初、転移転生者。

「そ、な」

『大丈夫ですよ、彼はアナタを害する気は無いですから』


《ルツと申します、転移転生者の関係者です》

「な、そん」

『会わせる事に対してアナタに同意を求めなかったのは謝罪します、すみませんでした』


「何で教えちゃうんだよ?!」

《転移なのか、転生者なのか先ずは教えて貰えますか?》


「そこも言うつもりは無いぞ、ソッチの情報を開示しない限りな」


《何を、心配なさってるのでしょうか》

「殺される事だよ、それこそ、他の転移転生者に」


《何故》

「俺が誰かにとって邪魔な知識を持ってたら、邪魔になるし、利用したいヤツには利用されるかも知れない。そうなると結局は殺される確率は高いだろ、だから、この時代的には殺されるな、と」


《それ程の知識を持ってると言う事ですか?》


「持ってる」

『少し例外的でしたので、コチラも例外的に保護をさせて頂いているんです』


「アンタ何も言って無いだろうな」

『はい、神に誓って』


 ローシュの為に何かをするつもりが、コレは。


《では、先ず、アナタの要求を》

「先ずは俺に性転換の魔道具を用意しろ、話はそれからだ」


 ローシュを関わらせない為に、動いた筈が。


「ルツ」

《すみません》

「ベール、認識阻害が掛かってるな」


「まぁ、はい」

「魔道具は俺の代だけで良い、いずれは返す」


「あの、理由を」

「俺の元の性別は男だ」


「となると」

「そこがまたややこしいんだが、まぁ、魔道具が先だな」


「もう生理が?」

「いや、だが俺は女として男に抱かれる気はさらさら無いんでな、対策はさせて貰う」


「結構、気を許してくれるんですね?」

「天使を信用してな、コレで俺が死んでも俺は悪くねぇ、悪いのは案内してきた天使だ」


「成程。ルツ、準備をしましょう」

《はい》


 そうして、彼女、彼に魔道具を渡す事に。


「はー、地の魔石か、寒色系のは無いのか?」


「何故、でしょう」

「いや、量と質で問題の大きさが決まるかもと思ってな」


「ぁあ、生憎と私は残った側なので」


「成程、何でだ?」

「向こうがクソだったので」


「中世より、か」

「文化文明に関しては、同じ中世では無いかと」


「ユーゴスラビア王国は凄い中世してるって聞いたぞ」

「そうですか」


「今度はコッチが信用を得る側、か」

「出来れば、お願いしたく」


「見ての通り俺はベトナムから来た、しかもラオガイ、中つ国と国境を接する街だ。ココでも向こうでもな」


「私はココです」

「成程」


「2000年代です」

「成程」


「兵器に関する知識は無いですが、何処まで推し進めるべきかと、悩んではいます」


「何を、どうするつもりだ」


「貝の、養殖を広めるかどうか」


「ぁあ、真珠貝の養殖に繋がるかも、か」

「はい」


「俺が危惧してるのは、俺が知ってる世界とは違ってしまう事、史実と違う事が起こる事。だから俺は何も出来ない、成せない、帰れない。体の事以外、ただ流れに沿い、死ぬつもりだったんだが」

