美、とは。

「凄く、教養が有るでらっしゃる」

《いやまぁ、ウチは現代のスパルタカスかって位に、仕えると云う事について非常に厳しい家なので。と言うか、父がもう本当、スパルタカスで》

《議員でらっしゃるそうで》


《はい、お陰で勉学を存分に学べているので、私としては恵まれていると思っています。容姿以外は》


「エロいケツだと思いますよ」

《私はエリスロース様の様な胸が欲しかったんですぅ》


「ぶっちゃけ、邪魔」

《私だって狭い所を通るのに邪魔なんですからね?》


「足首もキュッと締まっていて良いかと」

《あー、締りが良いかどうかの評価ですよねぇ。お粗末だからそんなに心配でらっしゃるのねって、良く酒場で切り殺されてる文句ですね》


「あぁ、なら口も」

《そうですねぇ、上も下も締りが悪いのかって、お喋りに良く言ってますね。けどまぁ、お喋り自体は評判は悪いので私達女は黙って見てますね、同じガバい女だと思われたく無いので。だからエリスロース様のお口は凄く良いんですよ、厚ぼったくて小さい、正にですよ》


「エロい意味で」

《も、ですね》


「ふふふ」

《あ、お喋りが過ぎましたかね?》


「いや、もっと聞きたい、喉が枯れるまでお願いします。どうぞ、滑らかになるお薬ですよ」

《あぁ、コレはコレは、枯れても止まらないかも?》


「なら知識が枯れるまでで、どうぞどうぞ」


 それからもう、本当にお酒を頂きながら、ココの常識の漏れが無い様にと様々な事を喋らせて頂いてたんですけど。


 下品だとか、かまととぶったりだとか、そう言うのが本当に何も無くて。

 それこそココに学びに来てらっしゃる人と同じく、貪欲に質問して下さって、感想も下さるし議論も出来る。


 なのに、もし、この方がネオスさんの容姿を貶めるなら。

 残念です、ルーマニア残念国ですよ、エリスロース様。


《それで、ネオスさんの容姿なんですけど、お嫌では?》


「嫌、と言うか、不具合が無いのかは心配にはなりますよね。こう、引き攣れて不快、だとか。それこそ何か、外見で不利益は無いのかなと、どうにか出来無いのか悩みはしますね」


 ほらー、はいお優しい、尽くすべき方確定ですよ。


 全く、ネオスさんは話し合いを。


 話し合いを避けてらっしゃる?

 なら、何故。


 あ、え、逆にエリスロース様の外見が気に食わない、とか?


 いやだって、このお胸様ですよ?

 それともケツデカ派なのでしょうか。


 それともまさか。


 まさかねぇ。


『ただいまー』

「あぁ、お帰りアーリス、ネオス」

『失礼致します』


『はい、マリッサへ』


《はい?》

『お礼、僕らは違う国の者だから、気苦労が絶えないてしょ?』


《いえ、でも、お給金は国から出ておりますが?》

『それはそれ、コレはコレ。賄賂じゃなくて労い、お礼』


 え、やだ、尊い。


《ぉおぅ、謹んで受け取らせて頂きます、ありがとうございますエリスロース様ェ》




 マリッサはすっかり、ローシュ好きになってしまって。


《ローシュ、コレも作戦のウチですか?》

「いやー、こう、傾倒して頂けるとは思わなかったわ」

『お美しい、だって』


「アーリスをぶつけて反応を見たかっただけなのに、思ってたんと違う」

《それだけ学の有る善良な子なのでしょうね》

『ローシュと同じで自分は魅力的じゃないって、そこも似てるね』


「どうです?」

《一瞬、アナタに聞かれるだろうからと考えましたが、無いですね。健気さが可哀想過ぎて利用するにも気が引けますし、反応にコチラが気疲れしそうなので、無しですね》


「健気過ぎて可哀想って、ワシを何と思ってるんでしょうね?」

《年相応にこなれて経験も豊富、安心して一緒に仕事も出来る。家に置いておくだけなら、それこそアナタなんですが。大人しくはして下さらないでしょうし、私に丁度良いんですよ、アナタは》


