王室での国婿教育。
比較的真面目だからこそ、私がスペンサーとの接触を言い付けられたのかと、けれどもルツさんが引き合わせた理由はそれだけでは無かった。
《マーガレットには、私なんかでは力不足だよ、不釣り合いだからね》
彼は私の鏡。
彼女の役割を理解し、自分は不釣り合いだと感じ、好意を押し殺そうとしている。
けれど私は知ってしまっている。
そのマーガレット公女がスペンサーこそ
『長年の隣国との小競り合いは知っています、だからこそ戦に強い方では無く、采配に長けている方が支持されるべきかと』
一神教を悪用する者に国を乗っ取られてしまった隣国、アイルランド王国。
己の信じる神以外を悪とし、男こそが統治者として相応しいと、女王を処刑し圧政を強いる国。
けれども度重なる遠征で一方的に数を減らし、今では国を傾けぬ様にする事で手一杯になっているとも。
そしてかのパルマ公と不可侵条約を結んでいたが、それも叶わないと知ってなのか、最近では大人しくしているとも聞く。
《安泰で有れば、と良くバーナードに言われるからね、私も理解しているつもりだよ》
ココの王族内部でも、どうしても派閥が分かれてしまう、それこそ良かれと思いお互いの正義がぶつかり合ってしまう。
『ですが情勢次第では、どちらに傾いてもおかしくは無いかと』
和平交渉は常に行われている。
けれどもローシュ曰く、独裁国家となっているなら決して折れる事は無いだろう、と。
だが独裁体制が続けばの話、解体され開国される際には穏健派が王族の頂点に居るべき、争いを好む者が王になってはいけない時期が存在する。
独立を認めず、己が領土となす事は更に大きな争いを招く事になる。
《だとしても、だからこそ、私にとって最も優れた女性はマーガレット。彼女が選ぶべきで、私からはとても言う事は出来ないよ》
『私にも、同じ様に思う女性が居ます』
《ルアンドだろう、けれども何が良いんだい?》
『良く高級娼婦と間違われるのですが、内実はそれ程軽薄では無いんです』
《まぁ、格好が少し淫靡では有るけれど、周りの男が言う様な猥雑さは確かに存在するとは言い難いかも知れないが》
『私を信頼して下さるなら、ヒントを差し上げます』
《ヒント、とは》
『彼女を理解する為のヒントです』
《では君を信頼する、とは、どの様な状態だろうか》
『そのままです、私の言う事を決して疑わず、見誤らないと誓って頂けるかどうかです』
《君を疑わないと誓うよネオス》
『私を鏡だと思う様に、ルアンドをも鏡だと思って下さい、そうして鏡の中から見てみて下さい。ココを、この国を、アナタ自身を』
ローシュの立場になれば、どうしてあの様な振る舞いをするのか、何故するのかが全てが分かる筈。
偽りの彼女の振る舞い、噂に惑わされる事が無ければ、少なくともローシュが愚かでは無いと分かる筈。
《やっぱり、噂って碌でも無いですわね》
「あらそう?使い勝手が良くて便利じゃない」
《そう、ですか》
1度離縁し、再婚、そうして子供の事で悩んでいる夫人がいらっしゃる。
正式な通達はコレだけ。
そして実際に訪れた方は、1人の男性と2人の青年、1人の少年を連れてやって来た。
誰が彼女のお相手なのか。
もうその話題で持ち切りだったのに、彼女は男子寮へばかり。
男の子も含めて全員とはお会いしたのだけれど、全く、誰が彼女のお相手なのかさっぱりで。
だから、と言うワケでは無いけれど、ウチの寮の侍女が言い寄ろうとして見事に撃退されて。
それで余計に話題になり、今度は他の男性にと従姉妹が誘おうとして、アン伯母様に厳しく叱られて。
その結果、彼女が連れて来た男性は全て、彼女を愛しているとの結論に至ったのだけれど。
「あ、ネオスは私のでは無いから、好きに頑張ってくれて良いわよ。それにファウストもね」
《僕の1番はローシュ様ですけどね》
「じゃあココの言葉で、もう1度」
《んー、“あいらぶゆー、ミセスローシュ”》
「はいはい、お上手ねファウスト」
