愛と黄金。

『黄金に輝く黄金羊は神々だけが所有して良い存在、そして黄金羊は同時に愛と知恵でもある、だから神に愛を捧げれば愛を得られる。けどその地の黄金だけ、他の地の愛は他の神のモノ、なんだって』


「そう金の価値を下げ、鉱石堀りを遅らせてるから、危ない鉱物の採掘を妨げている」

『半分は嘘とか伝説だと思ってたけど、ローシュが言うんだもんね、本当に危ないんだよね』


「だから竜も強いのかも、黄金羊を守るのは竜なんでしょ、標的にされないでね」

『絶対に老衰以外じゃ死なない、ローシュともっと色んな料理を食べて、好きに改良してまた食べて。楽しく美味しく暮らす、絶対に殺されない様にする、頑張る』


「お願いね、私にはもうアーリスだけだから」


 神様達は、ローシュの気持ちから他の者の存在も取り除いた。

 ローレンスだってネオスだって、本当にローシュを愛してるのに。


 こんな風にローシュの愛を得ても嬉しく無い。

 確かに独占は嬉しいけど、独占には良い部分と悪い部分が有るし、コレは良くない。


 だから嬉しくない。


『竜だからじゃないからね、誰か他を得られるとしても、ローシュだけだからね』

「ずっと、お願いね」


 ルツが感じてるのと同じ様に、ローシュもヒリヒリしてる。

 忘れてる筈なのに、切ないって心がヒリヒリ痛んでる。


 消すならちゃんと消して欲しかった、どうしてこんな気持ちを残すんだろう。




『おう、どうしたアーリス』

『王様、何かローシュ覚えてるみたい。切ないみたいにヒリヒリする時が有るんだけど、どうしたら良い?』


 アーリスの良い所は、ルツが見習うべき所。

 素直に尋ねて来る所なんだよなぁ。


『先ずはだ、覚えててのヒリヒリなんだろうかな』

『残念だけど、本当に忘れてるの、すっぽり』

『じゃあ何でヒリヒリしてるの?』

《そらお主の事じゃろ》


『僕?何で?何もしてないよ?』


《子の事じゃよ》

『ぁあ、そうか、姉上はとっくに良い年だものな』

『でも』

『ローシュとアナタは命が繋がっている、だから子を成せばアナタの寿命を縮めるかも知れない、そう思っての事じゃないかしら』


 ほら、凄い甘い、ルツも素直に相談すれば。

 いや、ルツには謎掛けをしそうだな、考えさせた方がアイツは納得する方だし。


『僕は別に、どっちでも良いのに』

『それだ、だからじゃないのか?姉上はお前の子が見たい、けどお前はどっちでも良い、なら我儘だなと姉上が考えそうなのは?』


『子が欲しい』

『アレだ、今が十分に幸せだから、子を作るのは贅沢だ』


『あぁ、向こうだと贅沢品だって言ってたもんね』

『そうそう、しかも寿命が縮むと思うのは対価に相当するとも思えるワケだ、なら今の幸せで十分だ。となる筈』

《じゃの》


『そっか、じゃあ、話して貰えるまでもう少し待ってみる』

『だな、あまり気にし過ぎるな、俺みたいに構い過ぎても嫌がられる時も有るんだしな』


『うん、分かった、ありがとうございました』

《よしよし》

『じゃあね、またいつでもいらっしゃい』


『なぁ、過度な介入じゃないのかアレは』

『年も違う、住む国どころか世界が違うんだもの、補助よ補助』

《それとも全く違う宗派と文化の者を放置か?それこそ寧ろ意地が悪過ぎじゃろ、最低限生きられる様にせず何が神じゃ、自分が来訪者の立場なら神なんぞクソ食らえと思うじゃろ?》


