下調べ。

 僕の朝は滞在場所で変わる。

 人が動き出すのが多くなると、その気配で早く目が覚める。


 多分、竜の性質。

 宝を守る為、人の気配を察知する能力が鋭いのかも、って。


『おはようローシュ、紅茶淹れたよ』


「おはよう、早いわね」

『畑まで距離が有るから、もう皆起きたのかも』


「ぁあ、確かに、そうかも」

『港も有るし、美味しかったね、お魚のフライ』


「そうね」


『ルツの事で話し合おうと思って、お風呂の準備もしといた』


「成程」

『起きて、全部早く終わらせよう?』


「なら手加減してくれても良いんじゃない?」


『それはそれ、コレはコレ、洗ってあげるから起きて。それとも抱っこしてく?』

「起きますぅ」


 ローシュを洗って、乾かして。


『それで、昨日のルツはどうだった?』


「まぁ、確かに、ルツの赤面はグッときたけれど」

『ほら好きじゃん?』


「まぁ、顔と声と仕草がね」

『なのに、頑固』


「アーリス、平和になれば急に死ぬ心配は無いでしょ?」


『じゃあ、なら早く平和にしよ、ごはん食べよう』

「はいはい」


 結局、ルツが真っ赤になった所でローシュは朗読を止めさせて、ローレンスと話し合うって結論になって部屋に戻った。

 コレで少しは傾いてくれたかなと思ったのに、本当に頑固。


《おはようございます》

「おはよう」

『おはようルツ、準備の手伝いしてくれる?』


《はい、ローシュは待ってて下さいね、直ぐに済ませますから》

「ありがとう」


『昨日はごめんね?良かれと思って』


《中々の試練でしたね》

『あー、試練与えちゃったかぁ』


《若しくは拷問かと》

『そんなに?』


《私が考えた言葉ならまだしも、ローレンスが露骨に表現した言葉を言わされたワケですし、恥辱ギリギリでしたね》

『けど絆されかけてたよ?可愛かったって』


《私に利が来て無いんですが》

『だよね、ごめん』


《冗談ですよ、ありがとうございました》

『いえいえ』


《ただ、どうしてあんな事になったのかを》

『あ、えっとね、牡蠣と平和から新婚旅行の事になって、ルツの事になったから』


《牡蠣、確かに地図上では養殖場の名が有りますが》

『そうそう、男の滋養に良いし、ココで実験しちゃおうかって』


《真珠も養殖出来れば良いんですが、無理でしょうね、こう人が多いと情報が洩れるでしょうし》

『観光地化に組み込めないかな?』


《ですが、それだと私が得ると言うより》

『ローシュは確かに真珠は好きだけど、だからこそ避けるかもじゃない?だからこそ敢えて、神様達が推し進めたくて試練に組み込んだ、とか』


《まぁ、確かに、しろと言われてもしない人ですけど》

『そう誘導したり介入したりは無理だって言うけど、どう考えても材料が揃い始めているんだよ?』


《確かに貝の養殖方法は伝わっては来ましたが》

『寧ろ今から活用方法を考えてみて、それはそれ、コレはコレで考えるべきかなって。錬金術が発達したのって、金を増やしたいからでしょ?なら真珠が増えたら?』


《同時に金の価値が跳ね上がるかと、それに銃の火薬に関してもです。キャラバンも国も神々も、居住地を広げる為に山を切り崩す場合のみ、川を汚さない場合のみ地を掘る事を許している。何故なら水も何もかもが汚れてしまうから、と》

『ココの飲み水のろ過装置、使えない?』


《確かに、私達の温泉でも使う予定ですが》

『装置の仕組み、領主だけじゃなくて修理屋も普通に知ってた、秘匿情報じゃないって事だよね。だから火薬の材料も集められたんじゃないかな、装置を改良して悪用してる誰かが居る、とか』


 向こうだと既にシルクロード辺りで火薬が開発されてた筈で、だけど各国の神様が其々に禁じる策を出した。

 それが金属の採掘を封じるお告げや謂われ。


 火薬に繋がって、それこそ銃にも繋がって、果てはローシュも嫌がる大量殺戮兵器に繋がるから。


《ココが、仕入れ先だ、とは》

『ろ過装置の情報だけ得たのかもだし、材料を輸出したかは分からない。スペインと違って何処も木で覆われてるし、カルスト地形って穴が多いんでしょ?なら自然に出来た穴の先を掘って、採掘してるかもだし』


