ミディ運河を遡上し、ボルドーへ。
アジャン、ランゴン、そしてボルドーの中心部から外れたロルモンへ。
今はネオスとファウスト、それからアンジェリークは、ココのサンジェルマン家の当主と出掛けて貰っている。
「もー、凄い助かったけど、気まずいったら無いわ。恥ずかしい」
『ローシュの事も心配しての事じゃない?』
《魔女は男の生気を吸い取っている、らしいですしね》
「本当、あながち間違いじゃないから良いんだけど」
ココの家の方はルイの従姉妹、本来の私と同じ位の年で、ウインク1つでネオス達を連れ出してくれた。
のは良いんだけど、ぶっちゃけ色々とバレてるって事よね、超恥ずかしいんですけど。
『ほら、まだまだ頑張って』
《そうですよ、あの子が居る限り船旅でも我慢し通しなんでしょうから》
「だって、未だに怯えているんだし、女の子を男の子と一緒にさせられないじゃない」
《だからですよ、明日もずっと頑張って貰いますからね》
従兄弟のルイから特別な手紙を貰って、既に事情を知っていたから預かったけれど。
本当に良い子達ばかりで、逆に心配になっちゃうわ。
特に女の子のアンジェリークちゃん、言葉は分かるみたいだけれど、全然お話してくれないのよね。
否応なしに狩る側の先頭へ立たされ、次には狩られる側に回ったから、かしら。
『大丈夫よアンジェリークちゃん、アンジー?』
そう、ココで違和感に気付いたのよね。
呼ばれ慣れていない、そう、多分名前を変えさせられてしまったとか。
『ぁ、はぃ』
『気に入ったモノは有ったかしら?』
『ぃぇ』
『そう、ファウストは気に入ったモノは有ったかしら?』
《ミシェル夫人、コレ、ローシュ様に付けて欲しいんですけど?》
『あら良いわね、けど今日は自分のモノ、其々1つ選びなさい』
《はーい》
『ネオス、アナタもよ』
『もう成人しているんですが』
『子供への手本よ、ほら選んで』
コレで大概の資質が分かるのだけれど。
ネオスは木炭鉛筆1本と紙を数種類、ファウストは素焼きの壺とコルクの容器に入った
アンジェリークは安い綿の生地を3枚と綿と刺繍糸、トリスタンキルトを縫うつもりね、アレ良いのよねパッドに。
ぁあ、コレは、もしかして。
「ぁあネオス、月経が、そう。完全に忘れてたわ、存在自体を」
『夫人が前回はいつかを聞き出してくれて、そろそろだろう、と』
「終わるまで滞在させて頂く事にしましょう」
『いえ、寧ろ、私の魔道具を譲ろうかと思ってるのですが』
「魔道具?」
『この、メルクリウス様から頂いた魔道具で、男子として過ごした方が暫くは楽なのではと。魔女狩りから逃げ出した者の復讐を恐れているそうですし、変装より、そもそも変える方が良いかと』
「あぁ、ルイが言い聞かせてるから大丈夫だとは思ってたんだけど」
『アナタの事を魔女だと思い、言えなかったそうで』
「魔女じゃないと本人が言っても、そうね、本物を裁いて来たんだものね。迂闊だったわ」
『どう言っても、何をしても、信じるかどうかは本人次第ですから。ローシュが何をしても、多分、ダメだったかと』
「ルツ、アーリス、ミシェル夫人と話し合う必要が有るのは分かったでしょう。だからもう、お風呂に行ってきますから、離して下さい」
『面倒だし捨てちゃえば?』
《まぁ、話し合おうとしない時点で落第点ですけど、恐れが強かったのは事実で。話し合い次第ですかね》
彼らが今まで黙っていたのは、彼女に本当に利用価値が有るかどうかを、見極める為だけに過ぎなかったらしい。
そして多分、私も見極められていたし、今でも見極められている。
「そう簡単に捨てるとか言わないの」
『はいはい、行って行って』
「ちょっと、アナタとも話し合いが必要そうね」
《ローシュ、お待たせしては悪いですよ、行って下さい》
彼女が部屋を出るまで、私は目を逸らす意外には無く。
