理想郷とは。
私達の中でオセアニアとは理想郷、つまりは
「ようこそ皆さん、ご苦労様でした。アナタ方が第1陣、初めて無事に到着された方々ですよ」
《アナタは》
「はい、どうも、アナタ方が言っていた
真っ赤なレースの奥に、真っ赤な見慣れぬ服装だった。
彼女は神の使者なのか、それとも異教の女神マリなのでは。
『はぁ、家はココだけみたいだし、やっぱり建てるんだな』
「まぁ、何も無いよりはマシよ、暇はもう飽きたもの」
《ですね》
「失礼しますね。今回アナタ方はとても優秀でした、一切争わず壊さず、清潔に過ごし疫病を発生させなかった。礼儀正しくしていたからこそ、こうして休憩小屋を与えられた。ですが、真の
《あの、宜しいでしょうか》
「どうぞ」
《神様の、神聖なる土地だから、だけでは無いのでしょうか?》
「アナタ方の求める神様とはお会い出来無い、代わりにこの土地が与えられました。慈悲と自由と土地を、ココの本来の神々と民によって、分け与えて頂いたのです」
《では、前の土地は》
「以前に住んでいた土地は本来の神々に返されました、元は貴族達が侵略し、略奪した土地だったのです。ですが本来の神々はアナタ方を許し、殺す事を願いませんでした、そして生きてこの地に移動する事を許したのですが。それでも慈悲を受け取る事を拒絶した者は、ほら、あの船をご覧なさい」
暫くして黒煙が上がったかと思うと、真っ赤な炎が上がった。
赤い魔女、炎。
《アナタはやはり、異教の女神、マリ》
「ぁあ、知ってらっしゃるんですね、赤い貴婦人を。ですが私は人間ですよ、赤い血が流れる、アナタ達と同じ人間」
「もう、戻れないのでしょうか」
「いえ、女神マリを、マジュ神を信じる者は住めますよ」
『異教の神を崇拝しろと』
「いえ、この地でアナタ方の信仰を続けても構いません、戻る方法をお教えしただけです。どちらかです、戻って女神マリやマジュ神を信じるか、ココでご自分達の信仰を続けるか」
《教えて頂けますか、私達の罪、とは》
「知らずに悪人の手助けをしていた、知ろうとせず貴族達の横暴を許した、アナタ達が何も考えずに差し出した食べ物で悪を成長させた。それがアナタ達の罪、知らない事は他国では罪ですが、ココでは罪にはなりませんから安心して下さい」
《罪を、償い方を、知る機会はもう無いのでしょうか》
「いえ、向こうの小屋には道具も書物も揃っています、そして要望が有れば代表者を決め小屋の者に伝えて下さい。そうすれば知れますし、道具も貸して貰えますよ」
《彼らは》
「各国から派遣された調査隊ですので、決して殺さぬ様に、さもなければアナタ達が殺されますから。害されたく無ければ害さない、基本的で当たり前の決まり事ですから、決して忘れないで下さい。では」
予想はしていた、けれどそれは凄く数が少なく、自由なのだとも思えた。
だが、自由には代償が伴うと知ると、帰りたがる者が徐々に増え始めた。
「私、帰るわ」
『は?』
「だって井戸を掘らないと得られないし、次に来る者の為に家を建てて食糧を確保するなんて、途方も無さ過ぎるわ」
『だとしても、神様が』
「ココに現れて下さらない、しかも向こうでだってお会い出来無かった。言ってたわ、調査隊の方に聞いたの、貴族は神様を利用して私達を使ってただけだって」
『それこそ、敵の言う事を信じてどうするんだよ』
「敵って何?彼らは私達を害さない、しかも何でも教えてくれる、それこそ向こうでも同じ様に色々と教えてくれるって言うのよ?なら向こうで私は生きるわ、子供も残してきたし、会いたいの」
『だから子供を』
「いつになったら子供達を呼べる程、水と食料を蓄えられるって言うのよ!」
無理をすれば暑さで倒れる、しかも与えられる水や食料は常にギリギリ。
