決戦は何曜日。

 <赤き衣を纏った黒き魔女が、虐げられた者の代行者として鉄槌を下す>


 私の噂が広まり、結界が完成するまで待てば、寧ろより強固なデストピアとなってしまう。

 だからこそ、黒船からの情報が途絶え、魔王を失ったかも知れないと狼狽えている今だからこそ。


「赤って、本当は私も好きじゃなんだけど。セレッサは似合うわ、凄くカッコイイ」


 自慢気、気に入ってくれてるなら何より。


《私も同行させて下さい》

「もう魔道具も何もかも揃ってるんだし、大丈夫。散歩よ散歩、じゃ、また後で」


 アーリスは姿を消し非常事態に備える。


「素っ気無いですね」

「別に直ぐ会えるんだし、いつも通りが1番、緊張したら負け。コレは練習」


「まぁ、本番なんですけどね」

「と言う名の練習。では、参りましょう」


 私とセレッサが正門の上で宣戦布告する。

 その間、魔王には本拠地で好きなだけ殺して貰う。


 それから私とセレッサが暴れ回る。


「名前はいつになったら教えて貰えるんですかね?」

「アナタと無事に再会出来たら、で」


 顔も名前も知らない私達を信用してくれている、そして国名も知らぬまま。

 けれども後から私達の国名を広め、散り散りだった者が私達の国に来る、予定。


「じゃあ、では、また」


 彼は無限とも思える魔力、飛行能力と再生能力、全てを切り裂く魔法の力で抗ってきた。

 しかも優しい事に、私達を利用しただけだと言い張っている。


 けれど次に会った時、彼は覚えているかどうか。

 脳が激しい損傷を受けると当然の様に記憶を失う、そして強烈に魂に刻まれたモノ以外、消えてしまう可能性が高い。


 だから彼に魔道具を埋め込んだ、ただその魔道具も吹き飛び、天使除けに連れ込まれたら行方が分からなくなる。


 それだけは本当に避けたい、知識はまた教えれば良いし、私や国を信頼はしなくても良いから。

 出来るならコレ以降、平和に生きて欲しい。




「遠路遥々遠くから参りました!黒き魔女ですどうも、アナタ方が各地で暴れ回るので、宣戦布告しに参りました」


 信仰心が有る程、ローシュが怖く思える。

 だって自分達の味方で、敵国を潰して回ると信じてる赤き者が、自分達に宣戦布告してるんだもの。


『凄いねセレッサ、君のお母さんはカッコイイね』


 セレッサは僕らの事を親だと思ってるみたいで、いつも凄いでしょって顔をする。

 そして自分が褒められても喜ぶし、ローシュや僕が褒められても喜ぶ。


「こんな土地は要りません、征服する気も御座いません。ココでだけ生きるなら私達は手を出さなかった、ですが各地で、各国でアナタ方は騒動を起こしました。なのでココを滅ぼします、ただ罪を償う気が有るなら殺しません、罪を償う気が有るならビルバオかジブラルタルの港へ向かって下さい」