「コレは沿うべき流れなのかどうか、ですね」


「転移転生者を含んでココは機能してる、だが俺は俺を異物と見做し、反応させないつもりだったんだが」

「ルツが接触してしまった」


「だな、しかも天使の手引きでだ、他にも居ただろ」

『はい』


「ったく、余計な事を言わないのは偉いよ全く」


「アナタの知る正史を知る方法は」

「無いな、知れば変える事に繋がる、そして俺が教える事も同じ。ただ、アンタの知る正史は聞きたい、無条件でだ」


「世界大戦が2度、いえ、ある意味では3度目が有ったかと」


「3度目は」

「ウチの隣国、直ぐ横の、です」


「ぁあ、マジか」


「あの」

「俺は転移者だが、つかマジで俺は何も知らんからな。平凡で凡庸で、それこそ兵器に繋がる知識は皆無」

『彼の中を全て見させて頂きましたが、確かに存在はしていません』


「存在してるのは殆ど歴史、しかもココのと向こうの、俺は転生者の転移者だ」


「それは」

「ほら、知りたくなったろ。だが、分かるだろ、観測者が観測対象に与える作用の事。知るって事がどれ程の事か、良い例だよな本当に」


「平和か、だけでも」

「ダメだな」


「ですよね」


「ただ、戻りはしたい、が」

「何かを成して影響を出したくない」


「だな」


 成したくても成せない者が来る事が有るとは。

 しかも正史派、ココの、真の正史派が。




「あの、こう、逆に知るのはどうでしょう?」


「俺を動かす気なら」

「いえ、意味が無い事など無い派なので、オッカムの剃刀理論的に」


「俺が知る事に意味が有る、と」

「それに、その体で戻って大丈夫なのか、なんですが」


「中つ国っても遊牧民が結構居るからな、流れ者を排除しない村は幾つか知ってるんで、そこに行くつもりだ」


「何故、ご自分で」

「何かを要求すれば対価を求められる、だから要求しなかっただけだ」


「何も変化を与えないのが、願いなんですよね」


「おう、だが探ってくれるなよ、マジで変化は望んで無い」


「となると、聞きたい事も」

「無い」


「暮らしに不自由は」

「コレで無くなった」


「真珠養殖の年代を聞いて、寧ろ、違わない様にするとしてもダメでしょうか」


「そう、沿うと、どう約束する気だ」

「ギアスで、神に誓わせて頂こうかと」


「どう言う?結構、難しく無いか?」

「ですよね、正史だとして無理に推し進めて違ったら正史と違ってしまうかも知れないですし、違うかもと成さないと逆に正史と違ってしまう」


「そこなんだよなぁ、情報をくれ」

「オーストリアやハワイで実験しようかと」


「成程、アンタの名は?」

「ローシュ、ですが」


「そう全世界の歴史を知ってるワケじゃないんだが」

「若しくはロッサ・フラウ、赤に通じる名を各国で使ってはいますが」


「各国って、なら何かした事は」

「何も、表に私の名を残さない様にと、しておりますので」


「あっ、クソっ」

「あ、本当にそうですからね、後代の為と私の為に。アレです、叩かれたく無いのと、知り合いが来て嫌な気持ちにならない様にとの理由なんです」


「ぁあ、どんな名君も後代で叩かれる事が有るしな」

「寧ろ、名を残したい者の気が知れない。それこそ、全く見知らぬ逆恨み相手が来たら、身内が被害に遭うかも知れませんし」


「成程、確かにな」

「それと、身内にクソも居りますので、権威を傘に何かされても困りますから」


「しかも自分が死んだ後なら余計にな、確かに、そうだな」


「あの、探る為の質問では無いんですが。こう、関わる事が流れに沿う事だとは」

「ちょっと考えてはいる、アンタの名が有名ならアレだったんだが、無名のままに潜むなら話が変わる。パラドックスが起きなさそうなんだよな、この状況」


「ただ、もう少し私の情報を知って、検討して頂いた方が良いかと」


「何をしたんだ?」

「フランスでメリュジーヌ様を擁立しました、神の」


「真実かどうかは神に聞けるか、後は、人が確認出来そうなのは」

「してる最中です、秘密結社フリーメーソンの設立中です」


「向こうでもコッチでも、いや、ややこしいなこの言い方。俺の最初の世界を0として、転生先が2、で過去らしきココを1とするが。0で詳細は不明なまま、設立年度も不明、しかもアンタが影で動いてるってか」

「はい、因みにセルビアのベリグラードのネマニャ家が、既に秘密結社です」


「マジかよ」

「教会用の監視者で、秘密結社の名だけ、フリーメーソンへの加入は最近です」


「後は」


「あの、寧ろ、私が殺される危険性を考えているんですが?」

「いや、もうアンタはココの者だ、それが世界の意志なんだろうしな」


「世界の意志?」


「ココに呼んだ者について、考えた事は無いのか?」


「それは」

《王が呼んだのです、ココの王が》

「アンタ見てたのか?」


《いえ、ですが》

「ほう、なら王に会わせろ、俺が着替え終わるまでにな」


 私を呼んだのは、世界?




