オーストラリア大陸へ。

「えっ、宜しいんですか?」


 私達が辿り着くと同時に、敬意を表す為なのか、先住の方々が膝を折って出迎えてくれた。

 時差を気にせず来て真夜中だと言うのに、大きな焚き火の前にはお酒や食べ物が3人分、木の丸太のテーブルに置かれていて。


 そして夢で既に聞いており、承諾する、と。


『見慣れぬ姿の者が現れ、この地を平和の礎とする。そうシャーマン全てが同じ夢を見ました、それはこの土地の神の意向です、私達は受け入れます』


「ですが、アナタ達に害が」

『本来であれば滅びのみ、ですが害されぬ様にアナタ方が協力してくれるとも、我々の転換期だとも聞いております』


 コレ、神様に私達が利用されてるとも受け取れるけれど。

 良いのかしら、いざこうして快諾されるともう少し警戒して欲しい、要は責任をコチラに押し付けないで欲しいのだけれど。


「害とは何かを」

『害とは滅び、死です。後は数、多いか少ないか、少ない死を選ぶなら今だとボロング様は仰られました』


「その、ボロング様とは」


《私よ》


 声の方を向くと、虹色に艶めく蛇が。

 デカい。


「ぁあ、ご挨拶が遅れまして」

《良いのよ、さ、コッチへ。アナタとその小さい子だけ、お話をしましょう》


 セレッサが警戒していないのなら、間違い無く善神。

 の筈。


「あの」

《ソチラで言う認識を疎外すると言われる魔法を使い、アナタ達には見えない様にしていたの》


「となると」

《ずっと居たわ、けど彼女には認識させていたから大丈夫、彼女も蛇と言えば蛇ですからね》


 セレッサ、何を得意げに。


「えーっと」

《創世神であり地母神、虹蛇のエインナガの子、虹蛇のボロング》


「ローシュと名乗らせて頂いております、意味は赤色で御座います」

《良い名ね、命の色の名だわ》


「すみません、ユルルング様しか知っておらず」

《あら凄い、そして悔しい》


「すみません、ご存知の通り、向こうでは伝承が途切れ途切れでして」

《まぁ、彼は男神、私は女神としてココに居るから気にしないで》


「それで」

《いつかは大国に呑み込まれる、そして滅びるか、虐げられながら僅かに生き残るか。ならコチラが有利な生き残り方をし、虐げられず、滅びない道を選ぶべき。守る為だと頑ななままでは不利になるだけ、早くから溶け込み融和し合えば、民も文化も生き残る》


「ですが、そうなると向こうと」

《違う道を辿るでしょうね、でも大事な事は生き残る事、滅びを避けるべき。なのだけど、滅びを待ち望み、選ばれる事を望んでいる様に思える。なら与えてあげたら良いのよ、そうしてココで出来るモノならしてみたら良いわ、彼らの言う千年王国を築かせてやれば良いのよ》