『別に、ちょっと見ても怒らないのに』
『無理です』
《少し、私達も話し合いましょう》
『はい』
何を話し合うのかと思えば、やはりアンジェリークの事で。
《ローシュは可哀想だから、と言った気持ちも有るかも知れませんが。私とアーリスはローシュを守る事を最優先としています、だからこそ足切りされる意識は君にも有ったでしょう》
『それは、はい、ですけど』
『ファウストだって分かってると思うよ?』
《ですね、好意と見捨てられる不安が混ざってるでしょうから、どうしても彼の場合は離れさせるしか無いんですよ。ただ、君に関してはそうは思ってませんが、どうなんでしょうね》
『見捨てられる不安は有ります、でも、だからと言ってローシュに好意を示して付け入ろうとは思っていないつもり。ですけど』
《だからこそ気持ちを伝えられない、ですがそう悩む事は無駄では有りませんから、大いに悩むと良いですよ》
『ローシュそろそろ出るかも、見たいなら残ってても良いけど』
『失礼します』
《あぁ、私達も話し合いに参加しますから、その事も伝えておいて下さい》
ミシェル夫人の考えは私達と同じく、ある意味、子供は子供らしくあるべきだと。
『アンジェリークは確かに能力が有るかも知れないわ、けれども自分が保護されるべき弱い存在だ、と言う認識に欠けている。大人に重用されていた事も原因かも知れない、けれど愛想を振り撒くのも弱い子供がすべき事、見捨てられたく無ければ可愛げの有る子で居るのは知恵の1つ』
《ローシュ、アナタも言っていたでしょう、幼さとは庇護欲を湧かせるモノだと》
「けど」
『ファウストは合格だわ、自分の為だけの品物選びなのに分け合える物を選んだ、そしてネオスも皆に利益が提供出来る物。けれどアンジェリークはね、生理の事を言えないからと言って、自分で月経用のパッドを繕うつもりだった。協調性、子供らしさ、弱い者としての自覚が足らない』
《守り合う意識に欠けている、そして分け合う事も、話し合う事も》
『弱い、守られなければ死んでしまうかも知れない、そう言った意識無しでは。この先の旅にも悪影響を及ぼすかも知れないわ、ローシュ』
「だからと言って」
『私が言います。別にもう会わないでしょうし、寧ろ愚かな子をそのままにする方が不快だもの、任せて頂戴。ね?お願いよ』
「すみません、ご迷惑を」
『良いのよ、アナタが言っては却って不利益を増やすだけ、こう外部の者を使うべき時なだけなんですから。さ、アナタは戻って』
《夫人、良く言い含めさせますので、食事は部屋で取らせて頂きますね》
『先に戻ってて、食事の準備を手伝うし』
『あらありがとう、さ、行ってローシュ』
「はい、失礼致します」
《失敗を咎められたワケでは無い、とは思えませんか》
「不備は不備だから」
《いえ、寧ろあの子の不備、ルイの不備です。アナタが悪い部分は無い、もっと言うなら、あの子を利用していた大人達が1番悪いんですよ》
「どうにか出来無かった?」
《頼れ、話せ、子供らしく振る舞え。例えアナタがそう言っても、どんなに言葉を尽くしても無駄だったでしょう、寧ろ見守っていたのが正解なんです。全てアナタがすべき事では無い、アナタは無償の愛を提供する側なんですから》
「ルツ、あの子が困るまで放置する気だったでしょう」
《何でも先んじては単なる甘やかし、頼れば応えて貰える、そう信頼を築こうとすべきは向こう。それに、コチラから手を差し伸べるばかりでは自分の価値を見誤りかねません、幽閉されている狂王の様に》
あの2人の間違いは、支えるつもりで彼が先回りばかりをしてしまった事。
国を導く為には仕方の無い事だったのかも知れませんが、苦しむ相手を見たく無いが為に、見守る辛さを放棄した。
そうして付け上がらせ、破滅させ合った。