自分達だけなら生きられるが、蓄えるとなれば無理をしなければならない、だが世話になるのは最低限にすべき。
私達は土地を借り、自由を与えられているのだから。
《君は、信じる事が出来るのかい》
「あの子達が元気だったら、私は信じれるわ」
《そうか》
『おい、神様を裏切る気か』
《もし神様が裏切りを許さないなら、彼女は戻れない筈、戻れたとなれば神様は許したのです。見守りましょう、試練を邪魔する事の方が罪なのですから》
「ありがとう、もし子が亡くなってたら、今度こそココで死ぬわ」
そして彼女が戻る事は無かった。
ただ、彼女のサイン入りの手紙は届いた。
息子に書いて貰っている、そして貴族や逆らう者以外は無事に生き残れている、と。
そしてロッホの横に女神マリが現れ、本当に信じる事にしたとも。
私は直ぐに手紙を焼き、彼女の無事だけを伝え、井戸を掘る作業へと戻った。
それから何度か船が到着し、人手が増え、その分だけ水や食料の確保が大変になった。
そして秩序、治安も悪化し、生きるには確かに彼女の方が正解だったのかも知れないとは思った。
けれども見捨てるワケにはいかない。
字の読めぬ者、新しい地を与えて下さった方の為にも、この地で生きる事が私の償いなのだから。
『俺らの罪って、何なんだよ』
「良いでしょう、少し待ってて下さいね」
俺は字を読めないし、書けない。
動く方が好きだし、神様も好きだからこの地で頑張るつもりだった。
けど、じゃあ、原罪が消えたなら俺らの罪は何なのか。
ウチらを纏めてる爺さんは分かってるらしいが。
《私が、アナタ達の罪よ》
ロッホが抱えて連れて来た女の子には、足が。
「貴族にこんな姿にさせられて、最初はもう死にたいって言ってたのよね」
《けどもう痛くないし、お水も好きなだけ飲めて、美味しいご飯を食べられるから生きる事にしたの。けど、アナタ達は絶対に許さない、アイツらの仲間は絶対に許さない》
『そん、俺は』
「貴族達のエサを作ってただけ、でもそうして悪しき獣を育てて野放しにしたのはアナタ達。知ろうとすれば殺されてたから仕方無いとは思うわ、けど、今はもう違う。アナタ達のお陰で貴族は畑を耕さずに食糧を得て、そうして彼女の足を切り落とし痛め付ける暇を与えたのは、アナタ達が献上していた食糧。そうだと知ったわよね、今」
『知ったけど』
「で、アナタに何が出来る?この子の足を生やせる?それとも同じ痛みを受ける?」
《苦しめ、私と同じ様に、痛くても、助けてって言っても》
「無理でしょうね、女性器が無い、同じじゃないし同じは難しいから」
《だから同じだけ苦しんで欲しい、どれだけ痛かったか、どれだけ苦しかったか考えてよ。アナタ達が何も考えないせいで、私はこうなったんだから!》
「何をしてたか知れなかった、けど知れてたら?彼女を助けてあげた?」
『そら、だって』
《私は黒い魔女よ、けど何もしてない、村の近くでお花を摘んで遊んでただけなのに》
「攫って逃げられない様に足を傷付け、いたぶった」
『それにはきっと、何か、ワケが』
「ワケが有れば無辜の者をいたぶっても許すのね、アナタの神様は」
『罪が、あれば』
《私は何もしてない!お母さんの誕生日に花冠を作ってただけ!誰もケガさせてないし殺してないもん!》
『けど、でも』
「貴族は嘘を言わないって、神様が言ったの?」
『いや、嘘はダメだって』
「だから貴族は死んだのでは?」
『なら、神様が居るってのも』
「ココの神様なら居るわ、素敵な虹い色の、綺麗で大きな蛇の神様が」
《見たい、私、虹好き》
「じゃあ、少し外に出るわよ、暑くて眩しいから気を付けてね」
《うん》
そして、便利小屋のドアを開けると、目の前には。
『そん、神様がこんな簡単に現れるワケが』
