謎の魔道具。


《アナタが拒絶していた理由が、やっと分かった気がします、すみませんでした》


「いや、ルツ、それは大いなる誤解だよ」

《いえ、だとしても結果的には正解ですから》


 性別を変える魔道具が、とある国から贈られていた。

 ローシュのみが使用出来る、1代限りの魔道具。


 そして各国の贈答品に紛れていた魔石で模造品が作れると判明し、王命により、直ぐにダイダロス神が複製品を製造した。


 コレもまた生態系を崩さない為、1代限りの魔道具となった。


 私は今、女性となっている。


《ほれほれ、遠慮せんで早う使ってみせんか》

「いや、ですがね」

『僕、男性になったローシュさんが見てみたいです』


「ぅう、良いけど、期待しないでくれよクーちゃん」

『はい』


 ローシュの最大の弱点は、クーリナ。

 そしてクーリナの最大の弱点もまた、ローシュ。


 なら、クーリナが居なくなってしまったら。


 その楔に、ローシュの弱点になりたかった。

 けれども新たな弱点となったのは、アーリスだった。


『うん、抱かれてあげても全然良いかも』

「アーリス、君はもう少し拘ろうな?」

『あの、僕をイメージしたとかは無いですよね?』


「いやー、否定は難しいけど、良い意味でだからね?」

『僕、ちゃんと男だって思われてます?』


「と言うか、君は君で、可愛い男の娘ってのはダメかね?」

『30前には流石に止めてるつもりなんですけど』


「は、勿体無い、和装なら大丈夫だって」

『えー、あー、ぅーん』


「マジで大丈夫だってば、こんなクソババァでもモテてんだし、そもそも結婚が全てじゃない。結婚もしてないし血も繋がってないけど、ウチらは家族じゃろ?」


『ですよね、友達でも家族にはなれるんですし』

「そうそう、やり様、考え様。大丈夫、理解さえ押し付けなきゃ生きるの超楽」

『苦しいなら、生き易い水場に行けば良い』


「探すのが嫌なら苦しみながら死ね」

『ですよね』


「おう」

『じゃあローシュさんも頑張って模索しないとですね、居場所』


「上手いブーメラン返ってキター」




 僕が女の子になって、ローシュが男の子になって。

 うん、美味しい。


『美味しいよ、男の子のローシュも』

「アーリスの味覚はイカれてる」


『じゃあ、念の為、今度は竜でも味を確かめてみようね』

「ちょ」


 色々試してみて、男と男、女と女だとそんなに美味しく感じない。

 繁殖適応の相手、性別が違うと美味しく感じる、僕の趣味嗜好はそれなんだって。


『だからローシュが好きな方で良いよ?』

「はぃ」


『可愛いね』

「ふえぇ」


 クーリナより小さくて可愛い男の子。

 守りたいけど食べちゃいたい、不思議。




『コレでもう安心ですね』


 アーリスさんの報告にルツさんはイライラしていたけど、コレで何とか、ココでローシュさんが孤独死する事は無さそう。


 男になったローシュさんに、女になったルツさん。

 お似合いだし、ローシュさんから引け目をあまり感じなかった。


 流石、神様、上手くいく方法を分かってる。


「クーちゃん、マジで、コレで安心出来んの?」

『はい、下手したら一生独身を貫きそうだったので、はい』


「そこは、本当に、すまんだけど」

『外見の事で自信が無いんですよね?』


「いきなり、確かに、主に外見に関わる事が気になりますけど」

『低俗な人間程、外見を重視する、と言う事ではダメですか?』


「いや外見は大事でしょうよ、看板だもの」

『僕も気になりますし、気にもします。けど過度に重視するのって良くないですよね?』


「過度とは、よ。ワシを50としたらルツもアーリスも98、王は62。人其々に数値は変わるけど、50と98じゃバランスがおかしいじゃない、せめて80台よ。それを気にするのが過度かどうか、そもココはそこまで成熟した世界か?だって本来なら人権って言葉も概念も無い筈の中世、しかも初期ぞ?」