ローシュには必要の無い事ですが、大事にされた事しか無い者には毒でしか無い。
アンジェリークに対しても、そう考えて警戒するべきなのは周りの私達、ローシュの役目や役割は違う場所に有る。
「彼女の為だと、理解出来るかしら」
《夫人に任せれば大丈夫でしょう、あのルイが頭が上がらないと仰ってたんですし》
「本当、ココの方とは思えないわよね」
《だからこそ口説き落とされたそうですし、ココの者なのにも関わらずサンジェルマン家の名を継いだ、非常に珍しい方だそうですから》
「もし、失敗したらルツのせいにするわね」
《良いですよ、幾らでも挽回の策は有りますから》
誰かのせいにする事より、寧ろ己の立場を理解していない者の方が、遥かに質が悪いんですが。
彼女は理解してくれるのかどうか。
『アンジェリーク、ファウスト、先ずはアナタ達が今どんな立場なのかを話して貰えるかしら』
アンジェリークが僕の方を見て、ギュッと服を握ってきた。
ルツさんが言ってた通り、僕を頼っちゃってる、それじゃダメなのに。
ココでちゃんと話が出来無いなら、見放しても良いってルツさんも夫人も言ってたけど。
うん、僕もそう思う。
《アンジェリークからね、アンジェリークの名前が最初に出たから》
僕よりは年上の筈なんだけどな。
『私は、嫌な事をさせられてたけど、助けて貰いました』
『どう、嫌だったのかしら?』
『周りに言われた通り、魔女だ、悪い魔女だと言えと。怪我人を治して、仲良くなってから、教えられた通りに名前を言いました』
『それが嫌だった?』
『はい、悪いかどうか知らない筈なのに、嘘を言わされました。優しくしてくれた人も、ご飯をくれる人も、私のせいで死にました』
『じゃあ、ローシュは助けてくれる人だから魔女なのかしら』
『いえ、けど、東洋の魔女だと言われる人と同じだから。私が憎いだろうと、思います』
『じゃあ、何かされたの?』
『いえ、優しいです、優しいですけど。私の周りの人も、優しかったです、でも酷い事をしました』
『その酷い人達とローシュ、何処が同じなのかしら』
『大人、です』
『なら私も大人よ?それにルイも、ルイに何か嫌な事をされたの?』
『いえ』
『ご両親はもう居ないのよね』
『ルイが、もう死んでいると、教えてくれました。おばあちゃんも全部、殺されたって』
『知っていたの?』
『何となく、そうだろうとは、はい』
『なら、もう守ってくれるのはローシュだけよ、分かるわね?』
『はい』
《ならどうして話し合わないの?》
どうして黙るんだろう。
何で黙るんだろう。
『ファウストちゃん、何故アンジェリークは黙ったままなのだと思う?』
《分からないです、どうして?》
『良く考えない方が生き延びれたからよね、何も深く考えない方が楽、流されて言う事を聞いてるのが1番楽だったから』
それはうん、僕も分かる。
考えない方が楽だって言われて、そう頑張って、けど辛くて。
《でも、もう違うんですよ?》
『そうね、アナタは変わらなければならないわアンジェリーク、でないと生き残れない。ローシュと共に生きられないなら、アナタは船に乗るべきでは無い』
『それは、私は、殺されるんですか?』
『ローシュも誰もアナタを殺さないわ、けど生かす手伝いもしない、誰も。ファウスト、アナタはローシュの為にアンジェリークに言葉を教えていたのよね』
《はい、僕の1番はローシュ様です、僕にはローシュ様だけです。ルツさんもネオスさんもアーリスさんも、ローシュ様だけです》
『アンジェリーク、私もローシュの為にアナタと話をしているの。結果的にはアナタの為にもなっているだろうけれど、根本としては同じ、本来誰の為なのかと問われたらローシュの為なの』
やっぱり、考えて無いって言っても。考えてはいるんだよね。
だから不利益になる事はしないんだし。
