離別。
新天地。
「“宜しくお願いします、ローシュと申します”」
久し振りに日本語で話してみたけれど。
《聞いている、付いて来い》
ぁあ、やっぱり聞いてからでないと言葉が出ないのよね、私も。
「いえ、最悪は疫病の」
《転換期だと長老方は仰っていた、覚悟している。それに直ぐに部族長に会わせる気は無い、着いて来い》
「はぃ」
本来なら彼らの土地に立ち入る気は無かった、人を汚さぬ様に、地を汚さぬ様にと。
そのつもりだったのに事態が許してくれない、行くしか無い。
《座れ》
「はい」
《では話せ、己の存在をどう思っているのか》
「火で水で黄金で、毒にもなるかと」
《では毒では無い、と》
「無味無臭の毒かも知れないとは思ってはいます。でも毒を薄めれば薬になる、使い方を誤らなければ、人も地も汚さないかと」
《汚すとは何だ》
「暫く使えなくしてしまう事かと」
《誰が使えなくなる》
「ココで生きる者全て」
こう、神話とかもこうして抽象的になってしまうのね、解したわ。
《では、その毒は何をしに来た》
「私は、毒を毒で制する為に来ました、ココが守られればと」
《何処までを知っている》
「凡そ、季節が500回廻った先、違う歴史の500年後の者です」
《違う、とは何が違う》
「船がココへ来るのがもっと後になり、金が取引され、アナタ方の居場所が決められてしまった世界」
《死の国か》
「いえ、生者の国からそのままココへ、海を渡った先で呼ばれました」
《何故、呼ばれたと思う》
「最初は2人で来ました、そして1人は元の世界へ帰りました。私はココが天国だと思い、残りました。そして何故かは、偶々だと思います、偶然です」
《選ばれたとは思わないのか》
「であれば何に選ばれたのか、そこは分かりません。ただ私は万能の神と他の神の両方を受け入れ、善き神と悪しき神が居ると思っています」
《悪しき神とは何だ》
「時と場合によりますが、人や地を滅ぼす者かと」
《転生をどう思う》
また凄い抽象的な。
「嘗て私が居た場所で、アナタと同じ民族に生まれ変わったとしたら、自分の知る状態とは違う道を歩ませたいと思うだろう。と」
歴史を否定する事になるのよね、その時代の人も。
《流れを否定するか》
「いえ、全滅、絶滅を否定します」
けど、こう聞かれたら確かに迷うわよね、信じる宗派によっては。
《全滅、絶滅は良くない事か》
「場合によります、無い方が良いモノの存在は知っています。ですが私が思う無い方が良いモノと、ココの方が無い方が良いと思うかは別かと」
《無い方が良いモノ、とは何だ》
「無秩序」
無秩序と自由は違う。
けどどうにも向こうって混同しがちと言うか、敢えてなのか。
《秩序とは何だ》
「区分け、約束事を決め守る事、水を水と呼び地を地とする事」
あ、コレ、仏教の問答みたいよね。
《では何を齎すつもりで来た》
「私達魔女、巫女を滅ぼそうとする者がココへ来てアナタ方まで滅ぼそうとするかも知れない。悪しき神話を辿ろうとするなら止めたい、気に食わない、滅ぼそうとするなら滅ぼしてやる」
《滅びが正しくてもか》
「私は間違ってると思います、ですがアナタ方が受け入れるなら邪魔はしませんが、私達は滅びを齎すモノを滅ぼします」
《それがお前の正しさか》
「いえ、それは後の者がどれだけ多く正しいと考えるか、私には真の正しさは分かりません」
《この地で戦うのか》
「血を流すかどうかであるなら、最悪は、身を守る為に血を流す事も有るかと。ただアナタ方の血を流させる気は無いです、主に相手と私達です」
片言の方が逆に伝わり易いわコレ。
《お前達の敵だとする者は何を望んでいる》
「それが分からないんです、ただ予測は幾つか存在しています」
《何だ》
