第38話 呪いと守護獣
マリオンを治すのは決定だ。
「もんだいは……マリオンにあえないことだなー」
「こっこ」
「うむ。そう。うつるのが厄介なのだな」
うつる病気でなければ、父もあわせてくれただろう。
「きゅきゅ?」
「そだなー。せっとくしてもむだだなー」
あたしがいくら説得しても、父はマリオンに会う許可を出してくれないだろう。
「むむー」
布団の中で、ダーウ、キャロ、コルコと相談していると、
『どこにいるか、調べたらいいのだ』
寝台の下からにょきっと生えるようにクロが現われた。
「精霊はべんりだなー」
物理的な存在ではないので、布団も寝台も関係ないのだ。
そのうえクロは輝いているので布団の中が明るくなった。
「わふう」
そんなクロを見て、嬉しかったのだろう。
ダーウがはしゃいで、パクッとクロを咥えた。
クロは美味しいのかも知れなかった。
『や、やめるのだ、ダーウ、よだれまみれになるのだ!』
「……」
ダーウの口の周囲がぼんやり光っている。
「ダーウ、ぺっするのだ。ぺっ」
「……んべ」
名残惜しそうに、ダーウはクロを口から離す。
びちゃっとクロが下に落ちた。
クロはダーウの唾液まみれだ。
「どういうげんりなのだ?」
物理的なダーウのよだれが、なぜ物理的な存在ではないクロにくっつくのか。
謎すぎて、理解できない。
「それに、あかるいのも、どういうげんり?」
『物理的な光じゃないから、他の人には暗いままで、見えないのだ』
クロは体に付いたよだれをダーウの毛皮で拭っている。
「ほえー。すごい」
本当に便利だ。一家に一台クロが欲しい。
いや、精霊を見られないと、そもそもクロの光も見られないから意味がないのか。
そんなことを考えていると、クロが二足歩行で立ち上がって、胸を張る。
「たてたのか。あ、とべるからたてるか」
飛べると言うことは、足を使わなくても姿勢を維持できると言うこと。
立てて当然なのかもしれない。
『そんなことより、話は聞いたのだ!』
「きいてたかー。どうしたらいいかな?」
『クロの友達に頼んでマリオンのこと調べるのだ』
「え?」「わふ?」「きゅ?」「こ?」
あたしを含めて、クロ以外のみんなが驚いた。
「ともだちおったか?」
『ぼくを何だと思っているのだ?』
「だって、精霊はひとの顔をみわけるのにがてだからなー」
精霊は人ではないので、人を見分けるのは当然苦手なのだ。
人だって一緒に暮らしていないヤギの顔をみわけるのは難しい。
それと同じである。
そして、クロには精霊以外の友達がいるように思えない。
『だいじょぶー』『とくいー』『るりあーさまー』
精霊たちがいつの間にか布団の中に集まってきていた。
ぽわぽわ光っている精霊たちの光で、布団の中はまるで昼間のように明るい。
「どうかんがえても、だいじょうぶじゃない」
『えー』『そなことないー』『なでてー』
あたしはぽわぽわした精霊たちを撫でる。
「伝えても、マリオンをしらない精霊が、マリオンをくべつできるわけない」
年齢と性別、身長などを伝えても、精霊がマリオンを特定するのは不可能だ。
「それに、このこたちがマリオンの家をみつけられるとはおもえないし」
毎日、一緒に過していたあたしたちの周りにいる精霊ならば、マリオンのことを見分けられるだろう。
だが、今度は逆にマリオンの家を見つけられず、迷子になるのがオチである。
『できるー』『とくいー』『きゃっきゃ』
精霊たちはそういうが、クロ以外の精霊は、まるでダーウのように幼い子供なのだ。
迷子になったあげく、最悪戻って来られなくなる可能性も高い。
そうなったら、幼い精霊は心細くて泣いてしまうだろう。可哀想だ。
『安心するのだ。精霊じゃないのだ』
「え?」「わふ?」「きゅる?」「こぅこ」
『えー』『うそだー』『だっこしてー』
クロに精霊以外の友達がいるとは誰も思っていなかった。
あたしは仰向けになって、ほわほわした精霊をお腹の上で抱っこする。
キャロとコッコと精霊に寄り添うように、体を寄せてくれた。温かい。
『きゃっきゃ』
精霊が楽しそうなので良かった。
「クロの精霊いがいのともだちって、だれなの?」
