罪悪感と歯車。

 ローシュ様とお城を眺めるなんて、不思議。


《お城には住まないって、不思議》

『便利を知ってしまった、そうして不便を知ってしまったの、だから先人達は情報を隠したのだと納得したわ。より良いモノを、そうして危険なモノと知りながらも作り、お互いに怯える事になってしまったとも聞いてるわ』


「はい」

『もう、アナタが発明したワケでも作ったワケでも無いのでしょう、アナタは何も悪くないんだから落ち込まないで』


 ローシュ様を慰めてるのはサンジェルマン家直系で、ホーエンハイム家の先代当主エリザベス夫人。

 目の前のお城の管理者、お城を役場として使ってる。


「今回の事は、罪です」

『アイルランドの人間が襲えば、ね。私は武器職人を罪だとは思わないわ、それで私利私欲に満ちて人を殺めた者を罪とします、愚かな事が罪なのです。賢ければあの島を襲わない、開戦の火種になると容易に想像出来るのですから』


「でもアンジェリークは」

『アナタは悪役になりたくないだけ?』


「いえ」

『なら言わなければ気付かない様な愚か者を責めるべき、正義と思わなくても、中道と言うモノが存在していると知っているでしょう』


「はい」

『そもそも、向こうが襲わなければ杞憂になる。それに襲われたとしてもアンジェリークが死ぬワケでは無い、我が国の海軍はソチラでも優秀だったのでしょう、少しは信じてくれない?』


「そう疑っては」

『若い子を死地に送る辛さね。けれどこの国に生まれてしまった以上、この世界の平和な国に生まれていないのなら、誰もが背負う運命なの』


「私が生まれた時には、私の国では、戦争に送り出される若者は居なかった」

『それだけ平和な国だった、恵まれているだけじゃない、賢い国だった。それでも危険は有ったでしょう』


「はい」

『見捨てない、守る為に海軍を配備しているのだから、彼らを信じて?』


「はい」


『もう、頑張って呑み込んで。私が仕事から帰るまでに、ね』

「はい、すみません、ありがとうございます」


 ローシュ様は、分かってるけど、受け入れるのが難しい状態だってルツさんが言ってた。

 色んな事を知ってるけど、神様じゃないから悩んでる、常に最善を尽くそうとするから悩んでるんだって。


《ローシュ様は平民だったんですよね?》


「ココで言うなら、作物栽培に成功した裕福な農家の夫、位かしらね」

《でもココまで悩みますかね?貴族の範囲なのでは?》


「いずれは平民も何も関係無く、国の事を考える様になるのよ」

《でも全員が同じ量じゃないですよね?》


「そうね、役割が有るから」

《王様はローシュ様にココまでの事をお願いしたんですか?》


「いえ、そうね、私が勝手に踏み込んだ事」

《そうじゃなくて、良いと思って言ったんですよね?》


「アンジェリークを犠牲にするつもりが無くても、それを許した」

《犠牲って?傷付く事が犠牲なんですか?沢山殺させたのに?》


「ファウスト」

《贖罪としたいって、承諾したのはアンジェリークですよ?》


「選択肢が有るフリをして、選ばせなかった」

《じゃあ選択肢が本当に有ったら、アンジェリークが選ばなかったと思うんですか?》


「それは」

《結果が同じだから、敢えてアンジェリークの為に教えなかったって、ルツさんも言ってるし。こうして僕も理解してるのにアンジェリークが理解してないなら、その罪は愚かなアンジェリークの罪です。そしてアンジェリークがローシュ様を責める事が有れば、それは制御出来無かったローレンスの罪です》


「ファウスト、ルツのセリフを暗記したの?」

《いえ、学習したんです。悪とは何か、罪とは何か、僕の中で悪は手を差し伸べてくれなかった大人全てです、スペランツァ様も同罪です。でもローシュ様だけが僕を助けてくれた、僕の正義はローシュ様、祖国ルーマニアだけです》


