惨状。

 生で他者の性行為を見るのは初めてで、ちょっと合意なのかどうかの判断が付かないと言うか。

 いや、お相手の魔王らしき男性は拘束はされてますけど、拒否する態度でも無さそうだし。


 それこそ拒否の言葉も出は無いし。


 いや、声が出ないとか?

 不味いわ、意思疎通出来るかしら。


 と言うか女性の方も、必死に腰を振ってらっしゃるし。

 コレ、どちらも敵か味方なのか分からないわね。


 どうしようかしら。

 どちらかが捕虜られてるとしたら、圧倒的に手足が無いのに拘束されてる男性の方で、けれど仲間割れしてあの状態なのかもだし。


 うん、保留で。

 一旦帰りましょう。


「アーリス、彼は嫌がってた?」

『うん、でも薄いから分からない、吸血鬼達と同じで代謝?が遅いみたい』


「ぁあ、嫌がってたのね」

『様子見だけって王様との約束だし、報告しながら考えよう』


「そうね」




 姉上はちゃんと言う事を聞いて、偵察だけで済ませてくれたのは良いんだが。


『その、魔王っぽいのは』

「手足が切り落とされてて、かつ台の上で拘束されてた。片目と片耳は潰されてて、喉や口の中はどうなってるかは不明だけど、拒否する言葉は出てなかったから合意かどうかその場では分からなかったのよね」


『で、腰を振ってた女は?』

『悦んでるって言うか、何か痒かったみたい』

「ひぇっ」


『病気か?』

『あ、ううん、病気の匂いはしなかった』

「わぁ、媚薬ね、成程」


『姉上の顔を見るからに、良い媚薬とは思えないんだが』

「私的には悪い媚薬の分類だと思うけど、向こうで300年後には平民も使う様な媚薬なのよ、痒みを与える種類のね」


『それで良くなるものなのか?』

「知らないわよ、そうしたモノは男の欲望優先で流布された道具だと思っているし、痒み嫌いだもの」


『あぁ』

「で、どっちも、向こうの仲間なのか判断が付かないのよね」


『確かに。アレは、姉上の言う兵器は?』

『嗅いだのは全部薬草とかだった、鉱物っぽいのはセレッサも無いって』

「ただ嗅いだ事が無いだけで分からない場合も有るから、無いとは言い切れないけど。多分、アレは薬の実験場で確定みたい、今はね」


『後から運び入れられるかも知れないのか』

「海上に小舟で係留地を作ってたし、その移動の隙に動こうかなって」

『最初から作ってあったみたい、組み立て式、今は荷物置き場って感じ』


「多分、船内での自分達の寝る場所を確保したんだと思うの」

『ワインとか干し肉とか。船内には鉄の窯が有って、しかも炭を使ってた』

『明らかに時代が早いな、姉上達の船にしか無い筈なんだろ?』


「正規では。でも内部は本当に簡素、ドアは数枚だけ、後は殆ど布で仕切ってたわ」

『壁は有るんだけどね、窓無しでランプも無かったから、どうやって見てたか分からないんだよね』


「そうそう、満月で隙間から零れる光で何とか。だからもう陸の彼らの格好を真似て侵入しようと思って」

『マジで魔王でも助けるのか?』


「魔王も魔女と同じ、悪く言われてるだけかも知れないんだし、ダメなら逃げるわ」


『マジで話し合うのか』

「話し合えればね、だとしても流石にココには連れて来ないわよ、脅威は2つも要らないもの」


『姉上が居ても居なくても俺は受け入れないからな?』

「それでも来ちゃったらどうするのよ」

《そこでなんですが、結界石の様に全体に作用する魔法について、何か考えは無いですか?》


 いきなり次の本題かよルツ。

 いや、敢えて犠牲者の事を考えさせない為か?




「えっ、いや、ちょっと時間が欲しいのだけど」

《無いワケでは無いんですね》


「と言うか、奥の手から思い付いたから、あまり言いたくないのよ」


 ローシュと目が合った。

 多分、コレ、僕に関わる事だ。


『僕?』

『姉上頼む、即決はしない』


「竜は守り手、地に眠り結界になって頂く、とか」

《結界石の代わり、ですね》


「ただ非常に望ましくはないから」

《なんじゃ、争いを好まぬが役に立とうとする竜種も居るんじゃ、訪ねてみれば良かろうに》


「嫌になったら交代出来ないならダメ」

『だな、しかも眠るなら安眠、良い夢を見て貰いたいしな』


「最悪は、ね。だから他を考えさせて欲しいんだけど、ココは水に囲まれてるから水神様の社を建てて祀るとか、実際にも水の竜人に眠って頂くとか。魔法陣を地面に描いちゃうとか、御神木を祀って、とか」

