黒幕。
『えっと、本当に嘘は言って無いからね?』
「私を信じて頂けるなら」
『悪魔と、魔王と繋がっている者など』
《お黙りなさい大司教、いえ、大司教の座は剥奪です》
《私も、ブランコヴィッチの名において大司教の座の剥奪を認めます》
「それで、続きを宜しいですかね」
《失礼しました、ロッサ・フラウ》
「いえ」
『俺は北欧神話のロキ、今の魔王と同じで魔王だって呼ばれてた。だから魔王に会いたかった、ただそれだけ、魔王除けだけど神性も阻害しちゃうって確かに伝えたよ』
《それは、何故、でしょうか》
「私達も同じく、目の前に柱が有れば避けますでしょう、それを狙ってこの地を魔王が来れない様にしていたんだそうです」
『追い込み漁みたいにね、そしたら大陸のコッチ側しか使えないかなって思ったんだけど、スペインに行っちゃったみたい』
「既に魔王は私が保護し、無効化の最中、ですのでどうか魔王狩りも魔女狩りもお控え下さい。そして聖杯争いも」
『聖杯争いって?』
《トヴルトコ枢機卿、アナタも関わってらっしゃいますよね》
《この、元大司教の提案です。我々はこの国を治める為、代表者を選ぶ為に、彼の提案を受け入れた》
『トヴルトコ枢機卿、ですからどうか、成果を持ってして』
《例え成果を得たとしても、他の教区の天使までも退けた罪は重いですよ》
《ですので彼を追放、破門とします》
『どうか悪の言葉に』
《では、天使に訪ねてみましょうか、真実を》
ローシュやロキ神が話し合っていた頃、どうやら彼らは天使除けを破損させたらしい。
『ロキの言う言葉は真実です』
どうやら、ロキ神に天使は見えず、声も聞こえないらしく。
『えっ、何?居るの?』
「お姿も声も」
『相反する者、混ざり合わぬ為にも、認識を阻害させています』
《成程》
『トヴルトコ枢機卿』
《何処までご存知でしたか、トヴルトコ枢機卿》
《聖杯の事以外、関知してはいませんでした、ですが監督責任は私に有ります》
『枢機卿、誤解です、私は騙されたのです』
《私も、アナタの熱心さを誤解していた、騙されたのは同じ。枢機卿の座を降り、他者に譲ります》
《でしたら候補者はコチラから推しても宜しいですかね、トヴルトコ卿》
『かっ、彼も悪の、悪魔や魔王の仲間かも知れないのですよ?!』
「ではアナタが仲間では無いと、どう証明するのですか?」
『私は』
「水に沈めてみて浮くかどうか試しますか?」
『そんな事で』
「私はアナタが生きてさえいればどうなっても良い、魔王がどれだけの苦痛を齎されたのか、苦行なんて生易しいものでは無いのです。試してみますか、恥辱と苦痛にまみれた行いを、その行いにアナタの息子は関わったのですよ」
《ロッサ・フラウ、どうかお怒りをお鎮め下さい、人は恐怖によっても死に至ってしまうか弱き》
「トヴルトコ卿、私達にしてみたらアナタ達こそ悪、悪でも弱いから守られるべきだと言うなら。聖なる強者は攻撃されて当然、教皇も殺されても致し方無いと」
《どうかお鎮まりを、彼に死を齎しては楽にさせるも同義、どうか反省と懺悔にまみれた道を歩ませますのでどうかお鎮まりを》
『俺が言うのも何だけど、優しい人を怒らせると怖いって、君らこそ良く分かってる筈だよね。大洪水だとか、火山だとか、それこそ塩の柱にさせられるとか。なのに見過ごして放置して、沢山の犠牲を出した、寧ろ命乞いをすべきは君達じゃない?』
《仰る通りで》
《ですが知らなかったのも事実です、どうか機会をお与え下さい、正す機会をお与え頂けますようお願い致します》
「ブランコヴィッチ卿、何処の誰なら正せますか」
《ステファン・ムーセチ大司教、モスタールで領主と司教をこなし、聖杯に踊らされなかった彼こそが教皇に相応しいかと》
『そん、それこそ聖杯を信じぬとは、それでは信仰を蔑ろに』
《お止めなさい、アナタの意図に与しない者を不信心者呼ばわりとは、主を貶めるも同義ですよ》
『私は本当に』
『御心を利用しましたね』
『利用等とは、その様な事は』
『では何故、私達を排除したのですか?』
『聞かれたくない事は、誰にでも、御座います。それこそ、教皇様にも』
「教皇様が、何か」
『言ってはならぬ事を漏らしてしまったと、後悔なさって、お亡くなりになられたのです。誰にも聞かれてはならぬ事を、口に出してしまったと、ですから、だから私は』