「わぉ」

《ふふふ、神は寛容で、そして時に自分勝手に好きな様にする。神っぽいでしょ?》


「はい、神っぽいです」

《ふふふふふ、じゃあ、こう大陸が有るから真ん中に築かせましょう。ただ、見張りをお願いしたいわ、私達にも限界は有るから》


「話が早い」

《だって神だもの》


「成程。では、そうですね、ココ独特の生き物が居ると思うので、先ずは学者と侍従を各国から呼ぼうかと」


《成程、それで?》

「必ず騒動が起こるでしょうから、予め各国の船に乗っていた精鋭に協力を仰ぎ、各国がココで連携を取る」


《私達の民が招き、請うた事を彼らの前で示すのね》

「そうして各国には、甘い顔をする者や厳しい立場を取る者として現れて貰い、実は守って貰う立場なのだと分からせる」


《そして彼らに守って貰う事を断れば》

「煮るなり焼くなり使役するなり、お好きに。ただやはり疫病が心配なので、暫くこの地で関係者の隔離が必要かと」


《そして治療者も。そうね、向こうではココの統治は何処がしてたのかしら?》

「確か、イギ、ブリテンです。発見はオランダ」


《成程、日本と呼ばれる国とは関われないのかしら》


「大好きですね皆さん」

《だって蛇の神を善神として民すらも奉ってると聞いたんだもの、しかも私達を害した歴史も持たない、そんな国は早々無い筈よ》


「まぁ、向こうでも、ある程度は島国として完結してましたからねぇ。知り合いを行かせてますが、船でコチラへ来る事は、そう無いかと」

《なら呼びなさいよ、船は使うけれど近いでしょう、中つ国の者も巻き込んで呼びなさい》


「えー、あー、と言うか経由地を考えないとですよね」

《海の真ん中の島ね、なら伝言させるか行きなさい、交換条件よ》


「何で巻き込みます?」

《寧ろ加わる機会を与えてあげるつもりなの、だから強制では無いわ、向こうが断ればそれも良いのだし》


「いえ、そう言うワケにはいかないんです。国際化ともなれば協力しない国には協力しない、となってしまいますから」

《そこを上手く交渉させてあげなさいよ、場に引き摺り出すなら準備を万端に整えてあげて。じゃないとこの地を貸すのは無しよ?》


「えー」

《えー、じゃないの、過保護にも巻き込みたくないのは分かるわ。でもアナタ達の言う偽一神教者が紛れ込まないとも限らない、既に巻き込まれているかも知れない、例え知らないまだだったとしても直ぐに対処が出来る。いつ備えさせるか、よ》


「向こうにお伺いを立てに行かせて下さい」


《過保護ね、育ての親でもないのに》

「まぁ、ココのは詳しく知りませんが、好きな場所ではあったので」


《ならどうして行かないの?》


 確かに。

 何でか避けてたのよね。


「幻滅、したくない、とかでしょうかね?」

《それとも居着いてしまいそうだから?》


「ぁあ、まぁ、最悪は逃げ場にする気でしたし。はい、行ってはみます」

《宜しくお願いね》


 何か、思ってた展開と真逆な気がするわ。




『で、姉上は、どう真逆になると思ってたんだ?』

「1度は断られるか、話し合いが長くなるか。でも、こうして話してみると、単に私が人間相手を想定してただけで。寧ろ神様相手には不敬よね、はぁ」


『姉上が不器用で安心した、それに神々も俺らも特別扱いしないってのは平等って事だしな、良いと思うぞ』

「はいはい、不器用です、後はもうアナタ達で考えて」


『そうだな、姉上はお疲れだろうし、うん、休んでくれ』

「そう言うワケにも行かないのよ、このまま日本に行くわ」


『気にしい』

「五月蠅いわね、仕事が早いと仰い」


『へいへい』

「このまま行ってくるわ、向こうでも待ってたとか言われたら気まずいし。あ、ルツは待ってて、もう伝言が行ってそうだから逆に仰々しさを控えたいの」


《分かりました》


 そうして今度は僕とローシュは少し休憩してから、セレッサの手の中に入って、日の出国のネオスの居る場所へ。

 伝書紙でルツとの事は伝わってるだろうけど。


「良かった、元気そうで」

『はい』

『ローシュは挨拶してて、僕はネオスに案内して貰うし、セレッサも休憩させたいから』


「そうね、お願いね」


『ごめんね、拗れちゃってて』

『いえ、元はルツさんが原因だと、アーリスは何度も仲裁に入ったとも聞いてますから』


『でも、分かるでしょ?何となく』

『まぁ、はい、私も愛を知ってはいても、上手く扱えるかと言われたら無理だと思いますし』


『けどネオスは聞くじゃん、あの嫌味を言わないと死にそうなローレンスにも聞いて、上手くやろうとしてた。なのに』

『ルツさんが居てこそだとは思うので、そこは納得しているので大丈夫ですよ』


『それでも、ごめんね』

『いえ、アーリスに悪い部分は無いですから、謝らないで下さい』


『もっと素直にって、言えば良かったのかなって思ってる』

『言っても自覚が無いと難しいかと、愛について良く知っていると思っていたんでしょうし。私も危ない事には関わりたくなからこそ、顔を焼いたんですし』


『けど、このまま記憶が戻らないままって、嫌なんだよね』


『独占出来るんですよ?』

『この独占がローシュに良いかどうか、少し前は子供の事とか話に出てたのに、今はもう全く出ない。状況のせいだけじゃなくて、僕を失いたくないから子を持たないって事に傾いてるみたい、子育てに自信が無いから無理って感じ。平和に2人だけで暮らそうって、話そうとしてくれない』


