更にその後。
制圧後。
結局はルツに各所の拠点、お城を制圧して貰いながら私の方は民の誘導へ。
正直、もうどうでも良いと思いながらも、何とか新大陸へ戻って。
魔王の体と脳を出したのは覚えてる。
「それから凄い眠気でもう、床に寝そべったのは覚えてるんだけど」
「いびきをかいてましたね」
「アレは、歯軋り、ギリギリギリって」
「それは無かったかと」
『うん、何なら動かないから怖かった、息してるか確認しちゃった』
魔王の再生は起きたら叶っていた。
ただ、記憶の欠損は。
「多分、殆ど覚えてるかと。ですがどうしても記憶を失う前の事は不明瞭で、飛んでたって事は覚えてるんですが、多分、考え事をしちゃってたんだと思います」
「考えるって事を知った弊害かしら」
「と言うか慣れかと、気を引き締めて、集中しなきゃなと。そこまでは覚えてるんですけどね」
欠損を確認しても良いけど、寧ろ今は。
「まだ生き残ったのが居るけど、どうする?」
「飽きるって、強いですよね。怒るのにも飽きたと言うか、暴れ飽きて、それこそ殺そうって集中力が無い感じで。寧ろ早く話をしたい、知りたいって思って、他がどうでも良い感じなんです」
「知の勝利ね」
「なので先ずは、名前を良いですか?」
「ロッホ、スペイン語で赤色」
「それで彼女は
彼に名を。
いえ、多分、また分化して記憶も失うかも知れない。
まだ悲嘆に怠惰、憤怒が残ってる。
全ての分化が終わってからの方が確実な気がする、それに平和じゃないのに付け焼刃になるかも知れない、そうした個人が生まれるだけかもで。
いえ、それもそれで良いのかしら。
けど、結局は残りの大罪と化すかもだし。
悩ましいわ。
『何を悩んでるの?』
「魔王の事、どうしたら人間に、人間になりたいと思って貰う所からよね」
「まぁ、今はちょっと、人間になりたいと思うのは難しいですね」
「そうよね、平穏、平和に慣れる所からだし」
「ある程度は殺しましたし、アナタ達も信用してますし。多分、安心はしてると思います。それに今は、追われて苛立つ様な感覚も無いので」
「後は、不安と向き合う、それと私達との話し合いね」
「はい」
『あ、お腹凄い鳴ったね、食べに帰ろう』
「そこは羨ましいかも知れませんね、美味しいは羨ましいですから」
「そう羨ましいと思ってくれるのは嬉しいわ、何か探しておくわね、アナタでも美味しいと感じるかも知れない何か」
僕もちょっと羨ましいって思う位に、ローシュの中には魔王の事でいっぱいに思える。
綺麗な顔だって褒めてたし、声も良いって。
『嫉妬かも』
「え?何に?」
『魔王』
「コレ、多分、庇護欲よ?」
『可愛い?』
「可愛い赤ちゃん、みたいな、だって多分まだ中身は15才とかよ?」
『15は赤ちゃんじゃないよ?』
「ファウストみたいなものよ」
『ずっと一緒に居て好きって言われたらどうするの?』
「難しいわね、それ」
『どう言う意味で?』
「色欲が分化してるんだもの、そうなるとどう考えても家族愛なのに、それでもアナタは心配するって事でしょ?」
『性欲が無くても好きって気持ちは有るかもじゃん』
「私に執着させるつもり無いのよ、もう少ししたらファウストと同じ様に会わないつもりだし。それでも何もしない、好きだって思われても私に何も出来ないでしょ?」
『家族愛以外の好きって思って欲しくない』
「一応聞くけど、何故?」
『だってローシュが苦労する筈だから、だから好きにならないで欲しい』
「私もそう思う、今は特にね」
『じゃあ平和になっちゃったら?』
「ならお嫁さん探しよね、それか妹か姉か母親か、子供でも良いかも」
『抱かない?』
「抱かないし抱かれない」
『何で?』
「先ずはアナタが居るから、それに姪っ子の好みで長寿は抱かないって決め」
『そこなの?それって単に譲っただけじゃない?』
「そら絶対に無いとは言えないけど、アレ見ちゃったらね、無理。それこそ記憶から消えたら有るかもだけど、あの光景は無理よ」
『姪っ子やクーリナなら平気って事?』