「向こうでの歴史、神話をなぞる事を正しいと思っている。若しくは自分の知っている歴史と違うので、間違いが起こる事を恐れて」
《間違いが起こる、とは何だ》
「重要な薬草を見逃す事で後の者達が困るかも知れない、なので重要な薬草を発見する者、薬草の煎じ方を発見する者を確保する為の準備。その為に他部族を滅ぼす、又は他部族を使い滅ぼさせるか、そもそもその薬草を滅ぼしたいかも分からない」
ローレンスが船に乗り込めてたら良かったのだけど、今はスペイン、しかも組織に入れたばかり。
焦っているから加入させるのが早いのか、元から適当なのか、それだけ何か調べての事なのかは不明なままで。
《話し合いはするのか》
「少しは、ただ多くを語り合うつもりは無いです、既にコチラは攻め込まれましたし。話し合って分かり合えないモノも居ると知っていますので、そう多くは期待していません。寧ろ私の部族と争いましょう、と宣言する気です」
《代表となるのか》
「まぁ、争いに巻き込まれた者、迷惑を被った者の代表とはなります」
《そうか、なら家を分け与える、好きに使ってくれて構わない》
「ありがとうございます。ですがその、糞尿とかはどう処理を?」
《西洋式にしてある、アイツらは五月蠅いんでな、船の者達の家だ》
「成程、お手数お掛けします」
向こうの木の家とそんな変わんない。
《試しに建てさせてみたんだが、木を組み合わせて建てた事に敬意を示し、交易を許可した》
「成程、釘を使わず、しかも大工も乗せてたんですね」
《鉄は危ない、だからこそ我々は得るモノを得た、木組みの家と定住の良さを知った。そうして傷病者を定住させる事にし、面倒を若者に見せる事で多くを学べる様になった。知恵を分け与えたので、我々も知恵を分け与えた》
「絵ですね」
《絵が上手く驚いた、そして我々は要求した、それに対して対価も明確に示した》
「あ、何を対価にすれば良いですか?」
《向こうの話を聞かせて欲しい》
「話を書に纏めた物が存在するんですが、文字は?」
《まだ無いが、暫くは作るつもりは無い。言葉もだが文字はもっと難しい、過不足が容易く起こる、文字は伝わる事が少ない》
「分かります、ですよね」
《だが絵と文字を組み合わせる事は考えてはいる、図鑑は良いモノだ、あの様なモノは我々も残したいとは思っている》
「私が最初に居たのは東洋、極東の島国、そこでは絵から文字が成り立ったモノが多く存在しています。ココでも同じとは思いませんが、そうした者はココへ来ましたか?」
《いや、だが先人からは言われている。大陸の者であれ島国の者であれ、黒髪に黒い瞳、黄色い肌で平たい顔をした者が来たなら、良く見定めよと。そして多くの文字を知り、手本になる者を良く選べと》
「本来はこうした文字をアナタ方は使わされていました、そして私の所はコレと、コレと、コレ。数はコレとコレと、コレです」
《そんなに多くて大丈夫なのか?》
「いや、うん、はい。大元はコレです、ココから派生し、こう変化してコレ」
《成程、コレの意味は》
「人、こう表したのが、こう簡略化した。コレはこうだ、と」
《幾つ、年はいつからだ》
「遅くとも生まれてから6年経った子は、100の人が居たなら98の人はどれかしら読めます。ただ文字が苦手な者も居るので、長い文字が分からない者も居ますし。目の見えない者の為の文字も存在しますが、それについて私は詳しく知りません」
《どうするんだ》
「えーっと、紙なら、こう、点で凸凹させて。木彫りも存在したらしいです、溝の深さや長さで伝えたらしい、と」
《木彫りか、ココでなら多少は使えるな》
「確かに、紙作りは難しいですし。あ、糸も、結び目を使うんです」
《結び目の大きさ、長さか》