『まぁ、だが』

《親しくなれた褒美、それなら良いか?》


『あぁ、まぁ』

『はいはい、ちゃんと考えて偉いわね、よしよし』

《ほれ、さっさと働け若造が》


 ほらコレだ。

 大変なんだよ、ここの王様もさ。




「あぁ、ルツ」

《見送りをと》


「別に死にに行くワケじゃ無いし、用が済めば直ぐに戻って来るのに」

《万が一が無い様にとは祈ってはいますが、見送らせて下さい》


「ふふふ、私、帰って来たら結婚しようかしら」


 コレ死亡フラグになるのかしらね、私としてはギリギリを狙ってるつもりなんだけど。


《ウムトとですか?》

「いえ、独身で頭が良い人で、アーリスと一緒でも受け入れてくれる。若く無い人を探して、ウチの国に引っ張ってくるわ」


《帰っては来てくれるんですね》

「もう私とクーちゃんが関わった事が色々と動いているし、見届けたいのよね、出来たらだけど」


《なら私と結婚しましょう》

「私アシャとは違って頭も良くないし、外交も偉そうな事は言ったけど不得手だし、他の人の方が良いわよ。もっと良い人がルツには居る筈、ちゃんとそう見ようとすれば良いだけ、頑張って」


《愛してます》

「はいはい、私はシバの女王様程の器量は無いですよ、ソロモン様。頭が良いなら分かるでしょう、もう引き留めなくても私は国を裏切らないし、最悪は帰れないのだし。だから他を探して下さい、お願いします、あの子とクーリナの為にも国を守って下さい」