《神々の力が及ばない場所なら、確かにそうかも知れませんが》

『ローシュをピリピリさせたくないから、天使に聞こうかなと思ってたんだけど』

『採掘はココでは無いですね』


 試しに横を向いてみたけど、真正面に現れた。

 何もこんな距離に現れなくても良いのに。


『やっぱり、僕もルツもローシュの一部、だから答えてくれるかなと思ってたんだ』

『向こうに伝わる竜人の伝説とは違い、アナタは賢い子ですね』


『それこそ王様のお陰だと思う、字が読めるって大事だよね、特に決まり事とか広めるのにも』

『我々が活版印刷を抑え込んでいるのでは有りませんよ』


『セレッサの手の中での会話も聞こえてるんだ』

『彼女とは既に交渉しましたので、それ以降の事なら、ですね』

《スペイン以降、でしょうか》


『はい』

『採掘、ココじゃないなら何処?』


『アナタ方の言う、砂漠地帯のシルクロード沿いです』


《キャラバンの情報網には何も》

『今生の生活苦から抜け出す為、中つ国の転生者がキャラバン入りする為、多様な火薬の精製方法を記した書を渡しキャラバンに入ったのです』


《なら、何故》

『アシャは王族だけど女王じゃないから、だよね』

『はい、女王の禁書室に封じられております』


《では》

『転生者は既に亡くなっています、ですが複写物を持つ者が、子孫がスペインへ』

『あ、もしかして殺しちゃってる?』


『いえ、彼は牢にいますよ』

《尋問してきますね》

『あ、待ってよ、朝ごはん食べてから、じゃないとローシュが緊張しちゃう』


『彼は逃げませんし自害もしません、彼女を優先しても問題無いのでは?』


《この事は、聞かれなかったから、言わなかったと仰る気ですか》

『いえ、いつか辿り着く筈だ、と。ですが彼女を求める声は多い、今回はその為の助力に過ぎない、我々も介入の限界点は守っているのですよ』

『ありがとう、その転生者は兵器が作りたかったの?』


『元は魔法の様に輝く光を求め、いつか叶う筈だと、だからこそ禁書室に封じられる事を承諾したのですが。老いた時、その事を忘れ再び禁書を製作し、子孫に託してしまったのです』


《何処の、ポルトガルのキャラバンですか?》


『キャラバンは子供と本の存在を知りません、下のシルクロードに繋がる為に利用されただけ。そして子孫らは、ただ祖先の願いを叶えようとし、利用された愚かな』

《愚かさも罪ですよ》


『アナタは恵まれている、無知の知を知らぬ者は多いのです。そして残念ですが、ココまで』


「アーリス?ルツ?」

『ごめんね、昨日の事で話が続いちゃって』

《すみません、もう持って行くだけですから、お待たせしました》


「いえ、セレッサがコッチに来たがって」

『ごめんねセレッサ、お待たせ』


 多分、天使が呼んだんだと思う。

 ちょっとズルいけど、あのままだとローシュを置いてルツが行っちゃいそうだったし、コレで良かったんだと思う。


「貝の養殖の事?」

『そうそう、真珠が広まったらどうなるか、とか』

《食べてからにしましょう、私もお腹が空きましたし》


「そうね、そうしましょう」




 真珠の養殖って。


「真珠は貴重だけれど、金銭の授受は無いのよね?」

《それこそ金と同じく捧げ物、信頼と信仰を示す為、手に入れたキャラバンが提供者の指示に従い受け渡すだけ。ですが主に発見した者を代表とし、人ごと輸送、それに伴い授けられた国がキャラバンと提供者をもてなす。男性であれば女性を、女性であれば男性を賜れるそうです》


「人身売買」

《勿論、両者の合意が成立してこそですよ、なのでキャラバンがそこも仲介するんです》

『ウムトは?』


《1度、バルト海に面する国で白真珠を1つ、ハンガリーへ届けたそうです》

「その時も人を?」


《はい、キャラバンから1人、国から2人》

「そう、通訳が必要だものね」


《はい、そして1人は王族だそうです》

「成程、国名を言えないワケね」


 天使さんに聞けば分かりそうだけれど、だからって何が、よね。


《小国が指名された場合、その国が十分にもてなせないとなった場合も、キャラバンが仲介役をします。なので一切属さない、と言うのは不可能なんです、内部情報を得るには属するしか有りませんから》