「今後の姪やクーちゃんになら過去になるけど、私は現在進行系、過去にするには近過ぎるし生々し過ぎる」
『けど仲間?』
「そらそうよ、例えノリノリでやってたにしても適応する為だし、仕方無い。けど私には今の事情だから無理」
『仲間?家族?』
「そうそう、向こうが忘れても家族。けど魔王には内緒ね、執着して変な分化されても今は困るから」
『平和になって記憶から消えたら?』
「アナタも王も、それこそルツだって止めるでしょう、そもそもそこまで若くないし。平和で記憶が無くて若くて、ルツもアーリスも誰も居なかったら無くはない、けど有り得ないでしょ?」
『でもダメ、ネオスにして』
「そうね、ネオスにしておくわ」
『絶対ね』
「はいはい」
絶対に死なない様にしないと、それと記憶の事も。
『あー、魔王は姉上の血筋の好みかぁ』
『かもだから、記憶を消すのは考え直して欲しい』
『まぁ、魔王を好いたり好かれたりは面倒だし、考えるは考えるが』
『何で即答してくれないのぉ』
『そら王だから打算的なんだよ、魔王が姉上を好いたらどうなるか計算させてくれ』
『意外だった?』
『お前が言って来るのがな、頑張れば何とか出来るだろアーリス』
『ルツが居てギリギリだよ、僕だけじゃ無理、難し過ぎる』
だから姉上と魔王を遠ざけるのが本当に良い事なのか、そこも含めて俺は考えなきゃならない。
俺やルツも最初は情だろうが何だろうが、コチラの味方にしたいと思っていた。
だが姉上は平和の為なら何でもする覚悟で居るし、だからこそコッチが行き過ぎない様に引き留める側になった位だし。
そう何処までも俺らが良い様に扱う事が、果たして本当に良い事なのかどうか、それが本懐を遂げるのに邪魔にならないか。
何処まで利用するか、利用させるか、何処で制限を掛けるべきか。
姉上と国の為になる事が一致し過ぎても、しなさ過ぎても、どうしたって悩む問題なんだが。
そう、ルツと姉上がくっ付いてくれて俺と国は恩恵を得た、だがこうなっているのも実は運命なのかも知れないとも思っている。
姉上は別にハーレムを望んでたワケでは無いし。
姉上が姉弟だと言ってくれたのだから、俺は王としても酬いなければならない。
だが、その調節が酷く難しい。
『はぁ』
『もー』
『俺に怒るな、ルツに怒れ、アイツが今回の要因だ』
『けど、この方が良かったのかも。それこそルツが居たら受け入れるかどうか、考えちゃったかもだし』
『まぁ、共有の切っ掛けはお前だが、決め手はルツだからな』
『ローレンスには話したの?』
『ルツがな』
嫉妬して欲しいからって。
『ルツさん』
《すみません、私の失態です》
『確かに俺は年が下ですし、未熟さを露呈した事も有りますけど、相談してくれても良かったんじゃないですか?』
《どう相談したら良いか、も、分からなかったんです》
それこそ、情愛を利用する事の理解は有る筈なのに。
『こう、利用の仕方を』
《避けていたんです、この容姿ですし、面倒だったので》
『面倒って』
《どう真偽を図るか、そうした事を考える必要性すら感じていなかったので》
『それで失敗して、冥界渡り』
《はぃ》
万能鉄仮面かと思っていたのに、こんな弱点が。
いや弱点にしても過ぎるだろう。
『良く、今まで何も問題無く過ごせましたね』
《アーリスが、補佐してくれていたので》
てっきり、主導権はルツさんなのかと。
『ローレンス』
『ぁあ、アーリス、どうも』
『あまりルツを責めないであげて、ローシュが初恋だから』
『えっ?』
《はぃ》
見た目より年を取ってるとは聞いているけれど、それで、コレって。
となると、まさか。
『えっ?』
『まぁ、うん、君が思った通りなんだ。だからあまり責めないであげて?』
アーリスの、この余裕は。
『アーリスは』
『うん、僕は適当に初めてを済ませちゃったから、逆に後悔してる』
『一応聞くけど、ネオスは』
『初めて、全部』
ネオスは思った通りだったけれど、コレは。
コレはちょっと、想定外。
『あの、うん、はい、仕方無いかとは思います』
そんな、顔を抑えながら溜息をつかれても。