子供の事で悩んでいる、なんて殆ど嘘、だって子供の扱いがこんなに上手なんですもの。
しかも聞けば大国を渡り歩いて来たとも、だから寧ろ伯母様か母がこの方を招いた、とする方が辻褄が合う。
男子寮に通い詰めていたのも、敢えて私達に会いに来なかったのも、全ては見極める為なのでは。
《ルアンド、噂を扱うのは難しいんじゃなくって?》
「素質の無い、訓練もしていない鳩なら、確かに重要な文を扱わせるのは難しい。けれども針が怖いからと言って刺繍をしなくては、お針子は生きられない、なら扱うしか無い。何事も危うさを理解し、慎重に扱えば良いだけだとは思わない、マーガレット」
噂で機嫌を悪くするのが普通なのに、噂を便利な道具扱い。
凄いわ、良い意味でどうかしている。
ウチでは噂を悪用するのは禁忌で。
いえ、悪用は禁忌、だものね確かに。
《ルアンドが悩んでると言う、子供の事は、既に居る子?それともまだ見ぬ子?》
「一応、両方なのだけれど、最近は既に居る子ね。この位の女の子の事」
《僕が言うのも何ですけど、ちょっと愚かな子なんです》
「と言うか、悪しき見本ばかりで良き見本が乏しい子、因習に囚われた可哀想な子なのよ」
我が国でも頭を悩ませている問題、隣国からの難民と、その子供らへの対応。
隣国へは戻りたくは無い、けれどもココへ馴染む事も拒絶しながらも、要求を重ねる難民達は国民に非常に嫌われている。
1番の解決は祖国へ戻る事。
けれども難民は圧政と重労働に疲弊し、逃げ出した者達ばかり、戻りたいけれど戻れない。
その苦しみから逃れる為、難民地区の環境に文句を言う。
戻るか馴染むか、それだけしか無いと言うのに、近隣住民から守ってくれている警備兵達へ罵声を浴びせる。
《やはり、保護者は誰なのかを、理解させるしか無いかと》
慈悲として提示した条件が、時に相手をつけ上がらせてしまう事が有る。
祖国へ送り返す、それだけの選択肢だけでは、子が死んでしまう。
だからこその難民政策の筈が、労働無しで衣食住を得ようとする、そして我々多神教への文句を聞き流せとも。
「ではもし、言う事を上手く理解出来無い子なら?」
《難民同様、放逐、送り返すしか無いかと》
例え小さな命を見殺しにする行為だとしても、その選択を選ぶのは親、どうか親を恨んでくれと祈るしか無い。
「異界では、不用品の買い取り業が有るんだそうで、ご存知?」
《古着、骨董屋でしょうか?》
「いえ、その国では使い道が無くとも、他国では使い道が有るモノを買い取る生業」
《まさか、禁じられている奴隷として》
「嫌ですわ、ソレは悪手です、不安の種を撒く行為。ですが、禁じられているかと言って何も考えないのも、また愚かな行為だとは思いませんか?」
《でも》
「最悪は褒められない事もするのが王、誰が為の王なのか、我が王は喜んで悪評を受け止めますよ」
愚かで淫靡なルアンド夫人、男子寮から流れて来た噂の真反対。
では何故、真反対なのか。
《そんな、身を以て体現なさらなくても》
「あら、何の事かしら?私は淫靡で愚かなルアンド夫人と呼ばれる者、それ以上でもそれ以下でも無いし、子供の事で悩んでるのは事実だもの」
子供の事で悩んでいる事以外、事実だとは認めなかった。
なら、やはり彼女は見極め、無定めに来た神々の御使い。
であるなら、私は何をすれば。
《考える事は、確かに禁じられてはいませんが》
「では、禁じられている理由から、考えてみましょう」
私の名はアンジェリーク、嘗てはアビゲイルと名付けられていた愚か者。
私がして来た事を、他の者が実際にしている光景を見ないと、どれだけ悪しき事なのかを理解出来ない。
理解するのに、とても時間が掛かる悪い子。
『ごめんなさい、メアリー夫人』
《良いの、分かったのね、ごめんなさいねアンジェリーク》
『いえ、私が悪いんです、時間がとても掛るから』
《考えない事が生きる道だったのだから、良いんです、子供なのだから失敗しても良いんですよ》
