第21話 父との交渉
兄の剣術の練習を見て、鳥たちに囲まれた日の夕食後。
あたしは居間で父のひざの上で抱っこされていた。
周囲には母と兄姉、そしてダーウがいる。
「とーさま! おねがいがある!」
「お願い? どんなことかな?」
「けんじゅつをれんしゅうする!」
「け、剣術かい? どうして急に」
父は戸惑っている。母は「あらあら」と微笑んでいた。
「今日私の剣術訓練をルリアが見学していたので、それで真似をしたくなったのかも」
「ルリアはギルベルトの真似がしたいのね」
母はにこにこしながら、ダーウのことを撫でている。
「よのなかは、きけんがいっぱい。みをまもれないとだめ」
「それは……そうだが、護衛がいるから、怖がらなくて大丈夫だよ?」
父は優しく諭すように言う。
「でも、いつおそわれるか、わからん」
そういうと、父と母は顔を見合わせる。
兄と姉も心配そうに私の顔を見た。
生まれたばかりの頃、あたしが襲われたことを思い出しているのかもしれない。
「……でも、ルリア。女の子は剣術を学ばないものなのよ? この姉も習っていないもの」
「ねーさまもれんしゅうしたほうがいい。さらわれる。いえのなかもあんぜんではない」
姉はとても可愛い。悪い人にさらわれかねない。
いざという時に身を守れないとだめなのだ。
女だから男だからと言っている場合ではない。
敵は、こちらが弱いことを喜びはしても、弱さに配慮などしてくれないのだから。
「けんだけでは、たりない! まほうもれんしゅうしたい!」
「ダメだ!」
突然、父が大声を出したので、びっくりした。
「すまない。ルリア。でもね。魔法はダメだ」
「どして? まほうはつよい」
「ずっとダメってことじゃないよ。ルリアはまだ三歳だ。幼い子供が魔法を使うと体に良くないからね」
「そなの?」
前世の頃は五歳から、だいたい週二の頻度で、大魔法を撃ちまくっていた。
だけど、なにも問題なかったと思う。
「背が伸びなくなるよ?」
「ぬな!」
変な声が出た。確かに前世のあたしは背が低かった。
年下の従妹より、ずっと背が低かったのだ。
「……まほうの、まほうの……せいだったかー」
あまりにも衝撃的な事実だった。
魔法で背が伸びなくなるのならば、前世のあたしが小さかったのも納得である。
「? とにかく、魔法はダメだよ。大きくなるまではね」
「兄も最近やっと魔法の練習を始めたんだ。ルリアも十三歳ぐらいになるまでダメだよ」
「わかった!」
父と兄に言われて、魔法を使わないことにした。
背が伸びないのは困るからだ。
「……それで、ルリア。どうしても剣術を習いたいのかい?」
「ならいたい!」
「あなた、習わせてあげましょうよ? 魔法を陰で使われるよりはずっと安心よ?」
「かーさま、ありがと」
母が味方をしてくれた。とても嬉しい。
「うーん。そうだな。わかった。ルリア。ギルベルトの先生に一緒に教えてくれるようお願いしてみよう」
「とーさま、ありがと! あ、ついでに、もじもべんきょうしたい! ほんよむ!」
「あ、ああ、もちろん構わないよ」
「やたー」
剣術という許可を得にくいものから要求したおかげで、文字の勉強はあっさり認められた。
これが逆ならば「三歳に文字を教えるのは早いのでは?」みたいな話になりかねなかったところだ。
「るりあは、せんりゃくか……むふ」
「そうだね、ルリアは戦略家だね」
「ルリアはかわいいねー」
なぜか父と兄に頭を撫でられた。
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