更に更に、その後。

観光地化の、その後。

「後は、真珠養殖は様子見として、火薬の件よね」


 理想郷ユートピアに行く途中の土地、経由地の観光地化の目途が立って、船の造船も殆ど完成した。


 忙しかったから期待してたんだけど、忘れてくれて無かったみたい。

 火薬の事。


『それなら大丈夫、人も者も回収したから』


「いつの間に?」

『えへへ、ルツと協力して探し出したんだ、ローシュは観光地とか秘密結社とかで忙しいだろうから』


「ありがとう、ごめんなさい、不器用で気が回らなかったから」

『新しいのが来るまでは大丈夫、って言うか、喜んで欲しかったんだけど?』


「あ、ありがとう」

『ちゃんと説明するから、ね?』


「是非お願い」


 そうしてルツと一緒に、説明する事に。


《元は中つ国に生まれた転生者が、キャラバン経由でポルトガルへ、その子孫が転生者の残した書物から花火を作ろうとしていたんです》


「花火」

『火薬は火薬でも、綺麗な方。それこそ呆けちゃって書き残してて、どうしても叶えたくて、一神教なら大丈夫だと思って協力してたんだって』


「そんな」

『まぁ、調合した物を盗まれてたから、だから知らないって言い張ってたんだけど』

《兄弟のウチ1人が、誑し込まれ管理が甘くなってしまっていたそうです》


『初めてでハマっちゃったみたい』


「悪い童貞の見本ね、はぁ」

『そこは反省してるって、武器に使われたの知って凄く反省してる』


「それで、どうして中つ国からポルトガルに」

《生活苦、と言うか環境が合わなかったそうで、決して中つ国に行く事も関わる事もするなと。それと火薬が武器になる事も、なので信用出来る者にだけ開示しろと教えられていたんだそうです》