 静か。

 戸惑ってるのも有るんだろうけど、天使が現れないとダメなのかな。


『セレッサ、天使除けの結界を壊すよ』


 この街全体が天使除けの魔法陣になってた、凄いよね、道とか使って魔法陣にしてた。

 ただ、門も魔法陣に組み込んでたのは良く無い、一気に守りを2つ失うんだもの。


『成程、街全体が天使除けの魔法陣だったのですね』

「コチラの天使様は、信心深い皆さんなら、もうお分かりかと」


 羽根は勿論、手に持ってるモノで見分けられるだろうって。

 本当に、次々に膝を折って手を合わせ始めた。


『ふふふ、信じそうも無い者の耳元に私の名前を届けてるから大丈夫ですよ、順に』

「凄い、だから。すみません、お手数をお掛けして」


『いえ、では参りましょう』


 セレッサは門の瓦礫の上で待機。

 僕は天使とローシュの少し後ろから、周りを警戒しながら付いて行く。


「改めて言いますね、罪を償う気が有るならビルバオかジブラルタルの港へ向かって下さい、どうか命を粗末にしないで下さいね」


 ローシュが大声を出してないのに、遠くの方の人間まで膝を折ってる。

 多分、天使が言葉を届けてるんだと思う。


『アナタの慈悲が伝わらない者には、3回だけ、声を届けますね』

「ありがとうございます」


『いえ、コレこそ私の仕事ですから』


 ローシュは真っ直ぐ城へ。

 人が両側に避けてく、凄く静か。


 あ、伏兵が。


「邪魔するとこうなりますから、償いに行かれた方が宜しいですよ」


 兵士の両足を切断して直ぐ、魔導具の鞭を巻き付け、引きずり始めた。

 今は死なないけど、鞭を緩めたら出血多量で死ぬ。


 ローシュには殺しをするな、と王様が言った。

 だからローシュは殺さない、この兵士を殺すのは、ローシュの邪魔をした者。


 コレはルツが考えた案。

 前に敵を倒した時は後悔して無さそうだったけど、殺した分だけお花をお墓に置いてた、って。


 殺すのに慣れてないから、いつか後悔するかも知れないから、だからその役目は僕らのモノ。

 でも敵地ではローシュは危ないと思われなきゃならない、だからコレ。


 信心深いならコレで大丈夫だろって、ローレンスの報告のお陰。 

 けど。


『彼を殺したく無いのなら、彼女の邪魔をするべきではありません。アナタが邪魔をすれば鞭が緩み、血が吹き出てしまいますよ』


 教育水準が低いから、見ただけじゃ分からない奴も居るかもって心配してたんだけど、僕らの会話を聞いてたんだ。

 って言うかずっと聞いてたのかな?




「はぁ、折角殺さないでいたのに」

「邪魔されてしまったんですね、お疲れ様でした」


「そうなのよ、しかも鞭を離せって、だから鞭を離した瞬間に大量出血。慌てて処置してたけど、無理でしょうね。あ、いえ、お気になさらず」


 彼女は天使と他の仲間とも一緒らしい、けれど私には見えていないし、声も聞こえない。


「天使、ですか?」

「そう、暫く見守ってて下さるそうで、にしても見事に殺しまくったわね」


「スッキリしました、やっぱり私は悪魔なんでしょうかね」

「黙ってやられてろって言う方が悪魔、スッキリする程度は人間、射精するのは変態ね」


「射精はしてませんよ、既に色欲は分化してますから、確認しておきますか?」

「気が向いたらね、まだ潰さなきゃいけない拠点は多いし」


「はい」


 最速最短、効率と呼ばれるモノを考え、中央から辺境へ向かって潰していくんだそうで。

 私が城を見付け、セレッサと呼ばれる竜が門を壊す。


 どうやら私には天使除けの効果が薄いんだそうで、視認出来るんですよね、なんせ真逆の存在の魔王ですから。


 そして、嘗ては神の代弁者だと名乗っていた男の首を持ち、次はいきなり城へ。

 そうして彼女の横に並び立つ事に。


「はい、この方のお顔を良く見て下さい、彼は天罰が下って死にました」


 真っ赤な彼女と真っ赤な私、真っ赤な生首を見て、死を悟ったのか祈り始めた。

 だが急に祈りを止め、周りを見渡し始め。


 多分、天使が何かを言ったのだろう。


《違うんです、そん、私達は神の為に》

「神の為、無辜なる者の血を捧げるなんて、とんだ邪教ですわね。真に悔い改めなければ、アナタ達が犠牲にした者達の居る辺獄に落とされますわよ」


《いや、そんな》

「先ずは罪を償わせてあげたら宜しいんじゃないかしら、ほら、聖剣で殺せば罪が消えるとの噂ですし」


 そんな戯言、私でも信じない。

 なのにその女は信じたのか、彼女が床に転がした短剣を手に取り、味方を襲い始めた。


「こんなに簡単に信じてしまうものですかね」

「信じたいからね、そして信じたくないと信じない、だからさっき邪魔されたのよ。簡単過ぎる仕組みは簡単に覆る、知ると理解の違い、縋ると信じるの違い。かしらね」


「成程」

「私は何でも知ってるワケじゃないから、考えの参考にするだけにしてね」


「はい」

「あ、それ単なる短剣ですわよ」


《そんなっ!嘘よ》

「ほら」

「確かに」


「信じたいから信じる、誰にも害が無いなら好きにすれば良いのだけど。難しいわよね、常に小さな命も虐げ、犠牲にしているんだもの」


《私達は違》

「植物には命が無いの?絶命時に声を上げないと命とは認めないのかしら、と言うかシルクだって命の残骸、虫にとっての爪や髪。この位で1つの命分だから、余裕で100の命を纏ってるわね、流石虐殺者だわ」