《守ります、だから行かないで下さい、他の方法を探しましょう》

「無いからこうなってるのでは?」


 今朝の時点で、高速船黒船号の行方が分からなくなり、セーラムへ向かわなくてはいけなくなった。

 そして同時多発的に噂を流し、コチラで対処するから協力してくれと、そう向こうに言いに行く手筈となっている。


 もう炙り出すしか無い、そして一纏めにし、対処する。


《守りますから、無事に帰って来て下さい、そして結婚しましょう》


「なら、大きくて綺麗な黒真珠でもお願いします。出来たら、ほの青くて、アーリスみたいな色で。そしたら考えます、では」


 セレッサの手の中は、湿度も温度も最高に居心地が良い。


 それにしても、どうしてまた急に口説き始めたのかしら、信頼して貰ってると思ってたのに。


『もしかしたら、本当に好きなのかもね?』

「まさか、頭が良いなら分かる筈よ、最悪は自国とは縁の無い者として処分した方が良くなるかも知れないんだから」


 残党狩りには私とセレッサで出る。

 セレッサには悪いけど赤い染料で赤き竜となって貰って、私も真っ赤な服を着て。


 それでも向こうが優勢になったら、各国が掌を返して私を所有するか処分するかになれば、私が火刑に処されるしか無くなる。

 責任を取る為。


 最悪は、本当に、そうするしか。


『大丈夫、死ぬ時は一緒だから』

「逃げてはくれないのね」


『ローシュを食べて溶岩に突っ込むか、酸の海に飛び込んで地を荒らす』

「無実の人に害を及ぼさないでね」


『うん』


 かの聖女様よりはマシよね、1人で火刑に処されるワケじゃないのだし。




『ルツ、思い出せたみたいだね』


 ウムトに言われ、以前と同じ様にローシュを口説いてみては、と。


 聞いた事が有る、覚えの有る返答がローシュの口から出るその度に、私の記憶が鮮明になった。

 私が何をしたのか、愛とは何かを、再認識した。


《はい》


『すまない、背中を押すのが遅くなって』

《いえ、コレは私の試練ですから、寧ろ謝るのは私の方ですウムト》


『いや、穏便に事を済まさせなかった私も悪い』

《対話、会話、元は相談すらしなかった私が悪いんです。ご迷惑をお掛けしました》


『いや、だが、その涙を見せれば良かったんじゃないかな?』

《不審がって終わりかと、例え引き留められても一時的で、到底愛を伝える道具にすらなりませんし。私には涙を見せる資格も無い》


『資格』

《資格を得て初めて、許す許さないの段階に立たせて貰える、そして義務をこなして初めて許されるかどうかの段階に至れる》


『3段階の試練とは、そう言う事なのか、成程』


 なら。


《ディオーネ、彼女は記憶を》

《まだ無いぞい、アレは本当にローシュが好みを言うただけじゃ》


 黒真珠。

 その言葉をローシュが口にした時、全ての靄が晴れた。


 それと同時に全てを悟った、今はもう、どう足掻いても彼女を止められないと。


《ウムト、黒真珠はどの位、貴重ですか》

『下手をすれば黄金以上の価値が有る。暖かい海で見付かるとは聞くが、殆どが王族か神殿所有だね』


《貴石や玉よりも遥かに貴重、ですか》

『黒いのは特に。だがローシュの黒髪と黒い瞳には合うだろうね、凄く』


《最初は何の事だか、どうしてなのかと思ってたんです。ローシュはそうした物を見るのは好きでも、欲しがりませんでしたから》

『貴重さを理解していた、うん、やはり子を成して貰おう』


《諦めたのでは?》

『誰がそんな事を言ったのかな?』


《はぁ、確かに先を譲る、でしたね》

『うん、ルツは仮にも伯父上、横取りする気は全く無かったんだけれど。すまない事をしました』


《伯父上は止めて下さい、色々とややこしくなるので》

『はいはい、どうしますかルツ、黒真珠を探しにでも行きますか』


《行きはしませんが、情報集めはお願いします、上手く行けば子の1人位は口を利いても良いですよ》

『ぁあ、そう言われると、逆に上手くいきそうも無いのは何ででしょうね』


《養われた勘か、神の啓示では》


 記憶も愛も戻らないとしても、愛は伝えたい。

 もうずっと愛していて、ずっと傍に居たいのだと。




『ぁあ、良かった、記憶が戻ったのねルツ』

《はい、ですが私の計略に知らずと言えど乗った段階で、王族としては不適格。もう教育係に回るべきでは》


『そうよね、この事を教訓として思い遣り、もてなしについて本に纏め、教育もさせるわ』

《まぁ、私が言えた義理では有りませんが、せめてもの助言です。そして私の件について対価も先払いします、ドイツでローシュが言っていた、シュラスコについてです》


『シュラ、スコ、シュラスコ、何処かで、綴りは分かる?』

《いえ、ですが南米の食事方法で、パイナップルが焼かれて提供されるそうで》


『ぁあ、何処かで見たかも知れないわ、書庫に行きましょう』

《はい》


 そうしてアシャが向かった書庫には、書庫係の名札を付けた男性が1人だけ。


『アウラ、お願い。南米、食事、パイナップル。南米、食事、パイナップル。南米、食事、パイナップル』


 彼は真っ直ぐに本棚へ。

 次にはアシャの押すカートへ本を置き、そうして本を出してはカートへ。


 そして目的の本はもう無くなったのか、部屋の隅の椅子へと座り、読み掛けの本を読み始めた。


 その次にアシャがカートを押して行った先は、書庫としか繋がっていない中庭。


《3つの単語を3回、まるで魔法の様ですね》

『彼の頭の中がね、寧ろ神に近い半神だと言われてるわ、不用意に触れてはいけない子だから』


 スペランツァの弟君に似ている、けれども彼の場合は言葉を理解しているかどうか。


《どう、教育なさったんでしょうか》

『してないわ。話す事は殆ど無いけれど、私達の言葉を理解している、それこそ複数種類の言葉も文字も。元は神殿に捨てられていた子なの、癇の強い子だから捨てられたみたいで、神殿でも大変だったみたい。けれどある時、巫女様が3つの単語を3回仰ったの、すると彼は書庫に行って関連する書物を全て並べた』


《成程》

『彼のお世話をしてた子が、話さない彼の為、言葉を読み上げながら文字をなぞった。それがタウジーフなの、言葉を覚えている時、一緒に練習するついでにって』


《それでタウジーフを王族へ、ですが神殿の力を削ぐ事になるのでは》

『そこは大丈夫、ココで面倒を見る約束で神殿を出る事になったの』


《成程》


 神殿には悩みを相談する方も居る、そう聞かれ覚えられても困る事も有るでしょうし。

 守るには、確かに王族の方が良いのかも知れませんね。


『私は単に王族に生まれただけ、本来の才有る者はタウジーフやアウラ、そしてローシュ。これから先で辛い目に遭うかも知れないのに、私は更に追い打ちを掛けた、死地に向かう聖者に唾吐いた。なのに私やアナタ、各国の為に身を引こうと、私には無理な事すら彼女は選んだ。本来王族と敬われるべきは彼女、本来なら私が平民になるべき。以降は彼を好きに使って、黒真珠の事も探さないといけないでしょうから』