「とんでもない狂信者を育ててしまって」

《それが罪ならルツさんの罪です、ローシュ様は使われた道具に過ぎない、僕を育てたのはルツさんと王様です》


「コレだけ頭が良かったら、凄く辛かったわよね」

《はい、だからあの地獄から連れ出してくれたローシュ様が僕の1番なんです。もう誰を見ても、ローシュ様以外は良く映らないんです》


「はいはい」

《こんなに良心を痛めるんですから、ローシュ様は優しい方です。アンジェリークがもし苦しんだら僕を責めて下さい、僕も言えたのに言わなかった、同罪です》


「ごめんなさいね、別の地獄に引きずり込んだ」

《ココは天国ですよ、僕が嫌がる事をする人は居ないんですから》


「今のアナタが嫌がる事は?」

《理不尽と不条理と愚か者です。だからローレンスは好きですよ、ローシュ様を理解してるし、賢いですから》


「アレは少し拗ねてただけよ」

《見る目が無かった公女様達は嫌いです、国婿こくせいじゃないにしても、目を掛けて愛人にでもしておけば良かったのに》


「もう純粋無垢さを求めるのは無理そうね」

《あの時に捨てさせられました、生きる為に全て》


「でも普通に生きて欲しいの、まるで平民の子みたいに」

《僕もネオスさんも無理ですよ、国に関わらないでいられないんですから、ローシュ様みたいに》


「アナタみたいに優秀な子が居れば、国も安泰ね」

《ローシュ様を煩わせない様に頑張りますね》


 大切なローシュ様を守るには、ローシュ様より頭が良くなる事、そうなれるから頑張れってルツさんも言ってくれた。

 そしたらローシュ様に認めて貰える、どんな我儘でも。




「ルツ、狂信者に育てて欲しいなんて言った覚えは無いんだけど」

《私はファウストの素地を理解し、知りたがる事を教えただけですよ》


「偏りが過ぎる」

《短期間でしたらから確かに若干の偏りは認めますが、例え長期的に万遍無く教えても同じ答えに辿り着く筈です。それとも良い素材を無駄にしろと?それか、知るべき事を教えられないまま、愚かに言う事を聞くだけの昔に戻れと?》


「極論」

《どちらかですよ、アナタがどうして、何故悩んでいるのかをファウストは知りたがった。点と点が繋がり図案が浮かび上がる、それらを御するには知恵を与えない事でしか制御は出来ない、それともアンジェリークの様に愚かな行為に走って欲しかったんですか?》


「それでも、どうとでも出来たでしょう」

《アナタを守りたがるファウストにアナタを守らせるのは罪ですか、例え目的をすり替えても彼は気付きますよ、賢い子なんですから》


「あの場から救い出したかっただけなのに」

《状況が変わったんです。セーラムで魔女裁判を起こそうとしている、それが合図となり潜んでいる者達が一斉蜂起する。アナタの言う、全世界規模でのテロ行為、起きて貰ってからでないと止められないんですよ》


「神の介入が有れば」

《尻拭いをさせる為の神では無いんです、コレは人が起こした事、なら人の手で収めるのが道理。例え犠牲が出ても、これ以上神を便利な道具扱いをしては神性を穢すと同義、そうであると歴史を作る過程なのです》


