第69話 ルリアの能力
◇◇◇◇
ダーウの背中に乗ったルリアが手をかざし、
「くんな!」
と叫んで呪者を吹き飛ばしたとき、その威力にクロは驚愕した。
(えっ!)
やはりルリアは特別だ。今のは魔法とも少し違う。
聖女の力とでも言うべき、呪者に特効のある強力な力だ。
(もしかしたら、いけるのだ! ルリア様は、クロが思うよりずっと強かったのだ)
だから、クロは呪者に対して「消えろ」と強く念じるよう、ルリアに言った。
ルリアが念じて、先ほど呪者を吹き飛ばしたのと同じ力を発すれば呪者の足止めは容易にできる。
足止めできれば、呪われし子の解呪に、ルリアが専念できる。
解呪できれば、全員無事に逃げ出すこともできるだろう。
「わ、わかった」
ルリアは素直にうなずき「きえれー」と叫んだ。
次の瞬間、ルリアの力が、周囲をなぎ払った。
それは先ほど呪者を吹き飛ばしたのと同じ力。だが出力が段違いだ。
精霊や守護獣、そして動物たちには、全くの悪影響を与えず傷を癒やす聖なる力。
あえて、名付けるならば「癒やしの風」というべき、ルリアの力だ。
「癒やしの風」いや「癒やしの暴風」とでも言うべき、力の奔流が周囲を舐め尽くす。
蠢いていた大量の呪者は、全て浄化され天に還った。
付近に溜まっていた呪力も全て浄化されている。
呪われし子の銀色の体も八割方吹き飛んだ。
『…………』
想定していた以上のあまりの威力に、クロは固まった。
(どういうことなのだ? まだクロは力を貸してないのに)
ルリアが力を発動させた直後に、クロは力を貸すつもりだった。
だが、発動する暇すら無かった。それほど速く、威力が凄まじかった。
普通の魔導師ならば、精霊が力を貸し、それを魔力回路に貯めてから魔法を発動する。
だが、ルリアは精霊でもあるので、自力で魔法を発動できるのだ。
だから、魔法の発動に合わせて、魔力を貸した方がいい。
魔力回路に魔力を貯めるという行為それ自体、体への負担になるのだから。
そう考えてタイミングを見計らっていたら、全て終わっていた。
ルリアはクロが考えていたよりも、はるかに強かった。
「ク、クロ、どういうことなのだ?」
混乱しているルリアに尋ねられて、クロは我に返る。
『えっと、詳しく話すと長くなるからあとで。簡単に言うとルリア様が解呪したのだ』
「え? 解呪って、呪者を……え?」
『詳しくは後なのだ。それより、ルリアさま。だいじょうぶ? 意識がもうろうとかしていない?』
並の術者には不可能な出力だ。死んでいてもおかしくない。それほどの威力だった。
「すこし、つかれたな?」
『疲れるはずなのだ』
やはりルリアは疲れたらしい。
今回、精霊たちはルリアに力を貸していない。
だというのに、あれほどの威力を出せたことが異常だった。
いや、精霊が力を貸したとしても、あれほどの威力をだせる術者はいない。
ルリアはほんとうに桁違いの存在らしい。
(きっとルリアさまは前世より強いのだ)
だが、これほどの力の行使が体に良いわけが無い。
ルリア自身は、少し疲れたしか言っていないが、気絶しそうなほど疲れているに違いない。
(やっぱり危険なのだ)
ルリアは自分のできることを知れば、何度だって使おうとするだろう。
守護獣や精霊を助けるためならば、自分の身を顧みずに使ってしまうに違いない。
そうなれば、健やかな成長が阻害される可能性も高い。
疲れ果てれば当然病気になりやすくなる。
早死にしやすくなったりする可能性だって高くなる。
(大人になるまで……、強力な力は極力使わせないようにしないといけないのだ!)
クロは強い決意を持って、ルリアの顔をじっと見た。
すると、ルリアはにこりと笑って、撫でてくれた。
◇◇◇◇
あたしが「すこし、つかれたな?」と言っても、クロはぼーっとこちらを見つめていた。
クロは、緊張が解けて気が緩んだのだろう。
さっきまでブルブル震えて怯えていたので致し方のないことだ。
心の中で「ルリアにまかせて」といいながら、クロのことを優しく撫でた。
クロの分まであたしがしっかりしないといけない。
「ダーウ。のろわれた子をたすけないと!」
「わふ!」
混乱して走るのを止めていたダーウが走り出す。
呪者がいなくなったのなら、安心して解呪ができる。
巨大な呪われた子は、半分ぐらいの大きさになって倒れている。
どうやら、半分ぐらい解呪できたようだが、まだ呪いは完全に解けていない。
呪われた子の近くにダーウがたどり着いたので、背から飛び降りる。
「ありがと、ダーウ!」
「……ぎやああ」
その子の体長は、先ほどの半分ぐらいになっている。
だが、四足で、羽が生えており、口が大きく裂けているのは変わらない。
「あんしんしろ。すぐにかいじゅする」
あたしは、その子の銀色の体に両手で触れる。
銀色のなにかが、浸食しようとしてくるような嫌な感触がする。
「のろい、あっちいけー」
あたしは気合いを入れて叫んだ。
――バシュン
不思議な音して、銀色の体が蒸発するかのように消える。
「……ゥ……ゥ……」
消えたあとには、小さくて真っ赤で綺麗な竜がいた。
意識朦朧となりながら浅い呼吸を繰り返している。
「え?」
あたしは言葉を失った。
そこにいたのは、死んだはずの精霊王ロアだった。
「いや、そんなわけないな? でも……そっくり」
きっとロアではないのだろう。でもロアに生き写しだった。
※※※
一巻が発売になりました!どうぞよろしくおねがいいたします。
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