じゃないと、本当に利益も何も考えないで行動してたスペランツァ姫の弟みたいじゃないと、逆におかしいんだし。
《驚いたから驚いちゃって、だって、じゃあ凄い自分に価値が有るって思ってるんだって、つい、言っちゃって》
《そこは余計でしたね》
《はーぃ、けど、それから泣いちゃって。けど夫人がずっと変わらず話してたら、泣き止んで。何か、やっぱり計算してるのかなって思っちゃったんですけど》
《計算、と言うか泣いても無駄だと理解したのでしょう。そこは良い点ですね》
『で、その次は?』
《子供でも愚かなら守って貰えません、でも媚び諂えと言ってるワケでも無いんです。頼るべき人に正しく頼りなさい、でなければウチの子でも見捨てます、って》
《ファウストはどう思いましたか》
《僕は守って貰える恩返しにって思ってたんですけど、言わないと分からない人も居るんだなって思いました》
『だね、ネオスはどう思う?』
『甘える、甘やかす。頼る、頼られる、それらは正しく行うべきだと。幽閉されてらっしゃる方の事を考えると、アンジェリークへ真意を告げる事は、妥当かと』
『コレで分かってくれるなら良いけど』
《寧ろ違う方向へ向かったら、ですね、やはり魔導具をお借りしましょうか》
『はい』
『良いの?アンジェリークの物になっちゃうんだよ?』
『そもそも、使うかどうかも分からない状態でしたし、今使わないのなら有効活用すべきですから』
『えー、反対、寧ろネオスが使えば良いじゃん』
《そうですね、君の献身は素晴らしいですが、その指輪を外し性別を変えても良いのでは》
『それだと頼る先が分散してしうかも知れませんし、寧ろ、よりその場しのぎになりアンジェリークの判断を鈍らせる事になるかと』
《ですね、では明朝、再び話し合いをしましょう》
『はい』
『ルツ先に戻ってて良いよ』
《そうですか、どうも、では》
『ファウストも先に戻ってて』
《はーい、おやすみなさーい》
『何ですか』
『ご褒美の中間、決まった?』
『言わないとダメですか』
『うん、置いてく』
『そうですか』
『もー、良いじゃん、有るか無いかだけ』
『言えないのなら有ります』
『あ、舐めて欲しいとか?』
『他には何か』
『もー、すっかり読めなくなってつまんない』
『そうですか』
『もう待ってってば、ネオスが溜まり過ぎて爆発しちゃわないかって、ローシュが心配してるの。あの赤面の事、それとも言う気になった?』
『ルーマニアに着くまでは』
『でもムラムラするじゃん?』
『処理はしてますからご心配無く』
『ローシュに教えて貰ったら?正しく出来てるか、見て欲しいって』
ぷいって顔を逸らされちゃった。
面白いなネオス。
『そ、無理です』
『大丈夫、そう促してあげるから』
『何故』
『ローシュの為、果てはネオスの為、このままだと言わされちゃうよ?何で赤面したのか、アンジェリークが好みなのかって』
『アンジェリークの事に関しては、完全に誤解だと』
『それだと赤くなった説明にはならないんじゃない?しつこいよローシュは、心配性で優しいから』
『それで、方法を、ですか』
『僕らに教えて欲しい?』
『まぁ、ソレよりは、ですけど』
『だから、上手く運河みたいに流れを作ってあげるからさ。それに、性欲が溜まってるから好きってワケじゃないって、後で説得材料にもなるんだし、ね?』
『アーリス、アナタの得にはならないのでは』
『だってネオスは良い奴だし、面白いし、頭も良いし知識も有る。ローシュを遠ざけるより、ローシュの近くで制御されてくれた方が、ルツも安心なんだって』
『全てはローシュの為に』
『嫌なら良いよ、流れは作っておくから好きにして、じゃあね』
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