「はい、ただコレらは文字や絵で、存在している事を知った程度です」
《“他の言葉は使えるか”》
「“はい、聞きさえすれば何処のでも”」
《婚姻を結び、ココに永住する気は無いだろうか》
やっぱり口説かれた。
「この子と私は番なので、それでも良ければ」
《成程》
『もう話して良い?』
「ぁあ、うん、はい」
『そうのんびりしてて良いの?』
「あ」
『この子をココで飛ばして良い?凄い大きくなるから驚くと思う』
《名は》
「セレッサ、桜色、ココには多分無い色の名です」
《桜、とは》
「子供の頬の色をした花の、冬の後の季節に木に咲く、この位の毒の無い花です」
《そうか、なら先ずは大きさを見せてくれ》
「はい、お願いセレッサ」
コレで僕も驚くと思ってたんだけど。
《成程、お前の国の者か?》
「いえ、ブリテンの竜です」
《あの赤い竜の子か》
「いえ、多分、違うかと。神様に貰っただけなので」
《そう選ばれたのなら早く言ってくれ》
「いや、選ばれたと言うか、この子は私が望んで与えられた子なので」
《どの国の神も人を選んで現れると聞くぞ》
「まぁ、はい」
『ココの風の精霊とか神様の名前って』
《オカガで良いじゃろかね?》
《お前がそう名乗るならそうなのだろう》
《他にも神性が居る弊害じゃよね、巫女無しに善きモノだと確認するは難しい事じゃから》
「アナタは善い神様です」
『うん、それで気配はどうなの?』
《相変わらず分からんが、セレッサとお主の目で確認すれば良かろう》
『うん』
私は、確か手足を切り落とされ。
《凄いな、まだ生きてる》
『再生の仕方が予想と違う、端から順に、赤子の手でも生えて成長するのかと思ったのに』
「歯は、奥歯から。下も末端の肉が盛り上がって再生を始めてる、他より早い、不思議な生き物だな」
『生きてる、と言うんだろうか』
そう、食べないし眠らないでも生きていける。
「呼吸、息はしてる、つまりは生きてる。なんじゃないのかな」
確かに呼吸はする。
けれども呼吸はしなくても死なない、苦しいだけ、基本的には気絶か失神か。
目の前が明るくなって気を失うか、目の前が暗くなって失神するか、気が付いたら失神してるか。
そうして急に意識が戻る、今みたいに。
それから痛覚に気が付く、そして再生されていく末端の痛みが響き続ける。
多分、人間と同じ痛み。
『痛みが有るなら、2回、頷いてくれないか』
頷く事で得られるモノは、さらなる痛みや苦しみが殆ど。
そして黙っていても、結局は同じ。
いや、酷いとコッチが表情を歪めるか、叫ぶかするまで痛め付けてくる。
今回も賭けてみよう、頷いてみてどうなるか。
頷いて痛みを加えられなかった事は、手の指で数えられる程度。
今は無いけど。
《頷いた》
「なら鎮痛剤、麻酔薬を試せる」
『なら、痺れも分かるか、分かるなら2回頷け』
「よし、麻痺や痺れ薬もいける」
『彼は世界、神からの贈り物だ』
《コレで人や動物の犠牲無しに、医療、医科学を発展させられる》
『いや、病気に掛ってくれたら最高だが、どうだ?』
《流石にダメか》
「それでも薬が試せるのは強い。アレはどうかな、媚薬」
《確かに》
『すまないね、確認させて貰うよ』
謝られるのは珍しい、と言うか初めてかも知れない。
ただ、覚えてる限り、150年以内では初めて。
『うん、口の中が1番早いな』
「人体と殆ど変わらないんだな、体の温度は低いが。唾液が出る意味が有るんだろうか」
《歯や口の中を守る為、維持、保つ為。なら彼は生きている、そう仮定して研究を続けよう》
『宜しく、魔王』
こうして挨拶されるのも久し振りか、初めてだ。
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