第106話 のんびり遊ぶルリアたち

 あたしたちが母の部屋から、自室に戻ると、

「すー……すー……」「りゃぁ……ゃぁ……」

 まだスイとロアは気持ちよさそうに眠っていた。


 相変わらずスイの顔にロアがへばりついている。


「いいこいいこ」


 サラが、スイとロアの頭を撫でる。


「スイちゃんとロアは、ミアのことが気に入ってるみたいだね」

「そだね! えへへ」


 スイはサラの棒人形ミアをしっかりと抱いているし、ロアは尻尾の先をミアに絡めている。

 そんなスイとロアを見てサラも笑顔になった。


「キャロとコルコ、おるすばんありがと」


 キャロとコルコは寝台の上で、スイたちを見守ってくれていた。


「きゅ」「こっ」


 小さく鳴きながら、あたしに体を押しつけにくる。


「いいこいいこ」


 あたしはキャロとコルコのことをぎゅっとしてから、優しく撫でた。


「むむ?」

「どうしたの? ルリアちゃん」

「ミア、少しかわった?」

「かわってないと思う」

「そっかー、気のせいかな」


 いつも抱っこしているサラが変わってないというなら、変わってないのだろう。

 あたしはミアのことも撫でた。


「ルリアちゃん、なにしてあそぶ?」

「そだなー」

「ぁぅぁぅ!」

『ダーウダメなのだ! ルリア様は安静にしないとなのだ!』


 ダーウが庭で遊ぼうといい、クロに止められた。


「ばう~」


 ダーウは不満げに伏せをする。


「ダーウだけ、にわをはしる?」

「あうあう」


 ダーウはあたしと一緒が良いらしい。


「そっか。じゃあ、ダーウもいっしょに精霊な――」

『精霊投げはダメなのだ。めちゃくちゃ走り回るのだ!』


 クロからストップがかかった。

 精霊投げは、ほわほわの精霊をポンポン投げて、部屋中を走り回る遊びだ。


『クロのお勧めは精霊力の訓練なのだ!』


 それは体内をぐるぐる精霊力を回す訓練だ。

 訓練とは言え、結構楽しいのであたしは好きだった。


「精霊力の訓練は楽しいけど、安静にしないといけないんじゃないの?」


 さっき、おじいさんを助けるのに魔法を使ったばかりだ。

 さらに訓練などしたら、疲れ果てて、背が伸びなくなるかもしれない。


『それは問題ないのだ!』

「そうなの?」

『そもそも、体内で精霊力を動かすだけなのだ。運動した後に体操するようなものなのだ』

「あー、あれかー」


 なんとなくあたしはクロの言いたいことがわかった。


「にいさまも、剣術訓練の後、体操しているものな?」

『それなのだ!』


 兄ギルベルトは剣術訓練で汗だくになった後、毎回ゆっくり筋肉を伸ばしている。

 そうすると、疲れが取れやすくなったり、筋肉痛になりにくくなったりするらしい。


 クロの声が聞こえないサラは、独り言のようなあたしの言葉をじっと聞いていた。


「クロが精霊力の訓練をしようっていってるの? サラも好きだよ? いっしょにする?」

「いいの?」

「うん!」


 少し前にサラとロアと一緒に、精霊力の訓練をしたことがあった。

 サラの場合、体内で回すのは精霊力ではなく魔力だが、魔力でも訓練効果は高いらしい。


『復習なのだ! お腹の奥に魔力が溜まっているのをイメージするのだ!』

「復習からだって! お腹のおくに魔力がたまっているのをイメージして!」


 あたしがクロの言葉を通訳しながら訓練をする。


「むむ~~」「ばうぅ~」

 サラの隣で、ダーウも一生懸命練習していた。

 キャロとコルコはそんなダーウを見つめていた。


「ふむぅ~」

 あたしも通訳しながら、訓練する。


「む? なにしてるのであるか?」「りゃ~?」


 するとスイとロアが起きた。

 スイの顔には、相変わらずロアが仮面のようにへばりついている。


「クロに教えてもらいながら精霊力の訓練。サラちゃんは魔力の訓練」

「おお、我もやるのだ」「りゃむ!」


 起きてきたスイはロアを顔に張り付けたまま、あたしの隣に座る。


「あ、サラちゃん、ミアを貸してくれて、ありがとうである」

「ん、いいよー」


 棒人形ミアをサラに返すと、スイは「うんうん」唸り始めた。

 依然としてロアを顔に張り付けたままだ。


「……スイちゃん、だいじょうぶ? それだと前がみえないな?」

「ん? 大丈夫である!」「りゃ~」


 スイはそういうが、息がしにくそうだ。


「ロア、こっちおいで」

「りゃむ?」


 ロアを呼ぶと、ぴょんと跳んで、あたしの顔にへばりついた。

 ロアのお腹はしっとりしていて、柔らかくて温かかった。


「ロアは、本当に顔がすきな?」

「りゃむ~」

「だけど、前がみえないからな?」


 あたしは顔から剥がして、お腹の前で抱っこする。


「ロアもいっしょに練習しよ」

「りゃむ~~」


 しばらく訓練していると、マリオンが部屋にやってきた。

「あ、ママ!」


 サラがマリオンに抱きつきにいく。

 それをみたスイが、あたしにぎゅっと抱きついた。


「あらあら。おやつを持ってきましたよ」


 マリオンはクッキーを持ってきてくれていた。


「やった! マリオンありがと!」「わふわふ!」

「我も食べるのである!」「りゃあ~」


 そして、みんなで美味しいクッキーを食べたのだった。

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