移民政策?先ずは土地開発からですね。
『優しいね、エンジェルトランペットを嗅がせてあげるなんて』
「苦痛から恨んで欲しくないのと、悲鳴や絶叫が聞きたく無かっただけよ。行きましょう」
教会が落ち着く間、クロアチア側のベリグラードに滞在して、道しか無い土地に家を建ててる最中なんだけど。
《お帰りなさい》
「ただいま。と言うかセレッサやキャラバンに協力して貰ってるのは分かるんだけど、早過ぎじゃない?」
《ドライの魔法も有りますし、レンガの量産は元からフランク王国で行われていますし、魔道具のドアが有りますから》
「それにしたって、大丈夫?」
《ロッサ・フラウは半ば神性ですし、問題無いかと》
『ローシュが居る間だけだし、教会もモルガンの神殿を許可してるから良いんじゃない?』
「崇めないと死ぬ、とかが嫌なのよ。対岸のベリグラード要塞を見下ろす設計って、どうなの?」
《まぁ、女神モルガンのご要望ですから》
「それにしたって好戦的過ぎない?」
《ネマニャ家の監視から気を逸らす為ですし、そう戦が起こらない筈の場所ですから》
『悪い子だけが怯える、それこそベナンダンティの
《それにだ、あの中州は保護区なのだろう、そこの見張りにも誰か居ないとね》
「バズウ様、保護区は保護区ですが、何の保護区だか」
《橋が架けられていないと言う事は、それだけ人に踏み入れさせるべきでは無いとし、しかも鳥の観測所が有るなら私の領域でも有るだろう》
「今、結構、湿地気味ですけど」
『アレじゃない?クロアチアとかフィンランドみたいに、排水路が必要なのかも?』
《その為の歩道の可能性も有りますね、この歩道沿いに排水路が有ってもおかしくは無いですし》
「けど、ココ凄く争いが多かったので、橋が壊された可能性も有るかと」
《それでもだ、人の手無しに成り立つ場所では無いにしても、それこそが自然なのだろう。頼んだよ、ロッサ・フラウ》
「はい、直ぐにも」
《こう、先ずは土地を抉りましょうか》
『セレッサ、水路作りの練習だね』
《ならセレッサ用の道具を試してみましょうか》
「道具?」
大戦争島とか言う物騒な中洲の島でルツが出したのは、大きな馬上槍か傘みたいな、何か。
《持って突き進んでみて下さい》
「成程、ショベルカーって言うか、ブルドーザーね」
『馬車で出来るの?』
「まぁ、500年後位にね」
そうしてセレッサは川側からグングン進んで、直ぐに指定の位置まで到達ちゃった。
『土が柔らかいけど、大丈夫かな、本当に』
植物は殆ど無いし、ただの砂洲に見えるけど。
「何度か氾濫してるって聞くし、もう少し深くして、様子見してみましょうか」
《500年後の地図では保護区でも、100年後はどうか、300年は様子見ですかね》
「気の長い話だわぁ、中間の地図が欲しい」
《そうなると、この地の者でなければ難しいかと、向こうでココまで書かれた地図が他国にまで行き渡っているとは考え難いですから》
「どの時代にしても、戦争や窃盗に使われるでしょうしね」
『あ、そうだ、僕らの家はどうする?』
「この地は直ぐにヴニッチに譲るんだし、職人が戻ってからお願いしましょう」
『けど場所は?』
「そうね……ココにお城建てちゃえば良いんじゃない、政府機関の隣。コッチは全部土地建物用の植林地か庭園か、それこそ500年後に観光名所になればコッチの勝ちだし」
『ずっと残るかもってなると、凄く頑張るだろうね』
《ですが貴族用の邸宅が有っても良いのでは?》
「じゃあ目の前のこの三角地で、道を潰して大きな三角地にして、ココは庭園にしちゃいましょう」
《ネマニャ家に頼みましょう、繋がりを持たせた方が良いでしょうし》
「ヴニッチには内緒でね、ふふふ」
《ではキャラバンに、ウムトに頑張って貰いましょうか》
「そうね、
《ローシュ》
「そんな、受け入れないわよ、婚姻をする利が無いし。ルーマニア側にも似た物を建てて貰うから、そこも考えて貰わないとね」
川向こうのボルチャは殆ど手付かず。
しかも地図とは違って池をぐるっと囲む道と、川沿いに大きな道が走ってるだけで全部農地。