《“わぁ、凄い綺麗、本当に虹みたい、虹より綺麗”》
「“でしょ、ボロング様って言う女神様なの”」
《“私はマリサ、綺麗ですねボロング様”》
《“良く言われるわ、ふふふふ”》
「ほら、言葉は分からないでしょうけどただの蛇では無い、ココの女神ボロング様よ」
『本当なんですか、貴族が、この子を』
《私はその場に居なかった、聞く相手を間違ってるわ》
「そうですね、天使様が適格かと」
『どちらかと言えば私も不適格かと、その場には居りませんでしたから。ただ、主は全てを見聞きしておられました、そして大変嘆いておられました。無辜なる魂の犠牲の多さ、罪の多さを、今でも嘆いておられます』
『だから俺らに』
『いえ、お姿を現さないと元から決めてらっしゃったのです、争いを避ける為にお姿を現さないのですよ』
「なのに争い、虐げた、御心を理解する事を怠った罪ですよ」
『教えを疑う事は』
『誰の教えですか?私達はこの何十年かは、アナタ達には、この方と共にお言葉を伝える以外はしておりませんよ』
『けど』
「騙され、嘘をつかれた。でも良く考えていれば見抜けたかも知れない、だから島流しや殺された者が居たのだから」
『それは、悪い事を』
「誰にとっての悪い事なのか、少なくとも神様と言うより、代弁者の都合に悪い事。では無かったでしょうかね」
《もう下がった方が良いわ、急に暑い所に来たから、コレ以上ココに居ては体を害すわ》
「ありがとうございます“帰りましょうマリサ、ボロング様が暑いだろうってアナタを心配してくれてるわ”」
《“ありがとうございます、さよなら天使様、ボロング様”》
『“はい、では”』
貴族が悪かも知れない。
確かにあの女が言ってたけど、でも。
『なぁ、貴族様は、悪い人達だったて本当なのかな』
《ココに居ないのが良い証拠じゃないかい》
『それは、アイツらが殺して』
《そう殺される事を神様が許したのなら、同じ事じゃないかな》
『けど』
《それに、私達の神様を取り上げる事も出来たのに、彼女達はしなかった。なら、神様を悪い事に使った貴族達が罰せられたのだと、私はそう思っているよ。私達は異教徒を悪だとする、けれども彼女達は神様を悪ともしないし、間違っているとも言わない。試しに尋ねてみたら良いさ、貴族と神様、どちらが悪いと思うかと》
爺さんに言われた通り、調査隊の1人に尋ねてみた。
何人にも何人にも。
けど。
《神様とあの国の貴族?ならもう貴族だけが悪いだろ、自分達が楽する為に、宗教を利用したんだしな》
《宗教?》
《アンタらで言う異教にも種類が有るんだよ、たった1人の神様を信じる一神教か、複数の神様を信じる多神教。教えも掟も其々、ただ他はアンタ達とは違って、他の神様を貶めたり居ないとは教えてない。アンタ達は古くて新しい宗教、神様を利用して罰を受けてる、悪しき宗教者なんだよアンタ達は》
それから宗教について沢山聞いた。
そして神様に会いに国に戻って、更に調べて、絶望した。
俺らが信じてた神様は、代弁者達が作り上げた、模倣品。
似た神話を好き勝手に組み合わせて、神様を作り上げ、宗教を作り上げた。
そして元貴族にも会った、聖なる書物を纏める役だったヤツだと言う者に。
『アンタ達が作ったって、本当か?』
《もう何遍も色んなヤツに言ってるけど、その通りだよ。本にも書いたろ、読んで、読めないのか?》
『いや、読んだが、本当かどうか』
《アンタ、嘘を見抜けるギフトか魔法、魔道具でも持ってるのか?》
『いや』
《なら会って聞いてどうする、少なくとも前書きにコレは真実だと書いたぞ私は。ソレすら疑ってどうする、何の意味がある、アンタ何がしたいんだ?》
『本当の事を、真実を』
《どう本当だと確認する、どう真実だと思うつもりなんだ?それとも貴様は神を騙る気か?見定められるとでも言うのか?》