「ウチを指名する者って、それこそ居なさそうよね、知名度が凄く低いし」


《平和な国の場合は、ですが、スペインの新興一神教団を壊滅させたのはルーマニアの者だと既に流布が始まっています。いつかは我々にも真珠が届けられるかも知れませんよ》


「それか、恐れて誰も送らないか。やっぱり数が少ないと神様に不公平だわ、出来たら養殖したい、けど弊害が怖い」

《金の価値が相対的に上がる可能性が有りますからね、希少性には価値が出てしまう》


「そこなのだけど、本当にそうなるのかしら、薬になる筈よ真珠って」

《中医学、中つ国の医学ですね》


「そうそう、不眠だとか気を鎮めるだとか。寧ろ鉄よりも逆に、人々に行き渡っても害にはならないし、民間でも容易く利用出来る。粉状にし、飲むか塗るか。そもそも量と質をコチラで制御出来るのだし、寧ろ産出国は他国への牽制材料に出来ないかしら」


《製作方法が漏れなければ、ですが》

「漏れても良い様にすれば良い、いつか模造品が出る前提で準備をする。価値は質で決まるのだから、質を落とさず、玉より、けどそうなると玉や鉄の産出国が邪魔するかしら」

『邪魔したら神様が許さないと思うけど、ココみたいに神様が、それこそ神託が無いと難しいかな?』


「天使さん、神託は」

『悲しい事に、偽預言者への警戒も有り、本来は教皇にのみ授けられる事になっていたのですが』


「今、教皇様の座は」

『空いております、長い間、ここ暫くは早世が続いていますから』


「明らかに暗殺では」

『我々は関知出来ませんが、恐らくは』


「こう、どうにか黒幕を教えて頂けませんか?」

『生憎と主は口を閉ざしてらっしゃいます』


 誘導や先導に繋がるから答えたくないのか、それか。


「そもそも黒幕が存在しない可能性も有るからこそ、お答え頂けないかも知れない。そう答えられない、と体現しているか」


『質問、問答とは難しい、良くご存知でらっしゃるかと』

「なら単純化すべき、意図的に天使除けの情報を隠した者は」


『ベリグラードに居ります』

《糸口無しには教えられない、と言う事ですね》


『過度な介入、先導、誘導に繋がりますので』


「成程、暗殺が行われたのが天使除けの内部なら天使は知れない、それが逆に情報ともなるって事よね」

《そして何の情報も無しに情報を与えれば、介入度合いが過ぎてしまう》

『ただ、明らかに知るべきだろう事はお伝えさせて頂きます、アナタもまた葡萄の実であり枝葉なのですから』


「葡萄の木とは共同体を表す。共同体と言う単語が有れば、有っても」

《その言葉を説明するには、更に言葉が必要となる》

『暗喩的、比喩的表現とは、既に言葉の意味を知る者の表現。単語の説明よりも中身、本題から逸らさせない為、その時代に適した言葉を使って表したに過ぎない』


「やっぱり、現代語訳は大切ですね」

『彼らこそ現代語訳の立役者、だからこそ信徒は彼らを信じ教えを守っている、と。そう主は喜んでおられるかと』


「それ、ガブちゃんの感想よね」

『ですね』


「守るべきは何か、彼らは良く分かってる」

『はい』


「そして信じるには、いかに正しい質問をするか」

『それと役割から逸脱した事に関して、尋ねない』

《確かに、魔道具のドアについて詮索しない事も、信頼を得る行動の1つかも知れませんが》

『今、聞かないだけか、敢えて聞かないままを維持するか。だよね』


『そう、信頼を得るには時間が必要ですから』

「その時間短縮を手伝ってくれる理由、よね、どうして?」


『主はアナタのお子を望んで居られます』

「子は宝、恵み、けど命を賜るには下準備が必要」


『命が容易く失われる事を望んでは居られません』

「単に産めば増やせるモノでも無い、衣食住と安全無しに子に恵まれても、生き永らえる確率は低い」


『医科学か、教育か、ですが人には限界が有る』

《独りで、なら、つまりは単独犯だと言う事ですね》

「今か、最初か」


『始まりは、ですね』

「目的、目標は同じなのに」

《時が経てば変容します、思想も物も》

『人も自然も、神性もね』


「でも、理論矛盾が生じてるわよ、変えたくないのに変えようとしてる」

《国や宗教と同じなのでは》

『分派した?』

『そうですね、袂を分かつ、でしょうか。指導者の意志を別の方向から汲み取り、他の支流へと流し、川を作り出した』


「何故」


『全ては布教の為』


《そして変異した》

『ですね』


「つまりは、悪役は、黒幕は存在しないかも知れない」

《最初はそうかも知れませんが、今は、果たしてどうなのでしょうね》