《そ、私が作ったんじゃ》

「自分の手を下さなかったら、殺した事にはならないって言いたいのね。分かるわ、でも殺したじゃない、直接」


《それは、罪を消す為に》

「お相手の罪は消えたかも知れませんけど、その罪はアナタが負った、頑張って償わないといけませんね」


《そんな、私の罪が消えるんじゃ》

「私、そんな事言ったかしら?」

「いえ、聖剣で殺せば罪が消えるとの噂が有る、とだけ。誰の、とは言ってませんでしたね」


《酷い、騙したのね》

「ほらもう、教養が無いってこう言う事よ。聞くべき事を聞かない方が悪いのに、自分の都合が悪くなると直ぐに人のせいにする、愚かって楽なのよね」

「だから低きに流れる、彼らもこの事には感心してました。やはり水や川に例えられると分かり易い、性質を理解していれば例えの理解も早くなる」


「それかこうして、見せるか」

「やってみせ、言って聞かせ、させてみせ。ですね」


「楽に分かってくれる子でも、真の理解となると別だし」

「殺した方が早いとは思いますけど、それこそ育たない不毛地帯になり、結局は悪しき芽が蔓延るかも知れない。なら良い芽で覆いつくした方が楽」


「早さ、楽さ、手間。それらを総合的に算段して、最速最短、最も良い効率的な方法を導き出す」

「知恵は必要。ですが、ココの生き残りはどうしましょうか」


「あ、そうね」


 そう言って彼女は、影からドアを出した。


「流石、黒き魔女、凄いですね」

「何か凄く複雑な心境だわ、魔王に褒められるだなんて」


「あ、失礼しました」

「そうじゃなくて、魔王ならコレ位は出来るでしょうに、と思ってたのよ」


「良いんですか、私にそんな便利な要素を足して」

「コレ、命はしまえないからそこまで便利じゃないのよ、しまうと何でも死滅しちゃうの」


「なら私を殺してから、しまえば?」


「後で試しましょうね、終わってから」

「はい」


 そして彼女が開けたドアへ生きてる者を投げ込み、調査隊と呼ばれる者達に任せ、次の場所へ。

 命が終わったモノなら何でもしまえる、便利ですよね。




「はい、この方のお顔を良く見て下さい、彼は天罰が下って死にました。あのお城にも天罰が下りますよ、ほら」


 久し振りに会えたローシュの魔法なのか、神々の力なのか、城に幾つもの雷が落ちた。

 そして民はかくもアッサリと膝を折り、ローシュの邪魔をする事も無く、指定された港へ行く準備を始めた。


 ココの支配者にとって扱い易く容易、それは同時に他者にも扱いが容易となる。

 愚か者はより強い者、正しさを示す者に容易に靡く。


「早かったですね」

「ココは信心深い愚か者が多めなのか、雷が効いたのか、邪魔が無かったから」


 ココの者は全員殺しても問題無いと報告していたので、魔王らしき角と翼を持つ者は血塗れ。

 感染症を心配しないで済むのは便利だな、と思ってしまった。


「それで、彼は?」

「可愛いでしょ、付いて来たからほっといたの」


「と言う事にしておきますね」

「はいはい、ドアを出すから、ちょっと下がってて」


「便利ですよね、自治区にも戻り放題ですし」

「戻る気は有るのね、でもダメよ、ココと同じで侵略され易くなるから」


「便利だけれども不便な方が良い、複雑な方が侵略され難い」

「そこまで仕上げるのが面倒なのよね、手間が掛る」


「教え、育てる、だから教育なんですね」

「ほら、自頭が良いのよ彼」


「最近、良く言われます」

「そうね、じゃあ次に行きましょう」


 調査隊の出入の為、ドアはそのまま。

 俺は荒事は不得手だから死体を見るだけでも恐ろしいのに、ローシュと魔王は何事も無いかの様に会話し、次の場所へ。


《あの、アナタは》

『ローレンスと申します、宰相のルツさんにお目通りをお願い出来れば、と』


《ぁあ、はいはい、どうぞお通り下さい》


 そうして事前に聞かされていた通り、ドアの先の次のドアでは無く、階段を降り牢へ。

 自ら鍵を掛け、階段付近に投げる。


 疫病予防と俺の洗脳対策、潔白を証明するにはコレが最も効率的。


《お久し振りですね、ローレンス》

『どうもルツさん、早速始めて下さい』


《では、お願い出来ますかアリアドネ様》

『体はクリーンよ』

『どうも、お初にお目にかかります、ローレンスです』


『ふふふ、後は心はどうかしらね』

《では、盟約魔法を行います》


 俺も知らない嘘を見破る魔法。

 多分、王族だけが知る魔法なのだろう、存在を知られては偽装される可能性が有るのだし。


『掛ったわね?』

《ですね、では質問を始めます》


 掛った、と言う事は、何か隠された成立条件が有るのだろうか。

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