コレだけを聞けば、善意ですが。
「アナタはどの教皇様から、いつ、どの様な時に、その言葉を聞いたのですか?」
あれ程に怒りに満ちていた彼女から、何か得体の知れない。
それこそ、自信、だろうか。
『それは』
「老衰で亡くなった方から、ですか?」
彼女の声からは、確信に満ち溢れた気配が。
やはり彼女は、全てを見通す力が。
『はぃ』
『嘘はダメですよ』
『いえ、私は』
「では花をお渡しします、正直に話してしまう花を、どうぞ」
『私は、正直に、答えて』
『それも嘘ですね、残念です』
「さ、先ずは良く嗅いで下さい、拷問前の最後の快い時間ですから、じっくり嗅いで下さいね」
『そんな、拷問だなんて、私は何も悪い事は』
『私達を教会から排除する事が悪では無い、と、残念です』
『いえ、違います、違うんです天使様』
『では、何故?』
そして次に、あれだけ取り乱していた元大司教の目が、穏やかになり。
『私の家に与えられた家名は、王族に関わる名だと、教皇様に教えて頂いたのです』
『成程』
『だからこそ、私を枢機卿に推す、と、なのに彼は裏切り、トヴルトコ家を推した。そして問い質すと、私だけでは無く、教会に与えられた家名の殆どが別の世界での王族の家名だと。ふふふ、解毒薬を前に教えてくれたのです、偽の解毒薬の前で、ふふふふ』
「毒は、同時に与えたのではありませんね」
『勿論、そんな事をしてはバレてしまいますからね、あの息子の母親に教えて貰ったのです。妻を殺して欲しいと、離縁は禁忌ですからね、ふふふふ』
「解毒薬は存在していないのですね」
『いえ、ですが知るのは彼女だけ、私が枢機卿に、果ては教皇になれると信じてくれた良い女なんです。私を信じてくれた、才が有る、能力が有ると褒めてくれたのは彼女だけ、だから私は教皇にならねばならないのです、彼女を喜ばせなくてはいけない』
「アナタは、マリア信仰を」
『女が信じるべきは夫だけです、神と夫だけ、不安定で不完全さこそが女性の魅力なのです。妻は完璧過ぎた、そして私は愚か者に思えた、全ての女性がその様な者では子孫繁栄は疎外されてしまう。神と夫とマリア様を信じる妻は完璧で、それがいけないのです、それが全ての発端、私は悪く無い、悪いのは彼女だ、私は悪魔に唆された、魔女に、魔王に唆されたんです!私は善人です!悪しき心など有る筈が無いんれすよぉ!!』
「はい、鎮まりましょうね」
彼女は針を一刺しし、彼を一瞬で眠らせてしまった。
《ロッサ・フラウ、今のは》
「バッドトリップですね、天国と地獄は表裏一体だそうですから、偶に起こるそうで」
《その花は、一体》
「ぁあ、面倒は嫌いなので、この花の名はエンジェルトランペット。その名の通り、天国か地獄へ行ける花、良い香りなんですが決して嗅がないで下さいね、迂闊に見知らぬ植物には近付いてはいけませんよ」
《やはり、ドルイドの一族の》
「コレはココには存在しない花、今日の事は、そうですね、忘れて頂いても困りますし。天使様、以降は手法を変えましょう、先ずは神託を受ける者と教皇の存在を分けさせて下さい」
『分かりました』
そして修道女の中から選ばれた者に神託が授けられ、その者に関われるのは聖杯を持つ領主か、教皇様。
そして私達、枢機卿だけ、と言う事に。
《聖杯を持つ領主、とは王では無い、と言う事で宜しいでしょうか》
「流石、ブランコヴィッチ卿、そうです」
《ですが奪い合いになってしまう恐れが》
「不適切な者の手に渡っても、聖杯は姿を消し、真の持ち主の元に戻る。そして奪った者は塩の柱となる、のは如何ですか?」
《お授け下さいますなら、どうか、平定を叶え魔女狩りを阻止する事を誓いますので、どうか》
「ではブランコヴィッチ卿、教皇様や枢機卿、そして神託者に必ず誓わせなさい。そして裏切りには報いを、人の手で報いを、人心の恐怖を使いこなして下さい」
《はい、確かに、承りました》
赤き衣を纏った者は怒りに満ちている、そして同時に慈愛にも満ちておられる。
聖なる書物の通り、確かに正義を成す為に、おいで下さった赤き衣の者。
彼女が殺すに至った新興一神団は、一体どれ程の苦痛を魔王に与えたのだろうか。
『いやー、一瞬、殺して自分の蘇生を使ってあげちゃうのかと思ったよ』