『そうですね、物事は常に変化しますから』


「天使除けに関して全てを知れる方法は?」

『彼らに同行すれば知れるかと』

《では、我々の言う正史派の存在については、どうですか》


『知れる場所を既にアナタは知っています』

「ルツ」

《事が終わってからにさせて下さい、傍に居て緊急事態に備えたいので》

『じゃあ早く終わらせよう』


 観光地化に、真珠の事に、魔女狩りに正史派に。

 確かに、子育てどころじゃないわ。




『ぁあ、庭師の女王ガーデニングクイーンよ、実に素晴らしい薔薇園ですね』

《本題はそこでは無いのだろうよ、マルティン》

《相変わらずせっかちだねぇ》


《アナタ達と違い薔薇は言葉を話さない、アナタ達は話せる口が有る、本題からにしなさい》


『この、ルジツァ薔薇教会の大司教様について、お伺いしたいのです』

《モンテネグロ州のポトゴリツァでは無く、かい》

《ぁあ、ソチラもなんだね》


「あの」

《あぁ、彼女はロッサ・フラウと言って》

《赤き女神モルガン・ル・フェイの使者、だろう》


「その情報は」

『伝書鳩だね、ミリツァ』

《私はもうイェヴェニア、と言うかアンタに伝書鳩の事は、そうかアンタも白鳩持ちかい》

《私達、だね、けれど失ってしまってね》


《白は目立つ、鷹や鷲にやられたんだろう》

《だから白い鳩は勘弁して欲しいと、お願いしたのだけれどねぇ》

「あの、それ、ウチの子が捕まえてしまって」


《なんだ、食っちまったか》

「いえ、仮住まいで飼ってしまってて、すみません」

『教会に躾けられた白鳩を、かい?』


「はい、すみません」

《ほう、手紙の存在は認識阻害されたままで、かい》


「どうやら、その様で」

《けどウチの鳩は無事だ、となると、白く目立ったからかね》

『白くて綺麗で目立つから、食べられるよりは良い、とかじゃないかな?』

『何羽、ソチラに居られるのでしょうか?』


「私が確認した時には、3羽」

《ウチのと、君の所のと、後は誰のだろうか?》


「あ、多分、スプリト辺りの者かと」

『敢えて逃がしたんだ、人を』

《あ、私達は違いますからね、受け取り側ですから》

『指示書を受け取る側なのです、使いにするには命を粗末にし兼ねない、と再々お伝えしてきましたから』

《だが白鳩にも認識阻害の魔法が掛り、安全な筈が、どう捕まえたんだろうね》


「多分、私が、見えてしまったので」

《成程、少しアンタと話さなきゃならないようだね》

『僕も良い?彼は2人に任せるから』


《良いだろう、アンタらは家に入ってな》


『仕方無い、ココは言う事を聞いておこう』

《後で言える事は聞かせておくれね、ココまで来て何も知れないは、もどかし過ぎるよ》

《分かったからさっさと行きな》


 巡礼者と同じ格好、そしてマルティンの書簡持ちだから、と招き入れたが。

 彼女が赤き戦の女神ロッサ・フラウだとはね。


「あの」

《私は教会派だが、あくまでも監視者としてだ、先人の知恵を悪用する者を監視する者。先人の知恵により作られた組織、野鳩だ》


「白鳩の対となる存在?」

《そして向こうは知らない存在だが、単に監視し記録するだけ、何かをしてはならないのが掟だったが。成程ね、その存在意義を今やっと、認識したよ》


「あの、ココら辺の歴史も何も、知らないのですが」


《知恵は力、いずれは教会が権力を持ち、いずれは悪魔に唆されるかも知れない。そう考えた枢機卿の独りが、私らの組織を作り上げた、単に監視する為だけに。確かに介入すれば、関われば私らの事もバレてしまう、だが何故記録する事だけを命じられていたのか。それは来るべき者の為だ、と、それがアンタって事だ》


「何故、私だと」

《来るべき者は常人では無い、そう伝えられている。白鳩は私達外部の者には認識が不可能なんだよ、大方、印章の指輪に仕掛けが有るんだろうね》


「成程」

《そしてアンタはココらの教会派では無いね、私の名を知っても驚かないんだから》


「無知ですみません」

《いや、コレは良く考えれば想定出来た事だ、来るべき者が驚く名を私達は代々受け継いでいる筈なんだよ。私の名はミリツァ・ネマニャ・フレベリャノヴィッチ、セルビア公国の初代王の妻の名を私は継いでるんだが、この国に関わる者が来るとは限らないとはね》


「なら、教会は」

《主軸に置けば扱いが難しくなるだろう、だから庭師なんだよ、代々ね》


「成程」

《そこに役目を付け加えたのがブランコヴィッチ家、同じく驚く筈の名前だそうだが。先人の知恵とて数百年も経てば変化を必要とする、そう想定していなかった我々の落ち度が、良く分かったよ》


