第28話 にわとりの症状

「ダーウ、かあさまの部屋に行って」

「わふ!」


 ダーウに乗って、肩にキャロを乗せ、にわとりを抱き、かあさまの部屋に向かう。


「きゅうきゅう」


 キャロが心配そうににわとりを見つめている。

 いつもより周囲をキョロキョロする回数が多い。

 怪我にわとりがいるから、敵にすぐに気付けるように見張ってくれているのだろう。

 

「それにしても……そなた。どうやって中庭にきた?」

「こう?」


 にわとりはきょとんとしている。


 図鑑をよく読んでいるあたしは知っているのだが、にわとりも少しは飛べるのだ。

 だが、屋敷を飛び越えて、中庭に入るのは難しかろう。


「ふくろうたちに、つれてきてもらったのか?」

「こっこう?」


 にわとりは、目をそらした。

 ばれたら、フクロウたちが怒られると思ったのかもしれない。


「おこらんよ?」

 そういって、にわとりを撫でる。


「こ~」

 にわとりは気持ちよさそうに鳴いた。


「お、お嬢様! そのにわとりを、いったいどうなされるのですか?」


 廊下を歩く侍女が、にわとりをみて驚いている。


「だいじょうぶ。今から、かあさまのところにいくのだから」

「あ、そうなのですね」


 侍女はほっとしたようだ。

 あたしがにわとりを勝手に飼おうとしていると思ったのかもしれない。


 かあさまに許可を取らずにそんなことするわけないというのに。


 かあさまの部屋の前に付いたら、しっかりとノックした。

 このまえ、ねえさまに、部屋に入る前にはノックしなさいと教えてもらったのだ。


「かあさま!」

「どうしたの? ……え? ルリア? ま、まさか?」


 かあさまも、先ほどの侍女と同じような表情を浮かべていた。


「かあさま、どした? そんな、まるでカブトムシを食べていいか聞いたときみたいな顔をして」


 あれは一年前か、二年前か。

 ダーウとキャロと話合って、カブトムシは美味しいのではないかという結論になり、かあさまに聞きに行ったのだ。

 あのときは尋ねる前から、あたしの持つカブトムシを見て、顔を引きつらせていたものだ。


 ちなみにその時のカブトムシは、食べるなと言われたので、中庭に放したらフクロウが食べた。


「い、いえ、どうしたの? ルリア」

「このこ、怪我してるから治してあげてほしい」

「怪我? 見せて?」


 あたしはにわとりを、かあさまに渡す。


「てっきり、夕ご飯に食べたいと言うのかと思ったわ」

「こっ?」


 かあさまが夕ご飯とか言うので、にわとりがビクッとした。


「そんなことしない。かあさまは、鳥小屋をつくってくれたときもそんなこといってた」

「そうだったかしら?」


 かあさまはすぐ食べるとかいう。

 食い意地が張っているのかもしれない。

 今度、かあさまにおやつを分けてあげよう。


 かあさまはしばらくにわとりを調べる。

 ダーウとキャロが、心配そうにかあさまに抱っこされたにわとりを見守っている。



 かあさまは「うーん」と呟いて、首をかしげる。


「……この子、怪我してないように見えるけど」

「そんなはずない。足と羽の骨が折れてる」

「でも、ほら、見て」


 かあさまに抱っこされたにわとりを撫でる。

「こここ」

 にわとりは気持ちよさそうだ。


「ふれるよ? 痛くてもがまんしてな?」


 怪我をしていたはずの羽と足も撫でる。


「こここぅ」

 気持ちよさそうだ。


「む? さっきは痛がっていたのに……。おかしい」

「こぅ?」

「ルリアの気のせいだったのではなくて?」

「うーん。でも、骨はおれてた。皮膚をやぶってはなかったけど……」

「あきらかに折れてたの?」

「おれてた。な?」

「こう」


 にわとりも折れてたと言っている。

 かあさまはしばらく無言で考えていた。


「…………でも、骨が折れてないなら、それに越したことはないわ」

「たしかに」「ここぅ」

「あなた。よかったわね」


 そういって、かあさまはにわとりを撫でた。


「わふわふ」「きゅっきゅ」

 ダーウは尻尾を振りながら、にわとりの匂いを嗅ぎに行き、キャロは嬉しそうにあたしの右肩と左肩を往復した。


「それで、ルリア。飼いたいと言うのでしょう?」

「え? うーむ」


 治療してあげなきゃとしか考えてなかった。

 だが、怪我してないからと、外に放すのは可哀想だ。


 鳥小屋で暮らすにしても飛べないから、中庭に遊びに来られない。

 それに飛べないから、外に出ればイタチや狐に簡単にやられてしまうだろう。


「骨は折れてなかったけど……。いちど、ルリアがひろったし……」

「そうね、今更夜ご飯には出来ないわよね」

「コッ?」


 夜ご飯の言葉に、にわとりはまた反応した。

 かあさまの腕から逃れようと羽をバサバサさせる。


「あら。逃げられちゃった」


 かあさまの腕から逃れたにわとりは、あたしの元に飛んでくる。


「むむ? るりあのところがいいか?」

「ここう」

「じゃあ、いっしょにくらそう。かあさま、いい?」

「仕方ないわね」

「やったー」「こっこぅ!」


 にわとりも喜んでいる。


「そなた、名前なにがいい?」

「レオナルドとかいいんじゃないかしら?」

「それはない。こうこ……こっこ、こけた、ぴいちゃん……」


 考えていると、にわとりは期待のこもったまなざしで、あたしを見上げてくる。

 実際に口にして、しっくりくる名前を探る。


「ふむ! やっぱりコルコ! そなたはコルコだぞ」

「ここう!」


 コルコは嬉しそうに鳴いた。

 ダーウとキャロも嬉しそうにはしゃいでいた。

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