魔女狩り狩り。
僕と王様が危惧していた事が、現実になってしまった。
魔女狩り隊が国境を越え、何とローシュさんと鉢合わせてしまったらしい。
《おう、クー、ローシュは無事だ》
『良かったぁ』
《お前なぁ、詳しく聞く前に喜んでどうする》
『え、じゃあ何か有ったんですか?』
《いや、まぁ、良い事と言えば良い事なんだが》
『本題から言って下さい』
《敢えて逃がす際に、姿を見せたらしい》
『は?』
《標的を自分に絞らせる為だ、とかで》
『なん、誰が許可したんですか、そんな事』
《現地のズメウだ》
『どう、粛清しましょうか?』
《いや、だが逃がしたのが生き残ればだ、しかも顔を完全に再現する事は普通なら不可能だろう?》
『最悪は、です。ローシュさんに顔を変えて貰えるか打診してきますね』
《お前、だって顔だぞ?》
『だからです、王様はご自分の顔がお好きかも知れませんけど、ローシュさんがどうかは別ですから』
《お前みたいなのに、残酷だって言われてんだよな、ソッチの俺》
『はい、ですけど敵国にしてみたら、ですから。コレ以上にもっと酷い話は沢山有りますよ、それこそ寄宿舎の』
《分かった分かった、行ってこい》
『はい』
僕がマニュアル作成の時に限って、どうしてこんな事に。
「脱色剤の配布、普及か。ソックリな似顔絵が出回ったら、逆にパブリックドメインにして、魔女狩り狩り隊として利用するとか?」
『あぁ、じゃあソレで、王様に伝えてきますねー』
「あいよー」
ローシュの良い所は、拘りが無い。
そして悪い所も、拘りが無い所で。
《染めるんですか》
「いや、標的が自分ならそれこそよ、けど悪目立ちしたくない時はカツラを使うわ」
《今回はズメウだけで撃退可能でしたけど》
「身を守るには、よな」
そうして原始的で、けれども非常に殺傷能力の高い魔道具を製作して貰う流れに。
《撤退を念頭に置いて欲しい、と進言するつもりだったんですが》
「そら状況によっては逃げるわよ」
『ふふふ、はい、糸を選んでくれたから加護も付けておいたわね』
「おぉ、ありがとうございます、アリアドネさん」
『良いの良いの、けど本当に気を付けてね』
「うっす」
そうして与えられたのは、猫手、と呼ばれる武器だそうで。
《指ぬきにも見えますが》
「指甲套、爪飾りにも見えるわな」
ですが仕掛けを触れば毒の付いた刃が露出し、切る事は勿論、痺れさせる事も可能だとか。
そして中空をなぞれば絹よりも細い糸が鞭の様にしなり、物体を切り裂く。
不器用だからと両手の人差し指に1つずつだけ、ローシュにしか使えないから良いモノを。
かなり危険な魔道具を神々は授けた。
《完全に戦う気ですよね》
「いや、逃げる用ですわよ」
何度目かの撃退の後、戦況が変わった。
向こうが森を焼きにかかって来た。
《大丈夫ですか》
「大丈夫、けどルツが居るから良いモノを」
最早、教育水準を上げるなんてレベルじゃない。
周りが圧倒的に低過ぎると、コッチが外圧で潰れてしまう。
あぁ、だから滅ぼすしかないか、と思うのか。
けど、それこそウチの姪っ子が生まれ変わってるかも知れないし、クーちゃんの転生体を殺す事になるかも知れない。
だから、なら、控えるしか無い。
けど。
『ローシュさん』
「あぁ、クーちゃん、どうにか停戦合意へ持って行けないか」
『残念ですけど、向こうがそのレベルに達して無くて』
「どうする」
『迎撃し続けるしか無いかと。幸いにも治療魔法師は居ますし、全て内需で賄えてますから』
「でも、消耗戦の結末は」
『打って出ます、手を出すな、と』
「君はダメだ、王もダメだ」
『けど』
《現地民の力を侮らないで頂けますかね》
最終的には、ズメウに頼る事に。
ただ、竜化の際に対価が必要となってしまうんだそうで。
『その、対価って』
『アナタの情夫にして下さい』
「なんで?」
『体液を対価とする竜は多いんですよ』
「それ普通、涙とかじゃ」
『そこはもう、好みなので』
「ならこの子では」
『女性の体液が好みなんです』
『え、あ』