「一瞬、そう考えたんですけど、勿体無いので止めました。怒りで我を忘れても損をする、私の知る赤き者は身を滅ぼしかけ、青き衣の者に収められましたから」
『何それ、聞いた事の無い民話だ』
「転移転生者なら知ってる事ですよ、私と似た時代の者なら」
『そっか。俺、関わって良いと思う?』
「アナタの不運に対抗出来る子なら、アナタが齎す損失を補える対価をアナタが渡せるなら、ですかね」
『関わるなって言わないんだ』
「誰かの悪でも誰かの正義、味方になるかも知れませんし、アナタを悪だと断罪する材料も無いので」
『もし困ったらユグドラシルにおいでよ、色々と神様も居るし』
「どう、行くんでしょう?」
『飛べる?』
「まぁ、はい」
『んー、普通には見えないから、フギンかムニンを呼べば来るから。あ、魔法陣の外でね、元はアイツらに聞かれたく無い事を話す為の結界だったんだ』
「成程」
『知ってるんだね、フギンとムニンも』
「あ、そう、ラグナロクは?」
『演舞で終わらせた、最初はちょっとマジでケンカになりそうだったんだけど、何かもうトールに負けて演舞って事にしたのと』
「と?」
『ヘルがオーディン嫌いで死者の国に来ても送り返すって、だから殺したってヘルが生き返らせる手間になるだけだって、バルドルまで説得してきて。殺しても終わらないし、死ねない方が苦痛だろうからって、確かになって』
「こうして普通に会話が出来るのに、何故、避けられてるんでしょうね?」
『それは俺が聞きたいな?』
『アナタが言う通り、彼の周りには不運が付き纏ってしまうのです、彼の魔王の素質ですね』
『ねぇ、何?何処見てんの?』
「天使にも確認出来る程に不運を纏ってるらしいですけど、多分、守られてるんですよ。アナタを悪用する者から、アナタと周りを守ってる。だから関わって良いと思う者にだけ、ずっと関わりたいと、不運を一緒に何とかしてくれる子を探すのは、どうでしょう?」
『魔王探しの代わり?』
「ですね、お暇でしょうし、少しは変化が有っても良いかと」
『優しいね、ありがとう、じゃあね』
「はい、では」
この事、ヘルに話したら怒られるかな。
それとも。
《パパ》
『だって、請われたら関わって良いって』
《教会で神を請うって、絶対にパパじゃないじゃない》
『それは確認してみないとじゃん?』
《で、神か聞かれて》
『神だって答えた、けどさぁ』
《はい、教会には立ち入り禁止。全く、転移者が関わってくれたから良いけど、介入度合いが過ぎるんじゃないの》
『何か、他の神とかは制限が掛るって言うけど、別に俺は何も無かったよ?』
《鈍感だからじゃないの》
『もー、ごめんね?悪用しそうなのは今度からちゃんと見極めるからさ、土から出して?』
《もしかしたらパパが養分になって何か咲くかもじゃない、この庭》
『誰か呼んで手助けして貰おうか?』
《嫌、絶対に嫌、バルドルなんか呼んで来たら次に目覚めるのは100年後よ》
『それ嫌だなぁ、絶対に何か面白そうな事を見逃しそうだもん』
《そのロッサ・フラウって、本名なのかしら》
『殺して確認してみる?1回分はチャラに出来るし』
《やめてよパパ、嫌がられたり可哀想だと思われたく無いの、同情も何もかも要らない。ただ、ザクロだけ、実ってくれたらそれで良いわ》
『けど多分、パパは栄養にならないよ?あ、魔王なら良い養分になるかも』
《その子、来ないのよね、何度も死んでるって噂なのに》
『あー、何処の死の国と関わってるんだろ』
《ダメよパパ、ロッサ・フラウとの約束は守って、意外と良さそうな人だし》
『ママにしちゃう?』
《そんなに興味無いでしょパパ》
『もう世話する相手が居るし、ココまで付いて来そうだったから、無理かなって』
《凄い執着ね》
『それが愛だよ、ヘルちゃん』
《鬱陶しいわねパパ、単に興味を抱かれなかっただけでしょう》
『どうだろ、ほら、俺って顔は良いから』
《性格は、寧ろパパで良かったわ、バルドルみたいな正論糞野郎だったら今頃は》
『お口が悪いねぇ?』
《誰に似たのかしらね?》
『あれ?俺ってそんなに悪い?』
《私とは少し違う意味でね、もうダメよ、もっとハッキリ言わないと》
『はいはい、ごめんねヘルちゃん』
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