『でも、もう失敗したくない、教えて下さい』
《良いわ、一緒に頑張りましょう》
私が案内されたのは、このブリテン王国に有る難民地区、ホーリー島。
そこでは守って貰いながらも罵り、声高に神のお言葉を使い罵倒する者、7つの大罪を犯しながらも信者だと名乗る者で溢れていた。
生きる事、死ぬ事より、何よりもこの光景が私を目覚めさせた。
ただ生きる、ただ死ぬよりも、何よりも恥ずかしい事が有ると理解させてくれた。
私が直接の原因では無いけれど、メアリー夫人は魔女狩りでご友人を亡くされた、なのに私とローシュ様の為に向き合うと決断なさってくれた。
そんな事をしなくても、ローシュ様はメアリー夫人を責めないと言うのに。
ただ生きる事やただ死ぬ事より、何よりも避けるべき事は、恥を晒し汚名をそのままに愚か者として悪しき見本となる事。
天国に居るお父さんにもお母さんにも、そしてどの神様にも愛されない様な行為こそ、最も避けるべき恥ずべき事。
恥とは何か、愚かとは何か、私は帰り道でメアリー夫人に沢山教えて貰った。
そして沢山話し合い、理解する事へ全力を尽くした、そして恥じた。
『私は、なんて愚かな』
《だからこそ人は汚名を
何か。
メアリー夫人は決して、アレをしろコレをしろ、とは仰らない。
私に考えさせる為、敢えて、具体的な指示を一切避ける。
そして何か、とは、ローシュ様の役に立つ事。
ただ指示に従うだけ、では無く、如何に先回りをして考えるか。
そして自分の能力を過信する事無く、確実に成果を出せる事を、例えどんなに小さい事でも積み上げる事。
何度も私は崩してしまった。
だからこそ、私はいつ捨てられてもおかしくは無い、けれどもローシュ様は約束して下さった。
迎えに来る、と。
『発芽だけ、だなんて。前なら確かに大事な事だと分かっていた、理解していた筈なのに』
《食事を過度に制限され、考える力を奪われていただけ。もう分かるでしょう、発芽だけだとしても、如何に大事な事なのか》
飢饉が起きた理由。
それは堅物な領主により、作物が2種類だけしか育てられなかったから、世紀の寒冷期に入り作物が育たなくなり、私の村は飢饉に襲われた。
そんな時、私の能力が家族を救った、筈だった。
納屋で何とか最低限の食糧を守り育てていたから、弟も両親も私が見付かってしまうまでは、確かに生きていた。
そう、分かっていたのに、生きる為だと言われて考えない様にしていた。
死なない為に、仕方無い事だと、虐殺に手を貸した。
そんな子供でも、ローシュ様は救う為に手を差し伸べて下さった。
私を先導した者と同様に処刑されてもおかしくは無かったのに、利用価値が有ると思って下さった、メアリー夫人に預けて下さった。
そして、どの神を信じていても構わない、一神教には理が有ると理解もして下さっている。
私は恵まれている、何か、が出来る環境に居る。
『私は、やはり刺繍しか』
《コレから増やすのです。出来る事を増やし、出来無い事を減らし、恥を減らすのです》
『それでも、捨てられる事が怖いのです』
《大丈夫、意外にもアナタには出来る事が多いのは、アナタ自身が理解している筈。大丈夫、アナタはもう最底辺では無い、コレからは上を目指すだけですよアンジェリーク》
神よ、天使様よ。
機会を与えて下さった事、ローシュ様へとお導き下さった事、全てに感謝致します。
《だそうです、ローシュ》
「大丈夫かしら、私は聖人君主では無いから、アンジェリークに盲信されても困るのだけれど」
《大丈夫でしょう、既に後ろ暗い大きな過去を背負っているのですし、やっと調教出来る状態になった程度だそうですから》
『暫く世話させるんだよね、アンジェリークには』
《ですね、奴隷の世話をする者が必要ですから》
「奴隷って、せめて労働力と言ってよルツ」
《いずれは買い叩ける労働力、例え奴隷だとしても、アナタが罪悪感を背負う必要は無いんですよ。選んだのはココの女王陛下なのですから》