『どうも、転移者様』

「どうやって呼んだ、魔法陣か?詠唱か?違うよな、偶々拾ったのを呼んだ、として便利に使ってるだけ。お前は何を成す気だ?」


 こうバレるかよ。

 甘かったわ。


『すまんルツ』

《どうして、コレではローシュに嘘を》

「で、何でだ、何をする気だ」


『姉上も俺も望むのは平和、和平、平定だ』

『ごめんなさいね、本当に、悪気は無かったのよ』


「アンタは?」

『アリアドネ、夫は』

『デュオニソスだ、唆したのは僕らだ、どうか彼を許してやって欲しい』

『いや、実行したのは俺だ、すまんルツ』


《なら、どうして》

『気が付いたらお前が本気で、つか惚れるとか思わんだろうが、50年モノの童貞だぞ?』


「お前、童貞か」

『いや、そこもまた事情が有ってな?童貞だったんだわ』


「何が起こってるんだよココは」

『おっ、聞いてくれちゃう?』


「まぁ、聞くだけならな」

『ウチさ、転移者が来るの2回目だったんだわ、その前は20年前に70過ぎだって言う爺さんが来てな。その前は転生者が俺の乳母で、どっちも内乱で死んだんだわ、俺の身内が殺しちまった』


「なら、アンタの事も」

『串刺し公ブラド3世、吸血鬼の元、だろ。乳母はそこら辺を知らない人間でな、カンボジアで若い時に死んで、ココで医者みたいな事をして生きてた。そんで爺さんを拾って、時代や国が違うが同じ者だとして俺に引き合わせて、知識を教えてくれた。それこそ釘無しで樽や桶を作る職人で、その時までは、身内もマトモだったんだが』


「他の世界でアンタが次代だと入れ知恵された」

『そうそう、出来の良い樽のせいで、一神教の者に目を付けられた。それで史実通りにって牢に送られて、乳母は俺が13の時に成人の祝いだって殺されて。爺さんはそれ知って、軍の大半を片付けて、死んじまった。俺が遊学してると信じてて、謝られた、俺がちゃんと逆らってたら、死ななかったかも知れないのに』


「名は」

『タケヒサ・タケゾウだとか言ってたが、偽名かもな、姉上の本当の名も俺は知らんし』


 確かに姉上を利用した。

 けど、本当に俺は。


「ココでもアンタは恐怖王、串刺し公ブラド3世だろ、何泣いてんだよ」

『俺だって泣くわバカが、ずっと悔しいまんまなんだよ、クソが』

《彼の指示では無いんです、彼女が治世の為、敢えて再現したんです》


「アンタの名も無いぞ、ローシュもタケヒサの名も、乳母が転生者だった事も」

《なら我々の行動が実ってると言う事ですね》

『だな、すまん、マジで』


《いえ、守る為の策でも有ったのだとは理解しました》


「変えたく無いと思ってたが、寧ろ、残すべきだ。転移転生者に関わる事なら、後代の為に、何かしらの形で残せ」


《それが、アナタの成すべき事ですか》

「俺の知るココの事が如何に少ないか思い知ったよ、情報の制約が有ったにしてもだ。転生者は転生者の事を、転移者は転移者の事を知れるべきだ。どう死んだのか、どうなれば死に至るのか、守るべきは何か。俺とココの者の間に、もっと、何も知らずに死ぬ者が出ると容易く想像出来る。だが俺は帰る為に何か成さなきゃならない、なら、知れる者だけが知れる何かを残させる事だろ」


『こう、知って、向こうへと記憶を』

「持ち越せない可能性が高い、それこそ矛盾が生じる。俺が変化に気付いたとしたら、寧ろ、それは戻った筈の世界での異物の証拠に。コレもだが、アイツには絶対に伝えないで欲しい情報が有る」


『言わん、お前を信じる』


「転移に転移を重ねた転移者が居る、その場合は過去や未来じゃない、本気で更に他の世界を渡った」


《それは、役目を》

「終える前、1、2、3から1に戻って来た」

『なら姉上は大丈夫だな』


「だがアンタは心配だろ、本気で惚れてると怖い情報の筈だ」


 マジでビビってんじゃん。


『ルツ、お前の顔で完全に涙が引っ込んだわ』

《真面目に考えて下さい、何にでも例外は存在するんですよ》

「おう、俺もだし、ソイツもだしな。しかも記録上では転移を重ねてたとしても、幻覚や妄想で片付けられてたのが殆ど、それでコッチはクソ慌てたんだ。正しい記録を正しい方法で残し、正しいく伝えるべき者に伝える」