「もう大丈夫なの?ローレンス」
『はい、疫病も洗脳も無しだと判断して頂けました』
「そう、お疲れ様」
『いえ』
こうして私がローレンスに強い罪悪感を覚える事になるとは、思わなかった。
きっとネオスに対しても対面して初めて、強い罪悪感を覚える事になるのだろう。
《それでは、報告と今後の方針についてお伝えします》
造船を一手に引き受けているブリテン王国が主に主導し、記録用紙や制服の製造を今でも行っており、通し番号の刺繍は諸外国にも協力して貰っている。
要するに想定外に事が早く収まってしまい、運輸が間に合わない状態になっている。
そして狙撃手と黒い魔女は、ローシュが眠っている間にセレッサと私とアーリスで捕縛。
異教の神として存在を弱められていた女神マリの助力により、探す手間も無しに捕縛が可能となったが、狙撃手は死亡。
耐久性の無い銃により怪我を負い、到着時には出血多量により既に意識を失っており、銃の残骸と共に回収。
一方の黒い魔女は子と夫を人質に取られていたスペイン在来の魔女、能力を隠していたが手当たり次第に虐殺を受けての降伏だったらしく、このままコチラに住む事に。
今はマリサの親になるとも言ってくれており、既に他の黒い魔女とも問題無く過ごしている。
『銃の事はすみませんでした』
《いえ、装飾用の銃の情報と敢えて混同される様に向こうも隠していたので、もう少し時間を掛けても探り出せたかどうかは不明ですから》
「増産は?」
《いえ、音も出ますし目立ちますから、試し撃ちで壊れる度に改良していたそうなので。8つ、失敗した品として保存してある物だけだそうで、技術者達を殺すかどうか議論中です》
「完成させられそうなら作らせて、試し撃ちをさせて、それでも生き残ったら全員殺した方が良いと思うんだけど」
《ではその様に進言しておきますね。では次に船の事なんですが、量産が間に合いそうも無いので使い回しますが》
「海上で燃やして、帰れない、自分達は恵まれているんだと思わせたいんだけど」
《なので必ず死人や怪我人、病人が出るでしょうから、そうした者を燃やす小舟を用意するそうです。傍目からは自分達が乗って来た船に見える様に、同型の小さな船、中型の船を用意して頂ける事になりました》
「逆に、その方が手間が掛かりそうだけれど」
《問題は木の大きさだそうなので、そこは問題無いそうで。ただ大量の材木の輸送は目立つので、セレッサにお願いしたいそうです》
「偽装魔法で見えないんだものね、お願い出来る?」
《ありがとうございます》
黒い魔女は最初から魔王を狙っていた。
上空の飛行物体を探知する魔法を駆使し、前回魔王を仕留めた時と同様、黒船からの連絡が途絶えた時から夜間に待ち構えていての狙撃。
そして運悪く、頭部に直撃してしまった。
前回は雷撃で弱った所を狙撃、再び雷撃で撃ち落した、と。
セレッサについては気配も視認も不可能だったのは、女神マリの恩恵の可能性も考えられる。
「後は」
《申し訳無いんですが、暴徒が出ぬ様、彼らの船出の際に姿を見せて頂ければと。他の者に任せても良いのですが、襲われる等が有れば力を誇示出来るのでは、と》
「分かりました、けど文言は任せるわ、今は私も気が抜けちゃって何も考えられないし」
《分かりました。後は残党狩りですが、各所には噂だけを流し素通りさせる様にと通達していますので、移民候補者が港に到着するまでは何事も特には起こらないのではと予想されています》
「ちょっとだけ休憩する時間が有るかも、なのね」
《分隊が居るとは予想されてはいますが、他国なので》
「ならお伺いしに行くわ、女神マリにも改めてご挨拶しないとだし」
《分かりました》
魔王と引き離す目的は無いにせよ、結果的には引き離せる事に。
コレで一緒に行動出来たら良いんですが。
「ルツも同行出来る?」
《はい》
後に、コレは喜ぶべき事では無かったと知る事に。
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