《ふむ、木を神とするか》


「いや、それこそ石の代わりに木ってだけで、寧ろ道具に近い感じで」

『あ、アレ、浮島もそうだったよね、木に魔石が取り込まれてた』

《じゃの、魔石を核とし、浮島となる。と、転移者からの案を実行したらしいでな》


「ラピュ、その案は確かに向こうの創話に有るけど、今回は浮かせるワケじゃないし。人々に根付くまでに時間が」

『ならもう混ぜれば良いんじゃないか?木と水、両方、創話を広めながら社も建てて木も植える』

『けどアンジェリークでも木は時間が掛かるんでしょ?』


「なら、少し変な木とかを植え替えても良いんだけど」

『あそこ、船の骨組みを作ろうとして木を曲げてた森が有るじゃん、その木は?』


「ぁあ、あの森は寧ろあのままで、それこそ聖地として機能してるからそのままが良いと思う」


《なら3つ、広めましょう。水と地の竜と、聖なる木の創話を広め、後で混ぜ合わせるんです》

《ふむ、1つ1つは弱くとも、繋がるとなれば強固となるでな》

「神話でも3は重要ですしね、ただ地の竜は最後で、出来れば概念だけが良いので」

『ディーマの所にも協力して貰おうよ、地を守る竜が居るかもって、周りから思って貰うのも重要みたいだし』


『よし、そうするか。ただ、誰に考えさせる』


「なにルツ、私にはこれ以上は無理よ、向こうの考えが入り過ぎて馴染めないんじゃ意味が無いし」


《向こうで、アシャと書物を調べながら考えてみようかと》

「成程、けど良いんですか王様、取られちゃうかもですよ?」

『いや、絶対に無い。姉上は信じられないかも知れないが、ルツは興味が無いとハッキリと俺に言ったし、ルツは姉上に本気なんだ』


「だとしても、あんな外交手段を取る人はちょっと、まだウムトの方がマシで」

『ルツは情愛に関してほぼ無知なんでな、愚かしくも姉上に気を向けて欲しくて言っただけなんだ、だよな?』


《はぃ》


「愚かにも程が有るのでは?」

『姉上と知り合うまで情愛とは単なる毒としか思って無かったんだ、しかも上手く扱えば良いだけだと高を括ってたが、姉上と出会い変わった。だが変わったのは毒への考えが少し変わっただけで、知識が有るだけの50過ぎた童貞野郎なんだよ、そんだけ応用が利かねぇんだわ』


《すみませんでした》


「ルーマニアを捨てる気も、帰って来ない気も無いですよ?」

『うん、そこはうん、寧ろ俺も凄く良く分かってる。ルツもだ、不器用だが純粋に情愛から求婚してるんだよ』


 コレでどうにか。

 いや、ならなそう、本気で解せぬって顔だし。


「何故」


《優しいさや強さ、それら全てです》

「そんな深く話し合った覚えが、何も中身を見てないのに惚れたと?」

『姉上ェ』


《考え方や、人への接し方からしても》

「あ、そんな危ない状況って事?生存本能が過ぎるんじゃない?」

『いや、いや確かに安全かと言われると難しいが』


「なら落ち着いてからで。それと、もう今後は出しゃばりませんから安心して下さい、そう追い詰め過ぎたなら謝ります」


《いえ、こうなる前からの気持ちで》

「大丈夫ですよ、50過ぎには見えないんですし、兎に角は情勢が落ち着いてからで。私達は見張りに戻りたいので、もう良いですかね?」

『姉上ぇ』


「なによ」

『何でも無いですぅ』


「はい、じゃあね」


 前より大変そう。

 大丈夫かな。




『前より手強くなってるじゃねぇかぁ』

《まぁ、評判はガタ落ちじゃからね!》


 迂闊な言動や行動をすればどうなるか、分かっていたのに。

 

『けどまぁ、落ち着いたら考えるっぽい事は言ってたし、もう馬鹿で幼い童貞クソ野郎って事で押すしかないな』

《不本意じゃろが事実じゃし、呑み込むしかあるまいよ》


《はぃ》

『おいおいおい、姉上の前でそう泣けば一発だろうに、馬鹿だなルツは』


《泣く事を、愚かな事だと思っていますし、恥ずかしくて無理です》


『そうか、どんな感じだ?』


《考えや気持ちが溢れて、勝手に動いて、そこは凄く嫌です》

『慣れろ、馬に乗るのと同じだ、もう慣れるしか』

《と言うか寧ろ初乗馬で初落馬じゃろ》


『ぁあ、そら泣くわな、どうどう』


 話し合いさえすれば、なのに。


《弱く愚かな部分を見せて、捨てられたく無かったんです》

『そこはうん、分かるぞ、殆どの男はかっこつけだからな』

《じゃがローシュはなぁ、そう格好をつけるは好まぬのに、阿呆が過ぎる》


 分かっていた、なのに。

 情愛が愚かではなく、情愛によって愚かさが露わになったに過ぎない。


 私はやはり愚かで、見合わないかも知れないと思うべきは、私の方だったのに。




《失神か?》

「いや、局部が爛れてるし、疲れて眠ってるだけだと思う」


『コッチのも爛れてるしな。先ずは綺麗な水で洗い流そう、滲みるだろうけど我慢してくれ、治りを早くする為だからね』

「その間に教えて欲しい、君が何回達したか。5回以上ならコッチを向いて、5回以下ならコッチ」


《5回以上か、凄いな》

『収まったのはいつか、夜明け前か、何回かして急にか』


「成程、急にか、代謝したんだろうね」

『流石魔王だからか、病に掛らないが、薬の効きも悪いし切れるのも早いな』

《だがそこらの人間よりよっぽど良いな、管理の手間が掛からんし、騒がんし》


「そこは本当、食べさせたり飲ませたり、死なない様にするのって凄く大変だからね」

『最高の献体、助かるよ、ありがとう魔王』


《よし、次の薬は》

「向こうで、彼は会話を理解してるから」

『だね』


 私はその後、何年こうして過ごすのだろうと考え、考える事を止めるべきかも知れないと思い直した。

 良く有る事、飽きられるまでこのまま、誰も助けてはくれない。


 便利な道具。

 意識を保つだけ無駄。


 私は魔王、全ての原罪を背負って生まれた悪魔。

 そう呼ばれる為の道具、私は道具。

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