『本に掟も書かれてたから、それは確か』


《火を神聖視し、神を大切に扱う国なら、と》

「ぁあ、火を崇める宗派の事だと思ったのね」

『多分、日の出国だよね、コレが出身国として書いてあったんだって』


扶桑ふそう、時代的には、予測が難しいわね。神話だとか創話が好きなら知ってるだろうし、私と同じとも限らない」

《何が有ったのか、中つ国から逃げ出していますしね》


「中つ国の情報も殆ど入らないのよね、地続きなのに」

《四凶が猛威を振るっているそうで》


『関わる?』


「関わるべきか、尋ねてしまうと関わらないといけなくなるのよね。火薬の事は収束してるの?」

《ウチの国から出られない様にしましたので、問題無いかと》

『特定の場所から出れなくさせる例の魔法陣、神様が改良して国から出られなくさせた。鎖国するし、いずれ皆に掛けるって』


《許可無しにこの国を出れば、記憶と能力が消えます》

『ローシュの言う、遺伝子に刻んだって』


《ポトゴリツァのモノとは逆に、直ぐに消せる刺青が一時許可証に、それと魔道具も》


「守る為に拘束する」

《今回は本当に守る為です》

『病に罹って朽ちて滅ぶ、だなんて嘘、魔法陣から出ると太陽の光で皮膚が焼け爛れるだけ』


《古来の魔法陣を復活させただけに過ぎなかった、悪魔を閉じ込める為の魔法陣の一種です》

『削ぎ落していって、初期化しただけなんだって』


《ですがそこに辿り着いた事だけは認めます、そう執念と才能を活かせば、大成出来たでしょう》


「向き不向きが分かっていればね、それだけで違ったのに」

《神の介入が無くなったからでしょう、自由を得た対価》

『向き不向きに関係無く仕事を選べる』


「その対価で弊害。正直、凄く不便」

《ですので特定の占いなら、教会は許可するそうです》

『木札の許可証を出そうとしてたから、玉を出させた、凄い溜め込んでるんだもん』


《地の模様、それと色合いと紋様を模写させているので時間は掛かりますが、先ずはキャラバン経由でロマにも配るそうです》

「ベナンダンティにも?」


《はい、占いと行商の許可証、教会の玉牌》

『金属じゃないし、火薬や火に直接関わらないし、教会にも溜まってたから丁度良いみたい』

「そうよね、熱心な者なら神へ捧げる」


『けどフニャ何とかはガラスと玉を交換させて横流し、ステンドグラス職人と組んでた』

「そこも、どうして技術を良い事に使わないの」

《親が性的な事に関して極度な躾を行い、男色家になってしまったそうで、彼が理解者になった事で協力したんだそうです》


「ぁあ、男娼も居たものね、成程」

『向こうも嫌じゃないみたいだし、ウチで一緒に保護してる』

《客として、ですけどね、彼の本来の相手は女性だそうですから》


『ステンドグラスは綺麗だし、材料も有るし』

《模造品を手掛かりに本物は回収させてる途中ですが、スペインと繋がっていますので、まだ泳がせています》


「魔女狩り隊は?」

『ノービサードに集まってたから、全部の首を新しい国境線の街に置いた』

《ハンガリーのゼゲトから流れる川、ティセ川よりコチラ側が新しく手に入った国の領土、教会が人質と交換すると言う形で割譲しました》


「ハンガリーは何も無しにノービサードとクロアチア州のオシェイクの川向こうを手に入れ、アルモス候はノービサードとベリグラードの川に囲まれた地を手に入れた」


《ベリグラードが三位一体により栄える、この言葉で折れたそうです》

『ノービサードで安全に監視出来るし、甘い蜜を吸えるし』

「それか、ココのСланкаменスランカーメンが地図とは違って栄えるか」


《そうですね、そうさせましょう。ハンガリーにクロアチア州とコチラへ橋を架けさせ、ベリグラードでは教会にコチラとクロアチア州に架けさせ、ついでに監視して貰いましょう》

『ヴニッチ候にベリグラードをお願いするつもりだったし、奥さんが異国の料理を覚えて職人を呼び戻さないとって、張り切ってたからね』


「ぁあ、そう言えば料理を教えて欲しいって」

《ブルガリアもコレにより調査団を派遣し、魔女狩り一掃のついでに、モラヴァ川沿いまで国境線を広げるそうです》


「ちょっと、何処まで」

Врањеブラニエからは山間部を国境とするそうです》

『領主や悪人を間引く手伝いの対価、だって』


《そしてブルガリアも川沿いや山間部、山の頂点を国境線へと変更。一部はギリシャへ割譲、代わりにアレキサンドルポリス港を課税無しで使える事になりました》

『何処も川は大事だから、水路を国境線にして一緒に守る方が良いって、再設定する事になった』


《ブルガリアはそう土地を増やさず、余力の有るギリシャが土地を広げる形になりますね》


 ユーゴスラビア王国は縮むけど、国境が変わるだけで他が何か変わるワケじゃない。


「何か、大事になってない?」

《魔王の名を使わせて頂きました、争わずに済む様に領土を治めねば、再び暴れ回るでしょうね。と》


「他にも何か、私の知らない事が有るのでは?」


《ベリグラードからギリシャまでの道の者は、教会に引き渡しました》

「何故」


《魔女狩り隊の情報集めも、ですが、面倒だったので》


「分かる」

《ですよね、アナタの苦労が良く分かりました、さっさと殺す方が早い》


「そうなのよ、制圧だけで十分。実質、傭兵よね」

《ですね》

『ベリグラードのコッチ側を整備しないとね、ココで待ってよう』


「そうね、地図とは違って何も無いし」




 各国が大きく動く中、最後の最後で姉上へ。

 ココの者に好きにさせろって言うだろうけど、俺らが良くても姉上がダメだって言うなら、ダメ。


『姉上、どうする?』

「どうするって、ティサ川沿いに分割したらハンガリーが小さくなって、ウチが大きくなっちゃうじゃない」


『それで構わないらしい』


「どうしたのよ、ハンガリーちゃん」

『なんか、セゲトを分割統治したいんだと』

『橋の知識は有っても水路の知識が無いのです、それに海に繋がれるのはドナウ川、そうなるとティサ川を有効活用出来るのはココでしょうから』


『だそうだ』


「アナタね、もう天使さんと仲良くなってるの?」

『おう』


「はぁ」

『ウチは国土の半分が山だし、オラディアとティミショアラの道を整備するのに人手は居るし。ギリギリ、アリだと思う』


「そう決めてたんでしょ、私に聞く前から」

『けど有意義な反対意見なら採用するぞ』


「こう、何とか狭められない?」

『ブルガリアにコンスタンツァとドナウ川を繋ぐ水路までの土地を割譲する、水路の共同開発と不可侵条約に裏の同盟国化も呑ませた』


「もう、私に聞く意味、よ」

『一応、念の為』


「民は」

『首都ブタペストからオーストリアのウィーンや、スロバキアのコンツェへの整備だなんだ、だから枢機卿だの司教の事が疎かになってたらしい。危うくパルマりそうな状況なんだ、不平不満は無いが、道の整備と布教すんのが教会で国だと思ってるらしい。川沿いのコッチまで民は居ない、整備が整って無いのと、キエフ公国からもお願いされてる』


「殆ど決まってんじゃないの」

『それでも姉上がダメだって言うなら止める』


「ダメと言う理由が無いから探そうとしてるんだけど」

『川境って言うならハンガリーをガッツリ貰っても良いんだ、それを細い川で妥協してるし、住んでない土地を余らせるより有効活用。しかも他国からお願いされてるんだ、良いだろ?』