『僕も』

《横から綺麗に掻っ攫いますね》


『それこそ飽きそうだし、処女だから飽きそう』

「逆にそこ?」


『あぁ、ローシュが処女でも良かった、けど。そっか、コレなんだ、モヤモヤする』

「ざまぁ」

《最初と同じ、似た様な反応だったのだと勝手に思ってますから、どちらでも構いませんよ》


「あんなに泥甘い感じでは無かったので、2人の優勝です」

『やったー』


《不快ですね、となると雑に扱われたかも知れないって事なんですから》

「処女の方が良かったかルツは、違う意味で」


《ですけど30を過ぎて処女は流石に何か問題が有るのかと疑いますよ、ココでは子供が居て当然の年齢なのですから》

「そこはうん、本当、若く見えて助かってるわ」


《雑に扱われたワケでは無いんですね?》

「気にするなぁ、今が良いなら良いでしょうよ」


《家宝、献上品だとしても、雑に扱われた傷が付いていたら気になるモノでしょう》

「傷では無いから気にするな、単なる曇りだ」

『じゃあ磨かないとだ』


《ですね》

「待て、魔道具を」

『大丈夫だよ、聞こえない方が心配になるって言ってたんだし』


《この前譲ったでしょう、途中までですからね》

『はいはい』




 マリッサが何かを言ったからか、今日は聞こえてしまっているんですが。


《成程、かなり控えめでらっしゃるのか、抑えておいでなのか。それか絶叫系でらっしゃるのかと思ってたんですが、違うんでしょうかね》


『あぁ、アレは流石に聞くに堪えませんからね』

《そうですかね?凄いテクニカルな方は絶叫させられるって聞いてますけど》


『性差かも知れませんね、嫌で叫んでるのか傍からでは分からないので、心臓に悪いんですよ』

《成程》


『それと、好みでしょうね、演技してこそだと言う者も居ますし』


 そこまでして得たいのは大概は地位や名誉、名声や権力、金か物か。

 流行病と薬のお陰で沈静化していますが、また、油断すれば何の病が流行るか分からない。


 そんな行為を不特定多数とだなんて、命あっての物種だと云うのに。


《あの、ネオスさんって、もしかして特殊な性癖持ちでらっしゃる?》


『どうして、そうなったんでしょうか』

《あ、いや、エリスロース様がお美しいと感じないのであれば旧体制的な美的感覚をお持ちなのかなと。でも、そう言うワケでも無さそうですし、なら》


『なら?』

《酷くお痩せになってる方でないと、ダメな方がいらしゃると、聞いた事が有るので》


 まさか。


『はぁ、まさか、そう思われるとは』

《あ、すみません、違うんですよ本当。成長途中の美少年のスラリと伸びた手足だとかは、私も美味しそうだなとは思いますし、なのではい、批判する気は》


『無いです、それこそ病に侵された様な体なんて無理ですよ。どんな病を抱えているのか、生きる気が無いのか、敢えて同情心を引く為の物乞いなのかどうか。どれにしても、パッと見では分かったものでは無いんですから』


《ですけど、綺麗な格好をなさってたら》

『まだすっかり綺麗になった骸骨の方がマシですよ、騒がず要求せず、死なないんですから』


《本当にですか?》

『どの神に誓いましょうか』


《そこまでは》

『新しい美だとは思いますけど、それこそ外見は衰えるモノ。素晴らしい方だとは思いますが、我々を扱い易くする為の贈答品なら結局は賄賂と同じです。傾倒するのは構いませんが、私にまで布教なさらないで頂けますかね』


《なら聞きますが、何処が疑わしいと言うのですか?》

『疑わしさの有る詐欺師等、二流でしょう。完璧過ぎるとでも言えば満足ですかね。真の悪なら直ぐにはボロを出さないでしょうし、私は見極めに時間を使っているに過ぎないんですが、問題でも』


《デュオニソス神の巫女様だから、ですか》

『確かに最初は疑いはしましたが、そもそも近隣諸国でも無い、明確に同盟を組んでいない国の客人ですよ。何を企んで来たのか、何を考えてココへ来たのか分からない、国を守る為には仕方無い事かと』