『それこそ状況が状況ですし、落ち着けば気が変わるかも知れませんし』

『心の片隅でルツを好きなローシュを僕は受け入れた、独占は嬉しいけどこんなのは嫌だ。でも思い出して、また傷付いて欲しくないとも思ってる、思い出しても上手くいかないならこのままが良い。でも、こんなのは嫌だ、ローシュが欠けてるんだもの。それにローシュは望まない、望んだけど、ルツがずっと傷付き続ける事は望んでない』


『その、ルツさんの方は』

『結構早めに思い出してて、それで黒真珠を得ようとしてる、冥界渡りをして』


『は?』

『それこそお金じゃ買えなくて、国を割譲しないと得られないって。だからソレ以外の方法で得るには、安全な方法を探したけど、見付からないから』


『失敗したら死んで終わりなんですよ?』

『うん、だから今回の事が終わったら』


『キャラバンの力でも、ですか』

『うん、何処でどう調べても、黄金以上の扱いだから無理なんだ。しかも採れそうな国は分かったけど通訳者が居ないし、下手に動けばその地の者に迷惑が掛かるから、それしか無いんだ』


『出来るのは、寧ろ』

『でもルツの試練だから、僕らが手を貸すにも考えなきゃならない、ルツの試練を取り上げる事になっちゃうから』


『なら、私とセレッサを』

『ルツが請うならね、もしかしたら冥界渡りをする意味が、何か有るかも知れない。だから冥界渡りは邪魔出来ない、邪魔をしたらルツもローシュも困るのが神話の定番だから』


『その、万が一にも失敗したら』

『死なないとは思う、けどルツからもローシュからも完全に記憶が消えるか、すり替わるんじゃないかなって思う。そうして僕や誰かにすり替わって、2人は苦しまないで済む、それこそ僕の記憶もどうにかなるかもだし』