《黒真珠、だけでも良いのでしょうかね》


『1単語か3つか。アウラ、お願い、と先程と同じ様にすれば大丈夫、ただ決して』

《触れない、出来たら大声や大きな音を立てない、ですね》


『ぁあ、ローシュね、彼の扱いも教えて貰えば良かったわね。言わないから、彼に説明して選ばせるだけで』

《私が心得を聞いていますから、不始末の対価に、心得の情報はお教えしますよ》


『いえ、償わせて、私が王族の書庫係が出来るのは、アナタの寿命よりは短いでしょうから』

《良い食事内容ですし、水分も十分。激しい感情で心や頭を痛め付けなければ、倍は生きられる筈ですよ》


『理論上、御使い様の伝える神話上は、よね』

《はい》




 一時はどうなるかと。

 けれどアシャ様もルツもすっかり本調子に、やはりウジウジと悩むのが1番良くないね。


『タウジーク、ウムトの案で某国の食堂を見習って提供してみたのだけれど、どうかしら?』

『うん、やはり熱々は素晴らしいね、しかも食材を見ればある程度は何か分かるのも良い。どうかなルツ』


《切り分けは王の仕事とも言われてますが、寧ろ船乗りや商人にしたら面倒事、ですが平民にすれば貴族気分を味わえ良いかも知れませんね》

『うん、しかもこうして提供されるとなれば、平民は貴族になれば美味いメシが食えるかもと。そして他国の者は、もてなしの出来る国だ、となるわけだね。うん、素晴らしい、陛下に提案してみると良いよアシャ、ウムト』

『良かった』

『はい、ありがとうございます』


 ルツは私の案として扱え、と。

 私にしてみたら当たり前の事でも、他国や平民にしてみれば驚く事も有る、分かっていた筈なのに。


《良かったですね、少しは償いになったかも知れませんよ》

『いや全く感じないね、そんな気は微塵もしない』


《なら黒真珠の事で相談に乗りなさい》

『勿論良いですが』


《場所の目星は付いてます》


 ルツが指差したのは。


『南米も、南の国も無理ですよ』


《ウムト》

『間違い無く、西洋人は無理なんです。寧ろ新大陸の者より烈しく抗議してきて、近付けないと聞きました』


《西洋人は、と言うなら》

『中つ国のも乗せてて、彼だけには石や武器を当てない様に投げたらしい、と、でも中つ国の者は滅多に船に乗らないしで。もう危険地帯だと言う事になったままだと聞いているよ』


《成程》

『ローシュでもどうだろうね、翻訳出来て無い国の言葉、しかも交易も無い地域』


《詰んでますね》


『もう冥界渡りで知恵を授けて貰うとか』

《成程》


『いや、神話ならまだしも』

《大昔もそう言ってたのかも知れませんよ、冥界渡りだなんて神話だろう、と》


『いや南米のに言えばもしかしたら得られるかも』

《私の結婚の為だけに得ても、結局はいつしか情報が漏れ、その地に人が群がるかも知れない。寧ろどうすれば安全に黒真珠が手に入るかを冥界渡りで探す方が早いですし、最悪は私が死んでもローシュは傷付きませんし》


『いや、国の為にも』

《勿論、諍いが終わったら、最悪はです。もう凄く死にたいんですが、辛うじて我慢しているんです、ローシュの為に。もしかすればあの人の居ない人生をこれから先、死ぬまで、私は生き続けなければならない。愛を理解しなかった50年ならまだしも、愛を知って孤独な100年を生きる位なら、死んだ方がマシです》




 ルツ坊はキャラバンに拾われ、醜聞も何もかもを見聞きし、良く覚えておった。

 その物覚えの良さからソロモンの使徒にと推され、魔法を覚え、再びキャラバンへ。


 そうしてまた醜聞を見聞きし、覚えてしもうた、情愛とはかくも愚かしく恐ろしいモノ。

 金銀財宝の様に形は無く、魔法の様に目に見えぬ、移ろい易く儚いモノ。


 じゃからこそ我らは大好きなんじゃけどね、愛も生命も、全て。


『少し前とはまるで別人だ』

《君に言うのは非常に不本意ですが、本当にあの人は得難い人なんです。謙虚で控え目、膨大な知識や知性をひけらかす事もしない、そして慈悲深く優しい。悲しみも知っている、大事な家族を亡くしても、だからこそ離縁を選んだ。生きるとは何かを理解している、賢い人なんです》