「選ばせた、とも言うのよルツ、決断を迫ってしまった」
「仕方無い、内乱の起因としようとする動きが有る以上、殺処分か放逐かだ」
「ココでもテロって、本当に厄介」
「派閥が分かれてしまえば、欲を出す馬鹿が居れば、容易く国は乱れる。統治の難しさよ。であるからして、やはり教育こそが要となるが、それらを邪魔するのもまた欲。正にイタチごっこだ、絶滅させたくもなろうよ」
「ダメですよ、貴重な肌触りの良い生き物なんですから」
「しかも小骨は多いがそこそこ旨いしな」
「はい、コチラはどうですか」
「うむ、この毛皮は良い毛皮だ」
「お慰みになりますかしら」
「勿論だ」
《ローシュも、どうか慰められて下さい》
『そうだよ、ローシュは絶滅させない為に選ばせたんだもの、偉いよ』
ローシュとて、神とて心が有る。
しかも女神、地母神ともなれば、他国の者でも失う事は悲しみを誘う事にもなる。
この時代での難民問題の解決にと、ローシュが出した答えは、更なる移民案だった。
アイルランドとブリテンの間に有るマン島に新しい難民地区を開設し小舟をも用意する、アイルランドに逃げ帰る事も、開拓せずに餓死する事も選ばせると言う案。
食糧問題は上水道が整備されているので自給自足で解決出来る、そして船も有るので逃げ出す事も可能、更には教育も医療も。
監視船団へと申請すれば、医療を受ける事が出来る。
そして望むなら、新たな開拓地へ赴く事も。
謗られる兵を憂いての案が、内部抗争を収める案ともなった。
「何か、ごめんなさいね、アン」
《いえ、良いのよ、最初はマーガレットから打診された案だもの。寧ろ、押し通す為にアナタを利用した、そう責めて欲しいのだけれど》
アンジェリークの話をしていただけ、の筈が、ココの移民政策の事にまで至ってしまった。
本当、英雄譚って、こうして勝手に出来上がっていくものなのね。
「良いのよ、救われる者が居る事だし、ルアンドがした事だもの」
《アナタはローシュ、だものね。ふふふふふ、後はココの事ね》
「ちょっと、私は愚かで淫靡なルアンドなの、そう器用に何個も同時に考えられないわ」
《またまた、嫌だわ本当》
「もー」
《はいはい、任せたわねローシュ、ふふふふ》
サイコパス気質かも知れないと警戒していた子は、本当にサイコパス気質だった、なので神々の魔法で彼を好いている公女様に惚れて貰う事にした。
共感能力が無いワケでは無いのよ、本当に感度が鈍いだけ、だから向こうでも偽装の為と言えど夫婦になれているサイコパス気質の者も居るのだし。
「はぁ、どう、ネオス」
『例の気質持ちだとは思えない程、愛に溢れている様に見えます』
女子と男子に移民政策の話し合いをさせた後、直ぐにも魔法を掛けて貰った。
死が2人を分かつまで、そう永遠の愛で縛り付けた。
だって冷静沈着に判断出来る事自体は、非常に貴重で存在すべき者なんだもの、この危うい国を支える為に犠牲になれると言ったんだし。
けど、ね。
「はぁ」
『ローシュ、私は寧ろ、羨ましいとすら思いますよ』
「どうしてそう、ひねくれてるのかしらネオスは」
『揺らがない愛だと思える事は、実は意外と、凄く難しいのではと』
「まぁ、より良いモノを、と求めればそうよね」
上を見ればキリが無い。
それは横を見ても同じ事。
選択肢が有ると思ってしまうと、どうしても選びたくもなる、それが人間。
『ローシュの横に並べそうな方は居ましたか』
「それこそサイコちゃんが欲しかったけど、ココの屋台骨ともなる子だし、スペンサーはマーガレットのモノだし。居ないわね、残念だけれど」
『バーナードは名も出ませんか』
「あぁ、最大の難関の名はバーナード、小熊ちゃんは荒み過ぎなのよ」
スペンサーとマーガレットはお互いに思い合っている、と難民問題の話し合いの過程で理解し合い、手を取り合いアンへと結婚したいと申し出た。
愛を守る為に女王でも裏方でも何でもする、それが公女と国婿候補に必要な覚悟、そして女王候補になる為の資格。
