アーリスの1日。

 国に忠誠を誓えるか。

 国を愛しているか。

 国を守りたいか。


 王への畏怖は有るか。

 王を信じているか。

 王に忠誠を誓えるか。


 凄く当たり前な事を聞かれて、僕はハイと答えた。


 そして竜化にも同意した。

 空を自由に飛べるなんて、凄く楽しそうだし、国も家族も王も守るには最適だと思ったから。


 それから対価を、何が欲しいかを聞かれた。


 この時、ちょっと適当な言い方をしてしまった事を、凄く後悔してる。


『竜になっても僕を愛してくれる人が欲しい』


 僕だけ、とか。

 もう少し具体的に言うべきだった。


 うん、遠慮したワケじゃなかったんだけど、本当に適当は良くないと思う。


「おはようアーリス」

『おはようローシュ』


 今日もルツの匂いは無し。


 ローシュに不満は無い。

 それこそ王の1番の側近だからこそ、妾でも男妾でも娶り放題なのに。


 ルツにすら手を出さない。

 勿論、僕にも。


 良い感じになったのに凄い拒否された時は悲しかったけど、まぁ、逆に凄いなって思った。


 寿命が同じ位の方が良いでしょう。

 って、僕の為に我慢してくれたんだなって。

 愛されてるなって思った。


 だから満足してるし、ちゃんと同じ寿命の者の中からも探してる。


「良い子は居た?」

『ローシュより良い子はまだ居ない』


「じゃあ、次は、この地区か」

『ねぇ一緒に行こうよ、赤ブドウのムストが美味しいんだって、それにクルミとハチミツのコゾナックも』


「じゃあ、味見して、良さそうなのが有ったら買って帰って来て」

『一緒に行こうって言ったのは何処に消えたの?』


「付き添いが欲しいならルツになさい、女の保護者同伴はモテないの、何処でも共通案件だ」

『保護者じゃないし』


「こんなオバちゃんと仲良くしてるの見るとか自分なら無理だわ、オェーですわよ」


『そう見えないのに』

「見えないだけよ」


『じゃあココ、揚げたてのパパナシのチョコ掛けが有るんだって』

「あぁ、そこは視察に行くつもりだったのよ、先に行って見てくる?」


『じゃあココ、ボザを飲みに行こうよ、変わった種類のが有るんだって』

「オッパイはこんだけ有れば十分、それに君なら直ぐに買って帰って来れるでしょうよ」


『嫌い?』

「ボザは好きよ、健康にも良いし」


『僕の事』

「好き好き、だからそうね、毎日好きだって言ってくれる子が見付かる様に祈っておくわ」


『意地悪を言うなら今日は多めに貰う、人型で探さないといけないしね』

「いや、意地悪で言ったワケでは」


『待ってるからね、中庭で』


 意地悪で言ったワケじゃないのは分かってる。

 けど、意地悪だなとも思う。


 今はローシュが1番なのに。

 ちゃんと好きって言ってくれないんだもの。




《これこれ、巨体で尻尾ビタンビタンするでないよ、猫でもあるまいに》


『本当に意地悪なのが来た』

《意地悪だと思う方が狭量じゃとは思わんか?》


『ほら意地悪だ』

《ほれもー、我がダイダロスに怒られるんじゃけど?》


『先んじてのざまぁ』

《お主も怒られるんじゃけど?》


『急ぎの魔道具は無い筈だけど』

《じゃけども、じゃよ、興が乗っておるのに邪魔しては怒られるでな》


『でもだって、ローシュがちゃんと愛してくれないんだもの』


《それはどうじゃろな、体を繋ぐだけが愛ではなかろうよ》


『けど』

《そも願いを具体的に言わんのが悪いんじゃよ、バーカバーカ》


『もー』

『おい、注意してこいと言った筈だが』

《じゃけどコヤツが幼いのが悪いんじゃもん》


『アーリス、ローシュの為にもなる魔導具を作っているんだ、邪魔するな』

『はい、ごめんなさいダイダロス様』


『それからお前、良い場面をお前だけに見せない事も出来るんだぞ』

《ぐぬぬ》


『分かったら煽るな、拗ねるな、大人しくしていろ』

《ふえぇ》

『はぃ』


 ローシュの為にもなる魔導具なら、大人しく待ってないと。




「アーリス」

『あぁ、ローシュ、歯磨き長かったね』


「覚悟が必要なんでね、一服してから歯磨きしてた」

『アレの匂いは嫌いじゃないよ』


「けど体に悪いって噂なので」

『なら止めたら良いのに』


「追々ね」


 竜の姿でも人の姿でも、同じ様にキスをしてくれる。

 どっちにしても、口いっぱいになってる姿が、凄く良い。


『竜になっても良い?』

「良いけど、尻尾ビタンビタンはダメよ、アレ地味に浮島でも響くんだから」


『あ、だってアレはローシュが意地悪を言うからだし』

「君、寝て忘れてたでしょうよ」


『我慢して寝てただけ、思い出した』

「分かった、悪かった、だから喉の奥はヤメろ。ゲロ吐きそうになる」


『分かった』


 リラックスしてると、サラサラの甘い唾液がたっぷり出る。

 けど緊張したり興奮してると、ネバネバし始める、味の変わる美味しい飴。


 上顎、歯茎、舌、頬。

 舌触りも色々と楽しめるし。


 涙なんか舐めるより、ずっと楽しいのに。


「はぁ、休憩させてくれ」


 目も表情もとろんとして、体も温かくなって、体からも良い匂いがしてくる。


 試しに他の子ともキスはしたけど、殆どの子は竜の姿だと怖がって良い匂いをさせてくれないし。

 仮に良い匂いをさせても、人の姿になれって直ぐに言ってきたり、逆に竜のままでいられないのかを聞いてきたり。


 褒めるばっかりだったり、嘘を言ったり。


 良いなと思っても、王様とルツとクーリナが考えてくれた条件を見せると、ごめんなさいって断られる。


―――その1、財産が一切無い事。

   その2、国の仕事を最優先とさせ、邪魔をした場合は一族郎党死刑。

   その3、死が2人を分かつまで、離婚は不可能。


 たったこの3つが、何故か承諾出来無いらしい。


 こんな約束が無くても、しなくても、当たり前にローシュは受け入れて実行してくれてる。


 けど、この条件はローシュには秘密。

 時間を掛けろって言う筈だ、って王様が言ってたし、僕も言いそうだなって思った。


 それにローシュは時間を掛けなくても受け入れてくれたんだし、だからコレは最低限の条件なんだけど。

 ローシュが知ったら無限に緩和しろって言いそうだからこそ、コレは内緒。


『ローシュ、国中を探しても居なかったら、ちゃんと愛してくれる?』

「ちゃんと探し終わったらね」


『分かった、じゃあ早く終わらせるから全部舐めさせて』

「いや、そこまで焦らないでも」


『大丈夫、ちゃんと竜の姿で吸収するから』

「いや、ちょ」


 ローシュと同じか、それ以上。

 竜でも人でも同じ様に欲情してくれて、同じ様に愛してくれる人。


 居るのかな本当に、ローシュ以外。

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