目指すはナポリの窯。

 貧困による悪影響が有るかも知れない。

 ブラドからの忠告を伝書紙で受けた後、海路を使いマンフレドリアに到着して直ぐ、先ずはルツが異変に気付いた。


《不作続きだとは聞いていないんですが》


 明らかな貧富の格差。

 道路の整備や環境は素晴らしいのだけれど、労働環境はどう見ても最悪、そして衛生観念も。


 港から見える場所に、どう見ても娼婦がチラホラ。

 しかも下船者は少なめ、あくまでも経由地なのか、乗り換える者が居る程度。


「侍女の服のままの方が良さそうね」

《そうですね》


 ココからは陸路となるので、フォッジアまで乗り合い馬車に乗るか、馬を借りるか。

 本来ならアーリスの影響で怯えられてしまう、けれど衛生環境かギリギリな以上、お馬さんに頼るしか無く。


「ごめんなさい、本当、出来るだけ早くに解放してあげるからね」


 その言葉が通じたのか、ローマの神々の影響なのか。

 馬は大人しく言う事を聞いてくれて、直ぐにフォッジアまでは辿り着けたのは良いのだけれど。


《ココでも、ですか》

「となると全土がこう、かも知れないって事よね」


 迎えの馬車が無かった時点で予想はしていたけれど。

 寧ろ、何故なのか、この貧富の差の理由が分からない。


 より良い作物の栽培法等の情報は既に出回っているし、農薬だって安価に作れる、そしてその情報も伝わっている筈なのに。

 何かがおかしい。


 そして次の目的地との中間地点、モンタグートで宿を取る事に。

 簡素だけれども清潔、ただ食事付きともなると値段は倍以上になる。


 しっかりとした水場は有るので水分補給は可能だけれど、コレは。


《森林火災が有った様でも、害虫被害が有るワケでも無さそうですけど》


「路銀を節約したいので聞きたいんですけど、何か有ったんですか?」


 税が重いので、と。

 道の整備や上下水道に医療、それらにはとても感謝をしているけれど、税が高いのだと。


 本当にギリギリの生活を強いられてるんだそうで、折角外国から来て下さったのに、と寧ろ高い事を謝られてしまった。


《観光では無く外資で賄っているのは分かるんですが》

「実は良い保存食が有るんですよ、一緒に食べません?」


 塩分強めの良く燻製されたソーセージを、スープに。

 良い出汁が出るから買い溜めしてたのよね、ルツの魔法のカバンにキロ単位で。


 そしてこの賄賂が効いたらしく、色々と情報を教えてくれた。


 作物は殆ど輸出に回され、税収は冷害や何かが有れば免除も有る、けれども本当にギリギリ。

 ナポリとローマの2大王都では勉強も出来るけれど、落第すれば直ぐに都を追い出される。


 そして売春婦についても、アレでも公式の娼婦なんだそうで、定期検査は有るらしい。


 けれども稼ぎは殆ど貴族に持っていかれ、実質、なってしまえ25までは抜け出せない。

 着飾れるだけで、何の得も無いんだとか。


『心配してくれてるね』

「あぁ、大丈夫ですよ、ちゃんと3人共に働き先はありますし。嫁ぎ先も確保はしてますから」


 それならばと、更に情報を教えてくれた。


 王都、特にナポリではおかしな祭りが行われているとかで。

 鐘が鳴ったら家に入った方が良い、そして命が惜しかったら祭りには参加するな、とも。


 何でも見物に行った身内が亡くなったそうで、慰謝料を貰ったものの、孫と嫁だけが残されてギクシャクしてしまっているんだとか。

 教育も一部地域ではあるがしっかりしているらしいし、慰謝料の概念が有るのに、コレ。


 どうしたいのか、全く。

 いや、デストピア化か。


 程良く文句が出ない慰謝料の算出、道路や上下水道の整備、内需そっちのけで外貨稼ぎ。

 そうして観光客を排除し、かつ逃げられない様にする。


《相当、高度なテクニックでは》

「ね、本当、もう引き返して帰ろうかしら」

『けど、この人達は良い人達だよ?ワインを少しあげたらお礼にって、僕の宿代をおまけしてくれるって言うんだし』


 良い人達なんですよね、本当、なのに。


「ワインは情報のお礼。後でしっかり払って引き返しましょう」


《うん、それは困るな》

「あらアポロン様、それと」

《ココではメルクリウス、そして彼はバッカスとなっている》

『うん、もう少し関わって貰えるかな?』


「なら情報を下さい」

《うん、それも困る》

《君には曇りなき眼で見定めて欲しい、なので私達は先んじて情報を与える事は出来ない。だが守る事は可能だ、このままベネベントでは良い宿を案内させる事は出来る。君は既にしっかりと他国の者として認識されている、決して命を脅かされる事は無いと誓うよ》