 平和にはなると思う、今回の事が成功すれば特に。

 けど、どっちの方が安心出来るか、幸せかって言うとルツが居る方。


 僕はルツを真似てローシュを説得したり宥めたりしてる、でも僕はルツじゃないから上手く言えなかったり、時間が掛かったりするし。

 前より長く一緒には居ても、仲が良いって感じと少し違う、少し隙間が有る。


『正直、私の私利私欲が絡むので微妙なんですが、ルツさんが居た方が色々と円滑だとは思います』

『だよねぇ、僕もそう思う。役割分担して上手くいってたのに、独占になると少し違うんだもん』


『だからと言って他は無理でしょうし』

『ネオスは名乗り出ないんだ?』


『ローレンスなら言い出すかも知れませんけど、私には無理ですよ、だからこそ余計に悩んだんですし』

『頑張るなら協力するよ?』


『私も不器用なので、問題が終わってから考えます。もう戻りましょう、雪道は意外と疲れますから』


『ネオス、動けない』


 雪舐めてた、砂にハマったみたいに動けなくなるなんて、北欧でも無かったのに。




「雪で、動けなくなるって、ふふっ」

『だって向こうじゃココまで積もったら飛ぶし、慣れてないんだからしょうがないでしょ』


「はいはい、分かるわ、分かりますから拗ねないで」

『ローシュも動けなくなくなった事有る?』


「有るわよ、それこそ姪っ子と親戚の結婚式にって、2人でハマって動けなくなったんだもの」

『それでどうしたの?』


「姪っ子を引っこ抜いて親戚に渡して、それから私を引っこ抜くのは無理だから、もう這いつくばって出たから雪まみれ」

『じゃあ雪は嫌い?』


「いえ、寧ろ大好き、降ってたらずっと眺めてたいもの」

『向こうでもそうすれば良いのに』


「そうね、コレが終わったらそうするわ」

『あ、それでどうなったの?』


「船と人を用意するって、ただ経由地として物資は渡すけれど上陸はしないで欲しい、と」

『どの神様?』


「カヤノヒメ様がクエビコ様の代理として現れて下さって、それと近くの白蛇様も。ありがとうネオス、良く本土まで来れたわね、ご苦労様」

『いえ』

『ご褒美は何が良い?』


 アーリス、余計な事を。


『いえ、元は神様から授かった力のお陰ですし。言葉が通じるからこそ受け入れる、と言って下さった長老のお陰なので、褒美は後で少しだけで構いません』

「せめて中位にして?病気をして苦労したのはアナタなんだから」


『はい、ただ内容は後で考えさせて下さい』

「そうね、功績は他にも有るし」

『ならローシュにっ』


 つい、強硬手段でアーリスの口を塞いでしまったけれど。

 こう、どうしたら良いんだろうか。


「私の何か」

『んー』

『そ、嫁探しが終わったら、近くに住めたらなと』


「お嫁様が歓迎してくれる人ならね」

『んんー』

『はい』


「アナタ達、そんなに仲が良かったかしら?」

『離れてみて分かる仲も有るみたいです』

『んー』


「成程」

『はい。それで私はこのままココで待つ、と言う事で宜しいですかね』

『んんー』


「そうね、と言うかココに住む?」

『んー』

『一通り向こうも見てから考えてみますね』


「そうよね、もう少しお願いね」

『はい』


 やっと、黙ってくれる気になったのか。

 いや、アーリスだし。


『はぁ』

『じゃあ、戻って下さい、忙しかったそうですから』

「ありがとうネオス」


『もー』

『では、お気を付けて』


 私はルツさんの後釜にはなれない。

 きっと誰にも無理だろうし、なろうとしても無理、だからこそ誰も奪おうとはしなかった。


 ただ、もし、コレでローレンスが奪おうとするなら。

 流石に私に殴らせて欲しい、不遜で不敬が過ぎる。


《良い女よな》

『カヤノヒメ様、でしょうか、お世話になりました』


《良い良い、こうでも無ければ隔絶したままになり、果ては中つ国に言い様にされては困るで。出入り口が1つより、2つの方が良かろう。それに、平和となるやも知れんとなれば、無視は出来ぬでな》


『ですが、関わりを持てば』

《弊害は仕方あるまい、この国だけが平和だとしても、いずれは邪魔をしに来る者が現れるやも知れぬ。なら、いつか、コチラの構えも無しにいきなり来られるより出向いた方がマシ。そう判断しただけに過ぎぬ》


『それでも、出来るだけ巻き込まぬ様に進言しますので』

《浅はかにも恨む者は何をしても恨む、万人に分からずとも大義を成すのが貴族であろう。分かっておる、そう気を揉むでない、お前の恋しい人を困らせる事はさせぬ》


『ありがとうございます』


 恋しい人。

 私はココでは誰にも言ってはいないのに。




「じゃあ王は諸外国と船の建造をお願い、ブリテンには奴隷船で運ぶって言えば、分かると思うわ」

『凄い名の船だな』


「構造が凄いのよ、人を送り込むだけの最悪の輸送船だけど、それだけ輸送量が凄いから。だから製造は極秘に、船は最後にしっかり使えなくさせて、その確認もコチラで出来る様に考えておいて」

『おう』

《お疲れ様でした》


「いえいえ、じゃ、おやすみなさい」

『おう』

《はい》


 姉上の行動の早さは、同時にルツの死が早まる事にも繋がるんだよなぁ。

 引き続き黒真珠の情報を内々には探させてるが、何処も神殿に飾ってある、しかもキャラバンは情報の対価としているし。


 マジでもう、冥界渡りしか無いのか。


『なぁ、他に方法は無いのか?』

《黒い真珠は赤道付近の島国でしか採れない、その情報しか無いんです》


『こう、姉上に俺が』

《それで私が渡せばバレますよ、アナタの手引きだ、と。そうなれば再び政略結婚だ、となり私の真意が伝わらなくなるかも知れませんが》


『ぅう、すまん、俺が頼んだばっかりに』

《いえ、承諾したのは私です、私が情愛についての考えが甘かったからこそで。良き出会いを頂けて感謝しています、それに婚姻の事も、愛せる者をと政略結婚を否定し続けてくれたアナタには感謝しています》


『あのルツが?』

《そう言うだろうと思って黙ってたんですが、言うのが早過ぎましたかね》


『毎回、俺の顔を見る度に言え』

《他に仕事が有るので下がらせて頂きますね、では》


 希望ってのは凄いよな、あのルツが、死にそうな顔をしなくなったんだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る