『沼地の近くにする?』
「釣り堀が有る位だし、養殖場にするつもりだから、手付かずのココで良いんじゃない?」
《ドナウの川沿いですし、島も見えますが、向こうの塔から見えてしまいますよ?》
「ぁあ、じゃあ、ココ。道は通させて貰うけど、この道は出来て無いし、ココにお城と庭園が有っても良いでしょう」
『それこそ地図通りにならないかもだしね』
「それ、そこかしらね、正史派の拘りって」
『逆に、地図通りにしたい?』
「鉄道……景色が好きとかかもだけど、馬車が好きで拘るような者も出て来るのよ、有り得るわ」
『そんなに凄いの?』
「馬車が美しく走る景色を見る為、写真に収める為に、木を切ったり立ち塞がったりするのよ」
『凄いね?』
「凄いのよ、本当」
《となると、そもそも一神教者なのかどうか》
「分からなくなるわね、道や鉄道に拘ってるだけで地図に利用されただけか、地図に詳しい子と道に詳しい子が別かもだし」
『そこ、聞かないの?』
「今はもう周辺の土地には居ないそうだし、どちらかと言えば揉め事を起こしてるのは周りで利用してる者だし。会うと関わる事になる、そうなると思想の違いで揉めるかもだし、そうなると争うかもだし」
『魔女狩りに関わってるとは思わないんだ?』
「もし、そうなら。凄い我儘なのは分かるんだけど、流石に殺してて欲しいわね、神様か精霊に殺されてて欲しい」
『そんなヤツを助ける悪い神様は居ない?』
「自己否定に繋がるから居ない筈なのよ、人が途絶えれば信仰も消えるし、私みたいなのが居たら滅ぼすんだし。そうして途絶えるんだもの、そんな事をする筈が無い、そも滅びたいなら何もしないだけで良いのだから悪い事はしない」
《そう居ないとすればこそ、更に居ない事になるでしょうね》
「悪神の存在自体が矛盾する、滅びたいのに目立ちたがる様なのも、自分勝手に暴れ回るのも居ません」
ローシュが居ると思うと居る事になる、けど居ないと思うと。
もし居たら、どうなるんだろ。
《次は、譲渡までは時間が有りますが、このままオラディア周辺の事も決めましょうか》
「そうね、ウチのオラディアですら、単なる寂れた辺境の農地だったのに。全く、新しい土地まで」
《デブレツェンからセゲトまでの道が未だですし、道から始めましょう》
ハンガリーはブタペストからセゲト、ブタペストからニーレジュハーザとかはしっかりしてるんだけど。
コッチ側は全然。
『本当に余力が無くて、手を付けなかったのかな?』
《どう言う意味でしょう》
『魔獣を倒せない程弱いワケじゃないんだし、デブレンツェはちゃんとしてるし、何か変だなと思って』
《最初から、譲渡する気だったと?》
『デブレツェンとセゲトまで大きな道が無いんでしょ?ウチでだって馬車の通る所はちゃんとしてるのにさ』
《ウチは海に面してますから塩を簡単に得られますが、他国を頼るか戦を仕掛けなければ、内地は何処も難しいんですよ》
「向こうだと多分、そうした物資を教会が接収して配ってたんでしょうね」
『キャラバンが奪ったんだよね、その立場』
《ですが、完全には物流と宗教と権力が切り離せてはいませんけどね》
「無理よ、だって本当に加護を得てるんだもの」
『あ、ディンセレもココにって言いそうだよね、直ぐ近くなんだし』
「ぁあ、川で帆船も使うのだし、良いわねそれ」
《何処に建てましょうか》
セレッサが尻尾で地図を叩いたのは、大戦争島。
「鳥の観察所も有るのだし、そうね、どんなのが良いか向こうで聞いてみましょうか」
ドアを使って、ルーマニアへ。
《我の事、ちゃんと覚えておったんじゃな?》
「勿論ですよ、ただ、何でも広めるワケにはいかないので」
《衝突を避ける為ですので、広めるのはもう暫くお待ち下さい》
『けどココに祠を作ろうって話してたんだ、鳥の保護区になるかもって場所なんだけど』
《クソまみれは嫌なんじゃけど?》
「ですよねぇ」
『けどまだ何も、アレは?水路の近く』
「ココからココまで排水路として削ったんですよ、まだ木も生えてませんし、氾濫もするそうなので」