バーナードには無いのよね、正に悲嘆者、悪しき見本。
「ふむ、ただ今を見聞きするだけでは悩むだろう、情報をくれてやる。とっておきの、誰も漏らさぬ秘密だ」
バーナードの秘密の情報、何かしら。
『やぁ、ルアンド、ご機嫌如何かな』
「まぁまぁ、ですわね」
難民問題の話し合いの後、ルアンドは名の通りの真っ赤なドレスを止め、暗い地味な色のコタルディにボディスと言うラフな格好になった。
そうして愚か者も、淫靡な者としての振る舞いも止めた。
完璧なまでに騙された。
外見と噂程度の事で、俺の方が愚かさを曝け出す事になった。
俺の婚約者達は可愛げが無かった、だから夫人に恋焦がれられた時は非常に楽しかった、正に愉悦に浸っていた。
けれども当主にも、領主にも貴族にも、可愛らしさは必要無い。
なのに可愛らしルアンドが好きだった、愚かで淫靡で、けれども決して自分のモノになりそうにないのが。
凄く、堪らなかった。
『浮かない顔ですね』
「統治とは大変だと、改めて気付かされましたので」
領主にも公女にも可愛らしさは必要無い、必要なのは頭の良さ、健康。
俺に求められているのは柔軟性、健康、純潔。
子が成せるかは互いには分からない、けれどそれはお互い様なのに、子が出来なとなれば婚約者には先ず他の男が宛てがわれる。
それで子が出来れば俺は仕事を手伝うだけか、自由かが選べる。
そんな人間に次の相手が見付かる事は殆ど無い、運良く相手が見つかっても、最初は体の関係から。
そして本格的に子が出来無いとなれば、遊びたがる女達の相手にしかなれない。
どんなに仕事が出来ても、頭が良くても、子が出来無ければ重役には付けない。
家族と言う錨がないと、国に根を張る事は不可能。
どんなに能力が有ろうとも、愛に縋らなければ何も成せない、何も出来ない。
『前の方が可愛らしかったのに、残念ですよルアンド』
「もう、私は愚か者のルアンドですよ、なんせ何も成してはいないのですから」
『謙遜を、最初から言葉を理解し、俺達を見定めていたのでしょう』
「だけ、ですよ。言葉が巧みなだけです、そして清廉潔白でも無い、普通の貴族令嬢ですわ」
『令嬢』
「はい、まだ結婚しておりませんの、ふふふ」
『なら機会は有るんでしょうか、俺が付け入る隙が』
「何を成したいのかによりますね」
『国を支えたかった』
「でしょうね、お勉強は熱心だったと聞いてますから」
精通を迎え2年が過ぎた頃、色合いが薄い事から子を成す事が非常に難しいかも知れないと知り、更に努力した。
けれどもやはり子が成せないとなれば、不確かな愛に頼るしかないと気付かされ、夫人へと八つ当たり紛いの事をした。
『でも、子を成せない可能性が非常に高いですから』
「宦官の道も有ったでしょう」
『それでも限界は有る、だからもう』
「拗ねた子熊さん、子が成せる事に頼るのは2流、アナタは頑張れば1流になれる。但し、王道では無く裏道で、誰にも胸を張れ無くても私の役には立つ道」
『間者ですか』
「ほら、成せる人は話が早い、こうでないと」
不確かな愛でも欲しかった。
けれどもそんな資格も無いと知っていた。
それでも、子が成せないと知っても、必要として欲しかった。
けれども利用されたくは無かった、ただ利用されるだけなら、落ちぶれてしまった方がマシだと思っていた。
なのに。
『利用して下さい』
「対価は?」
『愛して下さい』
「何を?」
『家族として、愛して欲しい』
「尽くしてくれると、神の契約、ギアスをもってして誓ってくれるなら」
『ローシュとローシュの祖国ルーマニアへ忠誠を誓い、裏切る事が有れば、誓いを破れば即座に死を賜れる事を受け入れます』
「ふむ、デュオニソスからの死だ、さぞ甘美であろう」
『優しいねスカアハは、分かった、誓いを受け入れるよ』
バーナードの秘密って、子種の薄さだった。
当然、公女達には知れ渡ってて、その事も知ってるから勉強だけは頑張ってたけど。
