プロテスタント?カトリック?
ツァヴタットも地図とは違う。
勿論、空港が無いからこそなのだけれど、平地は全て稲。
《どうも、お久し振りですマルティン》
『ぁあ、アウグスティヌス、お元気でしたか?』
《ご覧の通り、体だけは丈夫でして、この方の巡礼に付き添っているのですよ》
「あの」
『あぁ、どうも、マルティン・ルタールと申します』
ほんの少し名は違うけれど。
彼は。
「あの」
『あ、立ち話もなんですから、さ』
《いえ馬車で座って来ましたし、先ずは彼女に、ロッサ・フラウに小島を案内してくれませんか?》
「ぁあ、お願い致しますわ」
『では』
そうして人目が無くなった頃。
『どうも、素敵な場所ですね』
《ぁあ、天使様、やはり彼の教会にも?》
『残念ですが、はい』
《先ずは天使除けのご説明から、させて頂きましょうかね》
こうして、私が話す間も無く。
『成程、分かりました』
「あの」
『天使様にお会い出来ましたし、何よりも彼が居ますから』
《いやぁ、年を取った甲斐が有りました、ご信頼頂けて助かります》
『いえいえ、私も……どうですかね、私も同行させて頂けませんかね?』
「その」
『巡礼には人が多い方が安全ですし、幾ばくかの盾には、なれないかも知れませんが。どうか、害の無い羽虫が付いて来ている、とでも思って下されば宜しいかと』
「ですが」
《ココを任せる後任をご心配になってるのかと、彼女はザグレブから来た平定者、赤き衣を纏った我々の味方です》
『成程』
「納得が早過ぎでは?」
『老いた今だからこそ、最後の時、何を成すべきかは簡単に分かるものなんですよ』
「では、一体、何を」
『見極め、ですね、どなたを教皇に選ぶべきなのか』
《ですがそもそも我々が、人間が選ぶべきなのかと、私達は悩んでいたのです》
『神に選ばれるべき、若しくは天使によって、ですが天使様がお言葉を授けたのはもう50年以上も前。しかも天使除けが全ての教会に存在しているのなら、正しく選ばれるかどうか、ならばこそ我々は確認しなければならない』
《誰が、どの様な意図で天使除けを内密に施したのか、天が誰を選ぶのか。ですかね》
『そうですね』
「ですが、何処へ」
『やはりベリグラードですかね』
《そうですね、かなりの長旅になりますが、まぁ大丈夫でしょう》
『ですね、天使様もいらっしゃる事ですし』
こう言う時、自分が社畜脳なのかも知れないと思ってしまう。
使うより使われる方が遥かに楽、責任も決断も誰かに任せれば良いのだし。
「では先ず教会へ戻りましょうか、お見せしたい物が有るので」
《ぁあ、それと書類ですね》
『後任もですし、そうですね、戻りましょう』
そうして魔道具のドアを見せる事に。
長旅をするなら事が終わってから、それこそ新婚旅行とかよね。
《素晴らしい、コレなら直ぐに統一も出来ますでしょうに》
「いえ、統一は、面倒そうなので」
『確かに手間暇が掛かると言う話では無いでしょうけれど、それにしても、コレが有れば生きている間には出来ますでしょうに』
「ユーゴスラビア王国は大き過ぎますし、私がすべき事では無いので」
『アナタもまた、葡萄の枝葉で実なのですね』
聖なる書物の引用。
要は共同体の事だそうで。
「そうですね」
《成程、我々も例え力を持ったとしても、立場を弁えねばなりませんね》
『ですね、気を付けねばなりませんね』
《さ、我々は準備を》
『ロッサ・フラウにはご休憩を、岬の先の建物をご案内致しますが、他の場所が良いでしょうかね?』
「いえ、先程の家ですかね?」
『はい、太陽が綺麗に見えますので、教会に内緒で建ててしまいました』
《地図に従うばかりでは民を救えませんからね、何事も生きている者が最優先ですし、新婚夫婦には素晴らしい恵みとなるでしょう》
『ココら辺は同居が多いですし、家同士も近い、となると離すのが1番ですから』
《子は宝、神のお恵みを賜るにしても、準備が必要ですからね》
「成程」
『ウチの者にご案内させますので、どうぞごゆっくりなさって下さい』
「ありがとうございます」
そうして奥様に案内され。
空気を入れ替え、ベッドにシーツを張り、薪を焚き。
夕陽を眺める。
《素敵な場所ですね》
「新婚への心配りにしても、景色にしてもね」
『こんな場所でいっぱいになったら、人が凄い増えそう』
「もしかして、天使さん、ココに加護を与えてらっしゃったりしてね」
ぁあ、ほら、今度はダブルピースしてるもの。
『ねぇ、そういえばプロテスタントとかカトリックとかの分類と、ココ違くない?』
「そうよね、神父様がカトリックで、結婚出来なかった気が」
《プロテスタントは向こうでなら今頃ですし、彼の名からしても、彼が起点になるかも知れませんね》
「それで争われたら困るのだけど」
《内部分裂し、戦力が削がれる分には問題無いんですが、飛び火が面倒ですからね》
