上げる。


「とうさまは無茶をいう。これ動きにくいからな?」

「そうか。だが、とても可愛いよ」

「ルリア、とても似合っているよ」


 兄も褒めてくれる。


「サラもとても可愛いいし、綺麗だ。似合っているよ」

「ありがとうございます」


 サラは緊張気味に父に向かって頭を下げる。


「うん。とても似合っている。陛下の前に出ても安心だ」


 そういって、兄はサラの頭を撫でた。


「ありがとうございます」


 サラは頬を赤くして、照れていた。

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