テロ集団と魔女。

 竜への対価って、先払いなのよね。


「竜の舌先が細長く割れてる意味って、コレなのかしらね」

『かも知れないね』


 ズメウのアーリスが唾液を受け取ると、名と同じ様に真っ黒な竜へと変化した。

 そしてもう、自分と一緒に居る間だけしか、もう人には戻れない。


 私が死ねば、アーリスは死ぬまで竜のまま。


「すまん」


 慰めてくれてるのか、大きな顔を摺り寄せて来た。

 鮫肌、ザラザラ、だからマットな色合いなのね。


 速そう。


 そして実際に早かった。

 ルツの黄金竜と違って、移動と戦闘特化。


 ルツの竜は象徴でもある、けどアーリスは戦闘用。

 黄金竜しか知らなかった集団に対し、とんでもない魔法を使える様になったクーリナ、アーリスのお陰で秒で決着が付いた。




『ヴァディーム・ズメェヴィチ・スミヌルイ。どうぞディーマとお呼び下さい』


 和平会談には、僕らが知らなかっただけで、シベリア自治区にも竜人族が居た。

 嘗ては同じ血族だったそうで、けれども特に揉めて分派したワケでも無いらしく。


『宜しくお願いします』

「宜しくどうぞ」

『僕はこの子のだから手を出さないでね』


―――もう少し若かったら喜べてたと思う。


 会談の休憩の合間にローシュさんは遠い目をしながら、吐き出す様に呟いた。


《な、大丈夫だったろ》

『はい、やっぱり圧倒的な火力差って大事ですよね』

「と言うかいつの間にあんな高度な魔法を」


『圧力鍋をイメージしてみたら出来ました。最初は鎮火が目的だったんですけど、結界内を無酸素にする程度の火なら、燃え広がらないだろうなと思って』

「あぁ、流石、凄いな」

『僕も褒めて欲しいな?』


「アーリス、素早い殲滅力に感謝を」

『何か他人行儀なんだけど』


「他人は他人では」


 ルツさんはホッとした表情、けどアーリスさんはムスッとして。

 僕は、王様と同じく、凄く複雑です。


《でだ、死人は出て無いが被害は出てる。だが今回は保障を求めなかった、代わりに対価として永続的な不可侵条約を結んで貰うつもりだ、破れば莫大な違約金を支払う事になる条件でな》

《今、金銭を支払わせては貧困の連鎖により更に治安が悪化する可能性が有るのと、そんな些末なお金よりもしっかり潤ってから頂く方が得なので》


「払うかねぇ、どーせ無効だとか騒ぐんじゃねぇの」

『そこは大丈夫よ、神託の権利、加護を取り上げる。とか、色々と約束して貰ったもの』

《敬う気持ちが有れば、他国の神々だって協力する、だが疎かにするなら当然加護から外れて放逐される。改めて、再度、文言にして残させる必要が有ったんだ》


「あぁ、明文化ね」

《はい、急に介入を制限した事の弊害、だそうで》

『まぁ、良い様に利用された、とアナタが思っても問題無いわね』


「良い様に利用されても良いが、対価が欲しいな」

《だよな》




 周辺諸国との不可侵条約締結後、各国が更に連携し、次々に法整備が広まる中。

 ウチの姉上様ローシュが更に利用されそうな、だが便利な物が次々に貢がれる事になった。


 各国の神々から。


「毎回、守衛が居ない隙に門前に置いていくとは」

『ふふふ、貰い過ぎる事って出来ないのよ神々って、ふふふふふ』

《まぁ、受け取らないは無いんだ、後は姉上の好きにすれば良いさ》


 明らかに貰い過ぎに思えるんだが、分からん。

 神々の基準は今でも俺には良く分からん。


「いやコレ、国の財産では」

《ならウチの門前だろ、だが姉上の城の門前って事は、そう言う事だろ》


「クーちゃんの」

『管理や活用法の助言はしますけど、僕は帰りますし、コレはローシュさんの物です』


「です」

『はい。それこそ僕になら、僕宛てだけに何か特別な方法を考えてくれるでしょうし、それこそ名入りにするでしょうから』


「あぁ」


 力、権力。

 それこそ富や名声、金が有れば有るなりに苦労する事を知っているローシュにとって、持つ事や所有は必ずしも諸手を挙げて喜べる事では無い。


 だが、ココに1つだけ、全員が喜べる魔道具が有った。




『ルツさん、お話が有ります』


 クーリナ、そして王、それと魔道具。

 一体、何を企んでいるのでしょうか、彼らは。


《ローシュは》

《いや、俺らだけだ》


『コレ、何だか分かりますか?』

《周りに魔素が漂ってますから、魔道具だとは思いますが》

《コレはローシュだけが使える魔道具らしいんだが、ぶっちゃけると、暫くアイツには黙っておこうと思ってる》


『理由から先に説明させて貰います。コレは非常に、ローシュさんだけじゃなく、周りにも影響を及ぼす魔道具なんです』

《良い意味でだ、だが同時にアイツの幸せを邪魔する事にもなりかねん》


『なので、先ずはルツさんがどうしたいかを、再確認したいと思って呼び出させて頂きました』

《王じゃなく、俺の前で素直に言え、友人のブラドの前でだ》


《友人でしたっけ》

《今そこ言うか?》


《冗談ですよ、半分は》

《そこ半分にするなよ》


《こう茶化したくなる理由が有って、茶化すんでしょうね、アナタもローシュも》


《おう、だな》


《出会う前までは、繋ぎ止める為に関係を持つなり、何かするべきかとは考えましたけど。今は、ローシュだからこそ、それが如何に悪手かを理解しているつもりです》


 そしてローシュは立場も年齢も、何もかもを気にして、選べる状態とは程遠い事も理解しています。


『でも、やっと選べる状況へ向かってるんです。だから、ルツさんには頑張って欲しいなって思ってるんです』


《前から思っていたんですが、そこまで応援して頂ける程、君の私への好感度は高く無い筈なんですが》


『ローシュさんを大好きなのは僕にだってちゃんと分かる位ですし、それこそ後から出て来たアーリスさんにだけ取られる方が、よっぽど僕は納得がいきません。悪い人だとは思いませんし、愛してくれてるとは思いますけど。僕は、ローシュさんがルツさんに大事にされて欲しいんです』


《俺もだ。アーリスを大事にしているのは義務感も有るだろう、それはお互いに認めている部分であっても、ローシュが幸せかどうかは別だろ。俺とクーリナの姉なんだ、国中で1番幸せになって貰わんと困る、王としても弟としてもだ》


『なので、以降は協力してローシュさん攻略を狙います』

《精霊がもう煩いんだ、協力させろだなんだ》

《だって恋愛こそ命の営みの基本じゃし、ちゃんと恋をしてこその子孫繁栄じゃ、義務しか無い営みとか超つまらんもん》


《分かりました、どうか、宜しくお願い致します》


 こうして、男3人のローシュ攻略が始まりました。

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