「なら私は?転生者は」

《最も便利な人と神の道具、そして敬い大切にされるべき存在、歴史を作る者》


「必要とされない存在になるのが1番、魔王と同じね」

《いえ、魔王すらも道具にするのがアナタです。備えましょう、事が起こるまでに》


「そうね、北に行かないと」

《明朝に、それまで休んで下さい》


 自分達を苦しめた世界と同じ様にしない為、クーリナの為、早世した姪の為。

 そう覚悟をしてもローシュは善人、非道な手段を取る事には当然、躊躇いが生まれる。


 ですが本当に向こうでは命の価値は平等、だったんでしょうか、そうは思えないんですよね。

 そうであれと考えるのは構わない、けれど無理なんですよローシュ、命は平等では無い。


『無理矢理寝かし付けたんだ、ルツ』

《不安定ですし、私達を受け入れられる状態でも無いので、暫くは考えない時間を与えるしか無いですから》


『馬鹿じゃないのに』

《不器用なんですよ、その方が良いんです、硬い天秤よりは遥かにマシですから》


『どんなに悪い子でも良いのにね』

《良い子で居たいと思うのは君も同じでは》


『ローシュにとってのね』

《でもローシュには大切に思う者が多い、それだけ条件が多いからこそ悩むんですよ、我々とは違って》


『ローシュが1番』

《そのローシュが大事にする祖国、ルーマニアが2番、ですからね》


『王様の1番が民だからね』

《ローシュか民か、となれば王すらも敵になってしまう、それだけは避けないといけませんからね》


『ローシュも大事にしてたし、そこは大事にするけど』

《独裁や独善を避け中庸を進もうとする、賢いから悩む、コレが人間らしさなんですよアーリス》


『僕は竜、ローシュを守れないならあの地を捨てられる』

《変容とは凄いですよね、愛国心すらも消し飛ばすんですから》


『あるよ、ローシュを大事にする国は好き』

《複雑な方が制御し易い場合も有る、意外な収穫でした。良いですね旅とは、これぞ自由なのだと理解させてくれる》


『ローシュが居てこそだけどね』

《ですね》


 祖国を良くするつもりの旅が、ローシュを守る為の旅に。

 コレも、最初から神のご計画だったのではと思わを得ないんですが、どうなのでしょうね。




「お世話になりました、エリザベス夫人」

『いえ、私の言葉では足りなかった事が悔しいわ』


「愚かなんです、意外と」

『卑下しないで、何か有れば私も陛下と同罪と覚悟してるわ、けどアナタは傍観者。助力してくれた事、その事にまで罪悪感を背負わせないで頂戴』


「着くまでには、水に流されてるかと」

『是非そうして、アナタを愛してる人達の為にも。心配しないで、必ず守るわ』


「ありがとうございます」

『じゃあ、またねローシュ』


「はい」


 ローシュとルツと、ネオスとファウストとココまで来た水路を戻って、エアへ。

 そこから更に海路でグラスゴーまで、それからエジンバラには水路で。


 マン島から戻ってからずっとローシュは元気が無い、ご飯は食べるけど相手をしてくれない、謝るだけで唾液も受け入れてくれない。


 だから昔の姿に戻り始めてる。

 白髪が増えて、体力も衰え始めて。


《ローシュ様、白髪が》

「ぁあ、元の姿に戻ってるの、正しい姿になってるだけよ。大丈夫、コレは病気でも悪い事でも無いから大丈夫」


『ローシュはローシュ、若くても老いてもローシュを愛してるよ、だから』

「ありがとうアーリス、良いの、私はカサノヴァ子爵家のローレンスの叔母なのだし。丁度良いのよ」


 人の記憶なんてあやふやだし、ベールを被れば良いだけなのに、ローシュの気が済むまで好きにさせろって。

 苦しんで欲しくないのに、ローシュは苦しみたがってる。


『早く出来ないかな、船』




 エジンバラからカーコーディへ着いた頃、ローシュの髪にはすっかり白髪が混ざってしまった。

 そして顔には笑い皺も。


《ローシュ、どうしたのベールなんか付けて》

「少し顔色が良くなくて、心配をおかけしたく無く。大丈夫ですよキャサリン、長旅で少し疲れただけですから」

『すまない、療養させるべき時に、声まで疲れた様子じゃないか』


「大丈夫ですよフランク、海風でやられただけで、向こうでちゃんと療養しますから」

《ココではダメなの?》


「ローレンスの為にも、暫くは私が家を整えないといけませんから」

『私も手伝おう、何でも言っておくれ』

《そうよ、お願いねフランク、ね?》


「はい、ありがとうございます」

《少しの間、フランクをお願いね》


「はい」


 ホーエンハイム家とカサノヴァ子爵家に繋がりが有る事を示す為、私がローレンスに成り代わり、ココから馬車でバーンティスまで向かう。

 セレッサが飛べる様になるか船が出来上がるまで、この地で療養する事になる。


『ぁあ、噂では聞いていたけれど、素晴らしい家だね』

「ローレンスの我儘を聞いたらこうなってしまって」


 神々によって、既に計画され建てられた家。

 ローシュの様な者の為の家。


『ぁあ、ローシュ、薪は私達で火を付けるから君は休んでいておくれ』

「いえ、ルツ達に任せますから」


『彼らも疲れている筈、労わせておくれ』

「はい、ありがとうございますフランク」


「全く、嘘が上手いとは言えんな」

「多少でも老いた姿を見せては驚かせてしまいますし、強引な手も必要かと」


「心配させおって」

「キャサリンの為です、フランクには後でお見せしますよ」


「そうしておいた方が良い、我と共にな」


「それでは驚かせ過ぎます」

「魔女より神性の方がマシだ、ほれ、行くぞ」


『ローシュ、休ん』

「我はスカアハ、どうしてかような姿か、もう分かっているだろう」


「私が、本当に魔女だからです、東洋の黒い魔女とは私の事なのです」


『ローシュ、それでもアンジェリークを救うとは、さぞ辛かったろう』

「欺いた事を責めないのですか」


『キャサリンの為だろう、あの人が知ったら卒倒だけでは済まない、私達の為の欺き。それに、知る価値の無い者に情報は与えられない、ココの常識だよローシュ』

「ふむ、お主に知る価値が有ると我が認めたのだ、決して裏切るでないよ」


『スカアハ神、メリュジーヌ神に誓います、決して裏切る事無くカサノヴァ家に助力すると』

「裏切りの代償も呈示するが良い」


『裏切りの代償は私とロバートの死で、構いませんでしょうか』

「ふむ、承った」


「ごめんなさいフランク」

『気にしないでおくれ、寧ろ神に会えた事でもう、胸がいっぱいなんだ。お会い出来た事こそ私達にとっての褒美、選んだ道が正しいと背中を押されたも同義なんだ、ありがとうローシュ』


「それでも、秘密を作らせてしまった」

『キャサリンに背く事はしていないけれど、私にだって秘密は有る、ホーエンハイム家の領主とはそう言うモノだろう』


「ありがとうございます」

『はぁ、キャサリンに言えないのは可哀想だけれど、あの人を守る為だ。次期当主達には折を見て話すよ』

《その事なのですが、少し良いですかフランク》


 綺麗過ぎても潔癖過ぎても、世を渡り歩くには不便だ、と。


『腹芸が出来るかどうか、だねルツ、分かってるよ。彼女の方が実に上手くてね、ロバートの事でもすっかりキャサリンが慰められているよ』

《そうでしたか、なら安泰ですね》


 もうフランクには見えていないらしいスカアハ神も、頷いている。

 けれどローシュは。


『ローシュ、気まで老いてしまったのかい?』

「コレは元からですわ、コレが本来の私なんです」


『どんな姿でも君は君だ、彼らの為にも早く元気になっておくれね』

「顔を見せて回ったら直ぐにも、人を集めるのには古い方が良い場合も有りますから」


『成程。元気になったらまた、キャサリンに会いに来ておくれ』

「はい」




 あの映画の様に、気が老いれば容姿も衰える。

 ワケでは無いのだけど、年に引き摺られるのよね、体の重さが年を思い出させる。


《それにしても、本当にお美しいですわね、ローレンス様》

「でしょう、私に似なくて本当に良かったわ」

『いえいえ、奥様も充分お美しいですわ』


 ローレンスのお見合い相手を探す気は無いのに、どうしてか紹介されるのは令嬢ばかり。

 本当は侍従を探してるのだけど、まぁココまで来て下さるんだから無碍には出来ないし、実際に良い子を見繕ってきてくれる方も居るし。


《そうですよ、アナタに掛ればどんな男性も良い子になるとか》

『ですわね、バーナード様が大出世なさったそうで』

「留学には危険が伴いますから、寧ろ出世と言えるかどうか」


 陛下の、と言うかアンの鳩が素早い仕事をして、少し残念な子をココに預けると良い子になって帰って来るとの噂を流したと。

 ご令嬢達が来る少し前に伝書紙で来たのよね、追い返せるワケ無いじゃない、本当に人使いが上手いわ。


『それもで、現女王に重用されるとなれば充分ですわ』

国婿こくせいの才は無くても能力があった、それを見い出したのが留学なさっていたルアンド様だ、と聞いてますわよ》


「いえ、寧ろ私が見定めに使われたのです。噂や外見に惑わされず、見極めろと、なので最初から答えが用意されていただけ。彼を留学へ行かせる為の方便を、私に任せただけですわ」


『と、言う方便なのよね、ふふふ』

《エジンバラでの放蕩ぶりは誰もが知る所、優しいのねルアンド様は》

「まぁまぁ、そう言う事にしておいて下さい」


 バーナードは今までの自堕落を挽回する為、マン島へ。

 そしてココにはバーナードを見い出したルアンド、そして新しい技術を齎したとされる甥のローレンスが、爵位を貰い居を構えたとなっている。


 後で噂を合体させる為、ローレンスには軽く挨拶だけさせ、後は私が相手をする。

 本当に上手くいくのかしら、コレ。


《それで、私はウチの子をと思ったのだけれど》

『ありがとう、実は本題は私の、私の知り合いの子についてなの』


「私で良ければお話をお伺いしますわ」


 ココでは貴族と平民の間に、中流が存在している。


 子宝に恵まれない家、男子しか居ない家、それでも優秀だからと文官の家や武官の家が欲しがれば預ける。

 そして養子となれば家は税が何割か免除され、そしてその家に子を預ける者が現れれば、税は完全に免除となる。


 居はコレで解決、では食料や衣はどうするのか。

 面倒を見て貰う親が食料や生活必需品を分け、子の面倒を見て貰う。


 勿論、素質の無い子の面倒を見られる様な暇は無いので、本当に優秀な子だけが育て上げられる。


 ココの貴族には平民からも優秀な子を探し出す事も、使命となっている。


 だからこそ、ありきたりと言えばありきたり。

 平民の子を貴族の子が愛してしまった。


『ただ、問題なのは貴族の方は男子なの』

《奥様は貴族に嫁がせようとなさってたからもう、静かにお怒りだそうなの》


「その平民の子は?」

《才女よ、間違いないわ、私も助けて貰ったんだもの》

『彼女の夫が離縁したがっていて、パン焼き釜を貸す代金を取っていたのよ』


《私の名で、けれど彼女が私が代金を取る理由が無いと説明してくれて、その間に元夫の隠し金を探し出す時間をくれたの》

『隠し場所の目星も、見事だったわ』


「あぁ、男子しかいらっしゃらないのですね」

《そうなの、それも1人だけ》

『準男爵家で、遠くは王族の方とも血が繋がってるとは聞いてますけど、それは彼女では無く夫の方だそうで』


《彼は良い子よ、彼女も》

『ハッキリ言うわね、匿って下さらない?』


「どちらを?」


『ふふふ、両方』

「流石にそれは、奥様の機嫌を損ねるのでは?」

《それよりお子の身の安全が優先なの、薬を使ってどうしようも無い貴族令嬢を抱かせようとしてるって噂で》

「ふむ、事実だ、数が多いと愚かなのも出るでな」


「分かりました、ですが預かるだけで解決しないのでは?」

『だからこそ、お知恵を授かりに来たのよ』

《私達は部外者、けれども優秀な子の将来を潰すワケにはいかないの、ね?お願い》


「くふふふふ、この為の未来の知恵、この家なのだ。分かるだろうローシュ」

「彼女の優秀さを引き出し、立身出世させるしかないかと」

『流石ルアンド夫人だわ』

《直ぐに連れて来るわね》


 便利な道具、と言うかもう、単なる歯車よね。


「はぁ」

『お疲れ様ですローシュ』


「王もこんな感じなのね、大変だわ、帰ったら労ってあげないと」

『アナタもですよローシュ』


「そうね、ぁあ、ネオスは誰を好きになっても良いのよ。ただあまりに愚かな子は止めてね、ルツかアーリスがこっそり殺しそうだから、程々の子にして」


『私はアナタが良いんです、ローシュ』

「年増好きなら他の才女にして、アナタにならキャサリンだって落とせるわ」


『アナタの物になれないなら、直ぐにでもこの計画を壊して男娼に身を落とします、いい加減私を受け入れて下さい』


「相手はするから冷静になって、ネオスは優秀で良い子なんだから」

『熟考しました、愛なのか錯覚なのか、恩義なのか性欲なのか。恩義で愛で性欲です、私はアナタに欲情して、アナタだけを思ってるんです』


「お願いだから、他の人にして」

『無理です、例えアナタが自分より優れていると思う独身の女性を連れて来たとしても、無理なんです。アナタの優秀さだけに惹かれたんじゃない、若さや女性である事を平気で捨てられるしなやかさ、優しさと良心に惹かれたんです』


「良心と優しさが有れば」

『アンジェリークに機会すら与えず、ルーマニアに送り、良い様に出来てた筈です。でもしなかった、彼女に居場所と役目まで与え、ローレンスまで与えようとしている。もっと酷い目に遭わせる事も出来たのに、敢えてしなかったのは優しさです、良心です』


「勝手にそう思ってて良いから、他の人にして」

『アナタが受け入れ易い様に、もう少し愚か者になっても良いんですよ。取り敢えずは手近な女性をアナタの名を呼びながら汚しても良いですし、バーナードだと名乗って貴族の男を誑かしましょうか』


「何で、何が良いの」

『そう弁えている所です。力にも権力にも流されず、振り翳さず、見誤らない。公女達だけじゃない、アンですらバーナードに目を掛ける事もせず、本気で堕落者だとなそうとした。本当に見い出して改心させたのはアナタです』


「スカアハ様の情報のお陰よ」

『公女も知っていた情報です、でも何もしなかった。けどアナタは違う、バーナードを理解し役目を与えた、そして彼が望む道を示した』


「そう分かってるなら、ちゃんとした相手を探して」

『探しました、アナタ以外は無理ですローシュ、私にはアナタだけで良いんです』


「何で言う事を聞いてくれないの」

『アナタが間違ってるからです、私の身にもなって下さい、アナタを知ったら他はあまりにも愚かで残酷なんです。私にとっては優しい賢いローシュなんです、越えられるのは神だけ、欲情出来るのはアナタだけなんですローシュ』


「本当に、この姿が」

『私の本当の姿を忘れたんですか。同情でも良いんです、どの姿でも良いんです、アナタに愛されたい』


「ちゃんと愛してるから」

『なら抱いて下さい、じゃないと協力しませんし、子種も残しません。また薬剤で溶かして、今度こそ誰にも愛されないと嘆きながら田畑を耕して、アナタを思いながらルーマニアの端で朽ち果てます』


「拗ねた子供みたいな事を言わないで」

『アナタのモノになれるなら、幾らでも愚かになります』


「もう、全く、何を学習してくれてるのかしら」

『アナタが素直に受け入れてくれないからですよ、愛してますローシュ、独占出来無いなんて些末な事はどうでも良い。愛させて下さい』


「ルツやアーリスは?」

『ファウストにもローレンスにも、どうして言わないのかとせっつかれてました。資格が無いと思ったんです、アナタに愛される資格が無いと』


「今はどうなの」

『愛していれば十分なのだと理解しました』


「私の気持ちはどうなるのかしら」

『少なくともこの顔は好きでしょう』


「アレはほら、痛そうなんだもの」

『実は凄く痛いんです、キスしてくれたら痛みが治まるかも知れません』


「ごめんなさい、負の学習をさせて」

『謝る前に抱かせて下さい、それか強引な手段を取っても良いんですよ』


「お風呂は?」

『長湯をしそうなので一緒に入りましょう、夢にも見たんですよ、アナタと風呂に入る夢を』


「本当に?」

『無理に抱く夢も、アナタに抱かれる夢も、あんなに唆る声を出すからですよ』


「でも、聞き慣れてるって」

『他の者の声は、です、お風呂は止め罪悪感と歯車。にしてこのまま抱いても良いんですよ。どうしますかローシュ』


「お風呂には入らせて」

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