「では、王家、王族は」

《全て教会派に取り込まれたと聞いているよ、元から無ければ奪い合いも分裂も起こらない筈だ、とね》


「ですが教皇の座を争ってらっしゃるそうで」


《大昔は機能していたらしい、それこそ天の声を耳に出来る者が。だが相次いで亡くなってね、私らは暗殺されたと疑っているが、毒が見付からなかったんだよ》


「ぁあ、組み合わせたのでしょうね、単独では作用しなくても時間差で殺せる毒が存在するそうですから」


《ほら、私らですら知らない事を、何で庭師なのか分かるかい》


「庭木への薬、ですか」

《そうさ、だから薬と呼ばれるモノを熟知している、筈だったんだがね》


「私はそこまでは」

《知識は力、薬と呼ばれる品物の扱いを向こうが監視する名目も有る、だが同時に監視されてるとは思わないだろう。とね》

『薬って何を使ってる?』


《やはりそこだろうね、大丈夫だ、私らは火薬に関われない。アンタが心配してるのは硝石の事だね》

『うん』


《だからこその水洗の用足しが存在しているんだよ、肥溜めから作れてしまう、その糞尿処理場の管理は厳重だ。病を広げる事にもなりかねない、肥料として使うにも観賞用の草木にだけ、硝石の生産は不可能なんだよ》


『どうしてそう言い切れるの?』

《黒い煙、黒煙は死だとして教えが広まっている、しかも赤い炎以外は悪しき火だと。そう教えで封じているそうだ、病では無い死を齎す何かを抑える為だ、とね。その教えに逆らえば大洪水か、塩の柱になるか、そう滅ぼされると教会側は非常に恐れているんだよ》


「ですが、既にスペインで事が起こりました」

《それで滅ぼされたんだね、成程》

『繋がりは?』


《生憎とスペインの一神教団が滅ぼされたとしか来て無いんだよ、天使を伴った赤き衣の女神に滅ぼされた、とだけだ》

「こう、候補者は?」


《教皇になりたがる誰か、枢機卿、大司教、司教、司祭、助祭、それこそ私の様な修道女かも知れない。皇帝、王を擁立する為の教会は各地の都に存在している、その教区を狙う野心家か。候補が多過ぎるんだよ、聖杯の騒動が広まってからは特にね》


「マルティン司祭などの、熱心な者を排除して下さい」


《ほう》

「教会に天使除けが施されています、そうした事に関われる者、野心的で信念の為に教義を曲げられる者」


《天使除け?》

「神性を退け、見聞きさせない為の魔法陣、魔王除けとも呼ばれています」


《なら、やはり目の前の者と言う事になるね、アレはハプスブルク家の孫なんだよ》


「何故、ハプスブルク家の者が」

《最初はセルビア・ハプスブルク王国を擁立する為かと、だが今まで動きは無かったんだが、今のが何かを知ってしまったのだろうね》


「アナタ方とブランコヴィッチ家以外」

《もう1つの歴史を知る者は教皇様だけ、なんだが》

『節理が崩壊し、大司教が知れてしまったのかも知れませんね』


《アンタ、何か変な薬を私に使ったんじゃないだろうね》

「使う予定でしたけど、使ってませんよ」

『素敵な花なのですよ、名はエンジェルトランペット』


《その名は、新大陸にしか無い筈だが》


「新興一神教団を移送する際、頂きました」


《どうやら、変化の時のようだね、アンタらは何処の国の者なんだい》


「もう分かってらっしゃるかと」

《恐怖王の守る国、ルーマニアか》


「まぁ、彼は意外と普通ですよ」

《ならアンタが恐怖の女王か》


「いえ、私は単なる使いの者、元は火の粉を払い除けるつもりだったのですが。ご迷惑をお掛けしたなら謝罪します」


《いや、大火事が起こる前にアンタが動いての事だろう。大戦の起こりを抑えるのも私らの役目、燃え盛る前に共に滅びるべきだと》

「勿体無いですし、新たに、変わってみませんか?」


《どうしようってんだい》

「秘密結社、ご存知でしょうか?」


《アンタらに先に言われるとはね、私達の組織の形を表す名だが、アンタらもか》

「各国に支部を置いてる最中なんです」


《良いね、来るべき者とはこう言う事か》


「ご納得が早くて逆に怖いんですが?」

《アンタ、字は、ココのは無理そうかね》


「他にも伝手は存在しておりますので、問題無いかと」

《成程、なら原典を渡すから付いておいで》

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