『ルツとアーリス、それとネオスの命もね』


「安全は確保するから、様子見をしろ、と」

『うん、お願い』


「分かりました」


 そして天候に恵まれ、ベネベント手前の宿も良い人達で、ソーセージ2本で機嫌良く接待をしてくれた。


 そこから少し進んで、ようやっとベネベントへ。

 無表情なメルクリウス様に着いて行くと、貴族用の宿が。


 私達は平民の格好だったのに、どうやら魔法を使って目を誤魔化したのか、なんの問題も無く泊まれてしまった。


《ココからは貴族の時間、先ずは風呂へ》


 言われた通り、お風呂に入ったのは良いのだけれど。


「ココの服が無いんですけど?」

《綺麗な侍女の服で構わないよ》


「目を誤魔化したのでは?」

《他国の貴族でもナポリまでは平服で来るのが殆ど、悪目立ちしたがらない》


「あー、凄い不穏な事を言う」

《問題は無い、服は洗いに出して先ずは食事へ、それから仕立て屋を覗いてみて欲しい》


 旅の神様って、こう言う事を言うのでは無い様な。


「まぁ、はい、良しなに」


 そうしてメルクリウス様が指し示した店は、貴族用の店だった。

 入口で印章が入った腕輪を見せたらすんなり入れたけれど、確かに平服しか居ない、けれども仕草からして確かに貴族位は有りそう。


 そしてやっと、ココでピザ、本場のピザ。

 トルコでも横長のは食べたけれど、トマト、チーズ、そして生バジル。


 美味い、バジル植えたい。


《コレも、養殖しましょうね》

「お願い」


 それから厚切りの皮付きポテトフライ、流石、転移者や転生者が居る世界。

 ケチャップを付けて、あぁ、ジャンキーでファッティーなお味ですこと。


《コレなら元の体重に直ぐに戻れそうですね》

「それは流石に嫌、だってコルセットに肉が乗るし」

『えー、ネオスはその方が良いよね?』


 そう深く何度も頷かれても。

 どうにもコンプレックスがね、鬼の居ない肉壁、とか言われたんだし。


 そう言うかも知れない人間が居るんだから、避けたいのよね、外では。


「領地に戻ったら考えます」

『やったー』


 ネオス、また何度も頷いて。

 別に、そんな簡単には死なないのに、心配症を直してあげないと。


 等と思いながらも食事を終え、仕立て屋へ。

 そうして何故、仕立て屋へ行けと言ったのかが分かった。


 一見してただの仕立て屋、けれども腕輪を見せると更に奥へと案内してくれた。

 豪華絢爛なドレスに服装品、それにアクセサリーも売っている。


「あら、コレは、手持ちに無いから冷やかしに来ただけなのよ、困るわ」


 それでも問題無いらしい。

 ココでは単に顧客との窓口なのだとか、実際には王都で品物を受け取る際、金品のやり取りをするんだそうで。


 ですよね、仕立て直しが必要なんだし。


 そしてココでもメルクリウス様が大活躍。

 向こうでの実際の流行と、コチラを吟味する為に出された品物を選り分けてくれて、下品なデザインの事も教えてくれて。


 商人と旅人の神様、流石です。


《やっぱり、豪華なドレスは嫌いでは無いんですね》

「そらね、けど見るのが好きなの、着たら眺めてられないし」


 それこそマネキンが着るモノだと思ってたし。

 だって高いわ着る側を選ぶ服だとかを何枚買って着ても、釣れるのが外道ばかりじゃね、釣り竿にしても適当に生きられるので充分でしょうよ。


