五歳
第27話 にわとり
五歳になって、しばらくたったある日。
あたしは朝起きると、寝台のヘッドボードの上に立っているプレーリードッグのキャロを掴んで抱きしめる。
「キャロ、おはよう」
「きゅう」
「見張りしてくれなくても、いいのだぞ?」
「きゅ~」
キャロはいつもヘッドボードの上に立って見張りをしてくれるのだ。
見張る必要はないので、一緒に寝ようと抱っこして寝ても、気付いたらヘッドボードの上に立っていることが多い。
「キャロも、ちゃんと寝ないと」
「きゅうきゅう」
寝ているとアピールしているが、あまり寝ていないに違いない。
「寝ないとおおきくなれない」
「きゅ~」
ダーウはでかくなったのに、キャロは全然大きくならない。
きっと睡眠が足りないに違いない。
「キャロ、ルリアの頭のうえでねたらいい」
キャロを頭の上に乗せると、ダーウを撫でる。
いつもダーウは寄り添って寝てくれるのだ。
夏は暑いけども、冬はとても暖かい。
「ダーウ、おはよう」
「わ~~~~ふぅぅ」
ダーウは大きく伸びをする。
ダーウの体長は、もはや父よりでかい。
父は人族の中では身長が高い方だ。それでもダーウの方がでかいのだ。
「やっぱり、寝ているからか?」
「わふ?」
ダーウはあたしが寝ると、一緒に寝る。
そして、あたしが起きているときにも、結構寝ているのだ。
「かあさまが、寝たほうがおおきくなるっていってた……」
「わふ?」「きゃう?」
「でかく……なりたい……」
「わふわふ!」「きゅっきゅう!」
ダーウとキャロも応援してくれている。
人はでかい方がいいのだ。
小さいと虐められても抵抗しにくい。
前世でも、隷属の首輪をつけられそうになったとき、力があれば抵抗できたはずなのだ。
「ちからこそ、すべてをかいけつする……」
「わう~」「きゅきゅ」
あたしも、もっと寝た方が良いかもしれない。
あたしはダーウとキャロと一緒に寝台から出ると体を動かす。
「ふん、ふん、ふん」
「わふうわふ」「きゅっきゅ」
剣術の教師に教えてもらった体操だ。
これをすることで、体の可動域が増える。結果、戦いやすくなるらしい。
ダーウとキャロも見よう見まねで、一緒に体操してくれる。
「ふう~」
「わふ~」「きゅう~」
体操を終えると、中庭に通じる窓まで歩く。
生まれてすぐに与えられたあたしの部屋の窓は、屋敷の外に繋がっていた。
だが、その窓から襲撃されたことで、部屋が変わったのだ。
窓を開けると、春の朝の涼しい気持ちの良い風が、部屋の中に流れ込んでくる。
「むふ~」「わふ~」「きゅ~」
ダーウとキャロと大きく深呼吸していると、
「くるっぽー」「ほっほー」
たちまち、窓枠に鳥たちが集まってくる。
鳥たちは、普段は屋敷の外にある鳥小屋で暮らしているのだ。
そして、あたしが窓を開けたり、剣術の訓練で中庭に出ると集まってくる。
鳥たちの種類は多様だ。
猛禽類もいるし、普段猛禽類に狩られる立場の小鳥や鳩などもいる。
そんな多種多様な鳥たちが、一つの群れのように仲良く暮らしている。
不思議である。
生き物に詳しい母も不思議がっていた。
「おはよう、鳥たち。なかよしなのはいいこと」
「ほっほう」
すると、群れのリーダーであるフクロウが、羽をバサバサさせた。
何かを伝えたいらしい。
「どした?」
どうやら、フクロウたちは窓の外をあたしに見て欲しいようだ。
「ふむ?」
窓から体を乗り出して、下をのぞき込むと、
「こ、こけ」
「む? にわとりがおる!」
そこにはにわとりがいた。
にわとりは夕食時にたまに出てくる鳥だ。味は美味しい。
図鑑を沢山読んだので、あたしは鳥には詳しいのだ。
「ほっほー! ほうほう!」
フクロウがにわとりを、もっと見てやって欲しいとアピールしているように感じた。
実はあたしは鳥や動物たちが、何を言いたいのかなんとなくわかる。
きっと、前世、家畜小屋で生活し、現世でもダーウやキャロ、鳥たちと仲良くしているからだろう。
「むむ? そなた、怪我してるな?」
にわとりは怪我しているようだ。
傷口が見えたわけではないが、直感でそう思った。
「んしょっと」
あたしはキャロを置いて、窓枠を乗り越えて飛び降りた。
中庭の地面までから窓枠までは、あたしの身長よりずっと高い。
だが、あたしは剣術を習っているので、高いところから飛び降りたりするのも得意なのだ。
地面をゴロゴロと転がって、無事に着地する。
「ふん!」
「ばう!」「きゅっきゅ!」
ダーウは危ないことをするなと怒ったように鳴き、キャロは心配して鳴いていた。
「だいじょうぶ。つぎからは気をつける」
「バフッ!」
力強く吠えて、ダーウがぴょんと窓枠を軽々と飛び越えた。
次からは、飛び降りずに背中に乗れと言っているかのようだ。
「ありがと、次からそうする」
「わふ」
すぐにキャロも軽やかに走って、あたしの頭の上に乗った。
「にわとり。だいじょうぶか?」
怪我をしているにわとりを抱き上げる。
にわとりはキャロより大きいが、あたしは力持ちなので抱き上げることも容易い。
「……こっこ」
にわとりは逃げずに大人しく抱っこされている。
「けがのとこ、さわるよ?」
怪我の状態を調べるために、にわとりの全身を優しく撫でる。
「コケっ!」
「ごめん、いたかったな?」
「こう~」
「ふむ。どうやら、右のはねの骨と右のあしの骨がおれてる。……じゅうしょうだ」
「こぅ」
「いたいのいたいの、とんでいけー」
「ココっ!?」
なぜか、にわとりがびっくりしたような声を出した。
「どした? おまじないだ」
ただのおまじないだ。効果は無いとわかっている。
だが、あたしが転んで泣いたとき、かあさまがやってくれた。
そのとき、少し痛いのが収まった気がしたのだ。
にわとりの感じる痛さが、少しでも和らげばいい。
「みんな、にわとりのことは、ルリアにまかせろ」
「ほっほう!」「くるっぽ~」
鳥たちに見送られて、あたしは中庭から屋敷の中へと歩いて行った。
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