『吸血鬼達もですけど、性別の区別はとっくについてますよ』
『えーーーーー』
分かるが、分かるけど。
「何で言わなかったのよ」
《人間には分かりませんし、お好きでその格好なのでしょうから》
『もう、僕、馬鹿みたいじゃないですか』
『可愛いと評判ですから大丈夫ですよ』
「それはそう、大丈夫、どうどう」
『ふえぇ』
「分かって、敢えて黙ってたんでしょ?」
《はい》
『変装ですよね、変装』
『ぅう』
「ルツ、不機嫌になるなら他の人に代えて貰うけど」
《それは無理なんです、ズメウの誰もが竜化出来るワケでは無いので》
『ごめんなさいローシュさん』
「いや、体液と言ってるし」
『涙はありきたりで好きじゃないので、最低口から下の体液が良いですね』
「ふえぇ」
けど、国民の命には代えられない。
なのでもう、条件を呑むしか無く。
『もう、だから婚約しろって言ったのに』
『してても対価は変わらないですよ?』
『ぅう』
『大丈夫です、大切にしますから』
ぁあ、コレで諦めてくれるかな、ルツ。
《俺に凄まれても困るんだけど》
《他に竜化出来る者は、本当に居ませんか》
《居るけど、それこそ花嫁になれ、とかだぞ?》
《はぁ》
《ローシュが独り身で居てくれた事を寧ろ感謝した方が良い、アレだって人のモノは嫌がるのは多いんだ》
《教育、常識が広まった弊害、ですか》
《まぁ、無くは無いだろうな》
《何で体液なんですか》
《じゃあ心をくれと言って分けて与えられるか?つまりはそう言う事だろう》
《はぁ》
顔を抑えて、クソデカ溜息ついてんの。
いや、流石に笑えないわ。
俺だって、ローシュを犠牲にしたくてしてるワケじゃないんだし。
《今回の1戦で終わらせる》
《国では無く組織、集団なんですよ》
《だからだ、今回は例外、だろ》
『そうね、私達でも他国への不可侵条約は守っている』
『けれど今回は神々は関わってはいない、良い意味でも悪い意味でも。そして介入が制限されているからこそ、野放しでもある、ならコレは自衛だよ』
《ですが、戦争になる可能性も》
《そこは引き渡して終わり、だ》
『ただ、あの子達に動いて貰う事になってしまう』
『彼女達を向こうの神々が守る、大丈夫、介入制限外だからね』
《それこそ転移者だとバレれば火種に》
《だからだ、敢えて、ローシュが手を出すなと宣言するしか無い》
『それでも手を出せば、コチラは応戦する、と宣言させるしか無いわね』
『居留、滞在、所属。どれでも良いけれど、国が処置しなかった時点で応戦する。戦争を仕掛けて来たのは向こう、コチラは自衛の為に迎撃したに過ぎない。そう宣言させるに最適なのは、彼女だ』
《ルツ、転移者や転生者を管理したくないなら、他国に押し付けるか譲るかすべきだったんだ。代わりにコッチがツケを払ってやる、だからこそ以降は各国が管理しろ。今まで、なあなあにして来た部分を、もうハッキリさせるしか無い》
《境界線を引いてしまえば、自由にさせる、その制約から外れるのでは》
『なにをもってして自由とするか、自由とは何か』
《今までは自分達の都合の良い様に自由を解釈してきた、だけ、その対価を支払わせる》
『ちゃんと、教育や常識の成果は出てるのよ』
《ですが》
《国際法、だろ。その施行には理由が居る、コレは良い機会なんだ、逆にコレを逃せばまたウチは蹂躙される》
蹂躙か駆逐か。
野蛮で粗野な者が国を治めれば、滅ぼされる。
知ってる筈、分かってる筈なんだがな、他国も。
《私の魔法は、他国でも使えるんでしょうか》
『あぁ、ふふふふ、本当に良い子ねルツは』
『ココだけの内緒だよ、君らの魔法は何処でだって使えるんだ、本当はね』
《バカ真面目だなお前、試しもしなかったのか》
《力を失くす事を恐れない者は居ませんよ》
『けれど、ルツの心の中だけでお願いね』
『力を持てば揮いたくなる。コレは国と国民を守る為の秘密だよ』
《はい》
コイツ、国を出る事まで。
本当に惚れてんだな、ローシュに。
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