《あの人に言っておいて準備させましょうか》

「いらん、向こうでは仕事着、地味で結構」


 外交する者以外は地味なのよね、トルコでもギリシャでも、外の者と特別な席で会う時だけ。


 だって血税ですし、毎日豪華なドレスはどうかしてる、どうしたって破綻する。


 買った分だけ外貨で品物が獲得出来無くなる、そうすれば国庫に響く、それじゃあ何の意味も無い。

 何処でだって余った去年の布で仕立てたりだとか、本当に1枚だけだとか、なのにコレは一体どう言う事なのか。


 確実に圧政じゃないの。

 このままじゃいずれ滅びますよ、この国。




《お風呂も有りますし、今日は楽しみましょうね》

「ちょ、魔道具は」


《アレは安宿でしたし、それこそ侍女なら貞操を守っていて然るべきでしょうから、使ってただけですよ》

『あぁ、そっか』


《それに、貴族なら致していて然るべき、かと》

「ネオスに聞かれるのは困る」

『慣れてるって言ってたの忘れたの?』


「にしてもよ」

《大丈夫ですよ、ほら、聞こえてきてますし》

『凄い、拷問でもしてるのかな』


《かもですね》


 この旅のせいで、私の変な性癖が目覚めたかも知れないんですよね。

 声を我慢されると、凄くそそられてしまう。




「洗濯物が乾くまでって、だからってネオスに見られるまで籠る事は無いでしょうよ」

『はいはい、次はモンテサルキオ、だっけ?』

《ですね、この時間から出て余裕が有るのはその位かと》


 マリッサが言っていた絶叫系の嬌声が響く中。

 微かに聞こえて来たローシュの声のせいで、逆に、眠れなかった。


 彼女は完全に私の保護者として振る舞うし、私はこの外見だし。


 あの声を聞いて、あの姿を見て。

 改めて成長した自分の体を見て、少しグロテスクだと思ってしまった、なのに。


 初めてしてみたけれど、絶望的なまでの罪悪感と言うか、虚しさと言うか。

 やっぱり潰して貰うべきなのかも知れない。




「ポミリアーノ、やっと、後ちょっとでナポリ」

『お尻大丈夫?』


「魔法が無かったら死んでた」

『後で舐めてあげるね』


 ケガを治すのは得意。

 それこそ本当に舐めれば殆どの傷は治せる、自分のとローシュだけ、他の者には毒になる。


 けどローシュと僕の体液が混ざれば、他の者にも良い効果が出る。

 肌に触れたらケガが治ったりだとか、体調が良くなったりだとか、絶倫になっちゃったりとか。


 ルツは本当は普通の人間と同じらしいんだけど、ローシュは精霊の血だって勘違いしてて。

 それもそれで面白いからルツと内緒にしてる、ルツはちょっと嫌がるローシュが大好きだから。


 まぁ、僕も嫌いじゃないし。

 ルツの方が最初に好きになったんだから、僕も譲るべき部分は有るし。


「はぁ、お風呂前にありがとう、確かにしみて痛かったかも」

『綺麗好きだからねローシュは、もう他に痛く無い?』


「無い、疲れた」

『じゃあ僕の唾液飲んで』


「効果は分かるが、エロいんだよぉ」

『うん』


 だって、向こうの世界の知識が反映されるのは神様も僕も同じ。

 竜は絶倫って、向こうが思ってるんだもん。

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