『セレッサがココが良いだろうって』
《ふむ、何か新しい案を出せい、ローシュや》
「えー、っと、木で囲む?」
《ほう?》
「木のウロに本来は祠を後から建てるんですが、こう、アンジェリークに木を育てて貰って入れ込もうかと」
《うむ、ソレで頼むぞぃ》
《ではもう暫くお待ち下さい、適切な樹木を選びますので》
《はよう頼むぞい!》
そして、クロアチア側のベリグラードへ。
ちょっと、コレは。
「はぁ、余計な事を言ってしまった気がする」
『新しい事はアンジェリークにも良い事だろうし、何か、カッコイイじゃん?』
「500年後は大木になってるのよ?そこを考えずに言っちゃったのよぉ」
《流石に修繕無しは有り得ないでしょうし、改修の際に大きさを合わせるかも知れませんよ》
『そしたら立派な祠に、ローシュ、何が不安?』
「正史が大事だとは言わないけど」
『ローシュの私利私欲で作るんじゃないのに、何がダメなの?』
「見本と違う事をするのが怖いのよ、向こうとは違う何か大きな事が起こった時に、真っ先に自分が違う事をしたからかもって」
《大きな流れなんですよね、歴史も運命も》
「そうだけど、小さな石ころでは変わらなくても、小さな火薬で支流は大きく変わる」
《例えアナタが齎さなくとも、いつか誰かが齎すかも知れない。なら少し早い程度か、逆に、転移転生者によって疎外されたココの歴史的には遅いのかも知れない。正しさとはココに生きる者が決めるのなら、アナタもココの者なのでは》
理屈は分かる。
もう私はココの人間、けど。
「だとしても、力が有るからこそ、控えないと」
《なら、無力化したなら、好きな様にするんですか?》
「多分、難しいと思う」
『ローシュ、自分が異物だと思ってるって事?』
「多分」
《だとしても、既に異物を取り込んだ状態でココは機能しているんですよ?》
『ソレがダメだと、ココがダメって事だよね?』
「矛盾してる気がするのは分かってるのよぉ、だけどどうしても不安になる、加減しないと他の者の意志と衝突したり邪魔する事になる。それは求めて無い、けど平和を成すのは難しい、均衡や加減が難しいのよぉ」
《加減しなかった場合、どうするつもりなんですか?》
「どう、と言われても」
『上限は有るの?』
「無いけど」
《私達も加減を考えます、ですから上限を、際限が無い領域は何処なのか教えて頂けませんか?》
「ちょっと、考えさせて」
何だかんだ私が良いと思う事は当然取り入れてる、だから完全に我慢してるかとなると、そうじゃない。
多分、そこに引け目と負い目が有る、先代達が我慢していたかも知れないと言う負い目。
《ローシュ、アナタを困らせる気は無いんです、難しいのなら》
「負い目が有るのよ、先代達への負い目、彼らが我慢してたかも知れない事を」
『だからってローシュが我慢する理由って、何?前の人達が我慢したから、僕らも我慢しないとダメな理由って何?』
「本当に、何なのかしらね?」
『それは正しくないって分かってるのに、何で?』
「王と同じよ、考えに漏れが有って、早過ぎる流れで被害が出るかも知れない」
『けど僕も知ってたら変えたいよ?ローシュや子供に楽をさせたいもん、苦労して欲しくない、便利って最高だと思う』
《ローシュ、アナタはクーリナや姪の為に、苦労させない為に行動しているのでは?》
「何で、同じ苦労をさせたいのかしらね?」
ローシュは、偶に私達の考えも及ばない問題を投げかけて来る。
《全く分からないのですが、多分、理解させたいのかと》
「その手順や理解のさせ方が正しいなら、別に良いと思うのよ、飢えと苦労を知らずに食べ物を粗末にする子は多いから」
『美食とか大食、選り好みはダメなのに、多いの?』
「私にも良く分からないんだけど、世界の為だとか美しさの為だとか、選り好みだと思って無いんじゃないかしら」
《知るべき事を知って欲しいのは分かりますが、苦労とは別なのでは》
「不器用だから、とか?」
『そんなに苦労を知らない世界なの?』