《分かりました、ならネオスさんは北風で、私は太陽の役をやらせて頂きますね》

『どうぞ、もとより見極めの役目は仰せつかってはいないでしょうし、粗相さえ無ければお好きにどうぞ』


《さぁ、どうでしょうねぇ》


 強がりなのかどうか、真偽は不明。

 マリッサに関しても、ローシュにしても。




「バリバリに警戒されてますわよ、デュオニソス様」

『まぁ、それは彼の役目なんだろうから、仕方無いよ』

『違和感って、この事?』


《それとは少し違う気がするんですが、お教え頂く事は》

『それだと面白くないでしょう?』

「若干、性質が変わってらっしゃる?」


『本質は変わらないけれど、まぁ、そうだね』


「あまり気を煩わせてもアレですし、滞在は程々にして次に」

『ダメだよ、折角ワインの本場なのに、勉強しておくれ?』


「適当に回ったらダメですかね」

『知り得ない事は出せない。それこそココから向こうに客人が来たら、誤魔化しが効かないからね、頑張って』


「ふぇい」


 本当はハネムーンだから、ココも経由地にしたって王様は言ってたけど。

 本当にそれだけ、なのかな。


 ローシュは相変わらずお仕事しようとするし、神様も仕事をさせようとするし。


 もっとのんびり、楽しく色々と回れると思ってたのに。


『大丈夫だよアーリス、そうローシュに苦労させるつもりは無いから』

『はーい』


『うん、じゃあね』


《アーリス、もしローシュを苦労させたくないなら》

『僕らが頑張れば良い、だけどまだまだ言葉が分からないんだよ?』

「嘘を言ってるかどうか分かるのは強い、大丈夫、ちゃんと役に立ってるよ」


《それにローシュを楽しませられるんですし、ね》


『良いの?』

《手紙の仕上がり状況を確認してから、また戻ってきますね》


『はーい』

「ちょ、ワシの許可は」


『嫌?』

「ぃゃじゃなぃですぅ」




 ドラゴンは分かるが、精霊も絶倫なのかしら。

 良く尽きないわね、本当に。


《仕上がりは、どうでしょう?》

「うん、ありがとうマリッサ、出して回るのは誰が?」

『専用の配達人が居るので、出来上がった分を配り終え次第戻って来て頂いて、その時点で仕上がってる分を再び配達して頂きます』


「あらー、暑いのに大変だ。お給金は良い方なの?」

《ですね、今の時期は特に、お水代が手当てに付いてるでしょうし》

『道に居る清掃係の倍以上、信用や正確さ、早さに強さが求められますから』


「成程」


 清掃係は真面目でさえあれば問題無いので、割かし低賃金。

 それこそ朝は清掃、昼は家事、と主婦が多め。


 それか農家、堆肥にも使うからと、寧ろ割引き目当てに清掃係の役目を担ってる者も多いんだとか。


《私のお給金もお教えしましょうか?》


「んー、それはルツに、動く銀貨と思われてるとは思いたく無いし」

《もー、思うワケ無いじゃないですか、楽しくやらせて頂いてますから大丈夫ですよ》

『なら返品したら良いのでは、貰い過ぎは神々もしない事だそうですよ』


《その分、誠心誠意尽くすつもりですけど。貰い過ぎが怖いんですか、ネオスさん》

『私の為にと選んで下さったんですから、それらをそのままお返しするワケにもいきませんから』


「労いのつもりだったんだけど、ご迷惑だったみたいで。以降は控えさせて馬車馬よりも働いて頂くから気にしないで下さい、なので早速ですが買い物に付き合って貰います」

『あ、いえ、はい、承りました。馬車を用意してきます』


 若いなぁ。

 年は私より確実に下だと思ってたけど、この煽り合いが出来るのって、精々35までよね。


 ルツには効かないのよ。


《ふふふふ、ガンガン申し付けてあげて下さいね》

「おうよ」


 そう、見極めたいのなら、見極めさせて貰う。

 見極め合いですよ、知るにしても知って貰うにしても、先ずは会話から。

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