『それは、ローシュにしっかり伝えられていたのかな』


《いえ、なら、こうなってはいなかったかと》


 全くじゃよね。


『あの場でローシュを褒め称えていれば、気が合う様に見られる事を控えていれば』


 うむ、全くじゃ。


《なのに私は嫉妬される事を選んだ》

『そして嫉妬は思わぬ方向へと向かった』


《良く考えていれば、ローシュがその結論に至ると分かっていた。あまりにも愚策でした、情愛を扱う者が愚かであれば愚かな情愛となる、全くその通りで》


『嫉妬されたい、そう愛を確認しようとした、どうしてなんだい?』


《私が疑ってしまったんです、ローシュの愛を》

《じゃの。ローシュは知恵者と呼ばれるお主以上の女子おなご、じゃからお主の得意な何某かの知恵を対価として授けられぬ。しかも悪しき見本とは違い、何も求められぬ事が却って恐ろしかったんじゃろう》


『ディオーネ様』

《我の事は気ににせんで良い、今はルツ坊の事じゃ》


『ぁあ、はい』

《コレは非常に頭デッカチな単なる子供じゃ、しかも嫌な事を多く見聞きし、醜聞の果てに国も一族も滅ぶ話ばかりを知っておる。何故か分かるか?》


『稀有な容貌から、人に請われる事が多いであろう、故に愚かにも籠絡されぬ様に守る為。かと』

《うむ、じゃがコレには薬が効き過ぎて毒となってしもうた、そうして忌避する様になり、果てはコレじゃ》


『そこです、知っているなら』

《黄金の危なさばかりを聞けば、知れば、黄金を求める者を愚かと思うじゃろ?》


『ですがルツは賢い男ですよ?』

《幾ら賢くても、じゃよ。馬を見知らぬ者には馬は乗りこなせぬ、船も人も、しかも相手が見知らぬ生き物じゃったら飼い慣らす等は不可能。じゃが傍目はよく知る馬と同じ、とは言え中身は得体の知れぬ生き物、となれば何処まで馬としての応用が利くのか不明じゃよね》


《なら尋ねれば良かった、ですが私は尋ねなかった》

《神々に些末な事を尋ねぬ、そこは良い、じゃが違いを些末な事と思った事が間違いじゃよね。ルツ坊もまた目測を見誤ったんじゃ、単に恋焦がれて欲しかったんじゃよね》


《今思えば、はい》

《じゃがアレは少し違う、アレは怒り、不当な扱いを受けての怒りじゃよね》

『うん、しかも一緒に居てはルツの求める嫉妬を得るのは不可能だ。そう想い恋焦がれて欲しいなら、少しでも離れなければ』


《じゃが離れ難い、そうしてあの状況を受け入れた。うん、実に愚かじゃ》

《私もそう思います。ただ言葉以外、態度も情愛も欲しかった、離れる事無く想いを得たかった》


『だとしてもだ、そう言えば良かっただけだろうに』

《弱さを見せるのは愚かだ、どうしてもそう思わずにはいられなかったんです。請えば弱さを見せる事になる、要求には対価を、欲するなら何かを差し出さねばならない》


『ローシュは、そんな人なんだろうか?』

《いえ》

《離れる辛さで見誤ったんじゃろ、初めて長く離れるでな》


《はぃ》


『ルツ、幼過ぎるにも程が』

《これこれ、生き物は育った様にしか育たんのじゃよ。ルツ坊は真に愛しき者と別離をした事が無いで、どうしたら良いか分からんかったんじゃ。群れを離れた事の無いお主が、神々の力により単独でいきなり見知らぬ土地に飛ばされる事を考えてみよ。天国に行ってもたった独り、衣食住の揃う状態で、永遠に放置されると考えてもみよ》


 じゃから神々は転移者を構うんじゃよ。

 可哀想じゃろ、見知らぬ者のおらんこの世で、何も分からぬ地で生きねばならん。


 例え本人が永住を望んだとしても、加護無しではいつか身を滅ぼす、先代達が良い例じゃ。


『すまない、叔父上』

《いえ、私も、独占欲から君に相談しなかった事は愚かでした。聞き方を考え、もう少し身内として接していれば》

《まぁまぁ、死んだワケでは無いんじゃ、如何様にもやりようがあろう》


《はい》


 まぁ、それで得られるかどうかは別、じゃけどね。

 アレの傷は深いで、取り戻せるとは限らんからの。

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