「アレよ、各家庭に上下水道が有って、氷室より有能な冷蔵庫が有って、お湯だけで食べ物が出来上がる世代の人。それより前の人は言わないのよね、寧ろ甘いかも」
『前の世代に言われた事が有るから?』
「そこは分からないけど、有るかも。憎い何かの話をするみたいに、吐き捨てる様に言ってた人が居るから」
《何か、許せないんでしょうかね》
「だからこそ、苦労を知らないからこそ理解が及ばないと思ってる、そう推測してるのだけど。じゃあ、本当に苦労して無いのかどうか、仕事の知り合い程度で分かるワケ無いのよね。未来の人付き合いって凄く薄いし、入れ替わりも激しいし」
『ローシュの言う、話が通じ難い者も居るんだし』
「そこかしらね、話が通じ難い者でも、苦労すれば多少は分かる筈だ。けど苦労の閾値に達して無くて、理解して貰えない、そのしわ寄せが来て苦労してる」
《王も似た愚痴を言ってましたが、500年先も同じ事で悩む者が居るとは》
「簡単に職を辞めさせられないし、不向きだろうと仕事に就ける、確かに同じね」
『それは何となく分かったけど、本題は?』
「あっ、そうね、上限、好き勝手した場合ね」
《無理に結論を出さなくても良いんですよ?》
「話が通じ難い者を皆殺しにして、私が許せる多様性だけを認めて、好みの者の交配をして可愛い子を増やす。デストピア的考えは有るけど、そう実行したいと思わない、結局は嫌な事には関わらなければ良いだけなんだし」
『つまり、嫌な事に関わるかもだから、躊躇ったりもしてる?』
「幸せが怖いのよ、それこそ楽しい新婚旅行も、結局は後になって借金として私が関わる事になった。私の人生はずっと、生まれる前から借金の上に成り立ってて、私が後始末をしなきゃならない人生だった。幸せの後には必ず何か嫌な事が待ってる、そう、悪い学習を、しちゃったから」
『ごめんね、だから何かしたかったんだね、新婚旅行なのに』
「ココは違うし、アナタも違う、だから大丈夫だろうとは思ってたけど」
《神々に利用させてしまった私の落ち度です、すみません》
「良いのよ、言って無かった事だし、楽しいは楽しいし」
『すみませんでした、アナタの弱点を、知らないとは言えど利用した事に』
「ガブちゃんも別に、私は利用されても良いと」
『それがアナタの弱点です、生きている事に罪を感じている、神仏をも信じるアナタが原罪を理解してしまっている。何故ですか?どうして?』
「私も姪も、私達子供が居るから離婚しないと、そう言われて育った。なら、どうして産んだのか、そこは希望的観測で何とかなると思っての事。でもダメだった、生まれなければ良かった、生きている時点で親を苦しめる存在だと確定してしまっている。なら、生きるには成果を、何かを成さないと生きていてはいけない様な気がしてる」
『だからこそ一神教を憎み、愛して下さっている』
「寧ろ、私の様な者の苦しみを理解して貰う為の話が、あの書物に纏められた時に変形してしまったのかも知れないのよね」
『そうご理解頂ける事に、感謝を』
「いえいえ」
《私達は、そうした葛藤の上に、更に悩ませてしまっているんですね》
「今はマシになったのよ、コレでもかなり、今はそこまで焦燥感は無いから」
『本当に、もう何もしなくても良いからね?だってクーリナは帰れたんだし』
「残った責任が有る、出来るのにしないのは無理」
《ですが躊躇う事は後回しにしましょう、私達が考えますから、アナタは案を出すだけ。考える事や責任は私達に》
『僕やルツ、王様を信用して、ね?』
「ちょっと、休憩しましょう」
『お風呂に入ろう、ミリツァが良い匂いの薔薇をくれたから、お風呂に入れようね』
動かなくてはいけない、けれども動き過ぎてもいけない。
そう考える人だと知っていたのに、行動や考えには、何かしら理由が有ると分かっていたのに。
『アナタと同じ気持ちです、どうか力添えをさせて下さい』
《天使にも、自責の念が有るんですね》
『万能では有りませんから』
《転移転生者と会わせて下さい》
『分かりました』
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