誰も構わなかった、そこは薄情だと思う。
だからヤケクソで、けどローシュに惹かれて、虚勢を張って。
馬鹿だけど愚かじゃない、まだ18はガキだってローシュも言ってたし、ルツも賛成した。
行き遅れだけど優秀だからココに残ってたのに、公女達は純粋過ぎる、もう少し悪い子になった方が良いって助言にアンも頷いてた。
誰も傷付けないなら利用、誰かが傷付いたら悪用、だからローシュはバーナードを利用する事にした。
先ずはマン島でアンジェリークと労働を、サイコパス気質の者と一緒に指導と管理をして貰う。
そこで成果を出せばバーナードはルーマニアへ、サイコパスは公女と結婚出来る約束になってる。
『綺麗なウチに、抱いて下さい』
「子熊ちゃん、家族としてじゃないの?」
『家族として、最初で最後に抱いて下さい、愛の有る行為を味合わせて下さい』
《ローシュ、諦めて下さい、彼は本気ですよ》
『だね』
「じゃあ、どうしても途中まではアーリスと一緒じゃないといけないのだけれど」
『ローシュは竜の花嫁だから、僕とローシュの体液が混ざったのを摂取してからじゃないと、君が死んじゃうんだよね』
ネオス、初耳って顔してる。
だよね、僕も初めてネオスに教えたし、ルツとローシュはこの契約の事は言えない。
だからこの前摂取させたのに、こうして後から来たのに取られちゃって。
このままで大丈夫かなネオス、それこそ爆発しないかな。
『構いません、宜しくお願いします』
ローシュ様とネオスさんは微妙な距離のまま、バーナードさんも連れてエジンバラ城を出る事になった。
《何から何まで、ありがとうローシュ》
「いえいえ、コチラこそお世話になりました、アン公爵夫人」
《バーナード、もう自暴自棄はダメよ》
『はい、ご迷惑をお掛けしました』
《良いのよ、ウチの教育方針の粗が分かったんだもの、例の事はお互い様。けれど見出して下さったローシュを裏切れば、ココでも生きる事は不可能だと思いなさい》
『はい、お世話になりましたアン公爵夫人』
《本当よ、しっかり働きなさいね、今でも期待しているわ》
『はい、ありがとうございました』
公女様達が潔癖過ぎるのは、確かに問題だと僕も思う。
だって、国を思えばこそ、ローシュ様はバーナードさんを抱いたとも言えるんだし。
羨ましいな、有能だから抱いて貰えたんだし。
《バーナードさん、どの位お勉強したんですか?》
「ファウスト、馬車に乗ったらローレンス・カサノヴァ。カサノヴァ子爵よ」
バーナードさんからローレンスさんになった人の為、ローシュ様の功績に応える為に、新しく作って貰った爵位と家。
その事なのかルツさんとネオスさんは馬車の外、何か話し合うみたい。
《そうだ、どうしてその名前になったんですか?》
「向こうで有名なの、色男として、間者として。それを組み合わせただけよ」
『女性だけで1000人は抱いたそうで』
《ぅわぁ、病気が凄そう》
「そう、だから全く同じはダメ、抱くのは最終手段。実際に抱くなんて3流、ローレンスには1流になって貰うの」
『努力はします』
日焼けしたみたいな肌に水色の目、茶色い髪の毛。
僕らの誰とも違う外見だけど、公女様達は魅力的だとは感じてたみたい、その事を知ってたから余計にひねくれてたんだって。
《そこからどうして、ネオスさんの故郷でアルトタス家を作る事になるんですか?》
「フリーメーソンをより強固にする為、そろそろ成立しても良いだろうって話してたの、フリーメーソン」
『秘密結社、友愛結社、だそうで』
「そうそう、ただ少し違うのは」
輪廻転生、
この3つの基本理念だけで創立するって。
『向こうだと5つ、だそうで』
「多いと逆に混乱を招くわ、シンプルイズベスト、我々も神々を見習い3柱にしたの」
《成程?》
「じゃあ、後はローレンスが説明して、任せたわ」
『はい』
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