第24話 冬支度

 冬が近づいている。


「きょうはさむいな!」

「わふ」


 今日も今日とて、ダーウと一緒に、中庭で木の剣をふる。


 あたしは春に生まれた。そして三歳の誕生日のすぐ後ぐらいから剣術の練習を始めたのだ。

 だから、もう半年以上、ほぼ毎日剣を振っていることになる。


「いいうごきになってきた?」

「ばふ」


 ダーウもいい動きだと言ってくれているようだった。

 中庭で休憩していると、鳥たちとプレーリードッグが駆け寄ってくる。


「…………みんな……さむくないか?」

「くるっぽー」「ぴぃぴい」「きゅいきゅい」


 みんな、いつもより体を押しつけてくる。

 冬だから寒いのかもしれない。


「むう……」


 寒いのはつらい。

 前世では隙間風がひどい家畜小屋で、ぼろきれのような服一枚しか貰えなかった。


 毛布など当然貰えるわけもなく、冬は死にそうなほど寒かった。

 精霊魔法で室温を上げて、ヤギたちが囲んで暖めてくれたから生き延びることができた。


「……やぎたちのおかげ」

「わふ?」

「とりたちもさむいな? るりあのへやにはいれるようにおねがいしにいこう」

「ぴぃぴぃ」「ほっほお」


 母から「何かを部屋に連れ込むときは絶対に教えてね」ときつく言われているのだ。


「ぷれーりーどっぐも、はいりたいな?」

「きゅい」

「うむ。じゃあ、みんな、ついてくるといい」


 剣術の練習が終わったので、プレーリードッグを抱っこして、ダーウの背に乗り母の元へと向かう。

 鳥たちはぴょんぴょん跳ねてついてくる。


「お、お嬢様!?」

「だいじょうぶ。かあさまにきょかをもらいにいく」


 途中で出会った者が慌てているので、安心させた。


 母の部屋に付くと、一気にドアを開けて飛び込んだ。

「かあさま!」

「ルリア、どうしたの……か……しら」

 母は私の後ろに付いてきている大量の鳥を見て固まった。


「とりがさむがっているから、つれてきた」

「あ、食べるわけではないのね」

「ぴ、ぴぃ」


 鳥たちが驚いている。


「ともだちをたべるわけない」

「そ、そうよね、私、てっきり……」


 母はたまに突拍子も無いことをいうのだ。


「かあさま。ふゆがくる。とりがさむい。だからるりあのへやにすむ」

「うーん、そうねぇ。難しいかもしれないわね」

「だめか?」

「ぴぃ……」「ほう……」


 母から許可を貰えなそうだと思ったのか、鳥たちもしょんぼりしていた。

 鳥たちが凍えないように、説得しなければならない。


「さむいとかなしい。とりたちがかなしいと、るりあもかなしい」

「うーん。母も意地悪で言っているわけではないの」

「うむ?」

「鳥と一緒に住むとなると、問題点がいくつかあるわ」

「……もんだいてん」


 母は丁寧に説明してくれた。

 鳥は体の構造上、うんこを我慢できない。だから部屋中がうんこだらけになる。

 それに鳥は、種類によっても違うが、脂粉と呼ばれる粉を出す。羽も落とす。

 だから、部屋の中が糞と粉と羽だらけになる。


「一羽ならまだしも、大量の鳥と一緒に過したら、大変よ?」

「るりあはだいじょうぶ!」

「大丈夫ではないわ。ルリアが病気になりかねない。だから許可はできません」

「むむう」


 窓を開けていたら勝手に入ってきたという体で、なし崩し的に認めさせようか。

 私は戦略家なので、そんなことを考える。


「しかたない」

「あ、ルリア。まさかと思うけど、窓を開けていたら勝手に入ってきたとか、そういう言い訳が通用すると思っているのかしら?」

「ち、ちがう」

「そう? それならいいのだけど」


 母はそういってにこりと笑った。作戦が見破られてしまった。

 この作戦は使えないかもしれない。


 新しい作戦を考えていると、

「そうね……。屋敷の外に鳥小屋を作ってもらいましょうか? それならルリアも心配じゃないでしょう?」


 近くに鳥小屋があれば、会いたいときに会いに来てくれるだろう。

 鳥たちは夜は小屋の中で眠れるし、雨や雪が降っても風邪を引かない。

 だが、鳥小屋付きの王族の屋敷など聞いたことがない。


「……いいの?」

「いいわよ。だってそうしないと、ルリアはこっそり部屋の中にいれちゃうでしょう?」

「そ、そんなことしない」

「そう? それならいいのだけど」


 母はそういって、頭を撫でてくれた。


「あの! とりごやは、あったかくして?」

「暖かくね。大工さんにおねがいしておくわね」

「うん!」


 本当に寒いのはつらいのだ。そんな思いを鳥たちがするのは悲しい。


「あ、かーさま。このこは?」

「きゅぴい」

「プレーリードッグ?」

「そう。うんこがまんできるし、しふんもださない!」


 プレーリードッグは鳥ではないので、鳥小屋に入れたら可哀想だ。

 鳥とプレーリードッグは、快適な環境自体違うのだから。


「そうね……、ちゃんとおトイレできるの?」

「きゅいきゅい!」

「といれ、できるって」

「本当に、できるって言ったのかしら……」


 母はプレーリドッグを撫でながら、しばらく考えた。


「ルリア、ちゃんと責任もって飼えるの?」

「かえる!」

「トイレもルリアが教えるのよ?」

「わかった!」

「じゃあ、飼ってもいいわ」


 母から許可が出た。


「よかったな!」

「きゅぷい」


 プレーリードッグも嬉しそうだった。


「でも、洗わないといけないわ。おねがい」

「はい、畏まりました。お嬢様、失礼しますね」


 侍女は私が抱っこしていたプレーリードッグを抱き上げて、どこかに連れて行った。

「きゅうぃ~」

「だいじょうぶだよ! あとでね」


 不安そうになくプレーリードッグに声をかけた。


「これでいいかしら?」

「ありがと! むふー。かあさま。どうぶつにくわしい?」

「そうよ。少しだけ詳しいわ」


 やっぱり、母は凄いと思う。

 今度、ヤギについても聞いておこう。そう思った。

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