『守護獣なのだ』
「わふう?」
なんだそれはと、ダーウが聞いている。
『ダーウ……そなた……』
「わふ?」
クロが呆れた様子でダーウを見ている。
「あたしもしらない。しゅごじゅうってなんなのだ?」
「わふわふ」
一緒だねと、嬉しそうにダーウが顔を舐めてくる。
『しかたないのだ。守護獣の説明からするのだ』
「たのむのだ」「わふ」
しっかりもののキャロとコルコは守護獣について既に知っているようだ。
そんな気配が漂っている。
『守護獣は精霊を呪者から守る存在なのだ』
「ほうほう? じゅしゃ?」
『呪者という精霊を食べる悪い奴がいるのだ! その呪者を倒してくれるのが守護獣なのだ!』
「こわい!」「わう……」
ダーウもあたしと一緒に怖がっている。
『ダーウ、そなたも守護獣なのだぞ? 怖がってどうするのだ』
「わふ?」
『知らぬとは……呆れた守護獣なのだ』
「……わふぅ」
しょんぼりしたダーウの頭を撫でる。
「ダーウはしらなくてもしかたない。あかちゃんなのだから!」
「わふわふ!」
ダーウは「ぼくは赤ちゃんじゃないよ」と言っている。
だが、赤ちゃんほどそう言うものである。
「ダーウは、あかちゃんだけど、あたしを守ってくれているからえらい」
「わふわふ」
ダーウは嬉しそうに尻尾を揺らす。おかげで布団がバフバフ動いた。
「わふわふ」
ダーウは「呪者がきたら守るよ!」と言ってくれている気がした。
「ダーウ。まもるのはクロだよ。ルリアは精霊じゃないから、だいじょうぶ」
『呪者は人も襲うのだ』
「えぇっ……!? ほんとに?」
『襲うのだ』
「こ、こわい」
「ばう!」
改めてダーウが呪者は任せろと言ってくれた。心強い。
「あっ! わすれてた!」
『なにをなのだ?』
「きのう、じゅりょく? ってのについて、あとではなすって、クロがいってた!」
『そうだったのだ』
剣術の練習で精霊を殴ることをためらうあたしに、呪力を使わなければ精霊は傷つかないといった。
そして、呪力については長くなるからあとで説明するとも言ったのだ。
『そう、ルリア様の推測の通りなのだ』
そういって、クロは呪力に説明してくれる。
精霊の天敵である呪者の力が呪力である。
前世の唯一神の教会の暴挙、精霊殺し未遂は、呪力を使って行なわれた。
「そうだったかーこわいのだ」
『ルリア様なら、呪者にも勝てるのだ』
「なぜなのだ?」
『半分精霊だからなのだ』
「どういうことなのだ?」
本当にどういうことなのだろう?
半分精霊など、意味がわからない。
『うーん、説明が難しいし、クロもよくわかんないけど、そういうものなのだ』
「そういうものなのかー」
『そうなのだ。実際、ルリア様が生まれた直後、アマーリアにかけられた呪力を吹き飛ばしたのだ』
「ええ? かーさまの?」
『そうなのだ。アマーリアは呪者の呪いにかけられていて死にかけていたけど、ルリア様がその呪いを解いたのだ』
「……むう……あ、あれか?」
『あれ?』
「あれは……うまれてすぐのこと……かーさまに黒いもやがみえた」
黒い靄はいつのまにか消えていたので、深く考えてはいなかった。
『あ、やっぱり見えていたのだ? というか、生まれてすぐなのに覚えているのだ?』
「おぼえてる。たぶん、ぜんせがあるからじゃないかの?」
『そっかー。そういうものなのだなぁー』
「でも、ルリアはなにもしてない」
『いや、見てたのだ。ルリア様が解いたのだ』
「むむう」
身に覚えにないことだが、クロがそういうのでそうなのかもしれない。
「あの黒いもやみたいなのをみたら、はらえばいいの?」
『そうなのだ』
どうやって払えば良いのかはわからないが、赤ちゃんのときでもできたなら、きっとできるだろう。
そう信じたい。
『それで本題なのだ』
「ほんだい?」「わふ?」
あたしとダーウが首をかしげる。
『クロの友達の守護獣にマリオンを探してもらうっていう話なのだ』
「あ、そうだった」
クロに精霊以外の友達がいるという事実に驚きすぎて、いや、呪者の話が恐ろしすぎて忘れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます