秘密結社フリーメーソン、成立。

『ルツさん、先ずは、どうしてなのか』

《バーナードを新しく加える際に、どの位置に据えるべきか、から正史派と接触可能な組織を作るに至った。ですかね》


 それと、どうしてなのか丁度良い空き家が建つ予定だから、だとも言えますね。

 エジンバラの真正面の対岸、カーコーディとの中間地点、バーンティスランドの小高い丘に大きな一軒家が最近建ったばかりだそうで。


 その一軒家をカサノヴァ子爵家、及びフリーメーソンの拠点とする事に。


『アンジェリークは』

《ローレンスが気に入れば結婚して貰う方針です、家族とは集団を動かす者にとっては都合の良い鎖ですから。ぁあ、ローシュは知りませんよ、私が少し促した程度ですから》


『愛情を利用するんですか』

《はい、動ける者は親でも使う、綺麗事を言ってる場合では有りませんから。正史派にとっての異物と認識されてしまえば全てが焼き払われる可能性が有る、それらから身を守る為、ローシュを守る為ですが、無理強いはしていませんよ》


『私がアンジェリークを抱けないから』

《抱くかどうかより、家族として愛せるかどうか。少し愚かな方がローレンスは愛しく思えるんだそうですから、適材適所かと》


『そう、組織化する、と』

《ですね、共有諜報部門、各国と連携しなくては自分達まで焼き払われてしまいますから》


『ですがアイルランドは』

《新たに情報が入ったんです、船の設計図がアイルランドに流出し、スペイン側も協力していると。もっと遠く、海を越え、本場で本当のセーラムの魔女裁判を起こす可能性が有る。その為に静かにしているのかも知れない、そうした情報が入ったのですよ、神託によって》


『ローシュでは無く』

《はい、ココに、です》


『それで正史派が接触するのでしょうか』

《正式な成立は1700年代後半だそうですが、何種類か成立時期が噂されているそうですし。愚か者は有名なモノブランドに弱いそうですから、末端の者でも接触すればコチラのモノ、少なくとも転移転生者も釣り上げる事が容易くなる》


『安全で有能な人材も、ですが』

《各国に支部を置き、情報を共有しますが、その為には更なる準備が必要です》


『北に行くとは聞いてますが』

「ふむ、ロウヒやイルマリネンに会いに行くのだろう」

《はい》


 馬の背の上でコチラ向きに現れたのは良いんですが、つい心配になってしまいますよね、ローシュの姿なのですから。


『あの、スカアハ神』

「大丈夫だ、馬に負担は掛けてはおらぬ」

《伝書紙の製法を本格的に学びに行こうかと、そう言う事ですよ》


「だけでは無かろう、魔道具を開発させる気だろうに」

《気が向いて行って下さったなら、ですよ》


「ふむ、お主の魔道具、お主だけしか使えぬ様にした。この意味が分かるか坊主」


『いえ、分かりません』

「まーだ拗ねておるか坊主は」

《後から合流した者に先を越されましたからね》


『別に、そう言うワケでは』

《何を仰いますか、先日から褒美も無し、会話も無し。君の事ばかり聞かれる私の身にもなって下さい》

「突き放したままだと気に病んでおるが、そのまま離れてくれとも願っておる、何とも切ない乙女心だ」


 それは本当に、その通り。


 愛しいと思えばこそ手放し難い、それでも尚、相手を思い手放すのがローシュ。

 そして、さして愛情が無くても愛情深く抱けるのも、誰を重ねたかを考えれば明白なんですが。


『私には、権利が無いので』

《覚えたての言葉を使いたがるのは結構ですが、本分を見誤らないで下さいね》

「誰が為の旅なのか、組織化もだ、全ては輪廻転生リーンカーネイションの為。より良い未来の為、ならば簡単な事だろうに」


《全く以てその通りなんですが、簡単過ぎて疑う気持ちは分かりますよ、複雑であって欲しいと願う男心も絡むでしょうし》

「そう複雑さを求めても、まぁ良い、もう少しで着くな」

『川も何も無さそうなんですが』


「隠してあるのだよ、アイルランド側に利用されては敵わんでな」


 エジンバラとグラスゴーを繋ぐ水路に認識阻害の魔法が掛けられている、しかも人では無く石が、その効果を発揮させている。


《だからこその、印章の指輪ですか》

「大きな魔石を砕いてな、ソレにも僅かだが埋め込んである、コレはメアリーかアンしか知らぬ事だ」

『コレならルーマニアでも可能ですね』


《脱出用だけですけどね、そう多くは魔石は持ってはいませんし、大きなモノはそう無いですから》

「まぁ、攻め入られぬのが1番だ。その小屋の者に印章を見せろ、ではまたな」




 新しいお家に行く前に、エジンバラからグラスゴーへ。

 隠し水路だなんて本当に凄いですよね、ブリテン王国。


《他にも有るんですかね?》

「いや、そう大きい魔石をホイホイとは使えぬよ。コレはグラスゴーの防衛力を高める為の水路、バーミンガムとロンドンを繋ぐ案も出たが、当時弱かったのはグラスゴーでな」


「大きい、とは?」

「この位だが、空からの魔石でな、かなり微量でも稼働可能だとなったのだよ」


「ウチに有るかしら」

「色で分けられているで、そうか、尽きた状態で齎されたか」


「ですね、透明か黒かです」

「その黒だ、貴重だと知っていたろうルツ坊」

《さぁ》


「さぁって、アナタね、私に分かってて言わないのはダメと言ったでしょうが」


 ローシュ様がルツさんの頬を、と言うか両頬を片手で掴んで。


《ふみません、ローシュ》

「ぅう、こうしても綺麗な顔が本当に憎たらしい」


《良く言われまふ》

「でしょうね、私が言うんだもの」


《許して下さい、アナタの身を守る為には致し方無かったんですから》

「でしょうね」

「まぁ、脅威が存在しているのは確かだしな」

《正史派って、結局は何がしたいんでしょうね?》


「其々なんじゃないかしらね、ただ1点のみ意見が合致しているからこそ、強い。とか」

「ふむ、余分な理念が無いでな、無言の結束力の強さだ」

《平和、とは人其々、ですが正史を遵守する事だけなら分派すらも無いでしょうからね。意志の統一、話し合わずとも目的が同じなのは、連携の点でも強いですから》


 サンジェルマン家のルイさんから、アンジェリークを操ってた人達の話が伝書紙で来た。

 一神教の中でも正史を重要視している一派が首謀者役になってて、男系主義をエサに、女性に相手にされない者を中心として広まり続けてるらしい。


「単独犯だけれど、個別の繋がりで思想が感染する。もう、マジでスタンドアローンコンプレックスじゃない」

《スタンドアローンコンプレックス?》


「向こうで既に舞台化されたお話、国を掌握する為、混乱を招く1つの手段」

「その為の対抗組織なれば、パブリックセーフティー9セクションかの」


「色々と問題が出そうなので、せめてカーネーションズにして下さい」

「ほう、花の名だしな、フリーメーソンより良いかも知れぬぞ」


「それだと転生者の組織だと思われちゃいますし、やっぱりフリーメーソンで良いです」

「ふふふふ、鳩共が豆鉄砲を食らっておる」


 だって、何を言ってるか聞き取れるけど、分からないから。


「兎に角、暫くの間組織名はフリーメーソンでお願いします、そこでもし何か有ればカーネーションズで」

「ふむ、そう言う事にしておいてやろう」


 そう話している間も川を進み、帆が下げられマストが折り畳まれ、橋の下を通り抜ける。

 僕もコレ位は出来ないとダメかな。




「自然の川の終わりかと思ったら」

《繋がってて、本当に凄かったですね》

「魔石有ってこそだ」

《ウチもこうしましょう》

『だね、結構途切れてる場所多いし』


 船から船へ、今度は海を少しだけ渡る。

 ダンバートからエアって所まで行って、ホーエンハイム家の所有する家まで、今度は馬車で。


 飛べたら直ぐなのに。


「あら、アーリスをガジガジしてどうしたの」

『飛べたら楽なのにって思って見てたから、怒ったんでしょ』


「時期を見てるのよねセレッサは」


 そうだって思ってなのかどうか分かんないけど、ガジガジからは解放された。

 こそばゆいんだよね、セレッサのガジガジ。


《馬車も楽しいですけどね、短い距離なら》

『本当にお尻が痛くなるからね』

「そこよねぇ」

「暫く揺れるで、口を閉じておいた方が良いぞ」


 そこまで整地されてない道を走って、森を抜けて、やっとお城へ。


「あら素敵」


 今日はココでお泊り。

 ホーエンハイム家のお祖母さんとお祖父さんの家、ココの裏からカークーブリまで水路を使って一気に移動の予定。


《では、今日も譲りましょうかね》

『優しいねルツ』


《飽きられるよりは遥かにマシですから》


 とか言ってるけどコレも全部、後でローシュをイジメる材料にする為だよね、絶対。


『はいはい、意地悪し過ぎて泣かれても知らないからね』

《そんなヘマはしませんよ》


『ファウスト、今日は僕らと寝ましょうか』

《はーい》

《今日は色々と教えてあげますから、あまり拗ねないで下さいね》


《そこまで子供じゃないですもん》

《期待してますよ》


 ファウストだけじゃなくて、ネオスにも言ってるのがね。

 やっぱり意地悪だよルツは。




『どうだったか、どうしても聞きたくなってしまいますね』


 ローレンス、向こうの法的にギリギリな子を食べてしまった、しかも今日も。

 可愛い。


「それはコッチのセリフなのよねぇ」

『知ってしまうと手だけだなんて無理ですね、全部が欲しくなるので』


 若い、眩しい。

 そして元気。


「なら若い子の方が良いかも知れないわね、存外年増だし」

『果物なら食べ頃だと思いますよ、もう1口良いですか?』


「ダメって言ったら?」

『良いって言って貰えるまで頑張りますね』


「私は練習台なんだから」

『ならちゃんと練習させて下さい』


「本当にもう練習しないで大丈夫だから」

『じゃあ本番で』


 素地が良いから物覚えが早いのよ本当、しかもアーリスが余計な事まで教えるから、秒で攻略されたのに。

 まだ練習したいって、本当に勉強熱心よねぇ。




《どうでしたか、ローレンス》

『全く伝わって無いのが、逆にらしいと言えばらしいのかと』

『あー、練習台だって思ったままなんだ、流石ローシュ』


『どうしてあんなにも自信が無いんですかね』

《離縁は事実ですから》

『ネオスの事、ローレンスはどうしたら良いと思う?』


『ネオスが動かないと無理なのでは?』

『だよねぇ』

《まぁ、そこも色々と有るんですよ》


 俺を役に立たせる為にも、と計画が考案されたと知った時、とても嬉しかった。

 ローシュが俺の為にもと提案してくれて、抱かれてくれて。


 ただ気に入らないのはネオス、素直じゃない所が特に気に食わない。


『俺に嫉妬したとでも言えば、話が変わると思うんですけどね』

《彼曰く、その資格が無いそうですよ》

『資格も何も無いと思うんだけどなぁ』


 資格も何も、愛してさえいえれば。


《まぁ、旅はまだまだコレからですし、気長に待ちましょう》

『帰って早く寝た方が良いよ、明日も早いんだし』

『そうしておきます、おやすみなさい』


 愛してさえいれば、きっとローシュは受け入れてくれる筈なのに。


「ローレンス、何か有ったの?」

『いえ、廊下でルツさんと会ったので、明日の確認をしてたんです』


「そう、じゃあ早く寝ましょ」

『もう1回だけ、お願いします』


「明朝にね」

『じゃあ約束ですからね』


 遠慮するだけ無駄、無意味なのに、ネオスは勿体無い事をしている。




『おはようございます、ローシュ、朝食ですが』

「ぁあ、おはようネオス、ありがとう」


 ローレンス、彼は遠慮無しにローシュに跡を付けて。

 羨ましいと言うか、腹立たしいと言うか。


『大丈夫ですか?』

「大丈夫、もう食べた?」


『いえ、私もコレから朝食で、彼の分も運びますか?』

「いいえ、向こうで朝食を食べさせておいて」


『はい』


 気怠そうで、けれど不機嫌では無さそうで。

 それが羨ましい様な、でも胃が燃える様な感覚が。


『おはようネオス』

『ローレンス、加減を知らないんですか?』


『俺に怒る意味は?』

『別に、怒ってるワケでは』


『俺に嫉妬をぶつける前に行動したら?』


『すみません、失礼しました』

『小競り合いが嫌いなのは分かるけど、不満が有るなら言って欲しいな、いずれは合流するかも知れないんだし』


『考えておきます』


 けれど、考える事をしないまま、ただ船で移動するだけの時間を過ごした。


「やっぱり、船って便利よねぇ」

《開通させましょうね、アーリス》

『うん、頑張る』


 そうして海へ、マン島へ。

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