『いや、神様を』
《なぁ、何の能力も無しに真実かどうか、どう見定めるんだよ》
本当の事、真実かどうかは。
『何を信じるかに、よる』
《それか神の御業以外に無い、だが私は出会ってしまった、ロッホの隣には天使様が居た。だから私は天使様を信じ、ロッホを信じ、こうして今もお前みたいなヤツの相手をするのが罪の償いだと信じている。私の本は全て真実だ、代弁者と貴族が宗教と神様を利用し、私達他の貴族も含めて民を利用していたんだよ》
『何か、困っている事は』
《牢に居るだけで特別不自由は無い、語り、書くだけで許されるとは思えない。だからこそ私は敢えて牢に居る、心配無い、コレは私の試練の一部だ》
後に
だが疫病の発生が無かったにも関わらず、人口は伸び悩み、4万人を超える事は無かった。
そしてスペインへ戻った者、オセアニアに残った者の内、自殺と思われる数は15%を超える。
尚、自殺は禁忌とされている為、首吊り等の報告は皆無だが、病気の報告も無しに死亡した件を抜き出し再検証が行われた。
自殺と考えられる主な死亡原因は絶飲絶食による餓死、過労、水難事故。
高齢になる者程増加し、特に第1陣の平均寿命は疫病に掛る事が無かったのにも関わらず、36歳だった。
そして最高齢もまた、第1陣の者、代表者のタデオは85歳で亡くなった。
寛大さや優しさの意味を持つタデオは、
だが教えや決まりを文字に残さなかった事で、直ぐに
それこそがタデオの狙いだったのか、神の狙いだったのか、それともロッホと呼ばれる女性の狙いだったのかは不明だが。
理想的な
「桜木、ココまでだな、公的記録で追えるのは」
「ロッホ、ロッソ、ローシュ」
「まぁ、フルネームじゃないから、全員違うかも知れないが」
「コレ、こう、マジで
「そらお前、クソ幸せになる為に生きまくるしかないだろ」
「何だよ、生きまくるって」
「イキり倒す的な?」
「真面目に考えてくれへん?」
「真面目に考えてどうすんだ?」
「それな、ハイプレッシャーだわな」
「まぁ神様に聞きに行っても良いが、多分、同じ事を聞かれるぞ。知ってどうするのか、どうしたいのか、知って何が良い方向へ変わるんだ。ってな」
「知る義務は」
「ならちゃんと名を残してるだろ、向こうには鈴藤紫苑も、シオンの名も辿れる様に残ってるんだから。残さなかったって事は、探すなって事だろ、敢えて行方不明って事だ」
「どう、それこそ、償えば」
「おいコラ無限ループしてんぞ、幸せになんのが1番だろ。お前に苦しんで欲しかったら、それこそお前の名を残すか、似た名の何かをコテンパンにするか。嫌ってたら神獣に
「それは、こう、フェイクで」
「何をどう、誰を信じるか、だろ」
「この、ローシュさんが、幸せになったのかどうかだけは、知りたい」
「不幸だったらどうすんだよ、お前も不幸になる気か?」
「いや、そう、今も改善されて無い様な部分が原因なら、八つ当たりしに行く」
「俺にちゃんと報告して、話し合ってからだ、良いな?」
「過保護」
「お前なぁ、ローシュさんより直ぐに行動に移すからだろうが」
「もうしません」
「コレ絶対、お前なら秒でスペイン攻略に行っただろ」
「まぁ、セレーナが居れば」
「ほらぁ」
「報告はする、話し合いも、一応はする」
「おう、約束だからな、破ったらショナ君の小指を切る」
「人質とは卑怯な」
「そう言った意味で信用の無いお前が悪い、お前を拘束しても腕を切り落とそうとするとしか思えん」
「ぅう、アレは、若気の至りだし」
「はいはい、俺がショナ君に話すからお前は顔を洗ってこい」
「ぅぃ」
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