「そこよねぇ、ダメそうなのは一掃した方が良いのかも」
《彼ら次第ですね、ある程度の分裂は仕方の無い事ですから、宗教も国も》
「そもそもこの国の成り立ちよ、転移転生者が分裂を防ぐ為に統治させようとしたのだろうけど、大きいからこそ末端まで目が行き届かない。少しは、成程、ココの者の良い様に分裂する分には良い筈よね」
《柔軟な思想の持ち主でしたら、ですが末端だからこそ柔軟で、中心部は強固かも知れませんよ》
『じゃあ様子見に行こう』
「そうよね、ドアも設置しないとだし」
《彼らのお知り合いが今でも、柔軟な方なら良いんですが》
「最悪はエンジェルトランペットで何とかするわ」
《お気を付けて》
『行ってきまーす』
セレッサとローシュとベリグラードへ、ルツは王様に報告。
役割分担、コレはコレで良いと思う、何か有ればルツだけは生き残れるし。
「こう見ると、如何に平地が重要か分かるわね」
『スペインは暗かったし、見る余裕が無かったもんね』
「青々と茂ってて、まさに山の恵みよね、水って」
『綺麗なのにね、飲み過ぎるとお腹壊すんだってね』
「浄化装置、ろ過装置が無いとね、だからこそ時代を少しだけ早めた」
『それもダメ、って壊しそうだよね、正史派って』
「そこ、本当にどうするのかしらね、妊婦にワインを飲ませる気かしら」
『妊婦は水が飲める場所に移動させる、とか?』
「移動の負担が出るじゃない」
『やっぱりアレかな、地区分け、産み育てる人は向こう。とか』
「それじゃデストピアになるのよねぇ」
『天国と地獄みたいに、似た環境だけど全然違うよね、ユートピアとデストピア』
「そう表裏一体なのかしらね、そうした場所って」
『それってココでも変わらないのにね、どう生きるかってだけで』
「どう生きるか、ね」
『ローシュはどう生きたい?』
「平穏、平凡、平和。けど少しは起伏が欲しい、山が無いと川は生まれないし、海産物も育たないし」
『美味しく貝が食べられる生き方?』
「当たらない牡蠣を美味しく、後何百年後かしら」
『早めても良いんじゃない?栄養有るし』
「子孫繁栄の栄養素が入ってるのよね、成程、先ずは牡蠣の養殖をクロアチアで実験してみましょう」
『良いね、新婚旅行で来て、次は子供が増えて家族旅行』
「お前はお父さんが牡蠣を沢山食べて、あの宿で頑張った時の子なのよ」
『言いながら笑ってる』
「下世話過ぎて、逆にしてみたいわ、この会話」
『ローシュがお父さん?お母さん?』
「出来たら両方、体験してみてよアーリス」
『そうだね、ルツにも体験して貰おう』
「良いの?」
『何で?』
「独占したくないの?」
『独占されたい?ルツは嫌?』
「嫌と言うか」
『家族が増えるのは良い事なんじゃないの?僕はルツが家族なら嬉しいよ?』
「物足りない?」
『ううん、けどローシュをもっと悦ばせられると思う』
「エロい意味で」
『エロい意味で。ふふふ、今だって独占出来てるし、それに独占してると少し不安になる。ローシュの幸せを少なくしてるんじゃないかって、可能性の事、狭めてないかなって少し不安になるし。僕が死んだらローシュは独りになっちゃうでしょ、それが凄く不安、なら誰か任せられる候補者は欲しい』
「それがルツ?」
『他の事は器用だし、ローレンスの秘伝の書を読んでるから、もう大丈夫だと思う』
「秘伝の書?」
『口説き文句とか纏めたヤツ、ネオスが写本して、今はルツの手元に有るけど。知らなかった?』
凄い、怪訝な顔だ。
「確かに無知さからの出来事は嫌だったけど、無垢なルツが何色かに染まるのも何か癪だわ」
『そこまで心配しないで良いと思うよ?ネオスとも相談して改訂したりして、実質ローシュ用だし』
「私の攻略本」
『まぁ、うん、そうかも』
「かも?」
不安な時の怪訝な顔だ。
『後で音読して貰ったら?』
「アーリス、アナタ、天才ね?」
『でしょ』
夕暮れに訪ねたのにも関わらず、マルティン司祭の書簡1つで家に入れ、部屋を貸してくれたそうで。
《アーリス、何か不審な点は?》
『大丈夫、最初は警戒心が凄かったけど、マルティンの封蠟で直ぐに平気になったし。悪い人間の雰囲気は無かったし』
「天使さんも大丈夫だって、だからそのまま放置して、部屋に入らないでって言って帰って来たわ」
《成程》
「それで、ローレンスの指南書って何かしら?」
コレは。
成程、アーリスですね。
《失敗したので、学ぼうかと》
「読み聞かせて、私には合わないかも知れないから」
確かに、ローシュの読めない文字ですが。
《アーリス、アナタも読みましたよね》
『うん、でもローシュはルツに読んで欲しいみたいだよ?』
「折角、周りに誰も居ないのだし、お願い」
《分かりました》
要点を言う事は許されず、本当に朗読させられる事に。
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