『そう考えたから、歴史を乱すのはダメだって勝手に思った人が居るから、戦争になりかけたんじゃないですか?』


「けどぉ」


『それにココは、少なくともココは成熟してます』

「ズルい言い方をしよる。なら切り替えそう、事が済んだら隠居するから王侯貴族とは関りは最小にしたい、平穏で平凡な平民が良い」


『なら、ルツさんもアーリスさんも平民なら』

「見た目が良過ぎる、そも好意の論拠が不明なのよ、どうしてもルツや国にメリットが多過ぎる様に思える」


『顔を、焼かせます?』

「勿体無い。と言うか君にそんな言葉を言わせた事を先ず謝罪させてくれ?」


『ダメです、ルツさんと、ちゃんと話し合ってくれませんか?』


 こうでもしないと、話し合いを上手くかわしそうだからって。

 王様と相談して、こうして先んじて封印させて貰った。


「ぅう、はぃ」


 やった、初手は順調。




《先ずは、寿命の事ですかね》


 目の前には、美女になったルツ。

 コッチは、ショタ。


 正直、アリだとすら思ってる。


 いや、性癖がって事じゃなくてね。

 数値的な意味で、外見の差的な意味で。


「まぁ、はい」

《アナタが私を独り置いて亡くなったなら、他の人を探します》


「おう」


《そして出来れば、アナタの子供が欲しい》


 果たして、自分に子を持つ権利があるんだろうか。

 年齢だけじゃなくて、それこそ色々と。


「そこからよ、どうにか、他に目がいきませんか」

《教育水準もそうですし、もう100年は無理かと》


 エルフの寿命は150年も無いらしい。

 けど、でも。


「探し足りないだけでは」


《アーリスですら探せないのに、ですか。それともご自分よりも遥かに愚かな相手に、私が愛されれば満足ですか?》


「いや」

《転生者だから、転移者だから、その点を否定するのは非常に難しいと思います。アナタの個性ですから、ですが転移者としての個性を抜きにして、アナタと言う存在になりたいですか?》


「記憶を消すって事?」

《はい。嫌な記憶も何もかも、ココでの事に上手く書き換え、ココで生きますか?》


「クーちゃんの事は」

《忘れるでしょうね》


「えー」

《それでアナタが幸せになると言うなら、神々が協力して下さるそうです》


「それはちょっと、何か違う」

《私が愛されるとしても、私も違うと思います》


 自分の中で何が引っ掛かっているのか。

 それは、特大の罪悪感。


「姪っ子を、守れなかった罪悪感が、有る」


《クーリナと同じく、もしかしたら500年後に転生するか、転移してくるかも知れない。その為にも、一緒に、世界を良くしながらも幸せになるのは、許さないような子なんでしょうか?》


「分からん。私を救えなかったクセに他の人は救えるんだ、私は苦しんだのに、自分だけ幸せになるのか。って、そう思って、そう恨む権利がある。そう思わない子だとは思うけど、そう思わないで欲しいって気持ちが有る、だから正常な判断は不可能なんだよ」


《分かる範囲で良いので、その子の事を話してくれませんか。一緒に考えましょう、許してくれる子なのかどうか、どうしたら許して貰えるか》


「凄く、時間が掛かると思う」

《私にもアナタにも、それこそアーリスにも時間は有るんですし、大丈夫ですよ。愛しているからこそ待てます、待ちます、今までアナタが居ない時間をもっと多く過ごしていたんですから》


「イヤになったら、黙って居なくなって欲しい」

《分かりました、ですけど話し合いはしますよ、最後まで》


「ぉう」

《と言うかアナタが嫌になる前提は無いんですね?》


「許容量を既に拡張されてますので、大概の事では嫌にはならないかと」

《なら嫌な事を探す所から始めてみましょうか》


「時と場所を弁えずに口説く所」

《好きだと言ってくれるなら弁える努力はします》


「口が上手い所」

《アナタには負けますよ》


「いやマジで搦め手を使ってくるじゃんよ」

《それだけ必死なんです、何となく好意を感じ取れても、好きだとは言われてませんし》


「クーちゃんが帰るまで、結婚はしませんよ」

《良いですよ》


 もう、どうすればこの会話が終わるのはか分かってる。


 けど、口に出す勇気が凄く必要とされる。

 いや、コレで傷付く事になるなら、それはそれで良い自傷行為に使えるかも知れない。


 姪っ子に何か言われるにしても、ただ逃げてただけだって思われるより。

 何かした方が、何か有った方が、少しは弁解が。


 いや、もう、あの子が来たら全て任せよう。

 償いを必要としないかもだし、全て破壊するかもだし。


「好きです」


 年甲斐もなく、クソ恥ずかしい。

 羞恥死しそうだ。


《病める時も健やかなる時も、貧しようとも更に富を得たとしても。アナタだけを愛します》

「それ結婚式の時に言うもんじゃね?」


《練習ですよ、練習》


 こんな眩しい人間が自分を好きだなんて、本当にこの世界は、どうかしてる。

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