「ハンガリーが取り戻したいって言ったらどうするのよ」


 そこはもう、な。


『そら川を赤く染めるか』

『洪水か何かが起こるかと』


「凄い介入するじゃない」

『いや、そこは俺らがやる、その為の川沿いの国境線で秘密結社だ』


「それ、私達が代行者を気取るなんて」

『欲しくなくても受け取らなきゃならない場合も有る、平和の為に、大義の為に。向こうは向こうで秘密結社をいつか作る筈だ、その時は明け渡す、支配の為じゃない守る為た』


「皆、そう言って」

『なら誰にさせる、国内が纏まったら次は国同士が纏まるべきだ。それを誰がやる、誰にやらせる、アルモス候かキャラバンを持つモロッコか、そうなったら表に出なきゃいけなくなるんだぞ誰かが。だからこそ裏で暗躍して、纏められる俺らがすべきだ、歴史に国の名も何も残さない為。皆が自主的に国同士で助け合おうとした、そう歴史に残す、そう残るべきだろ姉上』


「平和の為、そこまで決めてて、どうして私に聞くのよ」


『だって姉上だって抜けが無いかルツや俺に聞くだろ?それと同じだ、ちょっとは不安なんだよ、俺だって』

「どう不安なのよ」


『上手くいくと凄く良い結果になるじゃん、そこが怖い、じゃあなんで今まで誰もしなかったんだよ。って、不安なんだよ、何で誰もしなかったのか。若しくは成せなかったのか、何でだって』


「機会の問題、とか?」


『マジで言ってる?』

「国同士の話し合いは成熟度が低いと難しい、もし成熟度が足りてないなら失敗する、そう失敗しても良い様な準備をすれば良い。責任者じゃ無いからそう言えるけど、後はもう、分からないわ」


『それが聞きたかったんだわ、姉上が分からない事が俺に分かるワケが無い、コレで失敗しても俺は悪くねぇ』


「アンタねぇ」

『よし、反対意見は無し、さっさと実行するぞ、平和』




 教会から白鳩の使用禁止に伴い、私が仕えていた大司教様が罷免なされ、破門まで。


《そんな、何故》

『白鳩の行方不明数をご存知ですか』


《いえ、ですが》

『民間で使われている鳩の行方不明数とは桁違いなんです、コレでは犠牲の為の供物、主はお喜びにはなりません。民間と同じ鳩を使う、コレは新しい教皇様より教会全体への命令です』


《その、新しい方、とは》

『ボスナ州、モスタール領の領主で司教であったステファン・ムーセチ教皇様ですが、ご存知ですか』


《いえ、と言うか枢機卿の方では》

『枢機卿が決めた事、そして私達大司教は反対する理由が無いのです、では失礼させて頂きます』


《待って下さい、私は》

『貴女は知るべき場所に居ない、では』


《そんな、私は》

『役割は追って他の者が知らせます、私も忙しいんです、どうかご理解を。失礼致します』


《私は、私は領主を害した者を排除したんですよ?!》


『ぁあ、貴女でしたか、成程。では、コチラへ』


 重用されるかと思ったのに。


「あらお久し振りですね、確かに、ウチの者を刺した女ですわ」

『何と、大変、申し訳御座いません』


《大司教様、彼女は》

『彼女は平定者、教会の悪を炙り出して頂いたのです。なのに貴女ときたら、和平交渉に訪れた方の背を、後ろからだなんて』


《そんな、違います、彼女達は自決を迫っていたのですよ》

『では降伏しろと言われて領主が素直に領地を渡すべきだとでも?領地を治めるのは教会内部の事とはワケが違うのです、教会の者が首を突っ込むべきでは無い、完全に貴女は余計な事をしたんですよ』


《ですが》

『前任者の命令だとしても、教会の領分を守るべきでした、報告だけで済ませていた他の者はお咎め無し。ですが貴女は違う、人を害した』


《アレは赤い悪魔、悪しき赤き魔女だと》

『ロッサ・フラウ、コレは我々の考えでは御座いません、どうか』

「妄言を吐く者こそ、悪の、使い魔では?」


《違う、私は確かに正しいと神に》

「教会にお任せ致します、どう悪を裁くのか、私達に示して下さい」

『はい』


 私が、裁かれる側。


《そんな、違う、私は確かに天使と神を見たのです!》


『未だに行いについて反省して頂けないとは、大変残念です』

《私は見たんです、天使が》

『私はあの場には居なかった、天使除けのせいで、ですから貴女が会った者は私では無い』


《そんな、天使除け?》

『貴女も知らなかったのですね、全ての神性を撥ね退ける魔法陣の存在を』


《では、アレは》

『貴女の幻覚です、私も主も貴女に姿を見せた覚えはありません』


《そんな》

『主は仰っている筈です、汝、隣人を愛せよと』


《ですが敵を滅ぼせと》

『敵、そう敵だと目印でも付いていましたか?』


《赤い髪で、力をもってして領地を》

『赤き衣を纏い正す者の事も仰っていた筈ですよ』


《でも、守らなくては》

『悪しき者を、ですか?』


《そんな》

『信じた者が正義だと思い込むのは容易い、裏切られたと思う事は、確かに辛いでしょう』


《私は、けど、確かに。見たんです、私は見た、私は正しい》


「火刑は苦しいそうですから、最後にどうぞ、楽園へ行ける花ですよ」


 天も地も、真っ赤に燃えている。

 コレは断罪の火、この地に罰が下ったのだ。


《地が、燃えている》

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