『クソ難しそうじゃねぇか』

「あぁ、影に潜み過ぎて俺が探れて無いだけにしてもだ、俺は転生者だぞ?当事者なのに俺が知れないとか、マジで不便、有り得なさ過ぎる」


《そこを変えてしまうと、アナタの正史が変化してしまうのでは?》


「寧ろ、俺の考えが間違ってた。こんな、何も知らないで死んだ犠牲者が居たからこそ、平和の成立が遅れたのかも知れないなら変えるべき。例えココで歴史を変えても、世界ちゃんならきっとアイツを呼ぶ筈、じゃなきゃ俺はココで今直ぐに死んでやるからな!絶対に叶えろよ!アイツを呼ばないと一生恨んでやるからな!」


『転移者の知り合いが居るのか?』

「おう、名前は」




 ローシュがずっと、ぐるぐる悩んでる。


『ローシュ、どの事?』


「世界が、地球が私とクーちゃんを呼んだのかしら、と」

『だと?』


「ルツか王、それとも2人が嘘を言った事になるかも、と」


『もし、そうだったら?』


「もし、そうなら」

「ローシュー、邪魔して良いかー?」


「あ、ちょっと待って下さいね、はい」

「ベールは頑なかよ」


「トレードマークなので」

「まぁ、転生者に知り合いが居ても困るか、確かに」


「あの?」

「ぁあ、情報を教える事にした、知り合いの為にな」


「何故、急にまた」

「俺は情報を探りきれなかった、転移者の後方支援みたいな存在だったんだが、その転移者も俺も知れない情報が有って面倒が起きた感じなんだよ」


「成程」

「まぁ、俺がココで頑張っても、それでやっと正史通りに動く程度かも知れんし」


「改善するかも知れない、ですけど」

「祖父殺しのパラドックスと同じなんだよな、何か成したら消える、俺は戻るんじゃなくて単に消えるのかも知れない。けど、もっと早く平和になって、可能性と多様性が広がれば転移者が役目を負わずに済むかも知れない。クソ苦労した転移者が居るんだわ、その苦労をさせない、良い方向に変えるとなれば別に良いかもなと思ってな」


「あの、死なれるのは」

「そう大々的に表立って変えるワケじゃない、だから、もしかしたら未来は何も変わらないかも知れない。けど、俺は転生者なのに過去に転移した、その意味が有ると思った方が転移転生者の存在にも整合性が出る」


「思い切りが良いですね」

「正史の事で悩むのは転移転生者に有りがちだが、転生者の身にもなってくれよ、生きるのに不便だけど変えるなとか無理だろ。だから残れて生きてるなら、好きにして良いんだよ、程々にな」


「程々が難しいんですよぉ」

「分かる、俺もコレだけ離れた過去に飛ばされなかったら、適当に合わせろよとか考えてたわ。けどな、世界ちゃんが選んだかもなら、世界ちゃんを信じても良いだろ」


「その、世界の意志とは」

「ぁあ、呼んだのは王様ってのは嘘じゃないぞ、世界が願いを叶えてくれんのは間違い無い。だからアンタもそう思え、そう世界ちゃんを形作るのも俺らの役目だ」


「世界の意志、世界ちゃん」

「平和、和平、平定を願う転移転生者の神、世界ちゃん、な」


『あのさ、それ、他の神様とかには』

「神にすら認知不可能な存在、じゃないかと言われてる」


「確かに、平和の為に世界に選ばれたと思う方が、転移転生者を操作し易いものね」

「良い意味でも悪い意味でもな、だから各国と、ある程度の人数と関わる方が良い」


「操作されない為に」

「アンタは大丈夫だろ、他を見てもココに留まってんだしな」


「けど嘘は、ちょっと」

「ルツってのは知らなかったらしいが、ただ、俺が王と同じ状況だったら同じ事をする。アンタも、その筈だ」


「話し合ってきても」

「おう、メシに風呂に寝たいしな、じゃ、また明日」


「はい、では」


『ローシュ』

「彼をお願い、私は話し合いに行くから」


『うん』


 ケンカ、して欲しく無いんだけどな。

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